第3話(1章) … 異常
夢なんて見るのは、いつ以来だろうか。
いや、正確には夢を見ない日はないのだろうが、俺はそれを覚えていないことが多い。
明らかに自室ではない部屋で目を覚ますと、どこからともなく声が聞こえる。
聞こえると言うより、むしろ頭に直接飛び込んでくるような感覚だ。
その"声"は、どこかに導こうとしているが上手く体が動かない。
『夢の中でも寝起き設定は有効なのか…。』
俺は寝起きがあまり良い方ではないのだが、それは夢でも変わらないらしい。
まだ、ぼーっとしたままの状態で部屋を見回す。
雰囲気は西洋アンティークの世界観で纏められたような感じ、と言えばいいのだろうか。
『昔読んだ本に、こんな世界観があったかな?』
特に既視感もない部屋を夢に見たことを正当化する記憶を探してみる。
少し頭が起きてきた。
相変わらず"声"が頭に響いてくるが、そんなことよりこの景色をもう少し観察したい気分だ。
よくよく見渡せば、単純に"西洋アンティーク"なんて表現をするのは間違っているかも知れないと思い直す。
ここには家電と呼ぶような物が見当たらない。
テレビや冷蔵庫とか、そんなレベルの話ではなく、電灯すら無い。
いや、灯りは点いているのだが、明らかに電気という感じではない。
蝋燭っぽいが、少し違う。
でもそんな雰囲気の灯りだ。
ベッドから降り、部屋中をよく見てみようと思った矢先…。
「さっきから呼んでるでしょーが!!早く来なさい!!」
尋常ではない大きさの"声"が頭を揺さぶった。
丁度ベッドから降りようとしていた俺は、その大音量大迫力に驚いた拍子にバランスを崩し床に転び、更にベッド脇の棚に肩をぶつけた。
「痛え!!」「…っ?!」
声を上げたと同時に、この違和感に気付く。
「いやいやいや…これは夢なんかじゃねえぞ…。」
何もかもが異常だ。
むしろ、これを異常だと思っている俺だけが異常なんじゃないかと思う程に。
「現実感が無さすぎて、逆に気付かないってパターンか?」
確かに現実感が無さすぎる。
こんな状況でも、俺がこれだけ落ち着いて物事を考えられている時点で、そう推測できる。
とは言え…
「とりあえず、この"声"に従うしかないんだろうな。」
本当に自分でも不思議な程に冷静なものだ。
俺は一つ大きなため息をついてから立ち上がり、"声"に従って部屋を出た。