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第5話(1章) … 講習2

「さて、この状況を色々説明して欲しいとお思いでしょうが、まずは一般的な19歳講習の内容をお伝えします。」


こちらの気持ちを宥めるように、レイラさんは話し始める。


「まずは、70年程前に発生した集団失踪事件はご存知ですか?」


勿論、知っている。


今や歴史の教科書にも掲載されているのだから。


そんなことはレイラさんも分かっているのだろう。


こちらの返事を待たずにそのまま話し続ける。


「では、"何故発生したか"までご存知しょうか。」


こちらがピクりと反応したことに気付いたのだろう。


レイラさんの口元に、ほんの僅かだが笑みが浮かんだように見える。


「"例外"が起きた久保さんなら薄々気付いているとは思いますが、この世界は貴方の暮らす世界とは別の世界です。」


きっと、『本来の19歳講習』を受ける者にとったら、ピンと来ない話なのだろうが、俺が置かれている状況を考えれば想像がつく話だ。


「と言っても、ここが"地球ではない"という意味ではありません。ここも地球です。」


「えっ…?」


しかしながら、これは予想外だ。


所謂、物語などでよくある"異世界"とか、そんな話なのかと思っていたから。


「異世界…とか、そういう話じゃないんですか?」


そんな疑問をそのままぶつけてみる。


するとレイラさんは『うーん』と少し考えたような素振りを見せつつ…


「ある意味では、その考え方も間違っていません。むしろ、その解釈でも特に問題ありません。そこはあまり重要でもありませんし。」


頭にクエスチョンマークがいくつも浮かぶ俺に構わず、そのまま続ける。


「言わば、ここは貴方の暮らす世界の"平行世界"、別の言い方をすれば仮定世界ということです。」


仮定世界…要するに、IF世界というやつだろうか。


仮にこうだったとしたら…というような。


となると…


「そうですね。私たちからすれば、貴方の方が仮定世界の住人ということになります。」


ふむ、なるほど。


いつどこで分岐したのか、或いは初めから平行世界として存在していたのかは分からないが、ここは"別の時間、別の歴史を刻んできた地球"ということか。


こちらがレイラさんの話を頭の中で溶かしていく様子を窺いながら、話は続いていく。


「この世界には70年程前まで、そちらの世界ではあり得ない戦争が繰り広げられていました。」


戦争…か。


勿論、俺の住む世界でも規模の大小はあれど起きていることだが、"あり得ない"とはどういう意味だろうか。


規模か?それとも期間か?


「そちらの世界の住人でも分かりやすく言えば、神と魔王の戦争…といったところでしょうか。」


元々お伽噺のような状況ではあるが、ますますその色が濃くなる話だ。


神と魔王…これば俺の住む世界で言うところの"神様"というわけではないのだろう。


宗教上・信仰上の、或いは空想上の存在とかではなく、実在するものという意味で。


となると当然、魔王なる存在も実在するわけだが…。


「しかし今現在、神も魔王も存在してはいません。」


「は?」


またおかしな反応をしてしまった。


それを見てレイラさんはクスクスと笑う。


恐らく、こういう反応が返ってくることも想定内なのだろう。


ある意味、遊ばれているわけか…。


俺は苦笑いを浮かべるだけで、そのまま話を聞く。


「勿論、神も魔王も存在していたのですが、その戦争によって共に滅んでしまったのです。」


「相討ちだったということですか?」


これは多分、重要じゃない質問だ。


だが、普通に答えは返ってくる。


「厳密に言うと、少し違いますね。勝敗で言うなら、勝ったのは神です。」


ふむ…神が勝ったと言い切るのだから、それに見合う理由もあるのだろう。


「魔王は滅び去る直前、最後の抵抗として魔の波動を放ちました。当然、それを放ったところで滅び行く魔王自身には何のメリットも無いわけですが、何か爪痕を遺したかったということかも知れませんね。」


まあ、理解できないこともない。


追い詰められた者が"理"に反する行動を取るなんてのは、あり得なくもないこと…むしろよくあることだ。


例えそれが魔王であったとしても、きっとそれは変わらないのだろう。


「神も力を殆ど使い果たしていました。しかし、この波動を放っておくことは、その後の世界にどんな影響を与えるか分かりません。」


確かにそうだ。


その波動によって(そもそも魔の波動というもの自体がどんなものか分からないが)、何らかの影響はありそうだ。


魔王がいるということは、魔物とかモンスターとか、そういう存在もいるだろう。


そういった魔物たちが強化されるとか、または人間にも悪い影響が出たりとか、そんなことが。


「そこで神もまた最後の力を振り絞り、その波動を打ち消したのです。」


「そして、その力を使ったことで神もまた消滅してしまった、と。」


その通りです、と言わんばかりにレイラさんは軽く頷いた。


「すみません。話を脱線させてしまって。続けてください。」


俺はそう言ってレイラさんの話の続きを促したのだか…。


「大丈夫です。少し順序は変わりましたが脱線はしていないですよ。いえ…貴方が一番知りたいだろうことを考えれば、これは最も重要な話かも知れません。」


「へぇ…それは楽しみです。」


神と魔王の決着時の話は俺の興味の部分が色濃い質問から始まったことだったが、意図せず話の本質に迫っていたようだ。


「神は魔の波動を打ち消したと言いましたが、それは少しだけ間違っているんです。」


俺がその言葉に表情を曇らせたのがレイラさんにも分かったのだろう。


すぐに続きを話す。


「"ほぼ"打ち消したのです。」


ほぼ打ち消した…か。


"殆ど打ち消した"けど…


「言い換えれば、僅かだったとしても打ち消し切れなかったということですよね。」


「その通りです。ただ、打ち消し切れなかったのは"魔"ではなく、"波動"です。」


うん?ちょっとこれだけでは、よく分からない。


どういうことだろうか?


俺は特に返事することもなく、話を聞く姿勢を取り続ける。


「魔の波動の"魔の部分"は完全に打ち消したのですが、波動の一部だけが残ってしまい、この世界に打ち込まれた、と言えば理解しやすいでしょうか。」


その答えに再度思考を廻らせる。


つまり"濾過した"みたいなことなのだろうか。


汚れの混じった水そのものを取り除こうとしたが力が足りず、結果的には水から汚れだけを取り除く形になったような。


「そして、その残った波動が貴方の世界の住人にとっては問題となったのです。」


レイラさんは用意されていたお茶を一口飲んでから、改めて話し始めた。


何故こんなことが起きたのか、その理由を。

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