第2話(1章) … 19歳、大学生
外で軽く夕食を済ませてアパートに帰る。
鍵を玄関脇の靴箱の上に置いたとき、一通の封筒が視界に入る。
「19歳講習だな…。」
"19歳講習"とは、19歳になって最初の日曜日に受ける講習のことで、国が実施しているものだ。
任意で受講するのではなく、強制のものだ。
受講しない、なんて選択肢はない。
何ヵ月も前に受講通達が来るから、予定があるから受けられないなんて言い訳も通用しない。
そもそも、病気療養中だろうと何だろうと受けなければならないくらいの強制力だ。
受講しないなどという選択肢があるわけがない。
唯一の例外といえば、意識がない、昏睡状態のような場合のみ。
まあ、それでも回復後すぐに受講することになるそうだが。
要するに、19歳以上であれば、受講しようがないケースを除けば、"絶対に"受けている講習なわけだ。
俺は5月生まれだから、同級生には既に何人も受講している者がいることになる。
もっと言えば、親や親戚たちは確実に受講している。
だが、その内容は全く漏れ伝わってこない。
相当に重要な講習だから、非公式に伝わることによる情報の過不足を排除するため箝口令が敷かれているということだが…。
「ここまで徹底されてると、"重要"というより、"異常"だとも思うけどな。」
そんな疑問だって、皆が持ってるはず。
でも誰も公には口にしない。
口にしたところで疑問は解消しないし、何より講習は必ず受けることになるのだから、そこで全て分かる。
であれば、予め知っていることに特に意味がないからだ。
俺は明日で19歳になる。
そして明日は日曜日でもある。
つまり、明日の誕生日に受講することになる。
寝坊して遅刻するのも洒落にならないし、今日はなるべく早く休むことにする。
掃除機をかけ、洗濯機を回し、そのまま風呂に入る。
読書しながら長めに湯船に浸かり、洗濯終了の音を合図に風呂から上がる。
部屋着兼、寝間着のダークグレーのスウェットに着替え、洗濯物を干す。
翌日曜日が特に予定がないような普段の土曜日なら、ここでカフェオレでも淹れてネットサーフィンやゲームでもするところだが、今日は事情が違う。
「もう特にすることも無いし、寝ちまうか。明日は早いし。」
時刻はまだ22時を過ぎたところだが、明日は6時くらいには起きていたい。
今寝れば早起きしても充分な睡眠時間を稼げる。
アラームをセットし、部屋の灯りを消す。
街の灯りは遮光カーテンで遮られている。
この時間の都会には似つかわしくない暗闇の中、この身を闇に溶かした。