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草食女子が 悪の華  作者: S.U.Y
8/10

執事カリスティレス 忠心と野望のゆくえ

今回は、少し長めです。休憩などを挟んでお読みください。

 全身が、痺れて動かない。金縛りのような感覚に、珠代の意識は覚醒する。閉じた瞼の裏が暗いところを考えれば、まだ夜なのだろう。胸に抱いた紅仔羊のメーの、静かな鼓動と寝息が暖かく伝わってくる。


 気づかぬうちに、疲労が溜まっていて身体に不調をもたらしたのだろうか。指一本、ぴくりとも動かせない痺れの中で珠代は考える。呼吸は、苦しくはない。熱などは、出てはいないのかも知れない。


 魔将たちと顔合わせをしてから、一週間が過ぎていた。珠代の日々は、それなりに多忙なものだった。ブレイグと魔界羊の牧場を見に行き、作業を手伝う。童心に帰りハリィとかくれんぼや鬼ごっこをして遊ぶ。アーシスの研究室で、得体の知れない研究に付き合いよくわからない質疑応答を繰り返す。キュイスの調練を見に行っては、過剰なスキンシップに戸惑う。現代日本の暮らしよりもそれは濃密で、そして楽しかった。


 魔将たちの態度も、一緒に過ごすにつれて少しずつ、軟化をみせていた。魔王としてではなく、珠代個人を皆、認めてくれているのかも知れない。一緒に食事やおやつを摂ることも増えて、それは感じたことだった。


 そして、変化を見せる生活の中で、唯一変わらぬものもあった。それは、カリスティレスの態度である。一分の隙も無いほどに、彼は執事として珠代に接していた。そんなカリスティレスに、珠代は安心を感じ信頼を置いていた。


 土魔将アーシスからは、会うたびに警告じみた言葉をかけられていた。カリスティレスがその忠誠を捧げるのは前魔王ディアブロ唯一人であり、珠代の魂の中にあるというディアブロの欠片に対してのみ全てを擲つ覚悟なのである、と。


 それでも構わない、と珠代は思う。それ程までに、ディアブロという男は魅力的であり、愛されてきたのだろう。蔑ろにされることよりも、そんなディアブロに見初められたという事実が珠代には誇らしく感じられるのだった。だから、


「ディアブロ様……」


 夜更けの寝室で、押し殺した囁き声を耳にしても、珠代は揺るがない。低く、少し甘い声音のそれはカリスティレスのものだ。カリスティレスが、珠代に寝室へ訪れるのは初めてのことだった。それまで、メイドのリミとリナの二人に、寝室や入浴のことは任せきりだったのだ。こうして訪問するからには、何かの緊急事態なのかも知れない。痺れて動かぬ全身で、珠代は冷静に考える。


「この程度の魔術さえ、弾くことは適いませんか。やはり、悠長な手段を取っていては、危急の際には間に合わないようですね」


 その声は、どこか哀切の色を感じさせるものだった。どうしたの、カリス。そう呼びかけたかった珠代だが、その唇もまた、動かすことは出来ない。


「メェー」


 珠代の胸元で、メーが短く鳴いた。


「お前は……珠代様に拾われた、魔界羊ですか。寝室の番人としては、些か実力不足ですが、その忠義は買いましょう。ですが」


 カリスティレスの言葉に、メーの毛皮がほのかな暖かみを帯びる。


「忠義を捧げる相手を、間違ってはいけません。今宵、これより珠代様は、生まれ変わるのです。その御方にこそ、全身全霊をもってお仕えするべきなのです」


「メェー」


 カリスティレスが告げる声には、普段の様子からは感じられないような熱がこもっていた。あのカリスティレスが、胸の中の激情を迸らせるようにメーに語り掛けている。その光景を見たい、と珠代は瞼を必死に動かそうとする。努力の甲斐あってか、ほんの少しだけ、瞼に隙間ができた。


「………!」


 珠代は痺れる肺で、小さく息を呑む。美しいカリスティレスの顔が、横たわる珠代の胸の側にあったからではない。闇の中で、白く光るナイフが、その手に握られ鋭い白刃が珠代の左胸へと向けられていたから。そして、抱き締める形になったメーが、毛皮を逆立て抗するようにナイフを睨み付けていたからである。


「そこを、退きなさい。私は、ディアブロ様の御為であれば、これを振り下ろすことに躊躇いはありません。ですが、魔王様への忠心篤いお前を、ここで殺してしまうには、惜しい。ディアブロ様復活の暁には、もっと強大で魔力溢れる身体を、お前に与えるよう進言します。ですから、さあ……つっ!」


 ぎらつく眼でメーへ手を伸ばしたカリスティレスが、紅色の毛皮に触れた瞬間その指を引いた。メーの毛皮はいま、燃え盛る炎のように輝いている。それはメーの行使した、火の魔法の影響なのだろうか。同じくメーに触れている珠代には、ほんのりと暖かな感じしかしないのだ。


「メェー」


 メーの発した鳴き声から、珠代はその意志を感じ取る。守る。ただその一念にのみ従い、メーはカリスティレスと対峙しているのだ。


「………!」


 逃げて、という珠代の叫びは、声にはならない。それでも、意志は伝わった筈である。だが、メーは動かなかった。たとえ、珠代がこの場でカリスティレスに刺され、息絶えることを肯じていたとしても。


 指を大きく振り、熱を逃がし再びナイフを振りかざしてくるカリスティレスを見て、珠代は思う。それが、貴方と彼の、望みであるならば。そしてそれが、魔将や魔界羊、魔王の元で生きる全てのモノの発展と幸福に、繋がるのであれば。

 ちっぽけな珠代には、出来ることなど皆無に等しい。だが、珠代は自らの死で真の魔王、ディアブロが本当に復活できるのであれば、それを受け容れるつもりでいた。それが、珠代を優しく受け容れてくれた、魔将たちやメーたちに出来る、唯一の恩返しである。そう考えればこそ、珠代はメーに逃げて欲しかった。


「メェー」


 珠代の頭の中に、メーの意志が流れ込んでくる。


 ずっと、一緒だから。一緒に、いてあげるから。いなくなってもいい、なんて悲しい考えは、しないで。


「………」


 ああ、と珠代は嘆息する。この、小さくもふもふとした命は、珠代と共にあろうとしてくれる。喜びも悲しみも、そして死さえも、分かち合おうとしてしまう。


 白刃をきらめかせた、カリスティレスの姿が近くなる。この期に及んでは、最早間に合わない。せめて、と珠代は痺れる手にわずかな力を込めて、心臓の上のメーを出来る限り強く、優しく抱き締める。短いメーの手足が抱き返すような感触が、珠代の胸をきゅっと締め上げた。


「……さようなら、珠代様」


 振り下ろされる白刃を、珠代は見つめる。自分の結末の瞬間くらいは、見ていたい。わずかな隙間から、見つめる珠代の時間がゆっくりと、引き延ばされてゆく。ナイフの切っ先が、メーの毛皮に触れた、その時。


「御前無礼、お許しあれ!」


 凛とした声とともに響いたキイン、という甲高い音とともに、ナイフが珠代の視界から消えた。何者かが、カリスティレスのナイフを弾き飛ばしたのだ。


「くっ……キュイス、様っ!」


 誰何の思いを抱く間もなく、カリスティレスがその人物の名を挙げる。


「だけじゃねえんだな、これが」


 直後、珠代の視界に赤いタテガミのような後ろ髪が現れた。


「ブレイグ……様」


 呆然と言うカリスティレスの声が、不意に鮮明に聞こえた。同時に、珠代の全身を苛んでいた痺れが消える。


「すまないね、魔王様。少し、遅れてしまったようだ。どこか、身体に異常は?」


 声とともに、珠代の背中に優しく手が差し込まれる。


「は、い。だ、大丈夫、だと思います、アーシス」


 ぱちくりと目を瞬きさせて、珠代は傍らに現れた白衣の魔将の名を呼んだ。


「逃げ道は、ないぜ、カリス。なにせ、おれが後ろにいるんだからな」


 カリスティレスの背後から、幼い声が聞こえてくる。


「あれえ? ハリィのやつ、声ばっかで姿が見えねえぜ?」


 きょろきょろと部屋を見回しながら、ブレイグがわざとらしい声を上げた。


「てめえ、ブレイグっ! 喧嘩売ってんのか!?」


 カリスティレスの背後から飛び出したハリィが、ブレイグの胸倉に掴まってぶらぶらと揺れる。


「何をやっているんだ、ハリィ。包囲が崩れたぞ。まあ、この距離ならば、俺の剣ならば外しはしないがな」


 呆れたように、キュイスが息を吐く。騒然とした空気の中、鋭い殺気が放たれ部屋は混沌とした雰囲気となる。


「皆様、ここをどこだとお思いですか? 魔王様の寝室ですよ。あまり、騒ぎ立てるのは無礼というものでしょう」


 ぱんぱん、と手を叩きつつ、カリスティレスが言う。


「「「お前が言うな」」」


 キュイス、ブレイグ、そしてハリィの三人が声を揃え半目になってカリスティレスを見つめる。


「騒ぎを収める、というのには賛成だね。それに、魔王様にはお召し替えが必要のようだ。自分で、着替えられるかな、魔王様? それとも、メイドを呼ぼうか」


 うんうんとうなずきながら、提案をするのはアーシスである。それで、珠代は我に返った。ここは珠代の寝室であり、そして珠代は当然のことながら寝間着姿である。おまけに部屋に闖入してきた者たちは皆美形、美少年たちとなれば、珠代の羞恥のゲージはどんどんと上がってゆく。


「……みんな、広間へ行っていてください。着替えが終わったら、すぐに私も行きますから」


 真っ赤になって布団を纏い言う珠代に、執事と魔将たちは心得たようにうなずいた。




 メイドのリミに手伝ってもらい、珠代は魔王装束へと着替えて広間に入る。玉座へと珠代が着けば、四人の魔将に囲まれたカリスティレスが膝をつく。


「珠代様。夜分遅く、寝室へ立ち入りましたこと、まずはお詫びいたします」


 深々と頭を下げるカリスティレスに、珠代はうなずいた。


「謝罪を、受け容れます、カリス。それで……私は、どうなるのでしょうか?」


 珠代の問いに、カリスティレスが不思議そうな顔を見せる。そうしていても、崩れた印象の感じられない美形の隙の無さに、珠代はこっそり心中で息を吐いた。


「どうなる、とは……それは、こちらの台詞でしょう、珠代様? 私は、貴女を、魔王様を、弑逆しようとしたのですよ?」


「そうですね。でもそれは、必要なことだった。貴方の崇拝する、ディアブロの為に。そしてそれは、もしかすると魔族全体の為に、なることだった。そうじゃありませんか、カリス?」


「……知って、おられたのですか? 私の、目的のことを」


「普段の、立ち居振る舞いを見ていれば、無意味に人を殺すような人ではないことくらい、解ります。それに」


 言葉を切り、珠代は膝に乗せたメーを撫でる。もふもふとした毛皮の感触が、珠代に癒しと安らぎを与えてくれる。


「メーのことも、気遣ってくれていた。貴方は、魔界の同胞のことも、きちんと考えていた。私は、そう思いました。ですから」


「死んでも構わない。そう、思われたのですね……私の、為に」


「私よりも、ディアブロが魔王であるほうが、ずっと良いのでしょう、カリス」


「そうですね」


「カリスっ! それに、タマヨサマもっ!」


 横合いから、ブレイグが声を上げる。珠代はそれを一瞥し、首を横へ振った。


「大丈夫です、ブレイグ。今は、カリスとお話を、させてください」


「けど……」


 釈然としないといった態度を見せるブレイグに、カリスティレスが顔を向ける。


「魔王様のお言葉です。従うべきではありませんか、ブレイグ?」


「お前に言われたくは無えが……ここはタマヨサマに任せるか」


 大人しくブレイグが引き下がり、再び珠代とカリスティレスは見つめ合う。


「アーシスの研究によれば、ディアブロの魂の欠片は動きを見せていなかった。それは、私の身体が、ディアブロの器に相応しいものでは無いから。そう考えて、貴方はまず、私の身体を造り変えようとしていたのでは、ないですか?」


「それも、お見通しでしたか。いえ……アーシスに訊けば、解ることですね。貴女はこの数日、とても精力的に動いておられました。状況を分析し、冷静な思考で判断、行動をする。それは、この世界の女性には、持ちえない美点です。あとはもう少し、背筋をぴんと伸ばしておられれば良い。そうすれば、自信をもって行動することが出来るでしょう」


 言われて、珠代は背筋を意識して伸ばす。周囲に埋没し、隠れるような珠代の来越し方を、カリスティレスは指摘したのだ。


「貴方も、私のことをよく見ているんですね、カリス」


「ディアブロ様の器として顕現されておられるならば、当然のことです」


「それでも、気遣ってくれていることには、感謝します、カリス。ひとつ……聞かせてくれませんか?」


「何なりと」


「どうして、今夜にしたのでしょう。何か、意味のある日取りだったのですか?」


「それは……」


 この場において、カリスティレスが初めて言葉を濁す。首を傾げる珠代と、カリスティレスが暫時、視線を交わし合う。造り物めいた美しいカリスティレスの顔の中に、珠代は何か違うものを見つけた。


「……ディアブロの、復活が必要な事態が、起きようとしているんですね?」


 珠代の声音には、確信があった。カリスティレスの美貌に、驚きの表情が浮かぶ。それすらも、美しい。ほうっと、珠代は息を吐く。


「存じて、おられるのですか。この世界に勇者が現れ、この城を目指していることを。先ほど、私の手元に届いたばかりの、危急の事態を」


「いいえ。詳しいことは、解りませんでした。でも、貴方が焦りをもって、事を為そうとしていた。ですから、これは推察に過ぎませんでした。ところで、勇者とは、あの、勇者ですか?」


「……珠代様がどの勇者を思い浮かべておられるのか、存じかねますが。魔王様の天敵として君臨する、人間たちの希望の礎であり、私どもの不倶戴天の敵が勇者です」


「それが、ここを目指して……」


「目的は、間違いなく魔王様の討滅、つまり、珠代様を抹殺すべく奴は来るのです。勇者は神より、大きな加護という力を与えられます。その力は強大で、抗することが出来るのは、ディアブロ様のみ。今の珠代様では、成す術も無く勇者に敗れてしまうことでしょう。汚らわしい勇者の剣が、珠代様を引き裂く。そう考えただけで、はらわたの煮える思いがいたします。ですから、私は……そうなる前に、貴女を殺してしまいたかった。ディアブロ様の復活の為に、この、私の手で」


 カリスティレスの瞳が、妖しく光る。その視線の先にあるものは、ディアブロではなく、珠代自身なのかも知れない。真摯で真っすぐな目を向けるカリスティレスに、珠代の心臓がどきりと鳴った。


「カリス……」


「なあんだ、カリスも結局、珠代のことが好きなんじゃん。やり方はおっかねえけど」


 横合いから、ハリィが言った。


「んえっ?」


 呆けた奇声が、珠代の口から漏れる。


「私がお慕いしているのは、ディアブロ様唯一人です、ハリィ様」


 即座に平淡な声で、カリスティレスが否定した。


「でもさ、勇者に獲られたくないから、珠代を殺そうって、思ったんだよな?」


「……魔王様、です」


「んなの、どっちでも……ああ、わかったから、怖い目で睨むなよ。ともかく、カリスの気持ちはよーく解った。でもな、おれは認めない。なぜなら……」


 ハリィが笑顔で指差すのは、珠代である。


「魔王様を傷つけていいのは、おれだけだから! おれの許可なく魔王様をいじめようってんなら、まずおれが相手になる! つまり、カリスの番は永久に来ないって訳だ!」


 そう言って高笑いするハリィに、珠代はほっこりと表情を和らげる。無邪気な少年の独占欲が、珠代に注がれている。それが、何だかくすぐったく思えたのだ。


「お前、馬鹿だとは思ってたけど真正の馬鹿なのな」


 ハリィの隣で、混ぜっ返すのはブレイグである。


「んだと!」


「タマヨサマ……魔王様を、傷モノにはさせねえ。俺が、馬鹿どもから守ってやる。身内も、勇者も全部全部含めてな」


 びしり、と珠代に向けてブレイグが親指を立てて示す。それは珠代の教えた、日本風の親愛のハンドサインであった。きらり、と歯を光らせ野性的な笑みを見せるブレイグに、珠代の心臓は大きく鳴った。


「だから、死んでもいい、なんて言うな、タマヨサマ。あんたがいないと、調子が狂うんだ」


「そうです。自分も、それには同意です」


 次に割り込んでくるのは、キュイスである。ピンと立った青い狼耳を見るだけで、珠代の頬が熱くなる。ここ数日の、それはセクハラまがいのスキンシップの結果であった。


「魔王様は、自分の理想の上官です。俺の全てを、使いこなしてくれる。直観で、一目見た時からそう感じていました。だから、俺は、自分は、魔王様にどこまでもついて行くつもりです。勝手に死なれては、困るのです」


 何とも哀しげな瞳の濡れた質感が、珠代の胸に突き刺さる。段ボールの中に入っている、捨てられた犬のような趣がある。それを指摘すれば、自分は狼です、と怒るので珠代は黙ってうなずいた。


「成程。キュイスにもカリスにも、そんなところがあったのだね。これは、良いデータが取れそうだ。朝倉珠代様、私の研究は、まだまだ終わりが見えないのだけれど、これからも、末永く協力していただけると、有り難いね」


 穏やかな笑みで、アーシスが言う。全てを見透かされているような、理知的な瞳の色は珠代に深い安心感を与えてくれる。


「過去のデータをいくつか参照して、勇者への対策を練ることにしようか。まずは、それが最優先だ。ディアブロ様が姿を消されたのも、この状況は我々の手でどうにか出来る、そう考えたからではないかな、カリス?」


 アーシスの言葉には、だから珠代を殺してディアブロを無理やり顕現させることはないよ、という裏の意味が含まれていた。それを察知したカリスティレスが、胸に手を当てて珠代へ優雅に一礼する。


「皆様の、仰る通りです。珠代様、私の浅慮により、珠代様を弑逆せんとしたことに、どうか相応の罰をお与えください」


 カリスティレスのそれは、珠代を認める言葉であった。


「ありがとう、ございます、カリス。では、これからの勇者との戦いでの功績をもって、貴方の罪を贖うことを誓ってください。それを、罰とします」


「珠代様……はい。この身に、代えましても」


「いいえ、カリス。罪を背負った貴方に、もう一つ。これは、魔将の、いえ、魔界の皆にも命じることですが……勇者との戦いで、死ぬことは許しません。必ず、生きて皆で、勇者を倒しましょう!」


 珠代の言葉に、広間がしんと静まり返る。立ち上がってぐっと拳を握った姿勢で、珠代はしばらくの間、固まった。


「いいんじゃねえの、そーいうの。難易度高めで、ちょい燃えるね」


 初めに応じたのは、ブレイグ。


「おれが、勇者なんかに後れを取るはずが無いだろ。相変わらず、力の差ってもんがわかんねーな、魔王様は」


 楽しげに笑みを浮かべるのは、ハリィ。


「自分は、務めを果たすまでです。魔王様がお望みならば、その斜め上を行く結果を、披露いたしましょう」


 背筋を伸ばし敬礼するのは、キュイス。


「皆、自信があるのは結構だけれど、今回の勇者のデータは、まだ取れていないのだよ? 後先は、考えて発言しなければ、大言壮語、ということになってしまう。まあ、私はそういう勢いも、悪くないとは思うがね」


 肩をすくめ、苦笑するのはアーシス。そして、


「畏まりました。私、カリスティレスは持てる力の全てを珠代様に預け、此度の事態に立ち向かいましょう。そして、誰一人欠けることのない戦果を、貴女に贈ります、珠代様」


 嫣然と微笑み、カリスティレスが最後に言った。


 これで、良かったのかしら。勇者対策に盛り上がる一同を前に、珠代は胸の中で自問する。


 お前の、やりたいようにして良いのだ。どこからか、そんな声が聞こえた気がして珠代は首を巡らせ広間を見やる。だが、ここには誰もいない。珠代の信頼する、五人の素敵な仲間たち以外には、誰も。


 それでも珠代は、深くうなずいて見せた。 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回も、お楽しみいただけましたら幸いです。

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