第18話(1章) … 先輩5
結論から言うと。
キッチンの使い方は、向こう側の世界と大きな違いは無かった。
…と言ってしまうと語弊があるかも知れないのだが。
つまり、魔術によってランプや冷蔵庫が存在しているように、魔術によって水道は出るし、魔術によってガスコンロは使えた。
ああ、勿論ここで言う水道やガスコンロはあくまで比喩であって、水道そのものでもなければガスそのものでもない。
似た存在があった、ということだ。
実際の使用方法は…まあ、ランプと大差ない。
詳細は必要があれば語るとしよう。
リーシェと買い物をして帰宅した後、リーシェは調理メイン、俺は片付けも兼ねた部屋の方の準備メインで動く。
英国料理は不味い…とはよく聞く話ではあるのだが、それが英国人全てを指し示すものであるはずもなく。
絵を描くのが好きなのであって、描かれた絵を見るのが好きなわけではないとか。
いや違うな。
カラオケではキング・オブ・音痴であっても、楽器を弾くのは得意とか…。
何だかしっくりこない。
と言うか、わざわざ例え話を持ち出す必要もないことだ。
何が言いたいかと言えば、リーシェはとても手際が良かった。
料理が上手かったし、料理が旨かった。
たどたどしいながらも何とか男の独りメシくらいは作れる…というレベルの俺が手を出しても、とてもじゃないが役に立つとは思えない程度には。
だから俺はリーシェから声が掛からない限り、キッチンには立ち入らない。
適材適所、というやつだ。
いや、リーシェと俺の作業量の差に目を瞑り、自己肯定したいがために言っているわけではなく。
けしてそんなわけではなく。
実際のところ、難しいのだ。
本当の意味での適材適所は。
思い返してみて欲しい。
『何でこんな無能が大臣なんかやってんだ。』とか。
『何で俺が私がこんな役目を押し付けられなきゃいけないんだ。』とか。
『何であんなやつが、こんな美女と付き合ってんだ。』とか。
…あくまで一般論。
個人的な感情は多分、多分には含まれていないのだけれど。
『何で俺はこんな環境に産まれたんだろう。』とか…。
そんな、不可思議で理不尽な状況を目にすることが。
耳にすることが。
…体験することが。
それはある意味、適材適所とは掛け離れていると言えなくもない。
しかしながら、それも結局は人それぞれの主観に左右されるわけだが。
これに関してはまさしく多分に。
だから何だということでもないのだけれど、要するにリーシェも俺も納得して今の役割を果たしているわけで、そこにあるのは差異であって優劣ではないということだ。
そんなことをしているうちに、一人の女性の声が聞こえてくる。
「こんばんはー。上台 蘭でーす。お邪魔しまーす。」




