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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
ぼくらのおしごと
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71.モデルになろう

 急遽だが、俺はミコ姉に呼ばれた。いや、

俺だけと限らず、義堂と生徒会長も呼ばれた

のだが、これは一体何なんだ……


 それにミコだけは勉強会の用意をしてろと

のけ者にしたことにも少し不思議な感じだ。


 今は廊下をてくてくと歩いているのだが、

後ろで義堂と生徒会長がさっきの一件の喧嘩

(とまで発展していない)の続きをやっている。


(ちょっとちょっと神前神前)

「え、どうしたんですか」

(馬鹿馬鹿! 声でかいって!)

(えー、なんでしょうか)


(あのさぁ……


  あの二人、私のこと知ってるの……

 あるいは勘付いてたりする……)

(いや、あの物腰柔らかい人にはうっかり

 そう教えちゃいましたよ)

(あのさぁ、人のナイーブなところの情報公開

 するのやめてくれない)


 つい先ほど生徒会長にはミコ姉が「腐」である

ことを伝えてある。もちろん生徒会長はその

方面に理解があると分かった上でそう言っている。


(あいつらってどんな関係なの? 私みたいな

 人種殺しにかかってるみたいなあの関係なんなの)

(なんなのって何ですか……って! 俺の知り合いで

 そんなこと考えないでいただきたいんだが!?)


 怖いよその人種! 友人すら食い物にするのか。

はぁ、世界にはいろんな人がいるものだなぁ……


「お”い、なんだよこれ!?」

「だって義堂君なんにも食べずに来たんでしょ?

 だからここに来る前に買ってきておいたの。

 はい、コーヒーとサンドイッチ」

「んでてめぇからこんなもんもらわねぇと

 ならねぇんだよ」

「そりゃ、こんな時間に呼びだしちゃって悪いなぁ

 と思ってね。それと一応ここは人の家だし、

 いつもみたいにここで飲み食いはしないでね」

「ちっ、わーってるよ。その……わりぃな

 んなもん用意させちまって」

「ううん、いいってことだよ。友達だもん」


(あ”ああ”あ”ああ”(とうと)いイイイイイイイイイイ)

(やめてくれ)


 頼むから、その脳内思考駄(のうないしこうだ)()れなのを何とかして

くれないだろうか…… 聞いてて俺が恥ずかしい。


(それで俺たち呼んでこれから何するんですか)

(ま、とりあえず今から行くのは私の部屋よ)

(へ?)


 あれ? 祟りがあるって言って何人たりとも

入れることなかった(であろう)あの部屋に

行くってどういうことだ…… ってそうか、

そういえばミコの妹の愛ちゃんは確か祟り

お構いなく入れるんだっけか?


(それで何するんですか……さっきも言いましたが

 俺たちは勉強に来たわけで、そんな時間は)

(いいじゃん良いじゃん、ちょっとだって

 ちょっと。それに私がちょっとヘマした

 だけだしね)

(?)

(ま、その話はおいおいするから)


 どーせ、さっきの話の流れから察するに、

「腐」関係の何かを聞かされたりとするんだろう。

後ろを見ると義堂はサンドイッチをもりもりと

食べていた。


 食べるのかい!


「はいこっちだよ」


 ついた場所はやはり俺が前に来た場所であり

祟りがあると言われ、入れなかった場所である。

といっても、そこめがけてダッシュして

そこの部屋の主を脅しかかったことはまだ

記憶に新しい。


「ささ、入った入った」

「おう」


 俺たちはそのまま部屋に案内された。一体

どんな部屋になっているのやら……と思ったが

意外と小綺麗だった。多分”その”手のものの一切は

ほったらかしているわけではないんだな。

前に「こういう人達は隠れてそれをたしなむ」と

聞いたことがあり、なるほどこういうことかと

納得できるような光景だった。


「さて、なぜここに呼んだかを説明しないと

 いけないな。高校生諸君」

「高校生諸君って……」

「まぁまぁ私の今の現状を聞いてほしい。


  クリスマスまでもう半月とない今日なのだが

 そのクリスマス当日に私は東京に飛ばなければ

 ならない」

「はぁ……」


 隣で生徒会長が「ほう」と息をこぼしているのを

見る限り、何を言っているのかを察してはいる

様子ではある。


「だが私はいまだに、そこにもっていくべき大事な

 「書類」を整理できていないのだ!」

「お姉さん、「書類」とぼかさなくても別に

 どうz」

「シャラーップ! 黙って聞いてなさい! とまぁ

 私は今、というか連日この書類整理に追われている

 訳なのだが、そこであんたらにこれの手伝いを

 やってほしいってわけだ」

「はぁ……それで俺たちは一体何を具体的にやれば」


「それはもちろん、モデルってやつよ


  まだその書類の書けていない部分って言うのが

 最後の挿絵と表紙となる部分だけなの。で、その

 構想が全く浮かばなかったんだけど、ちょうど

 あんたらがきたからすこーしばかりモデルに

 なってもらおうかと思ってね」

「えーー……」


 なんで俺たちはこんなことに付き合わされな

いかんのだ……もちろん、俺はお断りだ。


「断るって言ってもあんたにはここに誰も

 入れないって重要な使命があるから神前

 あんたも協力してね」

「俺断るって言ってないんですが……」


 でも断るつもりではあったさ。


「あの……すいませんが、どんな格好をしたら?」

「おっ、ノリがいいねぇ”物腰柔らか君”!」

「いえいえ、私は夕霧という名前ですので

 そこは覚えていてください」


 俺は生徒会長を呼び出す。


「あのさぁ……会長?」

「だって面白そうじゃん」

「そんなんで食い物にされていいんですか!?」

「神前君、そんな心配するの? やだなぁ

 そんなに僕のこと気にしているだなんて」

「そーじゃなくてーーー」


 俺たちはここに勉強会に来ているんだ。こんな

ミコ姉のやろうとしていることに乗っかる意味が

全くない。


「それで、生徒会長は別にいいんですよ。誰かしらの

 食い物にされようが何だろうが」

「言い草酷くない!?」

「俺と義堂は勉強をしに来たんですよ? こんな

 ことやってる暇は……」

「暇って、今はまだ7時だよ? 今から勉強って

 言っても無理がないかい? それにお姉さんも

 すこしだけって言ってたんだ。ここは別に

 時間のちょっとくらい割いてもいいでしょ」

「…………


  本音は」

「何かしらの理由を付けて、僕と義堂君の

 絡みの場が欲しい」

「会長ーーーーーーーーーーー」


 だめだよそれ! もっとあかんでしょうに!?

何、自ら食い物にされに行ってんだよ!?


 ってそうだった。確か生徒会長はそっちの気が

ある、というか全人類愛みたいな性格だったんだ。

もちろんそれは義堂に限らないことではあるが、

それをはたから見たらどう見えるかは別の話

ではある。


「わかりました。微力ながらその書類整理と

 いうものを手伝わせていただきたい」

「おー」

「って夕霧てめぇ何考えてやがる」


 ここで義堂が生徒会長に言う。


「え、人の手伝いをするだけだって。別に

 問題ないって」

「問題ねぇって、俺たちがこれからモデル

 っつーもんやるんだろ?」

「「うん、それが何か?」」


 ミコ姉と生徒会長が声をそろえて言う。

世界で一番聞きたくない和音だ。


「その書類になんで挿絵だったり、表紙が

 いるんだよ。んなもんなくてもいいだろ」

「そ、それは……」


 義堂、いいとこ気が付いた。


「いや、そ、それは……」

「大丈夫だよお姉さん、任せて」

「あ、あんた……(ポッ)」


 なんだこれ。なんつー茶番を見せられてるんだ。


「義堂君、いいかい? これはね日本のある

 文化についての重要な書類なんだ」

「あ”?」


 面白そうだから見てよう。


「日本に限らずにこの文化は世界中にありと

 あふれるほど、充満している文化ではある。

 でもその文化っていうのは事実上の迫害を

 受けているんだ。もちろん世界中でもその考えは

 残っているし、それを認めない人たちだっている。

 でも、こんな迫害されるような文化は日本で今

 非常に大きな力を持つようになった。そうやって

 人々にこの文化を浸透させるレジスタンスらを

 こう呼ぶ。


  「YAOI」と。


  義堂君はこの言葉には聞き覚えはないよね?

 そしてそのレジスタンスの一人がここにいる

 御前さんのお姉さんであり、その道のエキスパート

 と言っても過言ではない。そしてこの人が、

 この文化体系を一任しているんだ。だけれども

 さっきも言ったけどそれを証明するために必要な

 ものっていうのがその書類なんだ。義堂君、

 この文化を守りたいと思わないかい? 数少ない

 この文化を守ろうとする日本の力の手助けに

 なりたいって思わないかい? だからこそ僕を

 含めて義堂君にはその手伝いをしてほしいんだ!


  さっきも言ったけど、なんで絵だったりが必要

 なのかっていう質問なんだけれど、それは今

 言ったそれが答えなんだ。そう、この文化は多くの

 人には理解されないんだ。さらにはそれを良しと

 しない、あるいはさせない人たちもいる。そんな

 人たちから、いかにこの文化を理解させ、よりこの

 文化に興味を持ってもらうか。今、御前さんの

 お姉さんがぶつかってる壁がそれなんだ。そのため

 絵を使って、文化を体現させようっていう行事が

 そのクリスマスに行われる。


  その名も「COMIKE」。


  それに合わせて、何としてもこの書類を

 誰もがわかる形に、そしてこの文化の未来を

 守るために、お姉さんは完成させないと

 いけない。いけないんだよ。だから義堂君、

 そのためには僕たちの力が必要なんだ。

 義堂君、


  文化を、日本を守ろう!!」

「…………」


 …………


「……あー、よくわからねぇが……んなこと

 言われちまったらやるっつーしかねぇだろ」

「お、言ったね! よーし、お姉さん

 言質とったよー!!」

「よおおおおおし!!!!!!」

「あ”?」


 俺はミコ姉の部屋を後にした。


 そう、俺は逃げだしたのだ。生徒会長に丸ごと

言いくるめられ、この後何が起きるかよく

分かっていない義堂が見ていられなかった、

訳ではない。


 俺が”それ”を止められなかったことを悔いた

ためだ。俺は部活の大事な大事なメンバーが

今から食い物にされるというのに、俺は何も

できずにただ見ているだけしかできないことが

何よりも俺を苦しめた。


 すまん義堂。俺はお前を守れなかった……

恨むなら俺をうr……いや、生徒会長を恨めよ。


 ミコ姉の言った通り、俺は部屋の前で見張りを

やることにした。義堂のことが心配だったからで、

仲間を捨てた俺ができる唯一できることだからだ。


「よおおおおおし!!! まず義堂がやっぱ

 性格的に”攻め”寄りだから、夕霧は義堂から

 壁ドンされて! そのあとは”受け”と”攻め”

 交代して、もう一度同じ構図で……」


 部屋から元気なミコ姉の声が聞こえる。


 俺はここからは聞いていない。知り合いが

どんどんと喰われていく様子を考えたく

なかったんだ。


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