85.神社へ帰ろう
「ったく、遅いじゃないk」
「「メリィー!! クリスマァーッス!!」」
「は?」
俺たちはマヤの執事に乗せられ、御前神宮に
たどり着くことができた。途中、何かの
獣の声が聞こえた気がしたが気にしない
ことにして事なきを得た。
何も起きもしてないけど。
「そんでお前さんがその友達っちゅー子か」
「まやちゃんで、わたしのじょーし」
「上司って」
上司っていいかたは違う気がするが、
愛ちゃんにとってマヤも俺も年上だし
ある意味当たっているのか……なぁ?
俺はツイッタでおじいちゃんに先に
一人友達がそっちに行く旨を伝えてある。
どうやら俺からの連絡に気がついたようだな。
「それはそうと、なんじゃそん格好は」
「えぇ、今日はクリスマスだからといって
三人ともサンタクロースですよ」
「おじいちゃん、これがサンタクローズ」
「それだとイメージガタ落ちだから
ちゃんといいなさい」
「サンタ苦労する」というのは有名な
ねたではあるが、サンタ服のクローズって
まったくインパクトがないな。いや、
スピンオフとしてみれば案外ありなのか?
そんな話はどうでもいい。
「それで、頼んでたもんは」
「はいどうぞ、メリークリスマス!」
「めりーくりすます!」
「そりゃ言わんといかんのか?」
いえ、マヤが勝手に言ってるだけです。
愛ちゃんもそれに合わせるように言う。あー
ロリコンになるんじゃぁあー。
「ってあれ? ほかの家族の方は?」
「急に葬式が入ってもうて、今はそん準備だ
言うて外に出とるよ。こいつぁしゃーない
もんやからなぁ。それにお前さんらも
食ってけや」
「あ、ありがとうございます」
神宮内を歩くとどこかいつも以上に
静か過ぎたのだ。葬式というのはいつやるか
わからないものだから仕方がないとはいえ、
俺にはもうひとつ、気になったことがある。
「じゃあこの10人分の食い物とかは……」
「……どうしよっかのぉ」
「どうしようかじゃないでしょ!」
どうしよっかのぉ、じゃねーよ!
仮に俺たちが気合入れて食べたとしても
けっこう残るよこれだけの量は!?
「ま、大丈夫じゃろうな」
「え」
「なに、一時間もせんうちにわかる」
俺はその言葉の意味をわからないまま
居間でご飯を食べることにした。少し
冷めてしまった気もするが、これぐらい
ならぜんぜんおいしくいただけるな。
だとしてもサンタ3人が食卓を囲んで
いる風景はかなりシュールではあった。
で、そんなこんなで一時間後。
家の廊下からどたどたと大きな音を
立てて何かがやってくるのがわかる。
よく耳を済ませたら声も聞こえるな。
「ちょっと! ギドー君起きて!」
「あ”? どこだここ」
あー、聞き覚えのある声だな。それも
いやになるほどに。
ガラガラッ
「たっだいまー!! 今回の腐海は
大量でござったー!!」
「うるさいわぁあ!! 夜はしずかに
せんか、三好!!」
「いやー孫娘のご帰還よー? そんな
剣幕でこっちみないでよーwww」
「けっ、帰って早々こんなんじゃ御前の
名に恥じるわい」
どうやら今日のうちにこっちに帰って
来たんだな、こいつら。確か今日がミコ姉の
本番の日だと聞いていたし、まだまだ
帰ってこないものだと思っていた。
「おじーちゃんただいまー……って、はっ!
愛! そんな愛くるしい姿にしたのは
どこのどいつなんだっ!! まさか
ココがやったの! やるじゃん!」
「俺じゃねーよ…… 後、やるじゃん
って褒めるのかよ!!」
何でほめてるんだよ! それは
ほめる流れじゃなかっただろ。
「ほら、マヤがそれ仕立てたんだよ」
「あ、マヤちゃん。来てたんだ」
「もっと歓迎したれ」
そんなどーでもいいみたいな反応
すんなよ。これでも今回のクリスマス編の
サブヒロインに成り上がったお方だぞ。
「それにしてもマヤちゃんが来るなんて
結構意外だったなー」
「え? そう?」
「だっていつも私たちと仲良くしようと
してるのはわかってるけど、こうやって
家にまで来て遊ぶってことしたこと
なかったから。それに前に遊ぼうって
言った時も断られちゃったし」
「いやいやそりゃ私というか私の家が
忙しかっただけで私が遊びたくないって
ことじゃないから」
「じゃあいつでもうちに来ていいよ! 墓参り
でもいいし、ただ私に会いに来たってだけでも
いいからいつでも私に頼りなさい!」
「え、いいのそんな?」
「別にいいでしょおじーちゃん? 可愛い可愛い
孫の友達をうちに呼んでもいいでしょ???」
「んな老害に媚びる孫が可愛いわけがなかろうが!」
いつもどおりだが、ミコのセリフにはやはり
頼りがいが感じられない。その言葉はマヤに
どう映ったかなんて俺にはもっとわからない。
おじいちゃんのその言い草はひどいけれど
言われ慣れているかのようにミコは振舞う。
え? こんなピリピリした会話してるのか
いつもこの一家は??
「ん? そういえば見ない顔がいるじゃない」
ミコ姉がマヤを見てそうつぶやいた。義堂や
生徒会長はミコ姉と会っているが、マヤは
この人と会うのは初めてか。
「あーっと、あんたって小恋の友達?」
「え、あっ、えーっと、はい、そうです!」
「かかっ! そうてんぱんなって。それで
うちの妹に、萌え要素高めのコスさせたの
ってあんたなんでしょ?」
「え、まぁそうですけど」
(ねぇねぇ小恋、あの子の連絡先とかって
知らない? なんか色々と私の手伝いに
なりそうな気がするから……)
(なんで小声なの)
俺もそれは分からない。それと小声でも
その声なら本人に当然聞かれていると思うが。
「あのー、マヤっつったかあんた? あのさ
よくわからないけど、うちなら別にいつでも
来てくれていいからな! ま、くるときは
何かしらの面白いものでも持ってきてほしい
って思うけど」
「ハードルあげないのお姉ちゃん!」
「冗談だって、あのーそうだね。まぁうちの
バカ妹と仲良くしてくれてるんだ。そりゃ
歓迎しないとな。つーことで、これから
よろしくな私たちのこと」
「え、あ、はい」
「それにしてもそのサンタ服かわいいねぇ^~
どこで買ったのさそれ^~」
さっきまでのセリフだけだったら、まだ
かっこいいだけで終わってたんだけどなぁ……
そこえらへんが残念な部分でもあるし、それが
この一家の血筋の一番痛いところだな。
「これは自分で作りましたよ。妹さんの
着ているのは母の作ったものですが、私が
着ているのは2年前に自分で採寸して作った
ものd」
「うわっ! まぶしっ! そこにしびれる
あこがれるうぅううぅぅぅ!!」
「……」
楽しそうだなミコ姉。ミコはさっきから
愛ちゃんを膝に載せてチキンを貪っている。
貪っているという表現はあまりいい表現
ではないが、本当にそんな食べ方なのだから
そういうしかない。って愛ちゃんとそっくりだな
こうやって二人まじまじと見てると。
「どうしたの? 妹はあげないよ」
「欲しいけどいらねぇよ」
「どっちやねん! それとさ、今日なんてココが
うちに来ているの? マヤちゃんもそうだし
こんな人が今日集まるなんて思っていないよ」
「いや、これは事故だよ事故。俺だって
こんなことになるなんて思ってなかったさ」
「あれ? そうなの? 今日いきなりおじいちゃん
から連絡来て”今日中に帰ってこーい!”って
言われたから私たち、急いで帰ってきたんだよ」
「は?」
「だから本当は今日も東京で遊んでいこうって
話になってたんだけど……おじいちゃんがこう
やってわざわざ連絡送ってまで私たちを呼び
戻すなんて今までなかったから、お姉ちゃんと
”何だ何だ!?”って驚いたものよ」
なんでおじいちゃんがそんなことを?
って、あれ、そういえば……
「小恋、そん話はもういい! 儂ゃなーんも
しとらんし、話を通したんも儂がお前さんらの
勝手を我慢できんくなったからじゃよ」
「……ははーん……おじいちゃん、なんか
企んでたねー……」
「かっ、そんな儂がやるわけなかろう」
「いやぁーおじいちゃんってば、やっぱり
今日はみんなと楽しみたいんだねーwww」
「うるさいわ! 愛が一人ここん残ったんが
可哀想じゃったからd」
「まーたまたー(笑)自分もでしょーそれー??」
「愛ほったらかして遊びん行っとったバカ娘が
何を言う! 愛はその点、おとなしかったノー」
「あ”! 出た! かわいい孫にするおじいちゃんの
猫なで声! ちょっと私も孫だよ!? 私も
かわいいかわいい孫娘だよ!??」
「ふーーーんだ! 15にもなってまだかわいい
なんて言われるなんて思うな! 愛はあんな
高校生にはならんとくれよー」
「愛は私の妹だっ!!」
「愛は儂の孫だっ!!」
ギギギギギギギギギギギ
俺はこの光景をどう見ればよいのか分からない。
一人の子供またいでなんて見苦しい戦いなんだ。
それにしても今回のクリスマスパーティーは
完全にこの老人によって故意的にすることに
やるものだったのか。はぁ、もっとはっきり
言ってくれればよかったものを、こういう人は
これを言うのにも恥が含まれるってことだし
仕方のないことと言われればしかたがない。
そして意外とかわいい一面がおじいちゃんにも
あるということが分かった。というかさっき
から酒をガブガブ飲んでいただけあって
けっこう酔っているだけなんだろう。
俺はこんなクリスマスに他人と集まって
楽しく飲み食いなんてしたことがない。どこかの
監獄から出たばかりで「テレビでしか見たことない」
ものを見たような感情だ。感動というか感傷というか
何とも言えない感覚がこの場には感じられる。
悪魔となった俺にはいらないと思っていたものの
一つであっただけあって、この感情は俺には
少し重すぎた。重すぎて俺の心にズンと衝撃が
走るみたいに響いてくる。
「ん? ココ、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そんなニヤニヤしておいて何でもない
わけがないでしょ? そんなにマヤと愛の
サンタコスが気に入ったの?」
「俺を初手で変態扱いするなよ」
「じゃあなんで?」
「いや、こうやって仲良く卓を囲む
なんてしばらく見てなかったからな……」
「……あ、ごめん聞いてなかった」
「意外と今のセリフ、これからの展開で
重要になるから聞いておけよ!」
「よっ! 久々のメタ発言!」
「余計なお世話だわ。……いや、やっぱ
俺の先のセリフはなかったことにしてくれ」
なかったことにする。そんな虫のいいことは
できないとは思うが、そっちの方がいい。
それよりも気になることが一つ。
「そういえばさ、生徒会長はここに
いないんだけど、もう帰ったのか?」
「え? ここにくるって言ってたけど、あれ?
遅れてくるって言ってた割に遅い気g」
「メリー、クリスマスー
みんなサンタさんの登場だよー。
ってあれ!? もうサンタいるじゃん!」
……プッ。
生徒会長がサンタ服に身を包んで入ってきた。
大きな袋にもさもさのヒゲ、そして真っ赤な
服にを包んだ、生徒会長は完全に”それ”で、
俺たちはただケラケラ笑うしかなかった。




