第9話(1章) … 講習6
で、だ…
「この世界で暮らす、と言われても…ね。正直言うと、ある程度の段階で元の世界に戻るとかそういう話は無いと思ってた。だからこの世界で暮らすと言うのも…」
俺がそこまで言った時、レイラさんはその続きの言葉を遮るように言った。
「いえいえ、元の世界でも生活していただきますよ?」
は?
それは一体、どういうことだ?
まだ『元の世界に戻る方法がある』とか、『元の世界に一時帰宅は出来る』とかなら想定内。
そもそも、19~25歳という"条件"が、今は少し状況は違うが…という言い方をしていた。
逆説的に考えれば"少し違うが、大きくズレてはいない"ということになるはずだ。
だからこそ、悪くても25歳まで暮らせば戻れる…なんて考えていたんだが…。
しかし『元の世界でも』と彼女は言った…。
この意味は…。
「割と単純な話です。今までお伝えしてきた情報、それと久保さん自身が元々持ち合わせていた情報…これらを組み合わせるだけ…難しく考えない方が、正解に辿り着けると思いますよ?」
レイラさんは俺の思考を見透かしたように言う。
こう言われれば、意地でも辿り着きたくなるというものだ。
こちら側でも、"向こう側でも"生活する方法…。
魔法で体を二つにする?
そんなわけがない…。
そもそも、そんな魔法があるかどうかさえ知らないのだ。
彼女は"俺が今持っている情報で充分だ"と言っているんだ。
そんな答えはナンセンス。
しかし、向こう側で大学生をしながらこちら側でも暮らすとなると…。
こちら側から向こう側に通う?
いやいや、それこそこちら側で暮らす意味が見出だせない。
条件としては可能な範疇かも知れないが、それを許す理由が分からない以上、今俺が持っている情報の外だ。
これも却下。
1年365日…半々かどうかはともかく、ある程度はこちらに腰を据えて生活するという意味だろう。
仮に3割か4割か…日数にして約100~150日とすると…。
…。
……。
いや、待てよ?
150日…?
まさか…。
「レイラさん…。」
「何でしょう?」
俺が辿り着いた答えに確信を持つため、一つの問い掛けをした。
「もしかして、向こう側の世界の就業条件に"年間最低休日150日"なんてものが設定されたのって、関係してるんじゃないですか?」