69.勉強をしよう
「それで秘策って言うのは?」
「うーーん、これって言っていいものなのか
わからないんだけど、ちょこっとぼかして
言うとね、部活にこういう風に警告を
出すのにもある一定の基準があるってこと」
「基準」
「それで君たちはその基準値以下を出したから
こうやって部活動ができなくさせられている
ってことだろうね」
基準。確かに何かしらの基準がなければ
俺たちを罰することはできないし、それが
ありきで俺たちへの制裁が下されたと最初から
考えていたさ。
「その基準っていうのが言っていいものなのか
よくわからないんだよねぇ…… 一応、学校の
裏設定みたいなものだから」
「それで、俺たちはその基準の上をいくように
努力をすればいいってことですか?」
「そうだね」
そうだね、と易々と言ってくれたはいいが、
現状はかなり困難を極める。赤点常習犯と
不登校児を抱えているのだ、そんなに物事が
うまくいくとは考えられん。
「えーと、君たちは三人だから…………
義堂君の平均点……っていうか0点なんだけど
それと、御前さんの15点、そして神前君の
72点を合わせて3で割ると……
君たちの平均点は29点だね。それでその
基準なんだけど前回は40点って設定していた
らしいんだけど、今回も同じく40点を基準に
その部活の平均点を見据えてると思う」
「あ、基準言うんですね結局」
「うん、だって黙ってるの面倒だもん」
学校の裏設定をべらべらしゃべる生徒会長って
あんまりいいイメージ出ないんですけど……
「へーなるほどね。それでさココ、ちょっと話
変わるけどさっき自分の平均点80って
言ってなかった?」
「……」
盛りました。見栄をはりたくなるのもわかってくれ。
だとしてもお前にそれを指摘される筋合いはねぇ!
文句あるなら、結果を持ってこい15点巫女娘!
「ということで、君たちには平均40点を目指して
頑張ってほしいんだよ。というか神前君が
もうちょっと頑張ればいいんだよね」
「俺に部活の今後を託さないでくれ」
荷が重すぎるわ。
「というかそんなに頑張らなくてもいいんじゃ?
だって部活が休止になるとはいえ、こういう
テスト前だったりしかないんじゃ、あんまり
ダメージがない気が……」
「いやいや、君たちの置かれている現状を
見据えた方がいいよ」
「え、そんな崖っぷちなの!?」
「崖っぷち、というよりかは飛び降りる寸での
とこって感じかな? 君たちの”悪い”噂って
いうのは多分マヤちゃんから聞かされてるはず」
すいません、うちの部長にはそれ言ってません。
だが、隣でミコがうなずいてるところを見ると
どうにもその雰囲気は察していた様子だな。
「「異能部」は基本的には言っちゃあ悪いけど
「除霊とかわけわからないことやってる」って
イメージがこの学校内に少なからずある。
そしてそのメンバーのほとんどが勉強が
できない。もちろんそれは先生方からの視点
からも言えることだけど、そんなわけの
わからない部活に没頭して勉強をおろそかに
してるともとらえられるよね。いや、君たちは
もちろん頑張って”学校七不思議”の解決に
励んでくれているのは知っているし、それは
生徒会の人たちみんなわかっているよ。でも
よくわかってない人たちからしてみたら
やっぱり君たちの行動理念はピンとこない。
だからこそ、他の生徒や先生たちからの監視を
免れるためにも、ここはテストでいい点を
とった方がいい。って思ったんだ」
「……ん? なんでその結論になったんですか?」
俺には言葉のつじつまが合っていない。俺の
理解力が足りないだけなのだろうか。
「君たちの主な活動時間と場所は?」
「いや、そりゃこの時間と放課後の誰もいない
学校内…………」
「うん、そういうこと」
「ああ、なるほどね。ようはここで点を取れず
基準を満たすことができなかったら。最悪
夜の学校での活動ができなくなるってことか」
「そ、一応あの時間は僕たち生徒は学校内に
入ること自体できないからね。それを僕たち
生徒会が無理やり先生方を説得させて
オーケーをもらってるんだけど、それが
部活の信認に関わるとなれば、そのオーケーが
もらえないなんてことになりえる」
「あー、それは面倒ですね」
「でしょ」
なるほどね。俺たちは前も言ったが実績が
乏しい部活だ。だからこそ、何かしらの評価を
あげていきたいと思っていたのだが、これが
理由なのだ。活動が活動なだけあって俺たちの
活動を大目に見てもらう必要があるため、俺は
評価を急いでもらおうとしてきたのだが、残念
ながらそれは間に合わなかったようだ。が、
こうなってしまった以上、やるしかない。
「わかりました。俺たちは平均40点を目指して
勉強をすればいいんですね」
「そうだね」
「それだけ分かれば十分です」
「そうか、そしたら僕は別件で生徒会室に戻って
いいのかい?」
「ええ、本当は先輩らしく勉強を教えて
ほしかったのですが」
「うーーーーん……それはまたの機会にね」
生徒会長は部室を出て行った。
と思ったら帰って来た。
「そうだ! 部活はできないけどこの部屋は
勉強用に使っていいって!」
「あ、了解ですー」
「じゃーねー」
今度は本当に帰っていった。
ら、また戻って来た。
「勉強教えないって言ったけど、何か
困ったことあれば僕に言ってね!」
「もういいよ!!」
とっとと帰って自分の仕事終わらせれよ!
っといかんいかん、相手は何を隠そう生徒会長だ。
ここは暴言を慎んでおかないと。
「暴言は義堂君でとっくに慣れてるから別に
きにしなくていいよ!」
「帰れ」
「急に当たり強くない、神前君?」
心読んでくるスタイルの人はもういらん。
それとまた戻って来たのかよ! 帰れよ!!
「ふぅ……」
「それで勉強はどうするの?」
「そりゃやるに決まってるだろ。でもそんなに
頑張らなくても実は点数をとれるんだよな」
「え!? そうなの!?」
「ああ、ただし40点しか取れないけどな」
「そんな限定的な取り方なの?」
これは別に特殊なことをするわけではない。
それに俺が長年やってきた勉強の方法を
ミコと義堂に伝授するだけだ。
「とりあえず何をするかを言うとだな。
教科書の内容を覚えるだけだ」
「え? そんだけ? もっとないの……ほら
こうやったら勉強しやすいとか」
「いや、これが一番手っ取り早いし一番
楽に点数が獲れるはずだ」
これは俺が図書館であったりという場所で
実際に使ってきた方法だ。
「まず、何かを覚えるとなったときミコと義堂は
どうやって覚えようとする?」
「何そのテンション…… まぁいいや、そうだね……
そりゃもちろん教科書を見て、大事な部分を
よく見て、そこをノートとかに書くとかかなぁ。
実際にやったことないけど」
「やれよ」
それ実践しないことにはなんも始まらねぇよ。
「そう、それで合ってる」
「は?」
「逆に俺がここで突拍子の無い勉強法を教えても
自分の感覚に合わなくて撃沈するかもしれないし
リスクが伴う。だから、その勉強法でいく」
「ってそんなうまくいくものなの?」
「ミコは今まで、それを実践……はしてないとして
もし仮にやるとなればどうやってやる?」
ここで実践していれば話は楽に済むのだが……
「そりゃ一人で教科書を読むぐらいしかないでしょ」
「だからそれを進化させた勉強法を使おうかと思う」
「はい?」
「どーせ、話よくわからず一先ず頭に知識を
入れているだけだろ? それを生かすために
より面白く、より実践的にこの勉強法を使う」
「お、おぉー……」
具体的にはよくわかってないようだな。
「具体的には重点をよく見て勉強するという考えを
ちょっと変えるだけだ」
「変えるって? どんなふうに」
「重点”だけ”見る。それ以外は見ない」
「ええ!!?」
「いや、そっちの方が頭に入りやすいんだよ。
無駄に大量の知識を詰め込むよりは、特に
大事な部分を確実に取れるようにすることで
点数を伸ばすってわけだ」
「えー……そんな綺麗にいくものなの……?」
そう、これはうまくはいかない。基礎中の
基礎しかとることに専念しないってことで、
応用もやれと言われればできるはずがない。
それでは点数を伸ばすのには程遠いのは目に
見えている。
だが、今回に関しては話は別だ。
「俺たちは平均40点を目指せばいいだけなんだ。
だったら大事な部分だけ取り込んでテストに
挑んだとしても別段問題はない。ってことだ」
「あー、そうか!!」
ミコはこれで納得しているようだが、あくまで
机上の空論でしかない。仮にこれで本当に何とか
なったら、それはそれでありではある。
「よぅし、そうと決まれば勉強するか」
「はーい、先生!」
「…………」
俺はこのとき何を思ったかと言うと、意外にも
この「先生」という敬意を込めた言葉に喜びを
感じたのだ。あぁーいい響き! とこんな具合に。
「はーい、先生」
「? どうしたミ……義堂」
義堂もその呼び方するんかい。
「教科書忘れたので、帰っていいか」
「なんでやねん」
何しに来たんだよ。ってそうか、義堂はここに
部活をやりに来たんだった。なら勉強道具を
持って来ていないというのも無理はない…………
……無理はあるな…… 学校だよここ?
我らが”学び舎”「英嶺高校」よ?
それに教科書がなければ勉強ができない
のも事実だ。仕方がない、ここは帰るしか
ってなるか!
「義堂、それなら俺の教科書を貸してやる。
だから今は勉強しろ」
「あ”? でも」
「勉強しろ」
「……」
義堂は何も言わなくなった。諦めたのだろう。
義堂らしくないっちゃ義堂らしくないが
別にここで帰る理由もないのだろうと理解した。
「それじゃ勉強すっか」
「「はーい」」
これからの流れを説明すると、ただただ俺たちは
勉学に励むだけの図となる。そのため、読者にその
様子を余すところなく見せてもいいが、飽き飽きと
する光景が続くため、軽く端折って述べよう。
まずはミコ、と思ったが義堂から言うと途中から
飽きたのか、ぐでぇーっとし始めた。それでも
筆を進めていたため、一応は勉強をしていた。
が、進歩らしい進歩は見受けられない。それでも
義堂は呑み込みが早いタイプの人間ではあり、
一度覚えたことは、繰り返して学ばずとも
答えられる。それでも飽きるスピードが速く
この調子だとどうなるかは分かったもんじゃない。
そしてミコなのだが、こいつが一番の問題児だ。
問題児だというのは、どうにも「勉強」という
ものに縁がないと言わんばかりに勉強ができない。
さっきの義堂とは裏腹に、一度覚えたことでも
何度か繰り返さないと身に付かない。そして
何よりも数学が壊滅的だった。公式に当てはめる
とヒントを出しても「公式?」と聞き返して
くるのだ。それでもある程度の基礎的なものは
覚えていて助かったが、それらの活かし方を
よくわかってなく、ずいぶんと覚えさせるのに
苦労した。だが、努力は見られるだけ十分だと
いうことで俺は良しとした。わからないところは
ちゃんとわからないと言ってくれるため苦手な
部分を徹底的に教えることができたからだ。
わからないまま無言を突き通されるよりかは
全然ましだ。大分ましだ。
というわけで俺たちの今日の部活は
ただの勉強会で終わってしまった。だが
うちの部活の特権と言う訳でもないが
かなり遅くの時間まで勉強に励むことが
できた。途中、俺たちの顧問である
佐々木先生が「帰れよ」と言ってきたが
何食わぬ顔で「部活です」と言うと
納得して帰って行った。すまないが俺たちは
今は部活動をすることができないんだよ。
佐々木先生がそのことを知らなかったのが
不幸中の幸いだったな。
そして、誰もが学校からいなくなった
夜の学校で俺たちは勉強に励んでいたが
途中から義堂がふて寝しだした。しかし
そんなことにかまうことなく俺とミコは
教科書をマジで読み漁った。ってこんな
ガチにならなくとも言ってしまえば猶予は
2週間もあるんだ。そんなに今、切羽
つまって勉強する必要はない。でもミコが
やる気なためここは勉強に勤しむとしよう。
やる気は切らさないのが重要なのだ。
と言っても限界はいつかは来るもので、
先に根をあげたのはまさかの俺の方だった。
俺は教えることしかやってないため、別に
頭にぎっしりと詰め込んだわけではないが、
やはり慣れていないことを長々とやり続ける
なんてことは疲労を伴うものだ。そして、
俺たち「異能部」の緊急勉強会は幕を
閉じた。
「あぁ……」
「ミコ……お前、死んだのか……」
俺が終了と言ったと同時に、ミコが後ろに
倒れこんだ。交換音はバタンキューが
しっくりとくる。
それも仕方がないか。俺だって慣れていない
ことをやってこんなに疲れているんだ。ミコは
今の今まで勉強を真面目にやってなく俺と
境遇は似ているさ。口から煙が出るほど疲れる
のも無理はない。
「ほら、起きろ義堂。帰るぞ」
「ん”あ? 俺ぁいつから寝てやがった」
「かなり序盤の段階だ。睡眠学習の効果は
出たか?」
「ちっ、んなイヤミくせぇ言い方しやがって。
いいよ、俺ぁ一人の方がこーゆーこったぁ
やりやすい。帰ったらやるよ、ちゃんとな」
義堂が人となれ合わない性格なのは分かる。
それが勉強の分野でも出るのか。一人で
大丈夫かなぁ……だってこの人、工場生活よ?
俺だったらそんなとこで勉強をするなんて
精神の方がすごいと思うが……
「それじゃ解散するかぁ。明日もやりたいが
さすがに二日連続って言うのは……」
「いや、やろう!」
「え」
すっげぇやる気だなミコ。後ろに倒れた
まんまだからやる気の”や”の字も見えないが。
「……はぁ、いいよ、明日もやるかぁ」
「さすが先生!」
「その呼び方やめろ」
最初の方は俺もこれには喜びを感じていたが
何度も何度も言われると恥ずかしくなってくる。
俺たちは学校を後にした。義堂は廃工場で
俺たちがやったこととと似た工程を踏んだ
勉強をするらしいが、あんた途中から寝てた
でしょ!? わかるわけねーじゃん! と
言えばよかったのだが、俺も疲れていたため
そこまで考えることができなかった。それに
さっきも言ったが、ここまで急ぐ必要もない。
のんびりいこうぜ、のんびりと。
俺とミコは途中まで帰路は一緒だ。丁度いいし
聞きたいことがあるんだった。
「なぁミコ」
「何? 告白?」
「んなわけねーだろアホ」
「その言い草はひどくない!?」
アホだろ? 間違ったことは言ってないはず。
ただ、モラルもかけらもないのは認める。
「あのさ、俺たちの評価が低いって聞いただろ?」
「え、そうだっけ?」
「覚えとけよ!!」
「冗談冗談。生徒会長が言ってたことでしょ?」
「あぁ、あの時にミコ驚くかと思ってたんだが、
知ってたのか、そのこと?」
「いや全然」
……うん、そうだよね。こいつはもとより鈍感
だったんだ。気づくはずもn
「というかそうだろうなって思っていたから
別に驚かなかっただけだよ」
「え!? わかってたの!?」
「そりゃあねぇ。私、鈍感じゃないし」
鈍感やろあんた。霊感がそれを物語ってるよ。
「でも逆にそっちの方が私、好きなんだよね」
「え……何、マゾ? えーそんな設定あったなんて
俺知らなかったんだけど……」
「設定とか言わない! それにメタ発言は
謹んでよ! そういうのをツッコむ側の
キャラでしょココは!!」
お前も慎めよ!
「私は「厳しい状況がたまらねぇぜ!」って
言うことじゃないんだけど……うーん、なんて
いうか、前もそうだったけど私って大抵何かに
つけて立場が低いんだよね……」
「お前部長だろ?」
「ココ、私にそんな扱いしたことないでしょうが。
まぁ、それを私は何とかしようって躍起に
なっているとね……
燃える。
1から100にするよりも0から100を
目指したほうが滾るの。だから私はこの部活の
現状も全部込みで面白いって思うし、次の
テストも頑張ったらどうなるんだろうって
楽しみで仕方がないんだよね。
それに、0から100目指そうって人に
15から40を目指すなんて簡単すぎるよ。
だから、これっくらい頑張って当然!」
「…………ふっ」
「え!? そんな笑うシーン!?」
つい俺は笑ってしまった。やっぱりミコは
考えること、やろうとしていることが俺の
ドストライクを突いてくるな。
「いや、面白いこと言うなって」
「そんな変?」
「いやーミコ、お前やっぱ生粋のマゾだよ」
「えー!!!?」
「だから俺がみっちり勉強教えてやるよ。
だから明日からもガンガン頑張れよ」
「うわ、圧がすごい」




