第10話(1章) … 講習7
俺の問い掛けに対して、レイラさんは否定も肯定もしない。
だが彼女の表情を見て、俺は不思議と自分の出した答えが間違っていないと感じていた。
「もっと早くから…って人も中にはいるが、向こう側の世界では一般的に高校卒業…18歳で就業する人もいる。そういう人たちが俺と同じようにこちら側に来た場合、昔のように休みが少なかったらどうなる?とてもじゃないが向こう側で仕事なんか出来ない。」
レイラさんは表情を変えない。
「俺みたいな学生の場合でも、週末に加えて長期休暇まであるから、休日数は事実上120~130日くらいには達する。休みが多い大学生なら尚更だ。」
話し続けるにつれ、俺は自分の考えに確信を持っていく。
「つまり、こちら側と向こう側、両方で生活が出来るよう、互いの国家レベルで…いや、互いの世界レベルで既に体制が構築されている…ということなんですね。」
彼女の答えは無いだろう、きっと守秘事項に該当するだろうから。
しかし、またしても彼女は俺の予想を裏切ってくれる。
「その通りです。流石ですね、久保さん。」
満面の笑みで答えてくれた。
俺はそれに驚いてしまった。
「『守秘事項なんです。』とか言われるかと思ったのですが…。」
「確かに守秘事項は私からは話せませんけどね。そうでないなら問題ありませんから。」
つまり、これは守秘事項ではなかったということか。
正解したのに何処かスッキリしない、妙な気分だ。
とは言え、じゃあ何が守秘事項なんですか?なんて聞いたところで答えが返ってくるわけがない。
ここまでだろう。
「さて、こちらとあちら、両方で暮らせるというカラクリは理解していただけたようですね。」
レイラさんは俺が辿り着いた答えに満足しているようだ。
「まあ、あちらに戻れば分かることですが、社会人に限らず学生の場合でも、実はこちらに来ることになる人には特別な措置があるんですよ。」
「えっ?そうなんですか?」
それは知らなかった。
「ですから、学生の休日を丸々使ってこちらで暮らす…なんてことになるよりは、実際はもう少しだけ余裕はあると思いますよ。」
そうなのか。
言われてみれば、休みが休みでないような生活になるのは、かなり厳しい話だ。
彼女の言うことは、もっともな話かも知れない。
それでも、こちら側に来る者と来ない者が(多少の融通措置があったとしても)同じように休日を取得するのは不公平感があるが。
でもまあ、普通では体験出来ない経験が出来ると考えれば、強ち不公平とも言えないのかも知れない。
こんな経験は本当に限られた、謂わば"世界に選ばれた者"にしか与えられないのだろうから。




