よびりん
深夜一時に玄関の呼び出し音が聞こえた。
誰か火急の用事でもあるのかと思い玄関の扉を開けたが、誰もいなかった。
警戒心の強い庭の犬も吠えずに寝静まった夜の事だ。
薄気味悪くなった私はすぐに扉を閉めた。
次の日、ベッドに入りまどろんでいた夜に呼び出し音が鳴った。
寝惚けた頭のまま玄関の扉を注意もせずに開けた。
しかし誰もいない。
そうして昨夜の出来事を思い出す。
時計を確認すると深夜一時だった。
薄気味悪さが増え、何とも言えない気持ちのまま私はベッドに入った。
翌朝家族に聞いてみたが、チャイムの音がする時刻に起きていたのは私だけだった様で皆首を傾げていた。気味の悪さは募るばかりだった。
その夜から十二時には就寝する事で決着をつけた。しかしそう簡単に今までのサイクルを変える事も出来ず、私はただ枕に頭を押し付けるだけとなってしまった。
そのまま何もせず、布団の中で時が過ぎるのを待っていた。
ようやくまどろんできた時、部屋の時計を見ると深夜二時だった。
これで、今日はあの不可解な電子音に苛まれることなく眠れる。
私はそう思い安堵で心を軽くし目を閉じた。
しかし、チャイムは鳴った。
私の心情を見計らった様なタイミングで鳴ったのだ。しかも今夜は繰り返し繰り返し鳴らされている。
流石に慣れたのか、恐怖よりも怒りが先に立った私は玄関の扉を開けることにした。
音は鳴りやまない。
私は苛立ちと恐怖を半分ずつ抱きながら玄関の扉を開けた。
そこには誰もいない。
だがチャイムの音は鳴り続けている。
何なのだ。
もしかしたらチャイムが壊れていたのかもしれない。
扉の横にある呼び鈴を見たが、これと言って異常は無い。
きっと故障だ。
深夜の薄気味悪さに、あらぬ妄念を抱いてしまっただけなのだ。
私がそう納得すると、今まで煩かった音もぴたりと止んだ。
そうして更に翌日。専門の業者を呼んで直してもらう事にした。
丁度休日だったので、ここ数日安眠を妨害した原因を見届けようとした私は半ば興味本位で修理に立ち会った。
「何でしょうねえ、最近多いんですよ。」
修理に訪れた人が呼び鈴の四隅にあるネジを緩めて、機械を覆っているカバーを外した。
音を鳴らす装置の隙間には、人間の指が一本入っていた。
「何でしょうねえ、本当に最近多くて。」
業者がピンセットで取り出したその指は、うねうねと動いて指の腹を見せた。
end.
これはホラーですか。僕にはギャグにしか見えません。