86.話をまとめよう
さて、いつものまとめパートなのだが
これまた全くといっていいほどまとまった
内容ではない。それも今も御前神宮で
俺とマヤと愛ちゃん、そして今日まで
東京に行っていたコミケ組でクリスマスの
夜を飲んだり食ったりして楽しんでいる
のだ。そんな今日は楽しかったなー
チャンチャンと話を締めるわけにもいくまい。
まぁ、とりあえず事の終わりについて
話そうか。
ひとまず、前回に触れさえしなかった
人物について触れておこう。それは東京から
帰ったそうそう、グロッキーなのか疲れ
なのかは知らないが、その場でグースカと
眠りこけた”優しき不良”こと義堂だ。
一応、晩飯は眠い顔をこすりながら
食べてはいたが、いきなり充電が切れた
ようにそのまま横になって寝たため、
俺やマヤ、そしてミコとの対話をする
前から話の範疇の外にいた。が、夜も
遅くなるにつれ、さすがにこのまま
いるのはと思い、寝ている義堂に一言
「帰らないのか?」と聞いた。
「あ”?」
「怖いからやめろそれ」
眠れる獅子を起こした気分だ。だが、
前みたいに俺たちに何かするわけでもない
から、このまま泊まるなんてことは
礼儀に反する。もちろん、ミコは泊まっても
オーケーといってはいたのだが、義堂を
含め生徒会長も長旅の疲れが残っている。
だから、義堂も生徒会長も時間を見て
そろそろ帰ろうと思っていた。そして俺も
それに便乗して帰ることに。
「義堂君もおつかれだし、僕たちはそろそろ
おいとまするよ。今日はありがとね。それと
マヤはどうするんだい?」
「私は、ミコちゃんの言うとおりここに
泊まってくことにするわ。そう親にも
言っちゃったし」
「そう、気をつけてね。それじゃいい年を」
「おつかれさまでーs……え? なんで
気をつけて?」
マヤはまだミコ姉を優しいお姉さんみたいな
見方をしている。その考えがこの一日で
変わることを俺を含め、生徒会長は望む。
そうじゃないとあの人は調子に乗るからな。
乗った結果が義堂と生徒会長の”アレ”だ。
俺たちはひとまず、御前神宮から出た。
生徒会長は義堂の肩を持っている。が、
義堂は「んなことすんな」といってすぐに
その肩をはずした。
ここからの帰りの手段は正直、タクシー
ぐらいしか思いつかないし、生徒会長は
それを見越して一足お先にタクシーを
呼んでおいてくれていた。なんて準備のいい
人なのだろうか。
ちなみに帰るときに、おじいちゃんが
自分が送ると言い出したので、俺はそれを
維持でも断っておいた。理由はわかると思うが
それ以前にこの人はもう酒を引っ掛けている。
運転なんてさせるわけにもいかない。
ここからは別に何の事件性もなく帰って
話が終わる。タクシーは最寄の駅で泊まり、
その代金は生徒会長が経費で落とした。
「……経費?」
「もちろん生徒会のだよ」
「アウトー!」
ということで俺だけはタクシー代の
割り勘分の料金を支払った。俺は悪魔で
そういう世俗的なことはしないのが
普通だが、半分残った人間性が俺をそう
させた。
そして、そのまま解散し俺は無事
家路についた。今日はひたすらに歩いた
日だったな。学校から街まで往復し、
街から学校の近くまでまた出歩いた。
これじゃ、いくら足があっても疲れが
取れないったらありゃしないな。
今もマヤは御前神宮でドンチャン楽しく
過ごしているのだろうか? 時間はもう
そろそろ日を回りそうだし、時間的にも
騒ぐのは失礼だしもうパーティーは
切り上げて、寝る準備でもしているかもな。
まぁ、俺にとってはまったく関係のない
話だな。まさか俺とミコが騙した生徒会の
幹部があんな性格で、アレほどまでに
ストイックだとは思っていなかっただけ
あってあの食卓での光景はもう見られない
かもしれない。それも俺にとっては
まったく関係ない話だ。俺が気にしたところで
何があるわけでもない。
と、こんな具合で俺の「聖夜」の
話を終えることにしようk……
……?
ミコンが呼んでいる? いや、無論ミコンが
”おーい”だなんて叫んだりするわけもなく、
そうだとして、テレパシーか何かで呼んでいる
と感じるということでもない。ただ、なんとなく
そう感じたのだ。
「*****************」
「具現召喚:リア」
「マスター! どこにいたんですか!?」
「? そんな俺がいなくて困ったことでも
あったのか?」
「いえ、その話については”ヴィーハ”が」
「え? ”ヴィーハ”が?」
俺は再びミコンを握りなおす。今までも
こんな風に呼ばれたことがあるが、どうも
この呼ばれるという感覚は俺の近くに
ミコンがないと発動しないらしいな。
今までミコンと離れて過ごしたこと自体が
なかったかた気がつかなかったな。
「*******************」
「具現召喚:ヴィーハ」
「マスターマスターマスターマスター!!
今日は何の日だと思って勝手に出歩いて
たのさ!!」
「え? そりゃ今日はクリス……」
「そう!! 今日は忌まわしきクリスマス!!
今日は「聖者の日」なのよ! ならば
マスターも一緒にこの日にこそ人間に
報復の一矢を報いようじゃないか!!」
あー、そういえば”ヴィーハ”はいつも
この時期になるとうるさかったな。
「ほらマスター! 今は夜でしかも満月!
絶好の悪魔の力の使い時! だから街に……」
「いや、もう今日は疲れたからいいわ」
「えぇえ!?? そんなぁ、マスターだって
いつもは「リア充ウゼーw」って言いながら
私たちと街に言ってるじゃん!!」
「チラッと俺の前の過ちを晒すな!」
やめて! あの頃はまあ俺も若かったんだ!
「それともう少しでクリスマスが終わるから
それももう意味を成さないだろ。だから
もう今日は休ませてくれないか?」
「……ちぇー、いいよー。わがまま言って
ごめんねマスター、なんか最近マスターって
私たちのこと気にしてないみたいで……」
「そんなことない。たまたまそうなだけだ」
たまたま……か……
これからもそうなのだろうか。今の俺の
生活は変貌に変貌を重ね、自分でもわけが
わからないほど充実してしまった。眷属を
こんな具合に見てやれることも少なくなり
がちなのは”ヴィーハ”の言うとおり確かだ。
……そうだな、今日はクリスマスだ。
「そうだな、よし”ヴィーハ”街に行くか」
「え! まさか本当に人間に報復を!?」
「いやいや違う違う。ただちょっと街で
やり残したことがあったから、それを
やりにいくだけだよ」
「え? やりたいこと?」
「”リア”、”ゲイジー”を呼べるか?」
「あの子は寝てますけど、起こします?」
「また寝てんのかよ! ……はぁ、別に
起こさなくていいよ。力が必要って
わけじゃないから」
「それでマスターは何をしたいの?」
「プレゼント」
「プレゼント?」
_______________
日をまたいだ次の日、12月26日の
夜0時に俺の街は”ある”現象が起こった。
といってもそんなに深刻なものでもない。
起こったのは”降雪”だ。
それもハラハラと少ない量の、気象予報に
予測できなかっただけのほんの少ない量の。
そして街は、一日遅れのホワイトクリスマスを
迎えることとなった。その光景には街を歩く
人たちも立ち止まり、上を見上げ感嘆の声を
あげるほどに美しかった。雲はあるが満月も
くっきりと見えて、本来は不思議な光景では
あったがそれはそれで幻想的ではある。
街は雪で彩られ街灯の黄色い光と合わさって
まぶしくも感じられる。街の人は夜遅くでも
外に出て、その光景を楽しんだ。中には電話を
出して、写真を撮る人だって見えた。
「そんでマスター、こん程度でいいすか?」
「あぁ、急に呼んで悪いな”レイニー”」
「いいんすよ、別に」
”レイニー(英語:RAINY)”
雨。この一言に尽きる有名な英単語のひとつだ。
かつては「雨」というと土壌の恵みであったりと
ありがたいものであるが、ここ最近だと雨は
うっとおしく邪魔な存在と昇華したことで、
”レイニー”も悪魔として具現化したのだが、
これは別にどうでもいい話だ。”レイニー”は
そのとおりなのだが雨を降らせる悪魔だ。
だが今日みたいな寒い日だと、その雨は凍り
地面に着くころには雨は雪になっている。
今回は大雪にならない程度に降らせてくれと
頼んでおいたが、どうやら程よく降らせて
くれたようだな。
「ちょっ、マスターこれって何?」
「これはな人間の言葉で”ホワイトクリスマス”
といって、雪でクリスマスを彩ったときに
言うものなんだ。どうだきれいだろ?」
「わーきれー、じゃなくって! これって
人間に報復してないよね!?」
「いいんだよ、
それに今日は「聖者の日」である前に
「生者の日」だろ。なら俺みたいなやつは
何もしないのがいいんだよ。悪魔だって
休みってのは必要だよ」
「え、エー……」
「本当は悪魔みんなで見たかったんだが、
お前らだけでも見せたかったんだ」
俺はミコンをパタンと閉じた。
「メリークリスマス
悪魔の俺からのクリスマスプレゼントだ
人間たちへのね」




