89.姉と会おう
「なんであんたらがこんなとこに」
「いやぁ、そんな今日神社にいるとなれば
理由なんて初詣ぐらいしかないでしょう?
他に何かありますか」
「ひやかし」
「……」
生徒会長は黙った。俺はそれを弁解しよう
かと思ったが、俺も同様黙った。初詣も
ひやかしも大当たりだしな。
「じゃなくて、んな場所にいることを聞きたい。
あんたら知ってる? ここ犬小屋よ? いや
犬にご利益があるってのはよく聞くけど、正直
ただの犬無勢よ」
「巫女がそんなこと言うなよ……」
「ならなんだ? 迷ったのか? 本堂はここから
こっちの道を通って……」
「違う違う。ただ人ごみに疲れたからここに避難
してるだけだ。だからここなら人いないだろ
ってことで」
「あぁ、なんだそんな理由か」
「人」は好きではあるが、それが過度になると
やはり気持ちの悪いものに感じる。蝶もひらひらと
花びらを飛ぶ様子は美しいが、何万匹と集まれば
それは厄災と解される。それと同じだ。
「いやいや逆になんで三好さんがここにいr……」
「神前君、それはさっきいってたでしょ。そんなの
聞くなんて意味ないでしょ」
「え?」
あれ、そんなこと言ってたか? 残念だが俺の
脳内にはそんな記憶は一切ないが……
「僕たち見たときになんて言ってた?」
「え」
えーっとだな、確か”見つかった”とか何とか。
「見つかったってことは、隠れてたってこと。
それでこの状況で隠れる理由なんて三好さんの
性格から考えて一つしかないよ」
「…………
サボリ?」
「そうだ悪いか?」
「悪いよ」
600字使ってこんな程度の理由かよ。
何、ナンバーツーがボイコットしてるんだよ。
「毎年毎年、あん爺にとっつかまって色々
やるのが面倒ったらありゃしないんだよ。
ちったぁ理解しろ」
「理解したくないわ」
「それで今年から、小恋が私の仕事の半分を
やってくれるっつーから私は、隙をみて
逃げていまにいたるっつーことだ」
「で、俺たちが来たときにバレたと思ったと」
「ここん鍵持ってるのうちの者しかいないからな。
……って、あんたらここどうやって開けたんだ?」
……
「開いてました」
「え!? マジで!!?」
生徒会長の所業を隠すように発言したが、
生徒会長ぐらいなら捨ててもいいとは思う。
けど、色々な物事を隠し事として扱うのは
大事なものさ。
「っていうか、三好さんなら小恋って今どこに
いるか知ってるんじゃ……」
「ああ、知ってるよ。でも会えるかどうかは
わからないけどな。今、バカ妹は本殿でなんか
いつもの儀式みたいのやってるわ。除夜の鐘を
鳴らす手伝いだったりだな。ま、あんたら一般人は
いけないから今は会えないってことだな」
「そうか」
まぁ、予想してた通りだが。
「だからもうちょっと待てば会えるから、まぁ
気を長くして待ってろってことだ」
「ん? 仕事が終わるってことか」
「いや、本殿の仕事が終わるってだけでまだまだ
仕事はあるよ。そうだな、例えばおみくじの
巫女の手伝いとかか? まぁ、そうなりゃ
会えるからゆっくり待ってることだな。
ここまで教えたんだから、爺にここに
いること言うんじゃねぇぞ」
「言いませんよ」
そんなめんどくさい。けどもしかしたら
この人がいたらミコの仕事が早く終わって
こんなに待たずに会えるのであれば、話は
別だ。だが仕事の内容を聞いたところ、そんな
わけでもなさそうだしなぁ。俺はとっとと会って
CDTVを見なくてはならないのだから。
「あ、そうだ。これ他の人たちに渡して
ほしいんですが」
「あぁ、東京土産か。私、ほとんど自分用に
買っちまったから金なくて買えなかったんだ。
気が回るじゃないか」
「いえいえ、お気になさらず(ニコォ」
「お前、なんか考えてそうで気持ち悪ぃな……」
お土産で買われた人がここにいますから。
俺だってそう思うよ。なんかなぁ……生徒会長の
笑いってどこか裏がありそうなんだよね。
「そんじゃ、ありがたく受けとっておくわ。
これありゃあの爺もうるさくならないだろ」
「さすがに僕からのお土産をエサにしないで
いただきたいですが」
っていうかちゃっかり、お土産をあたかも
自分が買いましたと言い張るつもりだぞ。
そこは生徒会長はツッコまないんだな。俺は
なんでやと言ってるところだけど。
「ただひとつ聞きたいことがあるので……」
「彼氏いるのって聞いたら殺すぞ」
「いえ、そんなことは分かりきってるので
野暮ですから聞きませんよ。
確かうちにネズミの死骸があったのは
聞いてますか?」
「確か前にそんなことバカ妹が言ってたが
それがどうかしたか?」
「それって見せてもらえます?」
「えー、アンタそんな趣味あんの?」
「いや、そういうわけでは」
「けど、そのお探しものはないかな。
そんな死体ほったらかす神社なんて
あってたまるかよ。それにその死骸
ってのも箱ん中にあったようだけど、
開けたら消えてたらしいぜ。神前お前が
片付けたとも聞いてたし、聞くなら
そこのお隣さんに聞くんだな」
それは至極当然だ。その死骸は俺が
現在進行形で管理し、新たに"ノーティ"と
名付けられた悪魔となっている。確か前に
ミコが生徒会への報告に一人で向かった
ことがあったが、その時に口を滑らせたの
だろう。そして正直言うと、生徒会に
この件はバレたくはなかった。別にバレて
何があるということではないのだが、
生徒会のメンバーは実に"勘が鋭い"。
これだけで何かあると断言付けるのはさすがに
傲慢ではあるが少しでも俺についての
変な情報を知られてほしくない。俺が悪魔で
あるのもそうだが、そういう”中二”チックな
ことに興味があることをあまり掘り下げて
ほしくないこともあるからね。
「これだけ聞ければ十分ですよ」
「そろそろ戻ったほうがいいぞ。もうちとで
年が明けるっつって、わいわいガヤガヤ
暴れだす人増えるからな」
「そうですね。ありがとうございます」
「なーに、アタシの代わりに土産用意して
くれたんだ。こんくらいどーってことよ」
「はい、それでは」
まぁ、予想がついていると思うがその道中
生徒会長からその件について少し質問された。
「それにしても神前君がそんなことしてたとは
僕も知らなかったな」
「ミコ、そのこと言ってなかったんか……」
「いや、言えばちゃんといってくれたと思うけど
僕がそのときあまり興味を持てなかったのが
大きいだけだよ。
さて、肝心の真面目パートに入ろうか。
神前君、そのネズミってどこに埋めた、
あるいはしまいこんだんだい?」
「ミコンにしまった」
なんて言えるはずがない。だからといって
うかつに「○○に埋めた」と言ってもそれが
大嘘と気づかれては元も子もない。さっきも
言ったがこの人は行動力だけはあるし、場所さえ
聞ければその場所へ直行しかねない。
……いや待てよ? そういえば……
「墓地に埋めました」
「ここの神社の墓地に?」
「いえ、ここじゃなくて別の神社のですよ。
この町ってここ以外にも神社がありますから
そこの直属の墓地に埋めましたよ。ただ
もうあの時は暗くて何も見えなかったんで
”どこに”埋めたまではわかりませんが。」
「あぁ、そうなんだ…… それは残念。墓地に
埋めたならさすがに掘り起こすなんて
罰当たりなことできないなぁ……」
本当に神社はある。こことは宗派は違うし
ここよりも有名ではないから一足は少なそうだが、
実際にある。俺もこの町に住んで30年も経つし
そういう土地関連についてはそこらの高校生
以上に詳しい。俺はそこに赴いたことはないが
確か銅栄高校から結構近かった気がする……
とりあえず、生徒会長にツッコミで
オブラートに包みながら話題をそらさなくては。
「それはそうと掘り起こそうとしてたの!?」
「うん」
「俺よりもそれ危ない人っぽいけども……」
「いやー、最初はどうでもよかったけどよくよく
考えてみたら少し気になったからさ」
「気になったこと?」
「あのさ、その死骸の特徴って覚えてる?
それさえわかればいいんだけど」
死骸の特徴……?
なぜそんなものが大事なんだ? この生徒会長
やることなすこと色々怖いんですけども……
だが、それさえわかれば行動に移さないとも
言っていたし、ここは俺の記憶をさかのぼって
教えればリスク解消につながるだろう。と言っても
死骸の様子ではなく、わが眷属”ノーティ”の
容姿を思い出すだけだが。
「死骸はかなり小さかった覚えがあります。
まぁ箱に入るサイズですからね。あと特徴は……」
「歯は?」
「歯? ふつーですよ。出っ歯じゃないって意味で」
「あぁ、やっぱりね」
「?」
やっぱり? 何か思い当たる節が……? あるいは
その箱に入れた張本人が本人だったとかか?
「ハツカネズミ(1)」
「ハツカネズミ?」
急に学名なんてどういうことだ? それと
最後の(1)ってどういう意味なんだ?
「そのネズミの名前だよ。成獣は頭胴長が57~91mm、
尾長が42~80mm。また体重は約10~25g。
体色は変異に富み、白色、灰色、褐色や黒色となり、
短毛で腹側は淡い。耳と尾は非常に短い毛に覆われて、
後足はアカネズミ属にくらべ短く15~19mmほど。
走るときの歩幅は約4.5cmで、最大45cmまで
ジャンプすることができる。糞は黒色で長径4~6mm、
短径1~3mmでかび臭い。鳴き声は甲高いネズミだよ」
「……どこ引用しました?」
「WIKI」
「だとおもったよ」
完全コピーしただろおい。だめだよそれ。
引用するならちゃんと学術的に使えるように
処置をしないと。
「参考資料1https://ja.wikipedia.org/wiki/
%E3%83%8F%E3%83%84%E3%82%AB
%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F
これでいい?」
「そうだけど、そうじゃねーよ!」
さっきのセリフに(1)ってついてたのこれか!
「で、それがどうしたんですか」
「ごめんごめん、うちの学校でネズミなんて
見たことすらないからさ、なんでネズミが
いたのかなと」
「それでその……名前って大事なのk」
「大事なのは生息地だよ。ハツカネズミは大抵
草地、田畑、河原、土手、荒れ地、砂丘などを
はじめ、家屋や商業施設の周辺などの様々な
環境に生息しているんだ。これもWIKI情報に
なるんだけどね…… それでさ神前君、これを
聞いておかしなことはないかい?」
「おかしなこと?」
俺はそこで思いつかない以前に、考えること
すらできなかった。それも生徒会長が俺の意見を
聞く前に再び話し出したからなのだが。
「うちの学校の近くに草地、田畑、河原、土手、
荒れ地、砂丘なんてないでしょ? それに
さっきも言ったけど、僕は学校の中でネズミ
なんて見たこともないし、家屋にいるって
こともない。
でもいた。いたんだよ。
てことは、僕たちが知らない場所でネズミが
繁殖しているってことだよね?」
「ま、まぁそうなりますが……
あっ……」
「おっ? 僕の言いたいことがわかったかな?」
「校庭のなぞの地下施設?」
「そーゆーこと。だから本当に都市伝説だったり
じゃなくてガチモンでうちの学校に地下施設が
あるかもしれないって証拠が出たってこと。
ど? 理解した?」
なるほどね。俺もこの学校七不思議だけは
信じていなかった。だからこそ今まで俺たちは
校庭を探索するなんてことはしなかったし、
何の情報もなくただただ捜し歩くのも無謀の
一言に尽きるからこそ、俺はこれだけは後に
まわそうかと思っていたのだ。だが、生徒会長の
この考えが正しいならば本当にこの七不思議は
実在する。
「まぁまぁ、それはそうと早く戻らないと
年が明けちゃうよ? ほら行った行った!」
「はいはい、わかりました」
「どう? 僕も意外と考えてるんだよー?」
「ええそんなこと言わなくてもわかってますよ」
時計は11時55分を指している。
明日まで5分。来年まで5分だ。




