第22話(1章) … 先輩9
時計は10時を回った。
宴が始まったときは時計を見ていなかったから正確には分からないが、もうかれこれ4時間近く経っていると思うのだが。
リーシェも蘭も自室に戻る気配がない。
いや、別に早く帰って欲しいというわけではないのだが、夜も更けてきて話題が変な方向に進んできていて、ちょっと嫌な感じだ。
「で、由輝は彼女とかいないの?」
ほらきた。
「俺は田舎育ちでさ?そういうの、全然縁がなかったんだよ。」
「田舎育ちでも恋愛くらいできるでしょ?」
二人がかりで攻め立ててくる。
「いや、そりゃそうなんだけどさ。小中合わせても100人いないくらいの田舎だから、それこそみんな家族って感じで、恋愛対象って感じじゃなかったんだよ。」
「ほうほう。」
何か、妙に食いつくなぁ。
俺は苦笑いで続ける。
「高校は隣町まで行ってたんだけど、勿論そこでも家族は一緒なわけ。家族の目があると気恥ずかしいというかね。」
「その辺は日本人的よね。私にはあまり分からない感覚だけど。」
リーシェはそんなことを言ってくるが、蘭には何となく伝わったようだ。
「まあそんなわけで、今まで色恋沙汰には縁がなくてね。つーか、そういう二人はどうなんだよ?」
俺ばかり聞かれるのも癪だ。
「私の場合、恋愛してる余裕がなかったわね。習い事とかも多かったし。強いて言えば、小さい頃に家庭教師をしてくれていたお兄さんに、漠然としたあこがれを持っていたくらいかしらね。」
笑いながらリーシェは言う。
「私は高校生の頃、一人だけお付き合いした人がいたんだけどね。悪い人ではなかったんだけど、何て言うか、ちょっと"そっち方面"に関してガツガツしててね。私はそういう感じで付き合ってなかったから何かギスギスしてきちゃって。結局、半年も続かなかったのよね。今思うと、高校2年の男子なんて、それが普通だって分かるんだけど。」
結局蘭も大した恋愛はしてきてないようだ。
「そういや、俺たちみたいな壱世界の人間が弐世界の人と恋仲になったりもするのかな。」
こんな話をしていたから、気になってしまった。
決して、レイラさんがちょっとタイプだったからではない。
「気にしたこともなかったわね。確かに壱世界の住人と弐世界の住人が恋愛関係になったら大変そう。」
「もし結婚したいなんて話になったら、大変どころじゃ済まないわね。」
蘭もリーシェも自分に縁がなかったからか、気にもしていなかったようだ。
「もしもそんな時がきたら考えればいいんじゃない?今考えてもきっと分からないだろうしね。」
確かに蘭の言う通りだ。
これに関してはきっと考えても分からない。
ただ、転移者にとって不都合…とまではいかなくても、気にせざるを得ないことはきっと多い。
タイミングを見てレイラさんにでも聞いてみることにしよう。
「ところで、由輝はどんな大学生活を送ってるの?」
「それが、今までは身近に知り合いがいて当たり前の生活してたからさぁ。」
俺たちは考えても答えが出ない話題を止め、改めて親交を深めた。




