my father 最高の7日間
ねー、聞いた?あの駅のさあ、改札口にいるンだって!しかもでさぁ、可笑しくね?親父の奴らしーい。my father っての!
何?それ?いるってのは、幽霊とかそんなのだよね。親父?ププ!笑えるどんなの?おせーて!今朝親父に叱られてさぁ!気持ち悪いんだよ!って朝から喧嘩だよ!
なんと!親父の………が、出んるだって!そぉしてね、そのままそこに、漂ってぇ、条件を満たしたターゲットに、乗り移るンだって、
何に?おやじが親父にって!何もならんし、ウケるー!で?どうなるの?
んー?知らないけれど、とりあえず体乗っ取られたら、7日そのままらしいわ、でも時間が過ぎりゃ駅改札で離れた後、次の宿主に乗り移るンだってよぉぉ……
怖くねーじゃん!
*****
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ……グヒ、グヒ、グヒ
今日は定時でパパが帰ってきたから、愛子の塾もないし、久しぶりだわね家族で夕食を食べるの。
ママの嬉しそうな声が聞こえる。私はうつむいてそれを聞いている。え、この『グヒグヒ』言ってるの……パパなの?
どうして?今朝迄何時ものパパだったのに、帰って来たらどおして?気持ち悪い三つ目の、剥げたお猿になってるの?しかも目玉縦三つに並んでるって……なに?怖!
グヒ、グヒ、グヒ……グヒ、グヒ、クチャクチャ、クチャクチャ……
ママがサラダをよそって、剥げたお猿に渡してる。パパじゃないよ、気づいてないのかな?妖怪みたいだし、だって足ないんだよ。
気持ち悪いよ、グヒグヒ、クチャクチャ、手も美術館で見た、手長足長みたいに気持ち悪いし、触手だし、服だって、カッターシャツみたいなの、一枚きり?変!
ホントにパパなの?本当に。
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、グヒ……
そうそう、パパ、明日からゴールデンウィークね、今年はパパは明日から、まとめて7日、お休みになったのよね、ママは残念ながらお仕事なのよねーごめんね、どこにもいけなくて、
『うん、仕方ないよ、ママは保育士だからね、愛子とのんびり家ですごすよ。な、愛子』
とパパなら話してるけど、グヒグヒしか聞こえないよぉ!え?このお猿と私、明日から昼間一緒なの?皆色々忙しいから、スケジュールがら空きなのに
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、クチャクチャ、グヒ、
愛子、良かったわね、明日パパが愛子が行きたいって行ってたお店にランチに行こう、て、やっぱりやさしいわよね。パパ、今朝愛子と、大喧嘩したのに、
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、ケタケタケタケタ
「い、いや!お出かけなんか、しなくていいよ」
どうしたの。愛子ったらまだ怒ってるの?パパを許してあげたら?
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、ケタケタケタケタ
もう。貴方は優しいんだから、パパね、愛子と仲直りしたいんだって、ね、お出かけしなさいよ。
え!喧嘩したけど、パパとだもん!もうそんな事気にしてないし、パパだもん、ここにいる!三つ目玉のお猿じゃないのぉぉぉー、お出かけしない!
ママには見えてない!見えてないの?と、私は思わず顔を上げて……お猿をみてしまった。
カッ!と何か熱くなった?様な?まともに目があっちゃった!三つ目のお猿、気持ち悪ー!
私はご馳走様!と言うと席を立った。
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、グヒ!
パパがケーキ買ってきてくれてるのよ。食べないの?
ママの声が追いかけてくる。いらない!明日食べるって私は返事をして、部屋に向かう。明日になれば、戻ってるよね、パパに、戻ってるよね。どおして?朝から喧嘩したからかな?
朝ごはんいらないって言ったのが、きっかけで揉めちゃった。うっさいなぁ、嫌いだし、気持ち悪い!って言ったので、あんなのに変わったの?
どうしよう!あのままだったら、普段はあまり出会えないからいいけど、明日からヤバいじゃん!出掛けるの?ムリ!
私は部屋に入ると、絶対に出掛けない作戦をたて始めた。ふう、どうしようかな、ベッドに寝転がって、携帯で遊んでたら、
カシャッ、
あっ!内カメラで自分撮っちゃった!撮ったよね、確認して、削除……ふえ?
えええええええー!な!何でぇぇぇー、何でパパぁぁぁー!い、いやぁぁぁー!
グヒ、グヒ、グヒ、グヒ、ケタケター!、と部屋に響く私の声……何で?原因、わかんない、どうしよう、
その時、お風呂場からパパの雄叫びが聞こえてきた!今度は私もこんなのになっちゃってるから、ちゃんと聞こえたよ。
「ぬおおおぉー!ぬぁんだぁぁぁぁ!は!剥げた猿!三つ目ぇぇぇぇ!ひぃぃぃ!」
ゴールデンウィーク前夜の事だった。私はこの事について、ググりまくったのはいうまでもない……
原因は、朝からの喧嘩だった。ごめんね、パパ……そ、し、て、
7日間……パパと過去最高に、仲良く過ごしたゴールデンウィークになったのだった。
*****
何でその親父、風呂場で叫んだの?
ん?鏡に映った自分見たからなんだって、その子も自撮りしたから、わかったんだけど。
へぇ?でもやだねー!剥げた三つ目猿になるんだろ?そんなのに目を合わせるドジっ子いるンだねー!あはは、じゃ、また明日ー
ン!今朝、喧嘩したんでしょ?気を付けた方がいいよー!じゃね!
そんなのに、目を合わせるほどドジっ子じゃ、なーい、て?何?後ろから肩ポンポン、おまけに、グヒ、グヒ?て!
「驚かせんじゃねーよ!って!あああー!」
誰だよ!兄貴か?と私は、勢いよく、振り返った、そう、全力を持って振り返った……
軌道修正が間に合わなかった……
遅くまで何をしてる?早く家に入ろう、お母さんが心配してる……
振り返った、親父がいた。不意討ちだった。残念だった、目を……合わして……しまった。
言葉通じるし、グヒ、グヒ、グヒー!親父、ゴメン。とりあえず……1週間よろしく、だね。
『完』