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殺戮人形は友達を作りたい(不本意ながら)  作者: 甘雪
第1章 人形と人間の物語
3/4

第ニ話 人形の墓場『死にかけ』

二話目。もしかしたら、ちょっとグロいかもしれません。たぶん。


状況を整理しよう。


俺は日本という島国で大学生やってて、目が覚めたら人様の体に勝手に入ってた。

不法侵入だな。


で、その体の持ち主が、戦闘用マリオネット589番さんという明らか人間ではないお名前をしていた。


マリオネットって、人形、だよね。589番ってことは少なくとも589体いるのか?量産型?ザ◯?


「お隣さん(仮)、じゃなくて589番さんは、人形なんですか?こんなペラペラ喋ってんのに?」


『はぁ?人形が喋るのは普通のことだろーが。』


いや、普通のことじゃない。絶対。


ああ、でも、俺の日本での常識が通用する状況じゃないか。

人の体に入っちゃってる時点で。

それに今気づいたけどこの人の髪の毛真っ白だわ。長髪を頭の後ろで一括りにしている。ますます日本とはかけ離れている。外人だって老人でもない限りこんな真っ白じゃないはずだ。


「すみません、マリオネットとか、人形とか、よく分からないんですよ。」


『はぁ?そこまで知らねぇってことはまさか、お前人間の国の住人か!?』


「へ?まぁ、人間がたくさん住んでるところには居ましたよ。俺人間ですし。」


『俺は生憎と人間の国にいる連中が大っ嫌いなんだよ!!!お前とはこれっきりだ!!!』


突然嫌われた。

右も左も分からない状態での放置はヒドイよ。

今は一心同体だと言うのに……種族は関係ないじゃんか。


「あのぉ…。」


『…………』


ダメだ、ガン無視だ。

何度か呼び掛けたものの返答は無し。


仕方ない。俺なりに頑張ってみるか。我が道を行こう。


立ち上がって墓の間をスルスルと進んで行く。円形の部屋にある巨大な扉に向かって。大方ここが出口だろう。


俺が動き出して589番さんが驚いたのが伝わってくる。なんとなくの感情の機微は分かるんだな。体の主導権は完全に俺に移行してるみたいだけど。


古びた扉に手を掛ける。重くて動かない可能性も考えたが荘厳な見た目に反してあっさりと扉は開いた。


『馬鹿!避けろ!!!』


「え?」


ヒュン、ドスッ!ドスッ!ドスッ!


風を切る音が耳に飛び込んできたと思ったら、俺の体は後ろに倒れていた。


お腹から矢が数本生えているのが見える。


そっか、俺は矢に刺されて死ぬのか……。開始数十分でオワタな状況も中々無いよね。

すみません、589番さん、人の体を勝手に死なせてしまって…いや、死にたかったから正しいのかな?


にしても…痛みがないな?あれ?血も出て来ない。普通に動けるし。お腹の部分に矢が刺さって動き辛いけど。


『………俺は腹に数本矢が刺さったぐらいじゃ死なねーし、痛みも感じねぇよ。』


マジか!な、なんて便利な体なんだ!助かったぁ……。


「血も出て来ないんですね。」


『人間の弱点を取り除いて造られたのが人形だからな…。特に戦闘用マリオネットは頑丈に出来てる。』


「へーー。」


血が流れてないってことは、血液を送り出す心臓もないのか。なにそれ強い。弱点無し?

ズボッ!と矢を引っこ抜くと白い破片が散らばった。刺さっていた部分を見ると穴が開いていた。貫通はしていないが、ぶっ刺さっていた跡が残っている。

あからさまにお高そうな黒いコートにも穴を開けてしまった。…ほんとすんません。


「これって治ります?」


『自動治癒機能は開発途中だったからな。人形技師に診てもらわないと無理だ。』


そこまでハイテクではなかったようだ。治してもらうには人形技師さんとやらを見つけないといけないのか。なおの事外に出ないとだな。ちょっとした外傷がとんでもない故障に繋がるかもだし。

……俺なんだかんだ言って人形に成り代わった事実受け入れてるな。


「では、治してもらいに行きましょう。」


『はぁ!?ふざけんな!俺はもう2度と人間の国になんか行かねぇ!!!』


とか言われても関係ないし。体の主導権は俺にあるもんね。

それに穴が開いた状態で墓泥棒から守れるなんて思えない。闘うのが俺であるからこそ万全を期す。

589番さんは死にたいんだろうけど、俺は死にたくないのだ。


先程の失敗を反省して恐る恐る扉を開ける。この扉分厚いし重そうなのに軽々開くな。元の体の性能がいいのかね。


少し開けると再び矢が飛んできた。鼻先を掠めたがギリギリセーフ。


ここは一体なんなのよ。おちおち墓参りもできないじゃないか。


扉が開かれた先には、炭鉱にあるような通路。地面剥き出しで一定の間隔で木の枠が組まれている。明かりがなく真っ暗だが、自然と道が見えた。暗視スコープでも付いてるのかよ、この眼。


「あの、ここって何処なんですか?」


『……………』


安定の無視ですね。さっき話してくれたから機嫌治ったのかと思ったけど勘違いだった。俺が本人の意向を無視して動いてるから当たり前なんだけど。


ま、危険を察知したら助けてくれるよね。この人反射で俺に避けろ!って忠告してくれたし。


腹をくくって暗がりの中を進んでいく。

589番さんは完全にダンマリだ。同居人と不仲ってトラブルの基って言うよね。


考え事をしていたのがよくなかったのか、俺はまたもや後方に吹っ飛んだ。


『お前何してんだよ!!!魔物に自ら突っ込んでく奴があるか!!?』


頭の中でお叱りの声が聞こえるが、それどころじゃない。俺に跨る醜悪な生物に焦りまくっていたから。耳にまで届きそうな程裂けた口に一ツ目。ギラギラとした歯は俺の体など簡単に引き千切ってしまいそうだ。



「ギャギャギャ!!!」



不気味な声を発しながらヨダレを垂らした口が近づいてくる。



「う、うああああ!!!」



気持ち悪くなって必死に手を振り払う。



ゴリュッ!ベシャッ!!!


「え?ひっ!」


俺の手には緑色のベタベタした液体が付着しており、俺を襲おうとした生物が叩きつけられて木っ端微塵になっていた。内臓や血液と思しき緑色のベタベタが撒き散らされている。

これ、俺がやったのか…?ただ手を振っただけなのに。


『これぐらい当たり前だな。戦闘用はこんなもんだ。』


「は、はははは……」


冷静な第三者が居なかったら俺は発狂して居たかもしれない。

力加減がわからない。力一杯、が、人間とは比べものにならないのだ。

今回は魔物という生命体だったからまだマシだが、これが人間だったらと思うとゾッとする。まるで豆腐のように潰せてしまうだろうから。

力加減を覚える。

第一の壁にぶち当たった気分だよ。


魔物、か。もう日本じゃないこと確定だよね。どころか地球ですらない。


「にしても、ここは何なんだよ……」


『………人形の墓場。』


「え?」


ただの独り言だったが返事が返ってきた。説明してくれるなら有難い。


「人形が眠っているんですか?」


『人形製造の技術が漏れないように、人形の国の地下深くに造られた難攻不落の墓。技術者や使い物にならなくなった人形が埋められてるんだよ。』


門外不出ってことか。確かにこの体1つとって見ても軍事的価値は高いだろう。壊れた人形を解析したり、技術者を生き返らせる事も出来るかもしれない。


『ま、もう関係ないがな。どうせ他国に漏れまくってるだろうし。』


「なんでですか?」


『テメェには関係ねぇだろーが。』


それ以降は話したことは話したとばかりに黙りこくってしまった。

墓石に刻まれたアイザックさんとエステルさんに関係しているのだろうか。あの人たちは人形技師なんかな?589番さんの製作者、とか。そういえば、苗字一緒だったな。

聞いたところで話してはくれないだろうが。



そのままひたすら無言で進…まなかった。



俺がとことん罠や魔物に襲われるからだ。

元々俺は鈍臭い。運動神経など吐いて捨てるどころか一欠片もない。

飛んでくる剣はちょうど心臓の位置に突き刺さり、髪の毛は魔物に噛み付かれヨダレでベタベタ、右手と首からは無数の針が生え、左足は焼け爛れている。


「あーーほんとすんません。」


『いくら俺の体が頑丈だからって、跳ね返すわけじゃねぇんだぞ!?もうちっと周りに気を配れ!!急所やられたらぶっ壊れるぞ!?』


「いやまぁ、痛くはないんですけどね。」


『絵的にムゴイわ!!!』


俺もそう思う。たった数時間でグロ耐性ついたかもしれない。

プチプチの如く魔物をプチり、刺さった剣や針を引き抜く。うん、ボロボロだな、俺の体。


『ここまで鈍臭い奴久しぶりだわ……』


「え、俺レベルの鈍臭い人に会った事あるんですか?レアですね。」


俺運動会の徒競走毎回最下位だもんな。あんなん運動得意じゃない奴からしたら地獄の時間だよ。体育が一番嫌いな科目だったし。

そうじゃなくてもこの体に馴染んでないのか違和感感じるし。動きがちょいちょい滞るっていうか。時々ブラックアウトするんだよね。突然の暗闇恐怖。

この体じゃなかったら一発アウトだったね。589番さんすげぇよ。


「この体急所あるんですか?男の大事なとこ?」


『ふざけてんのか?…俺の急所、人間でいう心臓だな、これは常に身体中を動き回ってる。データやプログラムが詰め込んであるから破壊されたら機能停止する。』


「へーーじゃあそれが破壊される以外に死ぬ方法ってあるんですか?」


『メンテナンスしないで放置され続ければ不具合が生じて壊れる。時間がかかるけどな。』


あぁ、だから、長い間墓守し続けたのか。あのまま行ったら死んでたんだろうな。


「ちなみにどれぐらいメンテナンスしてないんですか?」


『あーー…150年ぐれぇかな?正直かなり壊れてるからいつ停止してもおかしくねぇな。』


今とんでもない爆弾をぶっ込んでこなかったか?

いつ、死んでも、おかしくない、だと?


「あの、もしかしてさっきから体を動かすたび変な音がするのは?」


『関節部が腐り始めてるからだろ。』


「時々視界が暗転するのは?」


『眼球に入れた識別認識機能が衰えてるからだな。』


「え、と、死にかけ?」


『そうだな。ここまで長かったぜ。』


……そうだ、走ろう。


『おい!?今までのダラダラ感何処に行ったんだ!?すぐに戻れぇい!!!俺は外で壊れるつもりはねぇぞ!?ザックとエステルの側じゃなきゃ意味ねぇんだよ!!!』


「俺は死にたくないんですよ!!!何が何でも修理してもらって生き延びますからね!!!死ぬ以外ならなんでもしますから!!!」


『俺の体から出てけぇえ!!!』


「無理です!!!」


言い争いをしながら通路を駆け抜ける。


走っていて思ったけど、この体ハイスペックだ。というか、力のメーターがぶっ壊れてる。

力を入れて踏み込めば地面を抉って勢いよく天井に衝突。石頭なのか天井に大穴が開いた。

少し力を抜けば今度は上手く走れた。ジェットコースター並みの速度で。もっと遅いかも分からないが、気分的にはセルフジェットコースターだ。

とにかく速い、速い。これならすぐに外に出れるかもしれない。俺が居たのが一番下で、そこからぐるぐる回りながら上へ上へと登って行く。


「ギャアアア!!!」


その間魔物に襲われるので、手刀で一撃。

横に薙ぎ払えば上半身と下半身がバイバイ。縦に振り下ろせば竹割の如く綺麗に裂ける。

手刀でこれだよ?この体どんだけ強く出来てんの。


お、デカイ扉発見。やっとこさ青空かな?

スキップしながら扉を押しあける。


『馬鹿か、お前は!!ちったあ、学習しろや!!!上に飛べ!!!』


この数時間の間ですっかり聞き慣れた罵声に、ビクッとして上空にジャンプ。

ちょうど俺の居た場所には炎の槍がクレーターを作っていた。


お、おお…人形オプションで痛みは感じないけど、あれは痛そう。左足大火傷した時視覚的ダメージがデカかったし、燃えるのやだわ。


シュタッと着地すると、驚きの声が聞こえた。

自分の声でも589番さんの声でも、不快な魔物の声でもない。


「なっ…!」


炎の槍を放ったであろう人物が3人。

あれ?あの服、589番さんが着てる、俺が今着てる黒いコートとそっくりだな。もしかして知り合い?


『ちっ、月詠隊がこんなとこにいるとは…メンドクセェ……。』


「月詠隊…?」


「ヒッ…!」


え、なんでそんなビビるのよ。お前仮にも男だろうが。ビクビクすんなや。


えーーと、これどうしよう。出来たら道案内して欲しいんだけどな…。


あ、剣士らしき奴が斬りかかってきた。


交渉は無理そうだね。

どうしようかな、俺無傷で切り抜けられる自信ないんだけど。




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