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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
ぼくらのおしごと
73/446

73.勉強を教えよう

 俺はミコの部屋で勉強会を開くことにした。

ちなみにそのあと、さっきまでいた居間が

義堂と生徒会長の勉強会会場となったらしい。

本当はミコの部屋かどこかでみんなと

やりたかったが、ミコの部屋はやはり男

3人と女1人入るには狭すぎだ。


 と言うことで、義堂と生徒会長は居間。

俺とミコはミコの部屋で勉強を行うことにした。


 そしてその時に気が付けばよかった。

義堂と生徒会長は、今もミコ姉のモデルに

されているかもしれないということを……

今もミコ姉の餌食になり続けているかも

しれないということを……


 まぁ、俺じゃないしいいや。


「それで勉強するわけなんだけど、まずは

 問題集をやろうか。話はそれからだな」

「うん、わかった」


 とりあえず、ミコに予習などをやるなと

言ってあるため事前に、どこを教えるかなんて

わからない。だからまずは問題を解いてから

話を進めることにしようか。


 その間、もちろん俺も勉強に励むさ。

俺だって学生であり、同じようにテストを

受ける人物だ。こういう時間を使って軽く

でも教科書を覗くなりの勉強をやっておかねば。


 とまぁ、ここからは前前前回と同じく

勉強に励む地味な絵面が続くので多少なりとも

省かせてもらう。そんなわけでミコのやっていた

問題集の大方が片付いたところで、俺の出番に

やっとなったわけだ。実に1時間近く、ミコは

俺を放置して問題に取り組んでいたのか……

今まで勉強しなかった人とは思えないな。

頑張れば人間だれでも本気になれる! と

思わされる瞬間だなぁ。


「ココー」

「はいはい、教えてほしいってか」

「うん、ここなんだけど……」

「どれどれ……って三角比? あれ? 前は

 スムーズにできてなかったか?」

「え? そんなスムーズじゃないでしょ」


 三角比って? と言う人に少しだけ説明すると

三角形の角度から色々なものを計ろうっていう

ために使う、公式(?)の一つであり、高校

一年生の数学最大の鬼門と言われている。


 しかし、俺は前に部室でミコに似たような

問題を出しているし、その時はちゃんと数学が

苦手と言っていた割に、ほどほどできていた。

しかしテストまで一週間と切った今になって

ここでつまづくとは。


「三角比かぁ……この分野って教えづらいんだよな。

 サインが何を表して、コサインは何を表している

 とかを教えるのはすっげぇ簡単なんだけど、

 それで何ができるかと言われれば、説明が

 めちゃくちゃだるいんだよな」

「そんな面倒なものを簡単にできていたって

 そんときの私の頭、どうかしてたんじゃない?」


 というか本当にこれについてはどうやって

教えようものか…… 基本的に俺は教える立場に

なったのはここ数日であって、工夫であったり

というのは全くない。先生の話、そのまま説明

してもよいのだが、あいにく俺はその先生が

どうやって教えていたのかなんて覚えていない。

それに、微かな記憶をたどったとしても先生すら

「こういうものだから覚えておいて」みたいな

雰囲気でこの分野だけはあいまいに教えていた

はずだ。そんなの俺が教えられるわけがない。


「えーっとだな……これは、ちょっと後で教えるわ。

 俺も超人ってわけじゃないし全部が全部

 教えれないからな」

「えー、そうかぁ……しゃーないからまた別の

 問題から聞くことにするわ」

「ああ、悪いな。そうしてくれ……」


 今回のテストの範囲にバッチリ”三角比”は

入っている。それにかなり大事な分野で配点も

大きいだろうな。そのため、ここだけは必ず

覚えておいてほしいのだが…… 俺じゃ力不足

ってことか……


 教えられない問題があるのは分かっていたし

俺は先生ではない。仕方のないことと言われれば

仕方がないことだ。ここで嘆いても意味がない。


 ……あれ? なんで俺は嘆いているんだ?


「ココ、このページが丸ごとわからないんだけど」

「マジか」


 いや、ここはひとまず俺ができる限りのことを

やり遂げるしかない。それに同じように義堂たちも

勉強に取り組んでいるんだ。こんなところで俺が

手をこまねいている暇はない。


「あー、これって………………だろ?」

「ふむふむ」


 人に教えるというのは実に難しいな。だが俺が

やるって言ったからにはやるしかないんだ。


 ……あぁ、そういうことか。


 俺はやり遂げたいんだ。だからこそ嘆いたのか。

やり遂げることができない可能性が浮き出たから

俺はいつの間にか嘆いていたのか。なぁんだ、

なんて簡単なことに気が付かなかったんだ。

だがおかしいな、俺は今まで人に関わらずに

生きてきた。ゆえに俺はこんな気持ちにすら

なったことがないし、これからも部活に入った

としてもそれは変わらないと思っていた。が、

俺は部員のために俺は嘆いている。他人のために

この俺が嘆いているんだ。ははっ、全く俺は

いつからこんな奴に成り下がったんだろうな。


「そろそろ昼だし昼ごはんでも食べてくるか?」

「あ、そうだね。多分そろそろお昼ご飯だよ!

 って声がかけられると思うし、一旦休憩に

 しようか」


 俺とミコはひと段落を終えることにした。

朝っぱらからこんなに頭を使うこととなるとは、

家で寝ていた義堂もさんざんだな。


「それじゃギドー君と会長呼んでくるから……

 って居間で勉強しているから、そこでそのまま

 ランチタイムに突入したらいい話か」

「いやぁ? ここに昼めしを持って来て

 勉強しながら食べるっていう手もあるぞぉ?」

「あたしゃ受験生か」


 そこまでやる必要はない。それに飯ぐらい

落ち着いて楽しく食べたいものだ。が、俺は

飯のいらない体質なんだよなぁ……


 俺とミコは勉強道具そのままに部屋を出て、

居間に向かった。義堂と生徒会長は勉強しては

いたが、目の前には昼めしが並べてある。


 なんてひどい誘惑なんだ!


「あ、おつかれさん」

「おせぇよ」

「そうだねぇ、お昼食べずに君たちのことを

 待ってたんだけど、意外と早くに切り上げて

 こっちに来たんだね」

「いや、遅いだろうが。んなもん目の前に

 おかれて別ん事やれるわけねぇだろうが」

「食いしん坊じゃないんだからさ、これくらい

 待たないと。同じ部員でしょ」

「わーってるよ」


 こいつらホント仲いいな。ここまで来ると

うらやましく思えてくるわ。何がとは言わないが。


「これって誰が持ってきたの?」

「んーと、お父さん……かなぁ? まぁ、それ

 くらいの年の人だったけど分からないや。

 けど僕たちのことを見て、これ食べていいよ

 みたいな流れでここに置いていったんだけど、

 本当にこれ僕たちでいただいていいの?」

「いいんじゃない? どーせ食べたらだめな

 物だとしても怒らないだろうし」

「寛容な一家なんだね」

「ううん、そこらへんが甘ちゃんなだけだよ」


 御前一族を華麗にディスっていくミコ氏。

自分の所属グループ(家族)だろ、おい。


 さて、俺も食べないと疑われるし、少しばかし

いただくとしよう。……とその前に


「ちょっと生徒会長、話があるんですけど」

「ん? どうしたの、こんな折り入って珍しい」

「いえ、これと言って難しい話というわけ

 じゃないんですけど」

「ほー…………うん、そうだね。御前さんと義堂君は

 もう先に食べてていいよ。僕たちはちょっと

 別の場所ではなしているから」

「「おうよ」」


 ミコもそんな雄々しい返事をするのかい。


 話は置いておいて、俺と生徒会長は居間を離れ

さらには居住スペースからもちょこっと出た。

こんな場所で話すような内容ではないのだが

場所は別に固執するようなものでもない。


「それで話したいことっていうのは……

 ……違うよね? 正しくは”聞きたいこと”が

 本当に知りたいことだよね」

「……」

「うん、いいよ。なんでも話してあげるよ」

「…………あの、


  勉強の教え方を教えてください。


 俺じゃ力不足な分野がありまして、まぁ

 ”三角比”についての問題なんですが、俺じゃ

 全く教えられなかった。だからこそ生徒会長

 としてではなく、一人の先輩としてどうやって

 教えればいいか聞きたいんです」

「へー、御前さん”三角比”が苦手なのかぁ……

 別に僕は教えられるんだけど、神前君は今

 面白いことを言ったよね?


  教えてほしいじゃなくて

  教え方を知りたいって。


  これって僕の力じゃなくて自力でやりたい。

 御前さんのことを自分の力で助けてあげようって

 心情の表れだよね? やだなぁ、僕じゃ力不足に

 なんてならないのに僕抜きでやりたいなんて」

「ですが、俺は現にここでつまずきました。

 生徒会長ならどうやって教えますか」

「僕だったら、そうだねぇ…… 先生の言った通りに

 教えると思うけど…… そんな悩んでいる様子じゃ

 それができないんでしょ?」

「ええまぁ」

「だったら自分で気合を入れて覚えるしかないよ。

 もちろん、あいまいになんて覚えずに一から

 百と言わず千を覚えるしかないかな。神前君は

 一応、勉強ができる類の人間ではあるけど、

 それはうわべだけの点数だ。御前さんも確か前に

 言ってたよね? ”人”というのは数字で表せる

 ものじゃないって。その通りだと僕は思うよ。

 神前君はテストの点数ばかりに目がいってたから

 真っ向からそれを否定しちゃってたけど、これが

 他人に教えることで大事なことだと思うんだ。


  テストっていうのは誰だってつまらなし、

 勉強だって誰もが好きだなんて思わないし、嫌い

 っていう人たちだっているさ。その中で教える

 側の人たちっていうのは、なんとかしてそれを

 教えようと努力する。その中で僕が出した結論が

 さっき言ったことなんだ。人は点数のために

 動く、くだらない生き物なんかじゃない。人に

 よって楽しいこと、面白いこと、嫌いなこと、

 色々あるからこそ教える時は、教えること以上に

 その人たちの点数で表せない部分も見ておく

 必要がある。そして、そうやって教えるとね、

 誰でもわかりやすいって思える、いい教え方に

 つながっていくんだよね。だからこそ教える

 っていうのは、単純に見えて単純なりにさらに

 深く僕らが覚えなきゃいけないんだ。って

 それはもう今の段階で気づいてるでしょ?」

「……それで、俺はどうしたら」

「僕が言えることは一つしかないよ。


  頑張れ! ってね。


  頑張ればその分、結果はついてくるよ。

 御前さんを見てたらそう思えてこないかい?」

「ああ、すげぇ思います」

「なら、教える側はもっと頑張らないとね!

 ファーイトーイッパーーツ!!」


 結局、俺が今抱えている問題については

解決はしないままだ。だが、すこしばかり

気が楽になったのは確かではある。


「生徒会長、そろそろ戻りませんか? 俺たちの

 飯なくなりますよ?」

「あぁ、それならもうなくなってるよ」

「え」

「あの居間に誰がいた思ってるんだい?

 筋肉馬鹿の義堂君と、元気はつらつな

 御前さんだよ? それにさっきのさっきまで

 頭をフルに回転させていたことだし、脳に

 糖分がほしいって言ってガツガツ食べている

 と思うよ」

「あー、そうですね」


 俺は別にいいにしろ、生徒会長がそれは

可哀そうだな…… 俺が呼び出しちゃっただけ

あって、少なからず罪悪感がある。


「いいのいいの気にしないで。僕、あんまり

 食べる人じゃないし、他の人の元気なところを

 見ていた方が、ご飯を食べるよりもよっぽど

 元気になるんだ」

「聖人ですか!?」


 実際にこんな人いるんだ!? 自己犠牲の

塊みたいな人だ。だが、生徒会長はにこっと

笑って、一言俺に言う。


「いいえ、生徒会長です」


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