第三話 人形の墓場『脱出』
人形の墓場。
その役目を終え機能を停止した人形や人形を作るための高度な技術を持つ人形技師が行き着く最期の場所。
150年前に人間の国に人形の国が滅ぼされるまでは。
人形の国が滅ぼされた今となっては、人間の侵攻を阻むダンジョンに成り果てていた。
ダンジョンとは、負の怨念が溜まりに溜まった場所、人の血が大量に流れた場所に出現する巨大な建造物のことを指す。
人形の墓場では人間に殺された人形や人形を愛した人間の怨念が溜まり、醜悪なダンジョンを形成した。
元々技術保管のため無数の罠による難攻不落の墓場ではあったが、ダンジョンとなり魔物が出現し、より危険な場所へと姿を変えることになった。
人形造りの高度な技術を求めて人間の国が挑戦しては返り討ちにされていた。
今日も国から選出された精鋭がダンジョン【人形の墓場】に挑戦していた。
「こんなのがまだまだ続くなんてな……。」
「魔物のレベルもそうだが、罠の数が尋常じゃない。」
黒の衣装に身を包んだ3人組が、ちょうどダンジョン真ん中の大広間で腰を落ち着けていた。顔に疲労を滲ませている。
元々の人形の墓場に設置してあった罠は、人形技師の技術を結集させ作ったもの。巧妙で分かりづらく一撃必殺を狙ってくる。それが絶え間なく自分たちの命を脅かすのだ。疲労も濃くなるというものだ。
「150年前だっけ?ここがダンジョンになったの。」
「ああ。150年間女王はここにたくさんの人を送り込んでるけどさ、誰も一番下の墓場には辿り着けない。辿り着けたとしても帰ってこれない。」
「そこまでして探すものがここにあるんかね?」
「知らねぇよ。あんな女の考えることなんて。」
「……そうだな…」
彼らはそれきり黙ったまま、魔力の回復を待った。
少しして剣を携えた男がピクリと何かを察知したように反応した。
「どうした?」
「何か…音がしないか?」
下の階層へと繋がる扉を睨みつける。
徐々に音が大きくなる。ビリビリと地響きがし緊張感が走る。
勢いよく開け放たれた扉目掛けて魔導士が火の槍を放つ。
そして……
「…ば、バケモノ……!」
クレーターの上にはボロボロの黒い衣装を纏う白髪の男。
左足は灼け爛れているのに悠然とそこに立っていた。
明らかに人間ではない。
その異様な出で立ちと男の放つプレッシャーに動くことができない。
だから、男の言葉がやけに大きく響いた。
「…月詠隊……」
この一言が金縛りを解いた。
剣士の男が突っ込む。
しかし…
「消えて……「フゴッ!」「はぐっ!」なっ!」
剣を振り下ろした先には誰も居らず真後ろから仲間の呻き声が聞こえた。
恐る恐る後ろを振り向けば壁に叩きつけられた仲間たちと、
「あ、あああ、ああ、」
左頬に589という数字を刻んだ白い人形。
「殺戮人形589っ……!」
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いきなり剣士が斬りかかってきたのでとりあえず避けようと思ったら、
『普通あそこですっ転ぶかよ……』
それはもう見事に転びました。うん、とってもダサい。しかも速度調節が出来なくてロケットのごとく後方に立っていた2人に突っ込んだ。壁に叩きつけられて白目を剥いて完全に気絶している。……本当にすみません。
反省は後々、さっきガンスルーしてしまった剣士を相手せねば。
と、思って振り返ったのだが、何か呟いた後泡吹いて仰向けに倒れた。
え?何事?
いつの間にか自分だけが立っている状況。
俺、転んだだけ。
…………まぁ、いっか!
『何もよくねぇよ!?いいから、戻れ!!』
「諦めて下さいよ、俺は死にたくないんです。」
『図太い野郎だな!』
「あだ名は雑草でしたからね。」
『最悪じゃねぇか!!!』
俺は死にたくないし、589番さんにも死んでほしくない。なんでかは分からないけど、なんとなく死んでほしくないって思うのだ。なんか、ほっとけないんだよな。
「それじゃ、行きますよー。うんしょ」
『……何してんだ?』
「何って、この人たちここに置いておいたら魔物が襲って来るでしょ?そしたら可哀想なので連れて行こうかと。」
『……そいつらがお前に背負われることでより危険な目に合わないといいな。』
「そんなことないですよ〜……多分。」
『自信ねぇのかよ!!』
だって俺びっくりするぐらい鈍臭いんだから仕方ないじゃん。正直今生き残ってるのも589番さんの指示のおかげだし。
さすがに男3人背負うのは無理かなーと思ったがそんなこともなく、2人を俵担ぎに1人を背中におぶることが出来た。
どっちでしょ〜♪地獄の入り口どっちでしょ〜♪
いや、俺が探してんのは出口だよ。
ずっと螺旋階段をぐるぐる登っているから気が滅入ってきた。
手が完全に塞がれていて魔物が襲ってくる度全力ダッシュだし、589番さんは不貞腐れてるみたいでだんまりだし。
さっびいしな〜♪返事が欲しいな、ツッコミ欲しいな〜♪
589番さんが何か言いたそうにしたがすんでのところで押し黙った。多分ツッコんだら負けだと思ってるんだろう。そう考えると我慢比べみたいで楽しいな。思ったことは大体伝わるし。
「ギウッ!」
……どーも、こんにちは〜♪
コウモリっぽい魔物が空から降ってきた。
それも
「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」
「なんで一気に来るんだよーーー!!!」
天井や壁が見えなくなるほどぎっしり貼り付いていたコウモリどもが俺たち目掛けて飛んできた。
全然気づかなかった!
『お前が鼻歌歌ってたから集まってきたんだろ。馬鹿め。』
うぐっ、否定できない。
全力でダッシュする。こういう時はまず逃げろ、だ。
「いっ!」
肩の上に乗せていた剣士風の男が噛まれたのか呻き声を上げている。
俺も何回か噛まれたがそもそも血が無いのでターゲットを変えたようだ。
これ、毒とか無いよね!?人の肩の上でお陀仏しないでよ!?夢見が悪いから!!
『……シャウトバットの牙に毒はねぇよ。』
おお!!アドバイスありがとうございます!!声に出してお礼を言うほどの余裕が無いんでご容赦を!
あれ?コウモリの動きが止まった?よし、これなら逃げ切れる!なんか目が真っ赤で怖いけど!
『どっちかつーと超音波による攻撃が主だからな。ちなみに目が赤く光るのは予備動作だ。』
コウモリどもの大合唱が響いた。
耳が痛い…頭ん中ぐわんぐわんする。
途中で589番さんが音声をシャットダウンし助けてくれたが、そんな便利な機能などない3人は悪夢に魘されているようだ。
全く最初っからそうしてくれればいいのに、意地悪だな。黒板の引っ掻き音より気分悪くなる音とか初めてだよ。
『じゃあ今すぐ戻れ。』
「それは無理ですよね〜。」
『また鼻歌歌えよ、聞いててやるから。』
そしたらせっかく振り切ったコウモリが来るでしょーが!もうあんな思いはこりごりだ。
『ちっ!』
今舌打ちした?舌打ちしました?さすがに俺もそこまで馬鹿じゃないですよ?
今世の相棒が冷たい。
「ギウッ!」「ギウッ!」「ギウッ!」
げっ、あいつら扉にタックルしてやがる。
お前らの巣はここじゃないっての!帰れ!
それともまだ血が吸いたりないのか!こいつらさっきから顔色悪いんだから勘弁してやってくれ!
螺旋階段に繋がる扉の前に大岩を置いて塞いでおいたもののその内開いてしまうかもな。
早く出よう!
『おい!そこの床、はぁ……』
青色のタイルを踏みぬいたら落とし穴が発動。
背中におぶっていた魔導士風の男が下敷きになって杖にヒビが入ってしまった。
…
……
………勢いよく駆け出すのは良くないね!
その後も体をボロボロにしつつ彷徨いまくった。
そしてやっと暗〜い墓場からの脱出に成功したのだ!