第23話(1章) … 弐世界、2日目
結局、急遽開かれた俺の歓迎会は12時近くまで続いた。
二人が部屋に戻る前に、通信の認証もした。
リーシェは数日はこちらにいるようだが、蘭は明日明後日は壱世界に戻って大学へ行くらしい。
俺も向こうに戻ったときに、学生課に札の提示をしなければ。
宴の後始末をし、風呂に入る。
こちらの風呂は水を溜めてから、その水を沸かすというタイプが普通らしい。
尤も、うちの実家は長らくこのタイプの風呂だったので、特に違和感はない。
強いて言えばシャワーが使えないのはマイナスかも知れないが、無きゃ無いで案外どうにでもなるものだ。
最初から風呂は湯が出てシャワーも当たり前にある環境にしか身を置いてこなかった人間にとっては辛いかも知れないが。
湯を沸かす仕組みにも魔術が使われているようだ。
時計と同じで、ボタンを押すことで魔術が発動して湯を沸かすらしい。
但し、沸いたら再度ボタンを押して、発動した魔術を解除しないと湯温がどんどん上がり続けてしまうので注意が必要とのこと。
蘭は最初、酷い目に遭ったと言っていた。
5分も沸かすと大体ちょうどいいくらいになると言っていたから、あとは好みで微調整すればいいだろう。
どうやらタイマーというか、ストップウォッチというか、そういう使い方ができる魔術もあるようだから、今度聞いてみようと思う。
洗濯のことも聞かなきゃいけないな。
そんなことを考えながら風呂に入った後、この日はさっさと寝てしまった。
そして翌朝。
レイラさんは『明日また迎えにくる』と言っていたわけだが…。
「何時に来るか、分からないな。」
あ、そうか。
通信手段あるじゃん。
同じ集合住宅に住んでいるのだから、直接部屋を訪ねてもいいのだが、朝早くに一人暮らしの女性の部屋を訪ねるのは流石に非常識だろう。
俺は弐世界で暮らす上で最も重要なアイテムであろう、壱世界の一般的なカードより少し長めの札を手に取る。
「レイラ ラグゼットへ通信。」
しばらくするとレイラさんに繋がった。
「はいはーい。久保さん、おはようございます。」
おお、初通信。
ちゃんと繋がるもんだな。
壱世界で言えば、ただ電話が繋がっただけの話なのだが、ちょっと感動した。
しかし、要件があるので、すぐに気を取り直す。
「すみません、レイラさん。朝早くに。今少しよろしいですか?」
「どうしたんですか?」
「今日、迎えにくるって言っていましたが、何時頃になりそうですか?」
「ああ、そうですね…。一度職場に行ってからお迎えに行こうと思うので、11時くらいで如何ですか?」
現時刻は7時45分、3時間ちょっとある。
「分かりました。では11時に。」
要件だけを済ませ、通信を終える。
「何となく、こっちに来てから体が重い感じもするし、ちょっと体を動かそうかな。」
レイラさんが迎えにくるまで、それなりに時間がある。
リーシェがレイラさんから渡されていたお金もあるし、朝食の調達も兼ねてジョギングでもしようかね。
そう思い立って俺は、これも予め用意されていた服に着替えて外に出ることにした。




