98.ミコから耐えよう
「欲望っていうのは抑えつけるものって
認識が強いけど、私からしてみればその
認識がおかしい気がしてならないの。だって
欲望もなければ発展も何もないんだからね。
だとしてもその欲に忠実に躍起になっていると
自分の限界がわからなくなるもの。ココも
それは分かるでしょ」
スポーツで例えると分かりやすい。みんなと
楽しくサッカーだったり野球をやっている間は
「楽しいことを続けたい」という欲によって
活動を促進させる。が、途端にそれが終われば
自分の限界を超えたことをしていたと身体が
理解する。なんてかっこつけなくていい、ただの
筋肉痛のことだ。
「だからエゴってのは自分の身体を苦しめない
ためにあるものであって、イドのままに活動
していればいつかは身体に限界は来るもの。
だから今はミコちゃんには薬にかかって
もらったまま、イドのままに活動させておく。
そしたらいつか力がなくなって、薬の効果も
切れるはず」
「で、俺はこの”抱っこちゃん人形”から
貞操を守ればいいと」
「そういうこと」
なんてひどい会話なんだ…… toL〇VEでも
こんな話はないぞ。ってあ、ヤベっこれじゃ
タイトル丸で隠せてないじゃん。
「多分だけど、10分もしないうちに
ミコちゃん落ち着くと思う」
「あ、そうなのか?」
「だってそのニュージーランドのテストが
結局そういう結果で終わったからねぇ。
やっぱりあの媚やk、薬は効果の持続が
難しかったって結果」
「おい今、媚薬って言いかけたな」
んな”エゴ”とか”イド”なんてまどろっこしい
言い方するよりも、男性読者にはそっちの
ほうが伝わりやすいぞ。それとついにあの
薬の正体認めたな、てめぇ!
「だからココ、どんなに淫らにミコちゃんが
誘ってきても、それに負けない強い精神力を
持ってね! 最悪、本当に同人誌的展開に
なったとしてもこの小説が”小説家になろう”で
連載ができなくなるぐらいだから」
「それが一番大問題だよ!!」
「とりあえず私は生徒会室からちょっと離れて
話している関係で、もうそろそろ戻らないと
色々と疑われかねないから、じゃねー」
「あ、ちょっt」
ブツッ
あの野郎、本当に切りやがった。こっちは
この大荷物の処理で困ってるってのに解決策が
頑張れって一言だけかよ。
だが、マヤからはいいことを聞けた。
ようは耐えればいいのだ。
耐えるってのはもちろん力任せに襲ってくる
敵たちから時間を稼ぐみたいなものではない。
マヤも言っていたが、これは俺が誘われなければ
問題ない。いや、ミコがラノベヒロインってだけ
あって可愛い容姿をしていようが、悪魔の俺に
とっては別に誘われるの”さ”の字もない。ならば
俺はこいつを突き放し続ければいいのだ。なんだ、
頑張れるどころか意外と楽じゃないか。
「っていうかなんでこんな俺に付きまとうんだ!
もうそろそろ離れろ!!」
今は冬で本来なら寒いはずだ。なのにミコは
アツイと言っている。もちろんこれは薬の影響
なのだろうと思うが、さすがにこんなにガッチリ
引っ付かれたらこっちも蒸し暑い。
「ココォ、ワタシ。キラィ?」
「は? あ、いや、別に嫌いなわけじゃないけど
だからと言って異性として好きかどうかは……」
「ジャァ、シヨ」
「何をだよ!」
しねーよ。何がとは言わねぇがしねぇよ。
「ココォ、ハヤクゥ」
「俺だってお前にその薬飲ませたのは悪いと
思ってるけど…… ってちょっと待て! 服を
引っ張んじゃねぇ!」
この野郎、小柄な割に意外に力強いな……
これじゃ誘われる誘われない以前に俺の体力が
底をつきかねない。ミコは自分の欲望のまま
動いているんだから、普段以上にすぐには
へばらない。まぁ、その分反動が大きいん
だろうけれど。だとしてもこんなに掴まれては
俺も何もしようがない。
「ちょっと、離れろ!」
「ィヤー」
何がそんなにさせるんだ! そんなにお前
日々常日頃、欲求不満なのかよ!
そこで俺は完全に油断した。うちの部室の
床は畳で、イグサの編んだ方向によっては足を
滑らせやすい。俺はそれを理解したうえで
体制を整えていたのだが、その油断が体制を
崩した。つまり転んだのだ。
それに対し、俺に全体重をかけていたミコは
俺と同じように倒れこんできた。この状況を
プロレス風に言うと「マウントをとった」か。
俺は完全にミコが色々しやすい体制にさせられた
ということだ。
ただでさえこいつを腕から離すのにも苦労した
というのにこんな状態では俺に勝ち目はない。
「************」
一応、腕を伸ばしミコンに手をかける。近くに
俺のカバンが置いてあって助かった。しかし霊感
0のミコには普通の霊は通用しない。ならば俺に
憑かせればいいだけの話だ。
「”憑依召喚・ギガー……」
……ん? 手元にミコンがない…… ちらっと
俺の手元を見てみる。カバンがいつの間にか
俺の手の届かないところに飛んで行っていた。
「ミコ、お前なんか見えてる!!?」
「ジャマ」
何を察したんだお前。
「ってちょっと待て待て! というかなんで
俺なんだよ! もっと他に人がいないのか!?」
「ココ、ダカラィィノ」
「え?」
「ダカラ、オネガィ」
本来、同人誌であるならここでフィニッシュを
決めるような場所だ。だが、俺は屈しないぞ!
屈したところで何の意味もない!
しかし! ここでこの試合は決着がついた。
勝敗を言うのであれば、完全に軍配が上がったのは
ミコだった。
原因は何でもない。俺の方に全てある。俺は
転んだ後も抵抗を続けてはいた。しかしミコも
自分にも体力の限界が来るのを察知したのか、
今まで以上に力を込めてきやがった。無論、
ミコはどんなに力が強くともこの小説のメイン
ヒロインであり、純粋なピッチピチのJKだ。
そんなそこらの女の子に男であり悪魔である
俺に力で勝てるはずがない。しかしそこで俺が
ミスをしたのだ。
なんてことはない。手を抜いたのだ。
どんなに部員に襲い掛かろうが、どれほど
可愛げのひとつとして見当たらない奴だろうが、
ミコは紛れもなく俺の友人だ。だからこそ
俺は手を抜いた。抜いてしまったのだ。
結果として、ミコにマウントをとられた後に
完全に腕をロックされた。どうにもこういう
固め技のハウトゥーを理解しているようで、
俺の腕は完膚なきまでに拘束、体もミコが
上に乗ることで床に抑えつけられた。
「ちょっとミコ、落ち着け!」
「アァア、スキィ」
「ヤンデレポーズすんじゃねぇ!」
そして何より驚いているのはここまでの
攻防において、ミコが半裸のままであることに
俺が一切無関心なことだ。本当ならこの状況が
いかにラッキー助辺チックなのかを読者に
提供すべきなのだろうが、語り手の俺がそこまで
こいつの裸体に興味がそそられていないため
まったくと言っていいほど色気がないことに
なってしまった。実際に見たら、この状況は
すっげぇイヤラシイと思う。俺はそんな感情
微塵とも感じないが。
「ココォ」
「あ」
俺の顔に近づいてきた。あ、これはダメな
ヤツだ。どうダメなのかなんて言わなくても
分かるだろう。俺は30歳を超え偉大なる
魔法使いとなったがここで俺のその称号を
失うこととなるのかっ!?
ギギギギギギ。ダメだ、本当にあがいても
まったく腕が動かねぇ…… これはもう……
スッ
……
…………ん? んんん??
気がついたら俺の腕は解放されていた。
それに体も動く。それは当然、ミコが俺の
上から降りたからであり、ミコはやっとこ
疲れてくれたのだ。はぁー、なんで俺はこんな
目に合わんとならんのだ。ミコはまさしく
バタンキューと言わんばかりの倒れ方を
している。アニメなら目にグルグルマークが
ついているところだろう。
「ミコ……?」
「……」
返事がない、やっと屍になってくれたようだ。
しかし俺は腕に集中していただけあって俺自身も
ミコに何をされたのか分かっていない。それに
しても時計を見る限り10分どころか半分と少し
ぐらいしか経っていない。ミコがマヤの予想より
早く死んでくれたってことか…… まさか俺が一切
好きにもなっていない奴に初めてを奪われる、
しかも力づくでそれをされるなんて夢にも
考えたことなかったわ。まぁ、実現しなくて
本当によかったが…… と言ってもあのまま
ミコがくたばらなければ本当にヤバかった
かもな。
とりあえず後でマヤは殴っておこう。
「はぁ……」
今日だけで俺はどんだけため息が出るんだ。
ってこれは違うな、これはただの息切れだ。
だとしてもため息なことには変わりはないし、
幸せが逃げいていくことにも変わりはない。
今更になったが、俺が神社で引いたおみくじ、
恋愛みくじの結果が正しかったんだなと
なんとなく理解した。理解したくなったけど
こんな形で思い知らされるとはなぁ。やはり
人生何があったか分かったもんじゃないな。
あ、そういえばミコに入れたお茶がまだ
残っているな。俺にも一緒に入れたお茶が
残っている。冷めてしまったが、これを
そのまま捨てるのもお天道様に失礼か。
悪魔らしくない発言ではあるが、もったい
ないものはもったいない。
……おかしいな、俺はさっきから何も
飲んでいないのに、この潤った感覚は……
あ、そこで俺は気が付いた。気づいては
ならなかったのであろうが俺は気が付いて
しまった。
唇に”何か”で潤わせたような感覚がある。
”何か”なんてぼかす必要なんてない。
ミコの唇だ。
「チッ、コノヤロウ……」
俺はファーストキスをこの裸で寝ている
女に奪われた。大抵、こーゆーのは男から
奪うものだし、俺がこいつからだけは
奪われたくなかったものの一つだった。




