79.聖夜を過ごそう
「聖夜」
こんな言い方をせずともほとんどの
人がわかってると思うが、これは12月
25日の夜を指し、その日だけは誰もが
イエス・キリストの生誕を祝い、家で
ケーキを食べたり、プレゼントを交換
したりと楽しく過ごす決まりのように
なっている。が、残念ながら日本では
その「イエス・キリスト」の下りは丸無視
されがちだ。というのも日本人の特徴
というのが関係していて、宗教に関して
いえば完全に雑食なのが日本人だ。
そのため、仏教徒が多い日本でも楽しい
行事の一つであるこの日はキリスト教徒
よろしく楽しみに楽しむ習慣なのだ。
ミコのようなガチ仏教関係者は全く
関係ないだろうけれど。ということで
本日はクリスマスで俺たちの学校の
冬休みが始まってから3日がたつ。
そのクリスマスの話の前に一つ
伝えなくてはならないことがあるのだ。
まず、今までのミコカゴの話に出てきた
中で唯一、クリスマスに予定が埋まっている
人物がいたのを知っているだろうか?
そう、東京に飛び立つミコ姉だ。
ミコ姉は事前準備をかね、クリスマス当日に
東京に行かず、俺たちが冬休みに突入した
3日前、つまりは12月23日に一足先に
出発した。しかし、これに反対したのが
剛隆おじいちゃんである。もちろん今までも
否定され続けていたが、それをうまい具合に
振り切って東京行きを決行していたらしい。
しかし、今回だけはどうにもそうそこまで
うまくはいかなかったそう。剛隆おじいちゃんは
東京行きを知ったときに、
「東京行くっちゅーんなら、小恋もつれてけ。
小恋に三好の見張りをさせたるわ」
と言っていて、これにはさすがにミコ姉も
まずいと思った。というのもこの東京行きは
自分のデリケートな部分をさらけ出すことに
なるためできる限り知り合いに気づかれずに
決行したかったのだ。それにもし仮にミコを
連れて行くとなれば、東京ビッグサイトに
言っている間はミコを一人、取り残さなくては
ならず、別に問題一つ起きはしないだろうが、
さすがにこれは「一人の姉貴」としてその
選択はできない。
そこでミコ姉は、ミコ以外にもう一人
保護者を付けることを考えた。
ミコをちゃんと見張ってくれる奴。そして
ミコの無茶ぶりに威圧で食い止めるだけの
肝の据わった知り合い…… というわけで
義堂がミコ姉に呼ばれたのだ。もちろん
連絡先は前の勉強会の時に聞いてあり、
とっくのとっくに交換済みだ。そしてそれに
反対した人物もいる。それが生徒会長だった。
いや、この生徒会長の判断は正しかった。
どんなに真面目でミコの歯止めになる人物で
あっても義堂は”義堂”だ。言ってしまえば、
義堂もミコも根本的には変わらず、義堂も
一体何しでかすか分かったもんじゃない。
そのため生徒会長はその義堂の招集に対し
自分もその見張り役を買って出たのだ。
もちろん義堂・ミコの見張り役としてだ。
それにないだろうが、ミコ姉のデリケートな
部分が露見したとしても生徒会長がいれば
なんとか場を持たせることはできる。
といっても前のミコ姉のモデルになったとき
同様、義堂との接点が単純にほしかった
だけなんだろうな。
というわけで本日、12月25日の朝
ではあるがミコ姉・ミコ・義堂・生徒会長の
4人は東京にいる。昨日、おとといはこの
旅行を”旅行”と思いこませるべく、普通に
浅草や原宿なんかを歩き回ったらしい。
まぁ、ミコ姉にとって本題は今日なのだが……
そしてその本題の間は、義堂・ミコ、そして
生徒会長は別の場所で観光を楽しむそうだ。
これを踏まえて一言いいたい。
……………………………………俺は?????
なんで同じ部活の人、ふたりとも観光
楽しんでいるのに俺だけこんなノケモノ
みたいな扱いなの!? それとなんで
ミコの見張りの候補が義堂だったんだよ!?
そこ俺じゃないの!? そうじゃなかったと
しても同じ部員として東京観光に誘っても
良かったじゃぁん……
俺がそのことに気が付いたのも、ミコと
生徒会長のツイートのおかげなんだがな。
「小恋@巫ッ女ミコ
東京キテル! ビルがめっさたけー!
1日前 13:48」
「夕霧TOMO@king of e-rei
知り合いの保護者として東京にいまーす。
これからの予定は、スカイツリー行って
”彼氏とデートなうにつかっていいよ”用の
写真を撮ることです。ほしい人はDMに
como on me!
1日前 15:22」
このツイート見たときはスマートフォンを
投げつけようと思ったわ。もうちょい俺が
若かったら泣いてたよ? ちなみにこれに
俺は
「コーサキ
鳩サブレか東京バナナ買ってこなきゃ
呪うぞ、おい。おでん缶でも可
1日前 15:58」
とツイートしてある。本当にこれで何も
お土産すらなかったら、30歳前半の
おじさんのガチ泣きがはじまるからね。
仕方なく、家で一人悲しくケーキでも
買って食べてようかと思った矢先に俺に
ある人物からツイッタ内に連絡がきた。
ピロン
「五雨竜
神前君や。家に来てくれ
14:49」
……ん? これ誰だ? 多分俺の本名を
知っていることから、俺の近辺の人物に
なるのだろうが、それ以前にこの人の
名前何て呼ぶんだ……? いや、それこそ
今までの履歴なり、プロフィールから
察する必要があるのだろうが…… こんな
雄々しいニックネームを付けるような人、
俺の周りにいた記憶がない。
さてプロフィールは……
「僧です。霊媒についてはこちらのサイトから
予約してください:htt……」
……僧?
…………………!!!!!??
その時、俺に一筋の電撃が走った。「五」を
「ご」と読み、「雨」を「う」と呼んで、
そして「竜」をそのまま「りゅう」と読んだら
……ごうりゅう……
おじいちゃん!!? ツイッタやってるの!?
おじいちゃん意外とナウいじゃんか! ……
”ナウい”って言葉がすでにナウくないか。
じゃなくてなんで折り入って俺にこんな
ことを言ってきたんだ? それと家に来て
ほしいって何をしようとしてるんだろうか……
今日は冷え込みが激しいからあまり外出を
したくはないのだが、家に引きこもって
ケーキをむさぼるよりかは大分ましか。
仕方ない、コートを着て御前神宮に
行くとするか。山の坂道で転ばなければいいが。
で、無事転ぶことなく御前神宮に到着。
「お、来よったか。まさか本当に来るとはのう。
三好に教えてもらった”ついった”っちゅー
もんはこんな使い方ができるのかい」
「ええ、おはようございます」
やっぱり自分で進んでツイッタを活用している
訳ではないんだな。その割には履歴を見たところ
結構な頻度でつぶやいていた気がするが……
ちなみに剛隆おじいちゃんが使っていた
携帯機器はXperiaだった。なんでミコよりも先に
時代を先取りしたケータイ持ってるんだろう。
閑話休題
「それで、何で俺を呼んだんですか」
「おお、そりゃこいつだよ」
「こいつ?」
そういうと剛隆おじいちゃんは神宮に向かって
手を招く仕草をした。この神宮にだれか
いるのだろう…………かっ!!?
「おはよう!」
「こいつを街まで遊びに連れてやってくれんか?
今日は”くりすます”いう日なんじゃろ?
いつもなら三好や小恋に連れてってもらう
んやが、今年はそうにもいかんくての。
じゃなら今日は”愛”の面倒を見てほしいんよ
頼めるかい?」
「はい! ありがとうございます!!!」
「はぁ?」
おっといけない。つい本音が出てしまった。
「儂はもしもんため、ここを離れれん。じゃから
お前さんら二人で街に遊びに行ってこい。ほら
愛! 挨拶のひとつぐらいせい!」
「よろちく!」
ということで俺はミコの妹の愛ちゃんの
保護者としてクリスマスの街を堪能することと
なった。街までは歩いても走っても、意外と
時間がかかる。それに冬の山道を下るため
かなり危険なことに変わりはない。だから
保護者よろしく愛ちゃんと手をつないで
下りることにしよう。
……あぁ、うん、ダメだ。読者が俺の
イメージ崩壊を起こしかねないため、冷静な
語りを続けていたが、こんな状態で常時
冷静になんて慣れない。なのでここからは
俺の脳内思考をそのまま垂れ流し状態で、
かつ俺のキャラ崩壊のざまを晒すことになる。
それらを見たくない人は7行ほど飛ばして
読んでいただきたい。
では……
うほああああああああああああWWWW
幼女だ幼女だ幼女だ幼女だあああああああ
手ちっちぇええええええよよおおおおおお
たまらんちおおおおおおおおおおおおお
うわああああああああああああああいいい
ありがとおおおおおおイエス・キリスト様
あああああああああああああ!!!!!!
……ふぅ、落ち着いた。
俺は街までの道中の記憶がない。理由は
察しろ。それに道中は滑って転ばないように
緊張した面持ちで歩いていたようで、仲良く
しゃべる機会がなかったというのが正しい。
後は俺が、幼女相手の会話に尋常じゃない程の
緊張を覚えたというのも、正直言うとあながち
間違ってはいない。といってもそこまで俺は
ロリに興味があるない以前に、人自体に興味が
ないから別に話すたびに汗がだくだく流れる
なんてみっともない展開にはなるわけがないさ。
だが、今日はクリスマスだ。みんなが
ジングルジングル言いながら楽しむ一日だ。
ミコや義堂だって、その分東京というここ
ではない別の場所で楽しんでいるならば、
それと同じだけ俺も楽しむしかあるまいさ。
が、前にも街には来た。詳しくは前々回を
読んでくれればいい。しかしクリスマスとなると
街がまるごとクリスマスカラーに染まって綺麗な
ものだな。前に来た時とは比べ物にならない。
ここには長らく住んではいるが、こんなイベントを
やっていることは知っているものの実際に
訪れたのは初めてなもので、いつもの街の風景が
ガラッと変わって新鮮に感じる。
街路樹は前までは雪に覆われて真っ白だった
というのに今日に限ってはその雪が降ろされ、
赤や黄色に輝く装飾が点々とついている。これを
経った一日二日のためにやるとは街の住人も
大変なこった。
「おぉー」
「? 愛ちゃんってここに来るのは初めてなのか?」
「違うよ、去年も去去年もきた」
「去去年って……」
多分、おととしのことを言ってるだろう。
こんな毎年恒例のごとくこの場所に来ているので
あれば別に驚くような光景ではな気がするが……
いや、それは大人の意見であり子供からして
みれば毎年行っていようが毎日行っていようが、
目新しいものには変わりはないってことか。
どんなものに対しても感動できるというのは
愛ちゃんみたいな子供が”今”できる特権
なのかもしれないな。
「はい、これ」
「え、なにこれ? クリスマスプレゼント?」
「ううん、おつかいメモ」
「あぁ、これって名目上”おつかい”に
カテゴライズされるのか。それでこれを
俺に渡してどうするんだ?」
「一緒にさがそー!」
「お、おーー」
ここらへんのノリだとかははミコのをまんま
受け継いでるな。おつかいかぁ…… そうか、
クリスマスだと言っても愛ちゃんを含め
ミコの一族はバリバリの仏教徒か。ならば
クリスマスを祝うなんてことはしないのかも
しれないな。
一応、愛ちゃんだったりの「子供たち」は
”楽しい行事”の一環としてクリスマスを
楽しませているようすではあるが……
「もみの木用の飾り
パーティー用オードブル
10人分
ホールケーキ(ショート・チョコ)
5人分づつ×2」
「え? これ飾るの? 食べるの?」
「おじいちゃんとかみんな」
「いいのかそれ!?」
「日本人だからオーケーって言ってたよ」
「解釈が雑すぎないか?」
それでいいのか、日本人?
いや、それでいいのが日本人。
多分オードブルとかは晩御飯用に家族団らんで
食べるものなのだろう。今は午後3時近くを
回ったところであり、もう少ししたらそこらの
店内が混雑しそうな時間帯でもある。ならば
ちゃちゃっとおつかいを済ませておいた
ほうがいいかもしれない。
「ねぇ、愛ちゃん」
「?」
「いつも買っているお店ってどこかわかる?」
「ううん、いっつもテキトーだって。めについた
おみせでいつもかってた」
「参考にならんな……」
俺のことだからこの街には度々暇つぶしがてら
訪れることはあるものの、何も買う予定がないため
店内に入るまではしたことがめっきりないのだ。
ゆえに、どこの店に何が売っているかなんてのも
イマイチよくわかっていない。ケンタッ〇ーとか、
マクドナ〇ドなんかは有名なだけあってわかる
のだが…… それとこういう食べ物関係とかと
いうのは家によって用意する店が違うことが多い。
だからこそ愛ちゃんに聞いて、どの店で買おうか
決めようとしてたのだが、不発だったか。
「パーティー用、オードブルいかがー?」
近くで売り子が宣伝しながら歩いている。
クリスマスだというのに大変だな。それに
よく見たらあの人女の人だ。クリスマスに
男と過ごさず、こんなバイトじみたことに
身を投じている姿はシンパシーを感じる。
よく見たら、あの売り子にしろ色々な
人たちがバイトでかコスプレでかは定かでは
なくとも、サンタ服で出歩いている。
こんなにサンタは要らないんだけどな、と
ツッコみたくなる風景だった。
「で、どこで買おうか……」
じゃあ、さっきシンパシーを感じた
あの人の店で買うとするか。どーせ愛ちゃんの
言ってた感じ、どこでもいいっぽいし。
それに今頃気が付いたが、どこでもいいから
おじいちゃんは俺にこの”おつかい”という仕事を
頼んだともとらえられるか。
「あそこのお店でいいか?」
「いいよー」
俺は売り子に近づく。
「すいませーん」
「はーい、何かおさが……し……も」
「?」
「……ココ、ここで何してるの……
ってあ、今のダジャレまた使えそう」
「……そのネタは前にミコが披露した
ばかりだから、マヤ」
「ひ、久しぶり」
「お、おう、久しぶり……」




