のびた
彼とのデートは午後からだった。
志乃はその前に美容院へ行こうと思い、3か月伸ばした髪を躊躇なく切ってもらった。
志乃の髪は栗色に染まっていて、ショートカットでも似合う色だ、と一人でほくそ笑む。
化粧も直し、街のガラスに映る自分の服装も再確認をして、入念なチェックを終えた志乃は待ち合わせ場所に到着した。まだ彼は来ていない。
十分も待つと、彼がやってきた。
前のデートで志乃が見繕ったシャツを身につけてくれている。志乃は思わず眼尻を下げて遅刻を許そうとした。彼は私の髪型を気に入ってくれるだろうか。そんな期待も手伝ったのだ。
「あれ、志乃。髪……」
どうしたの?ととぼけるふりをして志乃が首を傾げようとしたが、彼の言葉に硬直する。
「髪、伸びた?」
一瞬彼が何を言っているのか分からなかったが、志乃はすぐに浮気を思った。他の女と間違えているのだろうか。そう思うと、俄かに嫉妬が沸き上がる。
「さっき切ったばっかりよ。誰と間違えてるの?」
志乃は彼を睨みつけながらそう言った。彼は少し焦ったように言う。
「え?だって、お前それ…」
彼が指差した志乃の右肩に目をやると、視界の隅には確かに栗色の髪があった。
「嘘。」
志乃が自らの頭に手をやると、美容院に入る前よりも多くの髪の感触が志乃の頭を覆っていた事が分かる。
「何これ。」
髪を引っ張ってみるが取れない。地肌に張り付いているようだ。
「だって、さっき確かに切ったのよ。」
うろたえながら志乃はショーウィンドウに映る自分を探した。
ガラスに映っていた志乃は、確かにショートカットだった。
ガラスの中の自分は酷く満足そうな顔で笑っている。