7.話をしよう
日が落ち始めた午後5時。授業はとっくの
とっくに終わって今は同日の放課後だ。
教室には人っ子一人といなく夕日が
差し込むばかりで、言ってしまえば
とってもいい雰囲気である。
俺がこうも帰らず教室に残ってるわけは
前回のミコカゴを読んでいるならば、
わかってくれるだろう。あ、ミコカゴ
というのは本作のよくある略称である。
いつか「今日のミコカゴ読んだー?」
なんてリアル高校生たちの会話があると
嬉しいものだ。設定や誤植ばかりで欠陥
だらけのこの小説にそんな未来は来ない
だろうがな。
さておき、自称巫女とまさかこんな
形で話すことになるとは思ってもなかった。
とは言ったものの一つ問題が発生した。
あいつが来ない。
授業が終わってからずっと待っている
わけだから、4時頃からこの教室にいる。
もうかれこれ1時間と待っているのだ。
「話したいことがあるから放課後残ってろ」
と事前に言っておいたのだが、あいつが
教室にすらいない。最後の授業の時には、
いたなら途中でおなかが痛くて帰りました、
なんて展開はないはず。
待っている間、何度このまま俺も
帰ってしまおうかと考えたか。しかし、
小説とかお話の世界というのは実に
都合よくできているものだ。
教室のドアがすっと開いた。
「待たせたわね」
「あぁ、ずいぶんと待ったよ」
「で、私と話したいって急にどうしたの」
無駄になにかそわそわ様子だが、
俺の話を進めよう。
「お前」
「はっ! はい! な、なんでし、しょう……」
いきなり敬語でどうしたのだ。それに
やはり緊張しているようだが……
…………
………………………
「告白じゃないぞ」
「え、違うの!!!!?」
やっぱりかよ。どんだけこいつは
ラブロマンスにあこがれているんだ。
それに早めに気づいておいてよかった。
気づかないまま話を進めていたら一体
こいつは何をどうこう考えるか
わかったもんじゃない。
それはそれで面白そうだが。
「違うなら先に行ってよ!!」
「勝手にいろいろ妄想するお前が悪いだろ」
「いやいやいや! 「放課後話がある」って
男が女の子に言ったら間違いなく告白って
思うから! 教室に入るのもそのせいで
ものすっっごく緊張したんだからさぁ!」
「それは…………悪かったな」
顔を赤く膨らませてとてつもなく
怒っているのがわかる。顔をむすっと
膨らませているのを見る限り、この巫女は
小動物にしか見えない。見た目に関しては
非常にかわいらしいのだが、残念ながら
そのすべてをパァにするだけの内面を
持っている。とてもざんねんだ。
とっても残念だ。
「って、ずっと教室の前にいたのかよ」
「そう、教室に入ろうとしたら急に動悸が
バックンバックン鳴り始めたから一度
落ち着いてから入ろうかと」
「悪い。それは完全に俺の責任だ」
ずっと待ってたのは全部俺の情報伝達の
不足だったようだ。これからはちゃんと物事は
伝わるように言わなくてはならないな。
「まぁ、全然1分で落ち着いたんだけどね」
「え、じゃあ教室前に来たのは……」
「さっき来たばかり」
「俺の謝罪をかえせよ!!」
結局、待たなきゃダメだったのかよ!
なんて奴だ!! あと、俺へのロマンスは
1分程度で落ち着くのかよ! それはそれで
なんか悲しくなってくるわ!
「ところで話っていうのは?」
「あぁ、話というのはさっきのお化け騒動に
ついてだが、
あれ、お前の作り話なのかどうか。
聞きたかったのはそれだけだ」
「ん…………」
いつもうるさくかまってくるのにこんな
時だけダンマリを決め込むなよ。基本的に
悪魔というのは「ドS」の化身のようなものだ。
俺の中の「悪魔」がどんどんと湧き上がって
来るのがわかる。このままだと目の前で口を
わかりやすく尖らせた自称巫女を泣かせる
展開になりかねない。だとしてもここで
何もしないというわけにもいかない。ならば
俺はさらに追い込むとしようか。
俺は悪魔だからな。
物理的に追い込むのは美しくない。やると
したらなら水に沈めずに沼にじんわりと降ろす
ようにこの自称巫女を追い込んでやる。
「なんで俺がこう思ったか話そうか。俺が
さっきお前にお化け騒動がガセだったと
伝えたとき、何と言ったか覚えているか」
「え?」
「覚えていないようだから先に言うと、
お前は「なんで?」といったんだぞ」
このセリフはよくよく考えるとおかしい。
「仮にガセだと分かったなら反応は
疑問形にならないはずだ。普通なら、
「へー」とか「なんだぁ」とかだろう。
なのにお前は「なんで」と追加で俺に
話を聞こうとした。これで考えられるのは
『その話が本当かを聞きたい』あるいは
『なぜその話が上がったのか』の二つだ。
だが、そのあとお前は何も聞かずに
その場を去ったんだ。だとしたらこの話に
ついて追及してほしくない何か後ろめたい
ことがあるということだ。これらの条件を
照らし合わせると、前者の可能性はなくなる。
そして、後者だとしたら考えられることは
一つしかないだろう。
そうだよな。自分ででっち上げた話が
自分以外の誰かによって改ざんされたことに
疑問を覚えたんだろ。
だからお前は、その理由を聞き出そうと
俺につい「なんで」といったんだ。
もうわかってると思うが、先輩がどうこうと
いう話も俺のでっち上げた嘘だ。この結論に
至るのには…………」
「ミキちゃんでしょ?」
そうか、あの時俺に「御前と関わるな」と
言ってきたあの女はミキというのか。
「あぁ、俺にお前と関わるなと言ってきたよ。
そのミキちゃんから聞く限り、お前は
嘘つきだと思われているようだな。
で、お化け騒動が作り話だと思えば今までの
お前の奇行についてもなんとなく理解した。
多分、お化け騒動について言いふらして
それを自分で解決したといううわさが流れれば
自分の巫女としてのキャリアにつながる。
そう考えたのだろう。だが、そのお化け騒動の
ためには証拠がいる。その証拠のためにお前は
あの金曜日、学校に忍び込んで霊の手がかりを
なんでもいいから探していたんだろうな。
そしたら俺が体育館で降霊術もどきをしていた
というわけだ」
自称巫女はずっと下を見ながら黙っていた。
これじゃ本当に俺が悪魔みたいじゃないか。
まぁ、悪魔ですからね。
「まさか本当にお化けに関する証拠があるとは
思ってもいなかっただろうな。そしてお前は
千載一遇のチャンスだと思って体育館に
殴りこんだ。だから、俺への第一声が
「悪魔め!」だったのだろうな。仮に悪魔なら
そのまま俺を公共の場に突き出してやろう。
そして、自分の手柄にしてしまおうという
魂胆だったのだろう。
ここまで話しておいてなんだが、改めて
本題だお化け騒動はお前の作り話なのか?」
「違う!お化けはいる!!」
この反応は予想していなかった。ここにきて
これだけ逃げ道がない程に追い込んだというのに
まだ反論できるとは思っていなかったし、
この自称巫女にここまでさせる何かがあったとも
考えられなかったからだ。
「お化けはいるよ! それも絶対に!!
そして私はそれを除霊する最強の巫女
"御前 小恋"なの! これだけは嘘
なんかじゃなくて本当! それだけは
どうしても譲れない!!」
「違うな。そうするしかないんだろ」
御託は不要。遮りながら話を続ける。
「ミキちゃんはこうも言っていたな。
「お前を何とかする」とも。具体的には
何をするかは言ってはいないが、バカにも
何をしようとしてるかは分かるな。多分、
今までも同じようなことがあっただろう?
それでも自分が巫女だと言い張るその根性は
目を見張るものがあるが、もう限界だろう。
ならやはり実力でそれを証明しなければ
ならない。しなければならないんだ。
もうここで妥協することはできない。
だからこそ、お前は自作自演を延々と
続ける必要がある。図星だろう?」
「………………………」
「まさか、まだ何かあるのか?」
「………………………わ、私は」
「いや、もういい。何を言っても否定
されるのは目に見えてる。だからこそ
ここからが本題だ。
俺と手を組んでこの騒動を解決しないか?」
「………………………??? ん??」
キョトンとした顔をされた。
首をかしげる様子はやはりなにかしらの
小動物を連想してしまうな。
この騒動はただの作り話でしたー
チャンチャン・ジ・エントって具合で
この話が終わるだなんて思うなよ。
ミキ、確かに俺は「嘘吐き」が嫌いだな。
だが俺はそれ以上に悪魔でもないヤツの
真似事が許せない質なんでね。




