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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
ハピニュヤ!!
94/445

94.月を見よう

(ねぇ、今のチャンスだったよ? なんで

 承諾したんだよ……? 承諾したらあのまま

 帰れる流れだったよ?)

(断り方を知りません故)

(生粋のイエスマンだな、お前)


 将来的にはとっても上司受けしそうな

良い性格だと思うよ。否定はしないけど

それが原因で後々大変な目にあっても俺は

知らないよ。それに今それが災い期して

俺が大変な目に合ってるからな?


 正月三が日最終日。いや日付が変わったから

もう正月三が日とは言わないか。それはそうと

俺たちはなぜか月がきれいだと言って義堂の

オススメ月見スポットに向かっている。


 正月ぐらいは家でのんびりしたいんだが……


「というかそんな月がきれいなとこなんて

 よく知ってたな」

「あ”? てめぇもきたことあるだろうが」

「え?」


 俺の活動範囲は学校と家をつないだ直線

ぐらいだし、来たことある場所なんてほぼ

壊滅的にないはずだ。その中に俺がきたことが

あるって……?


 それはそうと義堂は”これ”に気が付いている

のだろうか……? 俺のいとこが徐々に薄く

なってきていることに。俺みたいな霊感100の

チート野郎にはそんなことは薄いか濃いかなんて

まったく見当つかないし、本当に義堂から

”プレシア”がどう見えているかわからん。


 試しに「いとこ影、薄くないすか?」だ

なんてきくわけにもいくまい。


(マスター、このままでは)

(あぁわかっているが、まぁ大丈夫だろ)


 今日は月が出ていて月明かりが明るく照らして

いるがそれでも暗いものは暗い。それにさっきの

俺が女の存在に気が付かなかったくだりもそれが

原因なのだろうということで済んだぐらいだし、

義堂からしても今は真っ暗ってことだ。俺は

暗いほうが目が冴えるし目がよくなるからそんな

一般常識は通用なんてしないがな。


 それにしてもさっきからニヤニヤ俺たちの

楽しい楽しい茶番を後ろから見ていたのに

今はさすがにヤバイと勘づいたのか”デリトー”も

俺の心配をしている。


 それに対して”プレシア”、お前はほんっと

ぶれないよな!!? もっと困ってくれよ!!


「それで結局、どこに向かってるんだ」

「工場だ」

「え? 工場ってお前の住んでる?」

「ったり前だろ。そこ以外にてめぇが行った

 ことのある工場なんて知らねぇだろ」


 あの工場には確かに行ったことがある。

それもこの小説の序盤も序盤、義堂との

出会いのくだりで行っているし、ミコの

最大にして最悪の事故の現場でもある。

そして何よりもそこは義堂のホームレス先、

つまり義堂のホームにあたる。


 いやまぁ確かにあそこは広くて空も

きれいに見えていた記憶があるが……

まさか生徒会長の勝手に挙げた嘘っぱちの

「やばい霊がいる」を合法的かつ端的に

俺がやるはめになってしまうとはね。人生

何があるかわかったもんじゃないな。

「人生」ではなく「悪魔生」と言った方が

正しいがそこまで注意してても仕方がない。


「どーせ俺んちなんだ。んなかしこまらん

 くていい。ま、歓迎して俺んち来る客は

 夕霧を除いて神前と”ぷれしあ”、

 てめぇらが初めてだな。歓迎してねぇ

 野郎共や部長は論外だがな、ははっ」


 あの工場は別の学校のガキ共の溜り場に

なりかけていた。それを力づくで守っていた

のがあの工場の主……とも何か違う気もするが、

要は義堂なのである。その問題を一発で解決

したのがこの俺、神前滉樹なのだ。それを敬して

義堂はうちの部活の手伝いになってくれている、

と俺は考えている。そうじゃないとこの筋肉馬鹿が

俺たちの力になっている利点が考えられない。

……そう思ったらずいぶんとあれから時間が

たったものだな。ミコと出会う前よりも比べ物に

ならないほどに一日一日が長く感じられる。


 これはいい傾向なのだろうか?

 こればかしは俺にはわかるわけがない。


 そしてミコはやはりあの件に関しては

罪をぬぐいきれていない模様だな。ほとんど

あのせいでいろいろとめんどくさいことに

なったんだから仕方がない。


「おら、ここだ。って神前は知ってるか」

「当たり前だろ」


 あんなインパクトあることした場所を

忘れるわけがないだろ。


 廃工場は月夜に照らされている。これはこれで

絵になるなぁ。どっちかといえば殺人事件が今

ここで起きそうな雰囲気ではあるが。


(あの人間、ここに住んでいるのですか)

(あぁ、会話聞いてたのか)

(いえ、よく日本語が理解できなかったため

 インスピレーションというもので理解しました)


(えぇ……インスピレーションで理解できるの?)

(はい、我が主の”心の声”を聞いたので)

(お前もその能力持ってるんか!)


 ほとんどの登場人物それ持ってない!?

それなら俺何も考えないでこの小説進めるよ!?

いきなり何の脈絡もなく会話パートから始める

って所業に入るからね!?


(我が主が考えることはミコンをとおして

 ある程度まではわかります。ですが大抵は

 理解できないので、私の場合は状況や対話の

 表情、あるいは性格などを考慮してから

 吟味しますが)

(あんたすごいね)


 そんな頭持っているなら”人の常識”にも

目を向けてほしかったな。と今更思えてくる。

すまんなぁ、こんな立派な悪魔の主がこんなで。


「よし、てめぇらこっちこい」


 義堂が手招く。この工場はあまり大きくはないが

それでも工場の過程ごとに棟が異なるらしく、ここ

一帯の敷地には意外と建物は多い。その中でも特に

目立つ一番大きな建物に義堂は行こうとしている

ようだ。ちなみに、義堂はそことは別の建物で

寝たり食ったりの生活をしている。


 そのまま俺たちは義堂につられるまま工場に

入る。そしてかつては従業員用に作られたであろう

階段を上り、かつては従業員、あるいは備品修理

業者用に作られたであろう錆付いたはしごを上る。

そして最後には従業員でも備品修理業者が設置

したようには到底思えない木箱の山を登った。

先頭は義堂でそれに続くように俺、”プレシア”

最後に”デリトー”が付いてきている。


(というかお前らよくこんな険しい道程を

 息もあげずに登れるよな……)

(はい、私たちは”浮ける”ので)

(え? 浮けるの?)

(はい、基本的にこの体は浮遊体であった魂に

 意味ある具現化された”モノ”つまりは肉体に

 つなぎとめたものであって、私たちのような

 悪魔のほとんどは浮くことができます)

(チッ)

(舌打ちはよろしくありません)


 こっちはヒーヒー言いながら登ってるって

いうのにずいぶんと楽ちんなことだな。俺も

魂がなんたらかんたらって理由でその能力が

ほしかったわ。なんで微妙な「半人半魔」って

ポジションなんだよ俺。


「”ぷれしあ”おら登れるか」

「ダイジョブ」

「おぉ、そうか。そのマ↑カイっつーとこの

 女ってんな屈強なのか……?」

「クッキョウデス」

「そうなのか」


 ”プレシア”は「場の空気を読む」を

覚えたようだ。


 そしてマカイの国に新設定が追加され、

女の人たちは皆、アマゾネスみたいな体質を

持っていることになった。俺のいとこがそんな

国にいること自体おかしな気がするが、こう

なってしまった以上この設定は変えれない。


「ほらよ着いたぜ」


 木箱の山はどうやらこの建物の屋根の上に

つながっていたようだ。多分、この木箱は

義堂が勝手にここに置いたものなのだろう。

それと実際に登ってみたわかったことがこの

建物は見た目以上に大きい。そのため屋根から

下を覗けば、並木も小さく見える。うわぁ、

これはさすがに俺でもビビるな……

だから登りきるまであの木箱が屋上に行く

ためのものだと気がつかなかったのだがな。

だって木箱といってもかなりの段積まさって

いたし下どころか手元以外に見ていられる

余裕なんてなかった。


「どうだ? きれいだろ。俺もさっきまで

 ここで見てたんだぜ」

「あー、うんキレイキレイ」

「あ”? どうした? ビビってんのかよ」

「い! いやぁ!! ビビってねぇしぃ!?

 これくらいの高さならべべ別に余裕だしぃ」


「なら俺も時々やるけど飛び降りるか?」

「うそです。ビビッてます。なのでそれは」

「冗談だよ。俺だってここから飛び降りたら

 死ぬ」


 ……なんか義堂がただの筋肉馬鹿から

少しだけ姑息な考えを持てるようになって

ないか? ミコやマヤに感化されてそうなった

のかもしれないが、あまりそれと同種は

増えてはほしくないなぁ。


(きれいですね)

(え、あ、あぁそうだな)

(ひざが震えてます。降りますか)

(いや、いいよ。それとこれは日本語で

 ”ムシャブルイ”って言って感動したり

 感激したときの感情の高ぶりで起きる

 ものだから!)

(はい、承知しました)


 「これは武者震いだ」がビビッている

ときのひざの震えのごまかしに使えることは

黙っておこう。


「どうだ? 綺麗か?」

「キレイ」

「けっ、そいつぁよかった。……ってあ”?

 確かキレイなもん見たときは魔力が

 高まるとか何とかって言うんじゃなかった

 のかよ」


 ここから見る月はいっそう光り輝き手を

伸ばせば届きそうだ。とはさっき言ったかな?

そうだとしてもこう手を伸ばしても届かない

なんとも変な感覚に魅入られている。


(デリトーはどう思う)

(ええ、何度この月を見たことかわかりませんが

 やはりマスターと見る景色というのはどこか

 珍しくも気品のあるものに……)

(御託はいい。自分で見てどうだってことだ)

(でしたらやはり満月のほうが悪魔の私から

 してみても艶美なものに感じ取れますが、

 こういう欠けた月というのも趣がありますねぇ)


 ちゃらんぽらんなイメージがある割に

意外といいセリフを言えるんだなお前。


(マスター? 何か失礼なことを思って

 ませんか?)

(まっさかぁー、月がきれいですね

 って思ってただけだよ)

(ほほう。それは誰に向けての愛の言葉

 なのでしょうか!)

(お前もそのネタ知ってるのかよ!)


 そんな夏目漱石のその解釈って悪魔の

中でも有名なの? 日本文化を知ってもらう

いい機会だからこれはこれでいいか。


「お”い! きいてんのかよ!」


(マスター、綺麗なことを日本語でなんと

 答えれば)

(あれ? さっきキレイって言ってただろ)

(あれが日本語で綺麗という意味なのですか)

(んんん、なんかややこしいな……)

(では同じ回答はしないほうがよろしい

 でしょう。ほかの言葉がありますので

 そちらを)


 ”プレシア”は月を見上げて言う


「ムシャブルイガスル」


 ……


 義堂は何がツボに入ったのかわからないが

カカッっと笑った。”プレシア”もこれを本当の

意味を分かって言っていないし、そのままの

意味で通用されたのかもしれないし、あるいは

俺の考えた意味合いで言っているかもしれない。


 やはり今度から正しい日本語をこいつらに

覚えさせないといけないかもな。


 ____________


「ボスー! プレシア殿ー!! 吾輩なんと

 さっきのさっきまで走りまくった結果、

 魔力を出さずに走れるようになったでs

 ……ってあれ?? おーいボスー??

 プレシア殿ーー?? どこいっt」


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