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第19話(1章) … 先輩6

一言で済ませてしまうなら、"ギャップ"という言葉に尽きる。


これは別に、先程合流した『上台蘭』だけを指しているわけではなく、『リーシェ・フランドル』も、である。


「蘭さ…蘭は"お役所勤め"なんだね。」


俺が彼女…上台蘭を一目見た印象は、"元気な女の子"だ。


悪口とかではなく、知的とか真面目とか、そういうタイプとは異なる魅力を持った女性という意味で。


だからこそ、彼女がこちらの世界で"お役所勤め"をしているというのがギャップに感じられたのかも知れない。


いや、お役所勤めをする人の全てが真面目でお堅い印象なわけではないから、やはりこれはあくまで個人的な、偏見に満ち満ちた感想でしかないのだが。


そうそう。


ここで言う"お役所勤め"というのは、当然のことながら『向こう側の世界で言うところの …』という話である。


もっとシンプルに言うと、レイラさんが所属している組織の事務的な役割の一端を担っているそうだ。


彼女も向こう側では大学生で、俺の通う学校とは電車で30分程で着くくらいの距離しか離れていない程度に"ご近所さん"だった。


因みに学校のレベルは、蘭の方が高い…。


まあ、それはそれとして。


「あんまり、事務方って柄じゃないって最初は思ってたんだけどねぇ。やってみると意外と合ってる気もするのよねぇ。」


ちょっと苦笑い、といった表情を浮かべながら彼女は言う。


「意外と言えば、この料理も十分意外だけど。」


これは俺の素直な感想だ。


というのは、リーシェが料理上手なのが意外という意味ではなく、その内容が、である。


あちらの世界とこちらの世界の食材が完全一致しているわけではないから、あくまで"風"という話になるのだろうが、今眼前に並ぶのは"和風"な料理なのだから。


「蘭は特別、料理が上手なわけではないけれど、人が作る料理に口を出すのは一流なのよ。だからこういう料理も覚えちゃって。」


「ちょっと!私が強要したみたいな発言はやめてぇ!」


蘭は慌ててリーシェの口を塞ぐような素振りをする。


勿論、本気で塞ごうとしてるわけもなく、二人とも笑顔で応酬している。


「ま、蘭が教えてくれた"和風"な料理に、私自身がハマっちゃっただけなんだけどね。」


そう言ってウインクしながら舌を出して見せるリーシェ。


俺は彼女と街歩きをしているとき、部屋に戻ってから料理をする姿、たったそれだけの時間で、ではあるが抱いた印象がある。


リーシェは"お嬢様"なんじゃなかろうか、というものだ。


所謂、テンプレートな"お嬢様"という意味ではなく、立ち居振舞いというか、毅然としていて品があって、でも高圧的とかではなくしっかり目線を落とせるような、本物のお嬢様とでも言えばいいのだろうか。


それでも少し表現したい"リーシェから滲み出るお嬢様感"とは違っている気はするのだが、そこは重要ではないので今は無視する。


そんな印象を抱かせる彼女だからこそ、こちらで彼女がしている仕事には蘭以上のギャップを感じずにはいられない。


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