表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

第1話(プロローグ)

もう、今から約70年前になるだろうか…世界中を巻き込む事件が起きた。


国を問わず、複数の地域で、同時多発的に発生した『失踪事件』である。


世界中のメディアはこのニュースを大々的に取り上げ、各国首脳も足並みを揃え、最優先事項として対応にあたった。


そんな中、まず疑われたのは過激派組織による誘拐、テロだったわけだが…


しかしその後、そういった"事件性のある事案"ではなかったと結論付けられている。


最大の理由は、失踪した者たちが皆、無事に帰ってきたからだ。


とは言え、何も問題がなかった…というわけでもない。


国籍も年齢も性別も異なる失踪者たち全員に、唯一共通していたこと、それは…


帰ってきたとき、"失踪時の記憶がなかった"ということだ。


結論付けた、などと曖昧に結末を語るのはそのせいでもある。


失踪していた者たちにその記憶がない以上、実際のところ何が起きていたのかは分からないのだ。


そして、それは現在においても不明である。


しかしながら、"記憶がない"という唯一の共通点の他にも、いくつかの"失踪する条件らしきもの"は推測された。


失踪者の年齢が19歳から25歳、そして44歳から50歳に限定されていたこと。


そして、失踪した者は特定のポイントを中心とした地域に在住していたこと、である。


特定のポイントと表現したが、それは一つのポイントという意味ではない。


全世界的にそのポイントは見られ、例えば日本であれば東海地方を中心として国土全域が該当した。


ポイント一つの影響範囲は、ほぼ一定。


つまり国土の広い国であれば、その影響範囲はあくまで国の一部であり、欧州のような地域においては、一つのポイントが複数の国に影響を与えていた、ということになる。


しかし、失踪者たちが無事に帰ってきたことに加え、その記憶がないこと、またその後、同様の事案と思われる失踪者が確認されなくなったことなどから、次第に報道も沈静化していき…


数年後には人々の話題に上ることもなくなった。


そして現在では単なるの歴史の一部として"知識に収められる程度のこと"になっている。




それから70年余りが経過する間、様々な変化があった。


例えば働き方。


世界的に正規、非正規雇用労働者の年間休日が最低150日と定められたことが挙げられる。


尤も、これはあくまで"最低"だから、多くの企業は170~180日程度の休日を設けている。


これは失踪事件も少なからず影響した結果らしい。


"失踪は働き過ぎによるストレスが原因だ!"などという根拠のない噂話も一つの要因だったようだから。


こんな暴論が(特に肯定もされてないとは言え)特に否定もされずにあっさり通ってしまったわけだ。


それも世界中、足並みを揃えて、である。


あまりに不自然な話であり、誰しもが不可解と首を傾げる話なのだが、誰もおおっぴらにそれを追及するような真似はしない。


"このこと自体も"不可解ではあるのだが…




話が逸れたが、時は5月を迎えていた。


4月から"いいとこ2.5流の大学生"になって一ヶ月。


漸く新しい環境にも慣れてきた俺…久保 由輝は、間もなく19歳の誕生日を迎えるわけだが、特に何をするでもなく(サークルに入るでもなく、アルバイトに精を出すでもなく)過ごしていた。


「仕方ねえだろ。俺みたいな田舎モン、都会に慣れるだけでも一苦労なんだよ。むしろ一ヶ月で慣れてきたことを自分で褒めてやりたいぜ。」


まだ5月の上旬、これまでの18年間を過ごしてきた田舎であれば辺りはだいぶ暗い時間だ。


とは言え、ここは首都東京、周囲はだいぶ明るくむしろ騒がしい。


この一ヶ月、講義に出る以外、特に何もしてこなかった言い訳を、喧騒にかき消されるような小声で呟きつつ歩を進める。


『でも、さすがにそろそろバイトくらいしないとな。』とも考えつつ。


こんな過ごし方をしてしまったせいか、俺は最初の新しいコミュニティ作りには失敗したと言っていい。


所謂"コミュ障"というわけではないのだが、電車が一時間に一本しか走っていないような田舎の方法論は、この大都会ではあまり役に立つとは言えなかったのだ。


何せ今まで過ごしてきたのは、この大都会とはかけ離れた田舎だ。


小中はクラスメイトが10人居れば多い方。


因みに俺の同級生は俺を含めて男子4人、女子7人の計11人。


一学年下においては、6人しかいなかった。


高校は隣町まで行かなきゃ無い。


そんな場所だから、産まれた時からの知り合いばかりと言っても過言ではない。


殆ど家族と言っても差し支えないのだ。


高校に行っても、その"家族"と力を合わせてコミュニティを作っていった。


だが今は一人だ。


自分だけでコミュニティを作るという経験がないのだ。


…だから一応断っておくが、言い訳ではない。


全く知り合いが出来ていないというわけではないが、精々『顔見知り』程度でしかない。


連絡先を交換したり、一緒に遊んだり食事に行くような人はいない。


そんな状況だから、バイトをすることで補完しようという考えもあった。


お世辞にも頭脳明晰とは言えないが、体力はそれなりにある方だと思う。


それだけでもバイトには困らないだろうし、選択肢の中から同世代が多いものを選べばいいわけだ。


「明日から19歳だしな。気分一新!!ってとこだな。」


…この後、俺の生活はまさに"一新"されることになる。


想像とは、かけ離れた形で。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ