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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
LDK
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65.部屋から出よう

「それでお前は」

「おっとぉ、そういえばあなたは我が主

 マスターではありませんか! これは

 失敬失敬! 私のこのご無礼をお許し

 下さい!」

「……」


 この男、違うな、俺がマスターだというなら

こいつは「人」ではなく俺や”ロズ”と同じ

「悪魔」なのだろう。そしてこいつはこの

満月の夜に現れた「秘密の部屋」の主だと

いう解釈でいいのだろう。それとこの悪魔は

俺の眷属だということはそこそこの上位種で

ある。だが、いつもながら名前がわからない。

能力がわかれば、ある程度までは絞り込む

ことができるのだが……


 まずはコミュニケーションをとることから

始めるとしよう。何事も会話が大切なものだ。


「久しぶりだな」

「ええ、お久しぶりですね。まぁ、そこに

 座っててくださいな」

「ああ、悪いな」

「いえいえ、マスターはマスターですから」


 俺はこの悪魔の言う通り、会議室の椅子に

座った。


 ここで一つ悪魔の外見を説明しておこう。


 まずは自分の顔の倍近くはあるであろう

上に高い白いシルクハットと、それに合わせた

真っ白に仕立てられたスーツ。そのスーツの

すっとした体格を強調するかのような長い

足と腕、そして身長。さらには動作一つ一つに

気品としなやかさを感じられる。古い言い方を

用いるとこの悪魔は「ジェントルマン」だ。

だが、それでもそれ以上に目立つのはその顔だ。

顔、というか顔がない。もちろん顔が本当に

無いわけではなく、顔を仮面で隠しているだけ

あるのだが、その仮面が顔の輪郭を保ってるのに

対して何か別の顔を模しているわけでは

ないのだ。なんというか、どこかの風景画を

切り取って、ぐしゃぐしゃっとした感じの

デザインだ。


「それにしてもここはどこなんだ」

「先ほどもおっしゃいましたよ? ここは

 ”私の空間”。”私によって作られた空間”です。

 この学校に合わせて、こんな風にしてますが

 れっきとした私の空間です。ちなみに、この

 部屋はここ以外に存在しませんので、そこの

 カーテンは開きませんよ。開いちゃったら

 ここ以外にない「何もない」を見ることに

 なってしまうので、これじゃあ矛盾もいい

 ところですから」

「……」


 となると、ここはやはり学校の廊下にあった

部屋から入って来てはいるが、この悪魔が

作り出した別空間に俺はとばされたということか。


 空間を作り出す。


 そんな芸当ができる悪魔なんてそうそう

いないし、これが幻覚だとしたらこうやって

椅子に座ることすらできるわけない。ならば

この悪魔の名はすぐに特定できる。だが……


「マスター、あなたは今、あり得ないって顔を

 されてますね?」

「仮面で俺のことをは見えないんじゃないのか」

「そんなこれはありませんよ。だってここは

 私の空間。私のできることがなんでもできる

 空間なんですから。だから今私はなんでも

 できるんですよ。そう、あなたの顔を見ること

 だってたやすいことです。それと私のこと

 ”思い出した”ようですね?」


「…………


  ……”クリエト”」


「おお、お見事です! さすがは我がマスター!

 あなたの眷属でもかなりの力を持つ私を

 それは忘れるわけがありませんよね?」


 ”クリエト(英語:CREATE)”


 かなり重要な単語であり、英語を習いたての

人でも必ず先生から覚えるように指導される

単語である。意味は「作る」「創る」「造る」

そんな意味があるが、総称してかっこよく言うと

「創造」だ。”クリエト”はその通り”作り出す”

事ができる悪魔だ。それもなんでも作れる。

こんな部屋を作るなんて造作もないことだろう。

そしてこれほどまでに強大な力を持っている

悪魔は俺の眷属の中でも珍しく、俺の眷属の

幹部の一人と言っても過言ではない。


 あり得ないというのがそこなのだ。


 俺がそんな幹部クラスの大悪魔をこんな

学校に放置しているなんてことが信じられない

のだ。そんなうかつなことを昔の俺は

やらかしているのか……?


「マスター、どーもあなたがやったことに

 対して、疑問を抱いていらっしゃいますね」

「……」

「ですが私は、あなたの思うあなたの眷属の

 一人で間違いありませんよ。私は”クリエト”。

 「創造」をつかさどる悪魔”クリエト”だと

 いうことに変わりはありません。あなたは

 ここに私を放っているのは事実です。そして

 それをここ半年近く忘れていたというのも

 事実ですよ」


 ……そうだ、俺は、昔の俺はそんなことを

やらかしているのだ。だが、こうやって思い

出すことができただけ十分だろう。それに

名前さえわかれば、この悪魔をミコンに

戻せる。


 …………?


 ……!!?


「ああ、我が主。今頃気が付きましたか?


  あなたは今、ミコンを持っていない。

 ミコンでしたら私がこの部屋に入る前に

 預かっておきましたから。それと


 「武器」になるようなものもね。


  例えば、先ほど持っていたであろう

 「携帯電話」というのも武器だとして

 没収しておきました」

「な! ”クリエト”なんで……」

「そんなん決まってるでしょう? 私が

 ミコンに戻りたくないから、それ以外に

 何があるんですか? 私はここ半年の間

 マスターに忘れ去られて考えました。もう少し

 前でしたら「早くマスター来ないかな」と

 純真無垢に待っていたことでしょう。ですが、

 私は今となっては自由の身なのだと自覚して

 います。ならばわざわざこんなミコンに再び

 縛られるなんて気持ちの悪いことはするわけが

 ありません。愚の骨頂ですよ」


 くそっ、こいつは”ロズ”と違って反対側の奴

だったのか。これぐらいどうってことないはず

だが……


 相手が悪すぎる。


 まず第一要因としては、俺の数ある悪魔の

中でも幹部クラスだということだ。もちろん俺の

眷属となればある程度の力を持っているのは

確かではあるが、別段俺と比べれば俺よりも

強い訳ではない。ただしこれも条件による。

それが第二の要因になる。それは場所だ。


 ここは会議室の見た目をしてはいるが、ここは

”クリエト”が作りだした空間で”クリエト”が

その気になれば、俺が座っている椅子が突然

なくなり、足場が全て針山に移り変わるなんて

ことをされたものでは、俺は何もできない。

仮にここで俺が自分の血をなめて、凶暴化した

ものだったら、俺は”クリエト”に問答無用で

この空間で死に目に会わされるのは目に見える。


 さらに要因があるとしたら俺にミコンがない

ことだ。ミコンがないということは俺が

この場で別の悪魔を呼んで、何とかこの場を

切り抜けるなんて芸当もできない。しかも、

”クリエト”は用意周到に俺の携帯電話も

奪ってやがった。俺がいなくなったとミコが

気が付いたとしても俺に電話ができない

事になる。いや、あのゲート自体が俺以外に

見えないため、俺がどこにいるかまでは

わからないだろう。だとしても、俺が今

どんな状況なのかまでは俺はあいつらに

伝える手段がない。


 俺が今この場でできることは”クリエト”を

刺激させないように話し合うこと。

それと……


「そうか、帰りたくないのか」

「ええ、もちろん」

「なら……っ!!!」


 俺は椅子を立ち上がり、その勢いのまま

拳を握る。そしてそのまま、拳を”クリエト”

めがけて飛ばす。俺は悪魔で”こういう”腕力は

かなりあるほうだ。だが……


 ピタッ!!


「嫌ですねぇ、こう野蛮な手段と言うのは。

 言ったでしょう? ここは私の空間だと。

 私に歯向かうこと自体ができないということ

 ですよ。それにあなたには「武器」らしい

 武器はないようですし、そんな身一つで私を

 倒せるほど、弱くはありませんよ?」


 俺の拳は”クリエト”の手のひらの上で止まった

「止まった」というのは「止められた」という事

とは違って、その通り俺の手は”クリエト”を

「殴る」ことができなかったのだ。力が抜けた

ような不思議な感覚ではあるが、これが自分の

空間にいる”クリエト”の力だということか。


「話をしましょうよ。私も暇なのですよ

 満月の日にしかこの場に現れることができない

 のですから、こうやって「人」と話す機会

 というのも少ないものでね。マスターも

 ”私にかなわない”のは理解したでしょう?

 ここはゆっくりとおしゃべりでもして満月の

 夜を楽しみましょうよ。すいませんがお茶の

 ほうはこの場に用意することができない

 のは残念ですがね」

「……ああ、いいよ話そう」

「おお、どうぞどうぞお茶が出ない分聞きたい

 ことをじゃんじゃんと聞いてください」


 話し合いでなんとかするしかないのか……?

ここで手荒な真似にでても意味がない。

それにそれ以外にも”クリエト”には聞きたい

ことはある。


「この部屋って満月の日しか出てこないのか」

「ええ、そうですね。私が満月の日にしか

 活動できませんから。そのためマスターには

 今日は帰ってもらうので。明日も満月なんて

 ことはないでしょう?」

「それで、俺の「武器」は?」

「安心してください。今は私がこの”身”で

 管理していますよ。帰りの際にそこの扉を

 抜けたら、もとにミコンも携帯電話もポケットに

 入るという仕組みになっていますからご安心を」


 なるほどな…… やはり俺がこの部屋で

ミコンを手に入れることはできそうにない。

また別の満月の日にここに来て”クリエト”に

挑んでも意味がないということか。


 いや、聞きたいことはほかにもある。


「あのさぁ、ここで、この学校で他の霊

 だったり悪魔は見ていないのか?」

「悪魔……ですか……そうですねぇ……見てません……

 かねぇ? 私がここに身構えてから

 ここから動いていませんし、そう簡単に

 他の悪魔を見る機会なんてありませんから」

「そうか」

「それよりも私が聞きたいことがあります」

「ああ、いいぞ。何でも聞いてやる」

「なぜ、マスターは私のことをミコンに今更、

 戻そうと躍起になっているんですか? 今の

 今まですっかりマスターは私のことを

 見向きもしていなかったはずなのに、こうも

 必死になっているのを見ると、どうしても

 気になってしまうというものです」

「ああ、それはこの部屋がうちの学校で問題に

 なりだしたことが理由なんだ。だから俺が

 こうやって俺が放った悪魔たちをもとに戻す

 って作業を始めたんだよ」

「そうですか、ですが私はだからって考えを

 改めるなんてことはしませんよ。だってそんな

 たかが愚かな人間の言っていることであり、

 私たち悪魔にとってそんなことは全く意味が

 ないということですよ。ただ、私がこう

 問題になっているということだけは頭に

 叩き込んでおきましょうか」

「そういえば、この部屋に他に誰か来たこと

 あるのか?」

「ええ、それはもちろん。マスターと同じ

 恰好の人たちですから生徒って人種でしょう。

 ですがその人たちにはこの場所の記憶を

 忘れてもらってますが」

「忘れる?」

「その通り。この空間は何でもできると言った

 でしょう? 記憶の改変なんということも

 できるんです。マスター、”私の空間”という

 のはそんな常識はずれなことだってやって

 のけるんですよ。ここでは私は神なのです。

 ですのでマスターにも同様、ここでの記憶を

 忘れていただきます所存で」

「……」

「以上ですか? でしたらそろそろお帰りに

 なりましょう」


 もう聞くことはない。俺は”クリエト”にこの

間に何か探りを入れていたが、やはり何も

得るものがなかった。


「それでは、次はお茶でも用意しておきますので


 また満月の日に」


 そういって”クリエト”は俺の頭をつかんだ。

多分この行為は俺の記憶を改ざんさせるために

必要なものなのだろう。これで俺の中のここの

記憶がなくなるのか……


 …………


 そうは問屋が卸さない。


 ガッ!!


 俺は頭をつかんだ”クリエト”の手を引き離した。


「何するんですか? マスター、あなたにしては

 往生際が悪いですね。早く私に記憶を改ざん

 されてもらわないと」

「いやぁ? 往生際が悪いのはお前だろ?

 最後の最後でようやくボロを出したなお前。

 よくここまでホラふけたと思うよ」

「マスター何を言っt」

「種を明かそう」


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