くび
「宅配便です」
男はそう言ってそれを私に見せた。
それは男の手の上に生温かそうに乗っていた。
「判子かサインをお願いします」
ずい、と男の手から差し出されたそれは、私に託されることなく玄関に転がった。
「拇印でも結構ですよ」
にやりと男が笑う。一瞬、男と目があった。
とっさにそれを拾い上げようかとしたが、勇気が無かった。
どうしようかと戸惑っていると、男の手がずい、と紙を差し出す。
「判子か、サインをどうぞ」
男の口はそうとしか言わない。
仕方なしに、紙と一緒に差し出されたボールペンでサインを書き込んだ。
「では、これにて」
そう言って男の首から下は、私の家を後にした。
玄関に残されたのは、私とそれ。
それ は、その男の首だった。
男はにやりと笑ってこちらを見る。
また、目が合った。
とある眠れぬ夜に思いついた話です。
こんな宅配便のお兄さんがいたら嫌だなあと思います。