72.居間に行こう
「あ、おかえり二人とも……って、そんな
死にそうな顔してなんかあったの?」
「……詳しくは話せないが、詳しく話すと
大変なことになる」
「なんか話がよくわからないけど壮大だね」
俺がミコ姉の部屋を出て、2時間ほどした
頃に義堂が出てきた。それもぐったりとした
面持ちで。
「義堂、……どうした」
「あ”? んでもねぇよ。ちょっと便所行く」
「お、おう」
なんだ……義堂があんな顔をみせるなんて一体
中で何が行われていたんだ。って本当は部屋に
耳でも当てていればわかったことなのだが、
俺にとってそれは「体が受け付けなかった」ため
部屋の様子はわからず仕舞いだ。
と思った矢先、生徒会長が出てきた。今回の
義堂への被害の一部原因となった人物ではある。
……が、あれ? 生徒会長の様子が……
「会長、どうしたんですか」
「…………」
「?」
「……あのねぇ……
楽しそうだからって、不用意になんでも
やるもんじゃないね」
「やっと気が付きましたか」
生徒会長は義堂のことを”思っている”わけ
では決してない。ましてはミコ姉の考える
「理想の恋愛」というものの外側の人間だ。
だというのに生徒会長は、それを使って義堂と
仲良くなるきっかけを作ろうと試みたようだが
残念ながらそううまくはいかなかったようだ。
義堂が悪いわけじゃない。生徒会長が
それに耐えられなかったからだろう。
「何されたんですか……」
「えーっと、壁ドン、床ドン、あご乗せ、ハグ
あごクイ、耳なめ……」
「もういいです」
「これを義堂君と僕で交代しながらやって……
さらに似た構図のものがほしいって言って
いろんなパターンのポーズをしたかなぁ……
壁ドンに関しては、手でやるか肘でやるかで
6パターンくr…………」
「もういいから!!」
やめて! 聞きたくない!!
「それで満足したって言いましたか?」
「満足したって言ってたしもういいんじゃ
ないのかなぁ? っていうかもうアレに
付き合わされるのはこりごりかな」
「大人になりましたね……」
生徒会長の自業自得なので俺は一切、
「おつかれ」なんてねぎらいの言葉はかける
つもりはない。最悪、俺があのモデルに
なっていたかもしれないんだ。義堂が俺の
肩代わりをしてくれたと言っても過言ではない。
「今は部屋にこもって絵を描いてるって。で、
義堂君は?」
「ああ、トイレに行くって」
「そう、後で義堂君に一礼しないとなぁ……」
「ほんっと部屋で何があったんですか!?」
あんだけ「食えないキャラ」だった生徒会長が
こんなことになるとは…… ミコ姉、一周廻って
おっかない人だな。
「とりあえず、御前さんのとこに戻ろうか」
「そうですね、それと義堂はこのことについて
なんか言ってなかったんすか?」
「いや言ってたよ。それを僕が押さえ込んで
無理くりモデルにさせてるだけであって、
僕も今こうやって疲れているのもそれが原因
なんだよ。って疲れてはいるけど、なんか
100M全力で走った後みたいなスッキリ感が
あるから別に嫌ってわけじゃないから」
「だから何してんすか」
義堂に早急に詫びを入れてこい!
早急にだ!!
話はここまでにしてミコのところに行こうか。
確かその場のノリでミコは「自分の部屋」で
勉強すると言っていたが、本当に部屋で
待機しているとは思えない。いや、俺たちが
ミコ姉の用事を済ませると言ってからもう
かれこれ、2時間が経過してるんだ。さすがに
しびれを切らせて部屋に戻っているというのも
考えられるか。
と思っていたが、ミコは居間で待機していた。
居間と言っても俺たちが前に泊まりに来た時に
家族団らんでご飯を食べた場所ってだけだが。
勉強道具らしきものは見当たらないにしろ、
俺がわざわざ探す手間が省けただけ十分だ。
「それで、お姉ちゃんに連れてかれたまでは
わかるけど一体何があったの? 生徒会長も
なんか疲れ切った顔してるけども……」
「……」
俺と生徒会長は見合った。ミコ姉からも
このことは言わないでくれと聞かされている
だけあって、どうやって今までの下りを
説明しようかと思ったからだ。
俺はここで機転を利かせる。
「……………………
…………祟りにあった……」
「え”え!? 何があったの!!?」
間違ったことは言っていない。前にミコから
”あの”場所は祟りがあると聞かされているため
祟りにあったという表現が一番正しい。
それに実際に祟りにあった人がここに一人と
今トイレに行っている人で合計二人いるのも
事実だ。
「たっ祟りって一体何が……!?」
「祟りは祟りだよ……俺たちは確か……お姉さんに
呼ばれて…… う”っ思い出すだけで頭がっ!」
「こっ……この神社で一体何が…… でも思い
出せないのなら、この話はしない方がいいわね。
私がこのことについて聞いたのは忘れて」
「あ……ありがとう……」
よしっ! ごまかせたぞ!
なんてちょろいんだコイツっ!!
「それで、ギドー君はいずこへ?」
「トイレに行ってると思う。もうそろそろこっちに
向かってくるんじゃないか?」
「私がここにいるってこと知ってるの?」
「あーわからないか…… まぁ、そん時は俺がまた
探しに行くさ」
俺たちがミコ姉の部屋から離れたことは多分
義堂は気が付いていない。またミコ姉の部屋に
向かっているかもな。でも、やることはないと
生徒会長も言っていたし、別段問題があるわけ
ではないだろう。あったらさすがに俺だって
仲間を助けるために立ち上がっているよ。
って、いい方法あんじゃん。
「生徒会長」
「ん? どうしたの」
「義堂を呼んできてくれませんか? それで
そのまま義堂に勉強を教えてくれれば、俺の
手間も省けますから」
「あーなるほどね。了解了解!」
会長は「それじゃ頑張って」と言って居間から
出て行った。ミコ姉の部屋に向かったのだろう。
あるいはトイレか…… まぁ、それは別にどこでも
いいや。
それに時間もちょうどいいんじゃないか?
「よし勉強するか」
「あいあいさー!! ってもうちょっとしてから
やると思ってたけど、なんでこんなに躍起なの?
だからと思って私、勉強道具持って来てなかった
んだけど……」
「あぁ、そうだな……ミコ、起きたのは何時だ?」
「え? えーーーっと……確か…………6時ぐらいかな」
「早起きなのはいいことだな……」
「ムフー」
ちっせぇことでも褒めたらドヤ顔を披露する
クセがあるのかこいつ…… もし仮に、テストで
頑張ったら一体どんな顔を見せるんだろうか……
「で、今は9時……はとっくに過ぎてるが、今が
時間的にも勉強が身に付きやすい時間なんだ」
「へー」
「確か……起きてから3時間たった時間帯が一日で
一番脳のはたらきがよかったはず。だから、
今のうちに休憩をはさみながら勉強して、午後は
休憩を多めにとりながら勉強するか」
「おおー、なんか計画的ー」
「計画っていうのは大事なものだぞ。俺が勉強を
計画どおりに進めれるっていうのは、ミコが
今の今までめげずにテストに向けてがんばって
くれたおかげだしな」
「ムフー!」
「……」
試しにもう一度ほめてみたが、やはりドヤ顔は
するんだな。それともういいよ! どんだけその
顔するんだよ!!
まぁ、俺もそんなこと言ってはいるがここまで
計画的、いや計画以上にすすめられたのは本当に
ミコが頑張ってくれたおかげではある。正直なとこ
「バカは死なんと治らない」みたいなイメージが
ついていただけあって、ここまでミコが成長する
だなんて思っていなかった。と言ってもまだまだ
苦手なものは苦手なままではあるが…… それでも
十分”馬鹿”のレッテルが外れるまでにはなった。
この調子だと15点以上は確実にしろ、40点は
しっかり取れるだけの実力は持っているん
じゃないか? あるいは問題にもよるがそれ以上の
点数も見込めるぐらい……
「それじゃ、やるかぁ」
「あ、それなら勉強道具もってくるから待ってt
…………いや、部屋に来てもいいかな?」
「え? そんなお姉さんの言う通りに
しなくても」
「フリガナに怨念がこもってるのは気のせい
かなぁ…… っていやここで勉強っていつも
……っていうかやったことすらないんだけど、
なんかやりにくいんだよね、なんでか……」
「あ、そうなの?」
「うん、なんか見られているような何て言うか……
うちってやっぱり神社だから、そういうの
多いのかなぁって思ってるけど」
「そうかな……あ……」
あれ……何かこの感覚には覚えがあるな……
何かに見られている。そんな感覚を俺はこの
神社で感じたことは……ある……
「ねぇ、お姉さんからこの居間について何か
言っていたことってない?」
「えー、そんなこと言われても…… うーんと
「耳を済ませたら”ウィーン”って機械音が
鳴ることあるけど、それはそういう仕様の
部屋に作ってあるからね」
って前に言ってたけど、この意味が全く
分からないままで、どーでもよかったから
あんまり気にしていないぐらい……」
「よし、後でお姉ちゃん殴っとくわ」
「え!? なんで!!?」
やっぱりこいつ鈍感だわ。ド鈍感だ。




