181 謎の子供
4巻 2/10発売です。
少し待つと、その強い敵らしきものが、ゆっくりと降りて来るのが見えた。
全体に金色の靄のようなものがかかっていて、姿は見えない。
敵が何者か、まだわからない。
だが、金色の靄はテイネブリスの尻尾がその傷口から出していたものに非常によく似ていた。
『みんな死ぬな』
それだけ言うと俺は、その靄目がけて魔法を放った。
炎、雷、氷、水、風、地、純魔。
敵に通用する属性がわからないので、沢山の属性で魔力弾を作って打ち込んでいく。
テイネブリスの尻尾に効く属性は固定の一つだけ。
テイネブリス本体に通じる属性も一つだけだが、本体は通用する属性を刻々と変化させていた。
金色の靄の持ち主ならば、効く属性も一種類である可能性が高いと俺は判断した。
各種属性の魔力弾は、金色の靄に吸い込まれていく。
だが、風の魔力弾だけは金色の靄を切り裂いて飛んでいった。
『ティーナ、風だ!』
俺の言葉に反応したティーナが空中の何者かに魔竜巻を撃ち込んだ。
金色の靄が、ティーナの魔竜巻に吹き飛ばされていく。
「ほう。子供だと思ったがやるではないか」
靄の中から出てきたのは、俺と同じぐらいの年齢に見える子供だ。
「お前も人のこと言えないぐらい子供に見えるがな」
「ちがいない」
楽しそうに子供は笑う。
「こ、子供?」
ロゼッタが驚いたように声を上げる。
『子供に見えるが、魔人だ。手心を加えようと思うな』
『わ、わかってるよ』
そして子供は地面に降り立つ。
「我が子供たちを随分と可愛がってくれたようだな。ウィル・ヴォルムス」
先ほど倒した枢機卿と同じく俺の名前を知っているようだ。
「子供たち?」
「……お前たちには枢機卿という役職の方がわかりやすいか?」
「ああ、あいつか。確かに殺した」
「それに我が尻尾まで何人も殺してくれたな。ウィル・ヴォルムス」
「尻尾? あの化け物のことか?」
尻尾と言われて思い浮かぶのはテイネブリスの尻尾、つまりテイネブリスの眷族のことだ。
その尻尾のことを子供は、人で数えた。
魔人だけでなく、あの化け物もテイネブリス教団においては人と見なされているらしい。
「我が子を侮辱することは赦さぬぞ?」
「枢機卿と尻尾を我が子と呼ぶとは、お前は何者だ?」
「今から神罰により死ぬお前たちが知っても詮無きことだろう?」
「冥土の土産に教えてくれよ」
少しでも情報を引き出すためにそう言った。
子供はにやりと笑う。まるで俺の意図はわかりきっているとでも言いたげだ。
「まあよい。我はティネブリス教皇。聖座にして神の代理人。テイネブリスの御子である」
竜神に対するルーベウム、人神に対する俺のような者らしい。
「そうか。枢機卿が、教団のトップではなかったのか」
「愚者たちは我が存在に気付かなかったようだな」
愚者とは俺の弟子たち、賢人会議のメンバーのことだろう。
外見年齢から考えるに、テイネブリスの使徒である教皇が生まれた時期は俺と大して変わるまい。
教皇が生まれる前は、実際に枢機卿団が教団を支配していたのだろう。
「お前、教皇になったのは最近か?」
「我は生まれついての教皇、聖座、代理人にして御子である」
そう誇らしげに教皇は言う。
だが、ディオン率いる諜報部門が、八年も気付かないと言うことがあるだろうか。
「……後で調べればいいか」
「お前たちに後などはない。今から聖神テイネブリスの神罰が降るのだ」
「後がないのはお前らだよ」
教皇は、子供とは思えぬほど不敵な笑みを浮かべたまま、右手を挙げる。
すると空中に魔法陣が浮かび、魔人が五匹現われた。
「教皇の割に単独行動かと思ったが……」
「その通りだ。ウィル・ヴォルムス。我ならば必要なときにいつでも魔人を生み出すことが出来る」
「生み出すだと? 魔人を生みだすことが出来るのか?」
もしそうならば、脅威である。だがそんなことが果たして可能なのだろうか。
俺の問いには教皇は答えず、笑みを浮かべるばかりだ。
たしかに召喚にも転移にも見えなかった。
魔力の流れから考えても召喚でも転移でもなさそうだ。
まるで今この場で生み出したように見えたのは確かだった。
「……愚者たちに神の罰を下しなさい」
教皇が命じると魔人は動きだす。
魔人たちは魔法を放とうとする。その属性は五匹とも違う。
風、水、雷、炎、地属性だ。
「魔人など足止めにもなるか!」
俺は魔人に対して一気に間合いを詰める。
アルティも俺とほぼ同時に動き始めてくれていた。
俺とアルティが魔人に肉薄した瞬間、後ろから風を切る音が聞こえた。
俺の顔のすぐ横を通って、目の前の魔人の額に矢が突き刺さる。
――トトトットトッ
ロゼッタの射た矢が連続で五匹の魔人の額に突き刺さっていく。
魔人が俺たちに対応しようとした、その瞬間に生じる隙をロゼッタが突いたのだ。
魔人たちは「ぇぅ」みたいな変な声を上げるが、死なないし足すら止めない。
いくら魔人とはいえ、額に矢を受けて平気なはずがないのだ。




