第20話(1章) … 先輩7
整った顔立ち、スタイル。
上品さが滲み出る立ち居振舞い。
向こう側では英国の大学生。
それも、学のない俺ですら聞いたことのある英国の名門校。
そんな彼女…リーシェ・フランドルが。
「私はこっちでは商職人の見習いとして働いてるわ。」
「商職人って?商人とは違うの?」
尤も、"商人"という言葉も、大概漠然とした表現ではあるのだが。
「向こう側の商売って、製造者がいて、物流者がいて、小売者がいて…っていうのが割と一般的よね?」
「まあ、確かに。」
「でも、こちらではそうでもなくてね?例えば私は今、ある商会の武具関連の商に付いているんだけど、その武具の製作から携わってるの。」
製作から?
武器や防具を一から作る?
このお嬢様(印象)のリーシェが?
「つまり、鍛冶的な仕事もしたりするのか?」
そう問いかけたのでさえ、だいぶ思い描いた印象とは掛け離れた質問をしたつもりになっていたのだが、これでもまだ足りなかった。
「それ"も"だし、もっと言えば材料調達からよ。材料がなきゃ作れないでしょう?」
「材料調達って、それは鉱物商とかと取引したり?」
「勿論、そういう事もあるけど、自分で探すのよ。基本は。」
いやいや、探すって言っても…。
「見習いだしね?せっかくだし色んな経験したいじゃない。」
「危険なこととかはないの?」
「今はまだ商会の先輩たちと何人かでしか行かないからね。そんなに危ない目に遭ったことはないかな?時々モンスターに襲われる程度よ。」
"襲われる程度"って、それは十分危ない目に遭ってるんじゃ…?
そんな疑問は愚問だ。
"そこ"はとりあえず、今は重要ではない。
「というか、リーシェは何で商会の見習いなんてやってるの?正直、イメージと違うというか…蘭以上に違う気がするんだけど。」
「私に関係ないところで随分失礼なことを言うわね…。」
そう言って、蘭はちょっと怒ってみせる。
といっても、本気で怒ってなどいないのは明らかだが。
何となく、蘭はこういうジョークを言い合って大丈夫な相手、という気がする。
俺とリーシェだけのやり取りになりつつあった流れに、蘭を巻き込むための俺なりの配慮…のつもりだ。
…一応。
「さっきもチラっと言ったけど、やってみると意外と馴染むのよね。リーシェもそうでしょ?」
「そうね。私も力仕事も多いこういう仕事なんて出来るわけがないって思ってたけど、やってみると不思議と、ね。むしろ今はあっちで大学生やってる時より充実しているとさえ思うこともあるわよ。」
『勿論、大学生活も大切だけどね』と彼女は付け加えたが。
彼女たちの仕事は、自分で見つけたというわけでもないらしい。
レイラさんからいくつか提示された仕事の中から選んだ、ということみたいだ。
『きっと、レイラさんが明日また来るのは、その辺の話があってのことなんだろうな。』
俺は彼女たちと話しながら、そんなことを考えていた。




