第一話 人形の墓場『成り代わり』
つたない作品ですがよろしくお願いします。
目が覚めたら俺は墓地にいた。
……いやいやいや、どういう事だ。
海外でよく見る長方形の墓石の前で胡座をかいていた。
お墓は全て同じ形状で部屋いっぱいに広がっている。
見回すと大きな扉が有り、天井は見上げるほど高く、部屋は円形。
俺はちょうどその中心にいた。
なぜこんなところにいるのか、と必死に考え思い出そうとするが、なんの言葉も情報も出てこない。
自分の生年月日、名前、ここに至るまでの過程、何も出てこなかった。
精々日本という島国で大学生なるものをやっていたことぐらいしか思い出せない。
今の格好は黒いコート、っていうより軍服っぽいな。肩の所に月のマークが入ってる。
ん?これ指輪か?真ん中に丸い赤い宝石が入ってる。ほうほう俺は随分お洒落な格好しているね。
……いや、意味不すぎるんだけど。何この状況。
分からないことがあったら聞くべし、だな。人がいるかも怪しいけど。ゾンビ出てきたらどうしよう。
「誰かーいませんかー!!!できたら死人以外でーー!!!」
『ウルセェ!!!』
「え?」『んあ?』
あれ?今返事あったよね?
なんか、頭に直接響く感じで。それに…俺の声に似てるよな。高めの声で男とも取れるし女とも取れる中性的な声。
「すみませーん!今の声誰ですかー!」
『テメェこそ誰だよ!耳元で叫ぶんじゃねぇ!!墓荒らしか!?ぶっ殺してや、る、…あ、ああああああ!!!??』
うっ、おおお…すごい叫び声…。
これ本当に頭の中から響いてきてないか?俺の体にもう1人の人が住んでる?
「あの、大丈夫ですか?お隣さん?」
『誰がお隣さんだ!お前が人の体乗っとったんだろうが!!!返せ!!』
「え?乗っとった?」
成り代わりってこと?この体はお隣さん(仮)のもので、そこに俺が入ってきて体の主導権を搔っ攫った。ああ、だから頭に直接響いてる感じなのかな。
『ふっざけんな!俺はここでやらないといけないことがあんだよ!』
「あー、じゃあ俺が代わりにやるんでそれで譲歩してくれません?」
『はぁ?お前みたいなポンコツが?』
「勝手にポンコツ判断しないでくださいよ。俺だってやる時はやりますよ。」
多分。全然記憶ないから分かんないけど。
さすがに人の体で好き勝手するような恥知らずでもないし。
「で?何をすればいいんですか?」
『簡単に言やあ墓守。目の前にある2つの墓の。』
墓石に刻まれた名前は、1つは【アイザック=ミューベリ】、もう1つは【エステル=ミューベリ】。
どちらも枯れてボロボロになった花が供えられている。
この墓を泥棒とかから守るのか。さっき俺のことも墓荒らしって言ってたからお隣さん(仮)はずっとここで墓守の仕事をしてたのかね。
『んで、壊れるまでこの2人に付き添う。つーか、それがメインだな。意識が無くなって機能停止を待つのが目的だし。』
「えーと、壊れるまで、とは……死ぬまでってことですか?」
『死ぬ?……人間的に言えば、そうなるな。』
今までの会話から察するに、この人は先に死んでしまったアイザックさんとエステルさんを追いかける為にここでひたすら死ぬのを待っている、と。
それって、俺が死なないといけないってこと?
……も、もう少し話を聞こう。俺の勘違いがあるのかもしれないし。それに死にたいなら自殺してすぐに追いかけるんじゃないの?
「あの、自殺とか計らないんですか?すぐに追いかけられたと思うんですけど…。」
『システム上無理だっつーの。…クソザックが自傷行為出来ねぇようにプログラムしやがったからな。』
…どんどん話がややこしくなるんだけど……。
クソザックは、目の前のアイザックさんのことかな?で、そのアイザックさんがお隣さん(仮)にシステム、プログラムした。そんなのまるで、
「機械じゃないかよ……。」
『キカイ?』
「あ、あの、お隣さん(仮)は一体なんなんですか?」
『だ・か・ら、そのお隣さん(仮)ってのをやめろ!俺には戦闘用マリオネット589番っていう名前があるんだよ!!!』
こうして俺は、150年前世界を震撼させた最恐の殺戮人形、589番に成り代わることになったのだ。