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第6話(1章) … 講習3

「神によってその力の大部分を失った魔の波動ですが、その"絞りカス"の影響は想定外のものでした。」


それは俺たちにとっても、レイラさんたちにとっても、という意味なのだろう。


「魔の力を失った波動は、この世界の…現在は祭壇となっている場所と、貴方の世界のいくつかの場所を繋いでしまいました。」


俗に言う"異界の門"のようなものだろうか。


「波動というのは場所にも人にも必ずあります。恐らく魔の力を失った波動と貴方の世界のいくつかの場所の波動が似通っていて、共鳴してしまったのだと思います。」


つまり、魔王が放った波動、それを打ち消さんとした神の力、そして俺の住む世界の波動、全てが偶然噛み合ってしまったわけだ。


俺は些細なことでも質問することにした。


「場所にも波動がある、というのは?」


「この世界でも、きっと貴方の世界でも同じだと思いますが、同じように人が暮らしていても、住む地域によって異なる文化が育ちますよね?」


俺はただ頷く。


「それは環境、風土によるものであると同時に、その場所にある波動にも要因があると考えられています。」


「波動にも?」


レイラさんは『そうです。』と返事をし、更に続ける。


「全く別の場所で、全く別の文化が育つというのは当たり前のことですよね?ですが、全く別の場所で、何故か似た文化が育っていたり、全く別の文化が妙に根付いたりする話って、聞いたことありませんか?」


言われてみれば、確かに心当たりがある。


例えば日本食文化が、海外のある国でやたらと流行ったり、日本の漫画やアニメが受け入れられたり。


食に関して言えば、和食の肝とも言える鰹節。これとよく似たものが、東南アジアのある国にも存在していたり、なんて話も聞いたことがある。


「確かに思い当たりますね。」


そう伝えると、レイラさんはにっこりと微笑んだ。


「そのように、波動も完璧には一致せずとも非常によく似たものというのは存在するわけです。そして、似た波動は共鳴し合う。」


「なるほど、その"共鳴"は俺の住む世界でも既に当然の如く影響を与え合っていた。」


俺の理解が進んでいけば、俺とレイラさんの会話のテンポは上がっていく。


それを感じているのか、レイラさんの表情は少し柔和な…明るい、どこか友人と話しているような表情に見える。


「そうですね。似た波動が影響し合う…それは、この世界と貴方の住む世界でも同じだった、ということなのでしょう。」


つまり、似た波動によってこの世界と俺の住む世界が繋がれてしまったことによって…


「決して交わることはあり得なかったはずの異なる二つの世界が、神と魔王の戦いの副産物として繋がってしまったがために、俺の住む世界の住人がこちらの世界に召還されてしまった、という認識でも?」


「久保さんは理解が早いから助かります。普通に19歳講習を受ける方々は、こうはいかないそうですから。」


俺の場合、やはり先に体験してしまったのが大きいのだと思う。


ん?


「いかない"そう"…ということは、レイラさんは19歳講習の講師とかはしないんですか?」


と質問したところで理解した。


「あ、だから最初に"本来の役割ではない"と言っていたわけですか。」


レイラさんは笑みで返してくる。


きっと、実際に講習をするのはあくまで俺の住む世界の人間なのだろう。


そして、本来であれば講習を受けた上でこの世界に来るわけだ。


レイラさんの話に戻る。


「約70年前に貴方の住む世界で起きた失踪事件…その瞬間にこちらでは"波動"が打ち込まれた。」


「波動が打ち込まれた瞬間、世界が繋がりそこに居た人々がこの世界に飛ばされた…。」


ここでまた一つの疑問が涌く。


その"波動"によく似た波動性質を持つ場所に居た者全てが、この世界に飛ばされたわけではないはずだ。


その理由は…


本当にレイラさんは察しがいい。


俺が自ら答えを導き出そうとしているのを理解しているのだろう、何も言わずにこちらを見据えている。


…そうか。


「人にも波動がある…か。」


「流石ですね、久保さん。」


俺が自分自身に言ったような小さな一言に、レイラさんは納得したような表情で言った。


「この世界から放たれた"波動"、貴方の世界に渦巻く"場所の波動"、そしてそこに住む"人の波動"…これらが全て"近いという条件"に合致した方々が、この世界に呼ばれてしまったんです。」


「それが失踪事件の真相、というわけですか。」


確かにこんなこと、俄には信じられない。


だからこそ世界中の国々の政治家たちは、その理由を隠した…か。


しかし、隠すだけでは何の解決にもならない。


波動の影響を受け続ける限り、俺の住む世界からこの世界に人々が飛ばされてしまうことには変わりがないのだから。


となると…


「この世界と俺の住む世界の間で、何らかの盟約というか取引というか、そういったものが、失踪事件後に結ばれたんじゃないですか?」


レイラさんは俺の質問に完璧に添う形で答えてくれるはずだ。


しかし、それは予想外に裏切られる。


「ごめんなさい。守秘事項なんです。」


レイラさんは満面笑みで答えた。


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