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ちいちゃん

引越しの準備のため、押入れを整理していた。

押入れの奥から出てきたのは、埃に塗れた赤ちゃんの人形だった。

懐かしく思い作業を中断させる。


「ちいちゃん。」


私はその子に名づけた名前を知らず呟いた。



ちいちゃんのピンク色のほっぺたは黄色くなり、色白だった肌も煤けてしまった。

それでもきらきらした目と黒い睫毛は変わらない。

ちょんと突き出た口も愛らしい。

そっと頭を撫でると、痛みが激しかった為かぱらりと髪が抜け落ちた。


小さい頃は、何処へ行くにもこの子を連れて行ったものだ。

家族で温泉に行った時もこの子を連れて行った。

幼稚園に持っていこうとしてお母さんに叱られた事もあった。

一日に何回もキスをあげて着せ替えをして、髪を櫛削って綺麗にした。

本当の自分の子供の様な気さえした。

なのに、いつの間に忘れてしまったのだろう。

いつの間にこんな暗い所へ放ってしまったのだろう。






最後に遊んだのはいつだっただろうか。

あれは、小学5年生の夏。

あの公園だ。


公園でいつものように一緒に砂遊びをしていた。

その時は誰も遊んでくれる人がいなかったから、ひとりでちいちゃんとおままごとをしていた。

そうすると、近所の男の子が私を見つけてはやし立てに来た。

赤ん坊を抱えたまま人形遊びを止めない私をからかったのだ。


年頃にさしかかる頃の私は、男の子にからかわれるのが酷く嫌で悲しかった。

悔しくて恥ずかしくなった私はその後、



ちいちゃんを、近くの川に捨てたのだ。





何故ちいちゃんは押し入れの中から出てきたのだろう。

はっとした私は再び手元の赤ちゃん人形を見る。


無表情のままじっと私を見ていたちいちゃんの手は酷く汚れていた。

ちいちゃん、おかえりなさい。

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