99.話をまとめよう
「ん? んん? あれ……私っていつから
寝てたの…?」
「結構寝ていたぞ」
ミコが倒れてから10分ぐらいして
本当に何事もなかったようにむくっと
起きた。
何より安心したのは暴走したときの
記憶がなかったのは事だと思う。こんな
都合のいい展開は俺にとっておいしいが、
一番困ったのは間違いなく自分で脱いだ
巫女服だった。あれをどうやって隠そうか
とめちゃくちゃ悩んだが、俺は最終手段を
とることにした。
そう、ミコが寝ている間に着せたのだ。
これはさすがに無理難関を極めたが、俺は
前に見たミコの着替え姿と巫女服の構造を
把握した上で、それをやってのけた。絵面は
完全にまずかったが、純粋無垢でやましさの
かけらもない俺からしてみれば別にそこは
問題視すべきではない。
「……ん!? ココ何か私にした!!?」
「え、俺は何にも……」
「服の着方がおかしい! 絶対ココが
いじったでしょ!!」
「いやいやいや!!」
「うわーないわー!!」
ヤベェ! これはちょいと予想外だ!
これはどうしたら…… ってあぁ、そうか……
「いや、これはな……」
かくかくしかじか
「ってことなんだ」
「え、マヤちゃんが原因なの?」
「ま、ざっくり言えばそうだな」
俺はありのまま今起こったことを話した。
もちろん俺が薬を飲むようにけしかけた下りは
話さず、マヤが俺たちへのお土産を間違って
しまい、俺もそれに気が付かずに何の躊躇なく
ミコにあげてしまった。という一連の流れを
ミコに話す。
「それでその薬って、なんの薬だったの?」
「あぁ、それは……
あー……まぁ言ってしまえば体が熱くなって
頭がもうろうとするって感じのものだな」
「逆・風邪薬ってことなの?」
「……
ま、そういう認識でいいよ」
媚薬なんて言わなくていい。言ったところで
説明どうこうも話すのもややこしいし面倒だ。
「なるほどね…… ようは私は意識がもうろうと
して、結果として何も考えずココの目の前で
暑い暑いって言って脱いだと」
「はい、その通りでございます」
「そっか、ならココは私のことを見ててくれてた
だけなのかぁ…… まぁ、それは置いといて
後でマヤちゃんのことはしばいておくわ」
「いや、マヤも間違っただけであってそこまで
しなくてもいいだろ。俺だってそれが薬だって
気が付かなかったんだから」
「んーーーー…… じゃあ仕方ないか……」
マヤを擁護するなんてのはもっぱらごめん
ではあるが、俺の作った出まかせのままにミコが
生徒会室に突撃されても困る。マヤには俺から
引導を渡しておくから、ミコにはここは黙って
置いてもらっていた方がいい。
さて、まとめに入るわけではあるが、イマイチ
まとまりのない内容になる。それもこの年末編は
一つ一つが長ったらしく無駄に説明パートが
入っていたため、ここで話すだけの量がない。
なので今は現状としてよくわかっていないことを
まとめるか。
そのわからない事というのはさっきのこと。
さっきっていうのはバーサーカーミコのことだ。
マヤは10分ぐらいで元に戻るって言っていた
割にはミコがそれよりも早く倒れてくれた。
おかげで俺の貞操を守ることができたと言っても
過言ではない。が、なんでミコはこんなに早く
倒れてくれたのだろうか……
まぁ、俺の唇は奪われてはいるのだが……
さすがにこれだけは本人に言えないな。
唇を奪う……?
いや、これは完全に俺の目測なのだが……
まさかこれってあり得る話なのか……? だが
ちょっと洗ってみるのもいいだろう。
「あれ? どうしたのココ?」
「……あのさぁ、ちょっと質問なんだけどさ……
”高校生男女の間で3割の人が済ませている
ことってなーんだ?”」
「……セクハラ?」
「……うん、まぁそこは答えてくれや」
ごめん、俺だってこのデータの信憑性は
まったくないのだが”ある意味”有名な数字
ではあるし、一つ質問してみてもいいだろう。
「え、フツーに嫌なんだけど……」
「んなドン引きすんな」
「そりゃあ……”ファーストキス”とか
じゃないの……? ってイヤーン!
ココってば何言わせてるのー!!」
「……」
「え、どうしたのそんな微妙な顔して……」
「いや、なんでもない……」
あー、やっぱりかーーーーーうわーーー、
こいつ箱入りのガチ純情乙女ちゃんだーーー。
これでミコのへばった理由が分かったよ。
あの薬は体力とかが尽きれば結果的に効果が
切れるものではあるが、ちゃんとした効果の
切り方もある。それが俺にとって一番
避けたかった方法なのだが……それは……
”目的を達成させること”だ。
一つ目標が達成できればその薬の本来の
目的も達成でき、結論的には効能も切れる。
つまりミコは俺にキスをした時点で目的を
達成したということだ。ミコに”そこら”の
知識が皆無としてなくて助かったというか
何というか。
「……ちなみにさ、ミコはファーストキスって」
「えーwww キスする相手なんて私にいる
わけないじゃんwww 何言ってるのさw」
「……」
「いや、だから何その顔は」
ミコはやっぱりあの時の記憶はないようだ。
それにしてもまさか自分がさっきの時点で
そのファーストをしていることを知らない
というのは悲しいものだな。それに何よりも
奪われるはずのものが、女のほうから奪いに
行っただなんて、それこそ本人に言えない。
「ま、お前はこのままでいいよ」
「へ?」
ミコらしいっちゃミコらしい性格と知識量
ではあるが…… 純情すぎんよ、お前。
「そういえばギドー君は?」
「あぁ、もうすぐ来ると思うけど」
義堂にあの薬を飲ませたらどうなるんだろうか。
いや、これこそやってはならない禁忌だな。
バーサーカーがバーサーカー(令呪)になるよ。
やっぱり不用意な好奇心っていうものは全く
いいことなんてない。今回のまとめとしては
これで十分だろう。
ガチャッ
「あ、ギドー君あけおめー!!」
「お、義堂あけおm」
俺は言葉を失った。相手が義堂じゃなかった
ってことではないし、年明けの真夜中に義堂と
一度会っているからこの挨拶は正しくないから
なんてわけでもない。
義堂のほほが赤い……
それでいて目がうつろ……
「あ、あれ義堂まさか……」
さっきもさっきミコでこの病状は見ている。
だからこそ俺はこの義堂の様子に対して
「どうした」なんて心配の言葉はかけない。
かけたところで意味がないんだから。
「おぉ、ココ、元気そぅじゃぁねぇか」
「あ、あぁ……って義堂、俺のことをなんで
ココだなんて呼ぶんだよ?」
「へへっ、どうしちまったんだろぅな……
俺、お前んこと、なんか……」
やめろ、これ以上は本当に聞きたくない。
ぼおおおおおおおおおっ
ミコの方からほら貝の音が聴こえた。
この着信音らしくない着信音は確かミコの
携帯から鳴るもののはずだ。
「はいー、もしもし今……
ココー、生徒会長から……」
義堂と向き合っている中、ミコが俺に
携帯電話を渡してきた。俺の持っている
スマートフォンで慣れているだけあって
ミコのガラケーでの通話は慣れない。
だが今はそんなことはどうでもいい。
どうでもいいほど今は一刻を争う。
「……もしもし」
「あ、神前君かい? 今そこに義堂君って
もういたりする? いやーそれがねぇ
さっきマヤが生徒会室に来てお土産だって
言って鳩サブレーとハイ〇モンをほったら
かして行ったんだよね。それで義堂君ったら
鳩サブレーとそのハイ〇モンを”イタダキー”
なんて具合に持って行っちゃって……」
「……」
「お菓子を持っていかれるのは別によかったん
だけどねぇ、そのあとにマヤちゃんが戻って
来て、そのハイ〇モンが実は危ない薬だって
教えてくれたんだ。もうそこに義堂がいるなら
その持って行ったハイ〇モンは食べないように
言っておいてほしいんだ」
「あの、生徒会長…… ここに来るまでの道中に
どうやら食べてしまっているみたいで……」
「え、じゃあ義d」
バァンンンンン!!
通話が切れた。実際は切れたわけではなく
俺の手元から携帯が消え去っていただけで、
気が付けば携帯は足元に投げ捨ててあった。
この言い方も正しくない。義堂に払われたのだ。
幸い、床が畳でよかったと思う。
「義堂……これは……」
「お”い……ココ、誰と話してんだよ。ココは
俺のもんだ、誰にもやらねぇょ……」
「……」
鏡はないから俺が今どんな顔をしているか
なんて分かりっこない。多分、俺はヤバイ!
と言わん顔をしていると思う。
「義堂! 俺、男だよ!?? 何をどう考えても
”そういう”流れになるはずないんだけど!?」
「好きってもんに、性別何ていらねぇよ」
「なんてかっこいいセリフ!」
これはヤバイのは分かっている。だがさっき
みたいに力で止めるなんて無理だ。さっきの戦いで
俺の体力も下がっているし、何よりミコですら
勝てなかったというのに筋肉馬鹿の義堂に今の
俺が勝てるなんて想像できない。
「ミコ! ちょっと生徒会長かマヤ呼んd
…………ミコ?」
ミコはいつの間にか玄関にいる。靴を履いて
誰かに助けを呼んできてくれる……雰囲気ではない。
「あのー、ミコさん?」
「ごめんねココ。私も女の子だよ? この後の
流れが読めないわけじゃないからね。私が
それを止める義理はないし、ココだって
ギドー君のこと止めれるでしょ?」
「あの、ちょっとそんなこと……」
「それに
乙女の裸を見た罪は重いよ」
バタン
……
「やっと二人きりになったな……」
「義堂! 待て待て待て待て!」
「待てねぇよ……
ココ、オレのモノになれよ……」
「義堂やめろ! ストップ義堂!!
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!
顔近づけんな、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!
あっ、……」
アーーーーーーーーーーーーーーッ!




