88.お詣りしよう
こんなどうでもいい生徒会長の
メリーさんごっこと初詣に向かうだけの
簡単単純な話だけで丸ごと1話も使って
しまった。もっとスパッと端的に
書ければいいのだが、またしても
言い訳をするのであれば、この小説は
作者の処女作なのだ。ここら辺は多目に
見てほしい。そのため、そこの読者諸君は
決して「かさましでしょ?」なんてことは
考えないでくれ!
「それはそうと神前君、もうそろそろ
めでたく100話になりそうだけども
まっっったく、本来の「異能部」の目的
"学校七不思議の解決"が進んでいない件に
ついて何か言いたいことがないかい?」
「俺たちが発足して半年も経過してない
から時間軸的にはまだまだ余裕あるから
問題ないです。まだ2年生編もあるんで
全然、解決できますって」
「メタ発言に躊躇なくなったね、神前君」
ミコにしろ生徒会長にしろ、今までの
発言をぶっ続けでされたら、そこら辺の
感覚がマヒしてる。いつか治さないとな。
もう手遅れな気がしないでもないけど。
閑話休題
「うわ、さすがに境内は人だかりがすごいな」
「そうだね、初詣といえばこの神社! って
わけじゃないんだけどね本当は。でも神社が
ここ以外によく知らないからみんなここに
来るだけだったはず」
この神社は「町の住人ならだれでも来れる」程
ローカルではかなりの有名どころだ。一応、ここ
以外にも町にはまだ神社はあるのだが、その中でも
一番知っていて、一番効果がありそうな場所と
なれば、ここしかなかろう。だとしても今まで
ミコや剛隆おじいちゃんだったりの数人程度で
しかも知り合いばかりがいるところしか見ていない
ため、こんなにぎやかな御前神宮はあまり見ない。
いや、俺が悪魔になる前はここに初詣に
ちゃんと来ていたし、そうなることは承知だ。
だがそれも20年近くも昔の話だ。覚えても
いないし、ましては記憶にとどめておく必要が
なかった。
「とりあえず、おみくじでも引きますか」
「僕、大吉がいいから大吉交換当たったら
交換してほしいな」
「カードゲームかよ」
そんなこすいやり方で手に入れた大吉には
本来の大吉としての価値はあるのか…… 俺に
それは愚問も甚だしい。大吉以前に神から授かる
ものは滅びなのだ。大大大凶にしかならん。
が、あくまでゲーム性のあるものとして見れば
いたって面白いものではあるが、それこそ
おみくじの目的を失う。まぁいいや、どーせ
これでよくなったり悪くなったりはしないだろう。
「というか目的の人物が見当たらない気が……」
「そうだね、確かに巫女さんはたくさん見当たる
けど”目的の巫女さん”ではないよね」
「休憩時間中ってことかな」
「多分、裏方でもやってるんじゃない?」
おみくじ売り場を担当している巫女の中に
ミコの姿はない。こういう売り場の巫女は確か
バイトの子たちで補うなんてことがあるって
聞くぐらいだし、まさかこの神社の住人がそれを
人で足らずとやる必要もないか。だとしたら
本当に前に聞いた、普通の人じゃ入れない本堂で
何かしらの作業をこなしていると考えるのが
妥当というものだな。あるいは人ごみに紛れて
見当たらないのか……
「もう本人に聞けば……」
「いやいや今回の目的を忘れたの? 御前さんを
ひやかしに来たんだから「もしもし、これから
ひやかしに行くよ」って言う訳にはいかない
でしょ」
「あ、そうか」
やはり自力で探すしかないか。まぁ、ひやかし
なんて正直のとこ最悪できなくてもいいやって
思っている。だって俺、生徒会長におみやげで
釣られただけだよ? そんなことしなくても
別にって感じだし。
だとしてもこの人の量は少しばかり俺には
気分が悪くなるな。人ごみに弱いとなると嘘に
なるがそれも度合いによる。ここ数年、こんな
人の量がごった返している場所になんて来たこと
すらないから体に耐性がなくなってしまったの
かもしれないが。
すまないが生徒会長に頼んでこの場を
離れよう。それにこんな人がいる場所では
探せるものも探せない。一旦ここは引いて
一息がてら作戦会議でもしようか。
「生徒会長、ちょっとここから離れて少し
休みませんか?」
「”いいこと”はしないよ」
「そんな発想になるか! 人ごみが嫌だ
ってこともそうだし、山登った後で疲労的に
休みたいってのもあるんで」
「あーそうだね。ならどこか誰も人のこない
場所とかに行こうか」
「その言い方やめてくれ」
「冗談だって。神前君の方がなんかこの神社に
ついて詳しそうだから……」
「えぇ、そんな人の来なそうな場所って……」
住居にはさすがに今回ばかしは不法侵入を
するわけにはいかないし、神社の本堂だったりは
それこそ人があふれかえっている。あと他に
考えられる場所は墓地ぐらいしかないが、そこじゃ
体は休まると思うが心が休まらんわ。
「え、そんな場所は俺に想像は
……あ、一か所あるな……」
「じゃあそこに行こうか」
「ええ、人は確かにいません。”人”は」
「なんでそんなに強調するの!? 人外の
何者かがいるのそこに!!?」
「まぁ、大方合ってます。いるのは”犬”です」
「犬? ドックのイヌ?」
「ええ、大に`を付けた”犬”です」
で、俺たちは家に来た。
犬の
「ここって……」
「なんかこの神社でわんさか飼ってる犬を
ここにまとめて住ませてるらしい。それで
ここなら別に誰か来るわけないだろうと」
「なんでこんな家があるんだろ」
「余ったんじゃないすか?」
噂によると前はまだまだ僧侶だったり巫女が
ここに在籍していたようで、その時にでも
住居の増築という名目で作ったんだろう。これは
完全に俺の想像だが、本当はどうなのかなんて
聞かなければわからないさ。もしかしたらガチで
犬のためだけに作ったかもしれないしね。
俺たちはその家の中には入らない。鍵が
かかっていたというのもあるが、別に中に
入る必要性がないというのが正しい。目的が
犬と戯れるわけでもないし、こんな時間だと
犬だっておねんねの時間だろう。
「はい、どーぞ」
「……? なんすかこれ」
「あげイモ。さっき出店があったからそこで
買ってきたんだ。他にも色々ありそうだけど
神前君って確か大学イモが好きだった気がした
からこれでいいかなと」
「あぁ、ありがとうございま……す……?」
ここに来る前に道中ではお祭りの出店みたいな
ものが点々と並んでいた。そこもかなりの人が
並んでいたし、まさか生徒会長が買うだなんて
思っていない。いつ買ってきたんだ、この人。
そして大学イモが好きなのは言ってあると思うが、
同様にイモ関係のお菓子や惣菜も好きだ。
マクドナ〇ドでは無論、ご一緒にポテトを
お付けして食べる。
ってあれ!? なんで生徒会長が俺の
好みを知ってるんだ!? あの時、生徒会長
いなかったよな!?
「あ、うまいなこれ」
「時々食べるとおいしく感じるよね」
遠くからガヤガヤと声がする。急にどうしたんだ
と思ったが、そのあとにその理由が分かった。
ゴーンと鈍い音が境内の中に響いた。
「除夜の鐘、鳴りだしたね」
「108鳴ったらもう年が明けるんすね」
「やっぱり年を取ると、一年も短く感じるよ」
「生徒会長まだ俺の一つ上でしょうが」
といっても俺は生徒会長の予想をはるかに
越えて年を食っている。そんなことを言わずとも
一年が短く感じるのは身に染みて理解してるよ。
「まぁまぁ、僕だってこう見えて徒労ばっかの
生活だからねぇ……
……?」
「どうしたんすか」
「……誰かいる。声がした」
「え」
ここには俺たち以外に人はいない。俺にはその
声というのは聞き取れなかった。聞き取れない
ぐらいその声が小さかったわけじゃなく、単に
俺が”声を聞く”ことを意識してなかっただけだ。
だが生徒会長は聞こえていた。が、ここから
声が聞こえるなんてことはあるのか……? 俺は
暗いからこそ周りの様子がくっきりとわかるが
人らしい影は一切見当たらない。
「誰かいる?」
「うん、小さいけど声が聞こえたんだ。でも
わかってると思うけどこんな場所で人の声が
するわけなんてないからね」
「……なら……」
「いやいや全部が全部、幽霊だったりのせいな
わけがないよ。もっと常識的に考えて」
「あ、あぁ、そうですね」
いけないいけない。俺がこういう事象には
よく出会うから、安直に”そう”考えすぎた。
それに相手は生徒会長、食えないキャラである
生徒会長なのだ。どんなに親しい仲でも俺が
へまをして俺の正体が露見してしまっては
ならない。これからは注意していかなくては。
「ならその声……って俺は聞いてないけど。
それって誰なんだ?」
「うーん、”誰か”はわからないけど”どこか”は
わかってるけどね」
「え?」
「そりゃよく考えてみてよ。ここは誰もいない
なのに声が聞こえる。ということはどこかに
隠れてるってことだよ。なら、ここの近くで
隠れれる場所なんて一か所しかないよ」
「……あぁ、なるほど」
ふつうに考えればそうだな。俺が視認できない
時点でもう察してもよかったのだが、俺が
鈍かっただけあって気が付かなかったし、気にも
していなかった。というかこれしか考えようが
無いはずだよな。
「家の中に?」
「誰かは微かな声だけだからわからないけれど
中に誰かがいるのは確かだよ」
でもなんで犬小屋の中に人が? それに鍵が
かかっていて入れないはずだ。
「じゃあ家の中でも覗いてみようか? そしたら
悩みの種も解決するしょ」
「だから家には鍵g」
カチャン
「ほら、針金使えば開けれるよ」
「何してんすか」
「picking」
「発音よく言わなくていい!!」
ほんと無駄なところもハイスペックだよな
この野郎は。もっとほかに使えるスキルが
あるだろうに。
「はいっ、オープン! 観念しなさいっ!」
「げっ!! もう見つかっt……あぁ?
お前ら、なんでここにいんだよ」
「あ、やっぱりね。クリスマスぶりです
お姉さん」
「とりあえず、そこ閉めろお前!」
そこにいたのはミコのそっくりさん、
と表現してはならない。あくまでこの人
こそ元祖ミコであり、この神社の二番手
御前 三好だ。




