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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
ナン・マイ・ダー
60/445

60.何があったか聞こう

「それじゃ、オヤスミー。ほら愛いくよ!」

「りょーかいちた!」


 と言ってミコと愛ちゃんはぴゅーっと

廊下を駆けて行った。どっちが子供かわかった

もんじゃないな。愛ちゃんはさすがは姉妹と

言わんばかりにミコとそっくりで、ミコを

マイナス10歳させた感じだ。そのため

いつか”ああ”なってしまうと思えば少し

悲しくなってくる。というかもうちょっと

したらミコも姉みたいなことになるのか……

それはちょっとやめてほしいなぁ……


 それとこんなところで油を売っている時間は

ないんだった。早く部屋に戻って義堂に

風呂に入っていい(むね)を伝えなければ。


「あ、戻ってきやがったな」

「悪いな、急な思い付きで俺が先に風呂に

 入らせてもらってな」

「別にいい、んなこと。それよりもあのカメラ

 動かねぇっつったよな?」

「ああ、そういってたけど……


 動いてますねぇ……」


 こっちみんな


「義堂、とりあえず風呂行ってろ」

「おう」


 俺は義堂を部屋から出し、廊下を走った。

夜も遅く、迷惑かと思ったがそれ以上に

迷惑なことが起きていると俺の中の何かが

叫んでいた。


 俺は昼にここに一度来た。

 ミコには祟りがあると言われて侵入を

 許されなかった場所だ。


「おねーさーん!! いますかー!!?

 ここを開けないと()ちかけていること

 ばらしますよーーー!!!」


 ガラガラっ


「その脅し方は卑怯やろ?」

「動かないカメラが動いている方がよっぽど

 非道でしょうに」


 この人、御前一族のナンバーツーであり

サークル”チーム・原揺(バラユリ)”でもナンバーツーの

座を抱えるお方”御前(みぜん) 三好(みよし)”である。


「あのカメラ外していいすか?」

「え”-!! アレ本当に動かないから!!

 動いて見えたのは、ほらアレ! うち神社で

 ちょくちょく起こる心霊現象だから!!」

「聖職者が心霊現象を許容してどうするんすか!」


 ミコよりも巫女としてよろしくねぇ! 義堂

よりかこの人、愛ちゃんに見せた方がダメな

気がしてくる。


「とりあえず、外すんでここで待っててください」

「へいへい、わっかりましたよー」


 ここはさっきの流れで駄々でもこねるかと

思ったが、引き時だと判断したのか……


 …………


「他にカメラ隠してますね」

「いやぁ……隠してないよーw」

「ちょっと待てぇ!」

「それじゃ! よい子は寝る時間だから!

 いい夢見ろよーwwwおやすーーーww」

「いやいや待て待て待て!!」


 ぴしゃっつ!!


 本当に締めやがった…… ガチでミコ姉が

「腐」なことばらすぞ。って言っても

あの俺たちを見ていたカメラ以外に視認

できたカメラらしきものはなかったため

これは本人のみぞ知ることだろう。そのため

俺たちは仕方なく「視られているかもしれない

部屋」で過ごすしかない。……これって、

ある意味ホラーよりもホラーかもな。


 そして同時にミコには”ああ”なって

ほしくないと切に思った。そこは俺と

義堂の力量にかかっている。これから

別のベクトルでも部活動を頑張って

行かなければ……!


 閑話休題


俺がミコ姉との面会を済ませ帰ってくると

義堂がいた。ずいぶんと上がるの早いな。


「人んちの風呂っつーのは、なんつーか

 落ち着かねぇから、とっとと上がって

 きたんだよ」

「ああ、それで……」


 義堂は今、風呂上がりで熱いのか半裸だ。

しまったな。カメラが作動しているため

できるだけ露出の多い恰好は俺たちだけしか

いないからとやらないでいただきたかった。


 それにしても……やはり脳筋野郎の体は

すごかった。何がすごいというか、きれいな

筋肉をしているというかなんというか……


 ……はっ!? これじゃミコ姉の思うつぼ

じゃないのか……!!? 完全にあっちの部屋で

”ゴチ”になってるよね、このシチュエーション。

こんな義堂の体を見てないで早くカメラを

撤去しない……と……


「義堂、あのカメラは?」

「ああ、”動かねぇもんが動く”ってヤベェだろ?

 そいつこそ、除霊だったりとかがいるかも

 しれねぇって思ったんだが、とりあえず

 ぶち壊しておいた。それにコイツはもう

 動かねぇんだろ? だったら別にいいだろ」


 カメラはとっくに撤去されていた。撤去と

いうか排除と言う方が正しい気がするが。

これにはミコ姉も涙目だろうな…… 自業自得も

いいところだし、別に俺が心配することでは

ないな、うん。


「そいつはそうと、神前はどこ行ってたんだよ?

 俺が風呂入ってる間っつーと、んな遠いとこ

 いけるわけねぇしよ」

「そうだな……要約すると、変態に直訴してきた」

「はぁ”?」


 詳しくは言わない。言う必要がない。


「どーせ明日もおんなじ感じでやるんだろ?

 だったらとっとと寝ちまったほうがいだろ」

「そう……だな……」

「なんでてめぇ? 眠くねぇのかよ」

「あ、いやそういうわけでは」


 事実、俺は今眠くはない。俺は「半人半魔」で

悪魔としての体質も持ち合わせているのは当然の

ことではある。そのため、基本的に夜よりも昼の

方が寝ていることが多い。今日だって、本当は

昼一杯まで家で寝ている予定だった。が、そんな

昼夜逆転の生活をしていれば学校何て行けたもの

ではないため、普段はちゃんと夜に寝るようには

している。


 と言っても「夜行性」は「夜行性」であり

昼は眠いし、夜は目が覚えるものだ。


 それにこの部屋は見られている。と思う。

そんな状況下で安心して寝れるほど俺の肝は

座ってはいないさ。


 が、俺の意に介さず布団が用意された。

用意したのは俺で、義堂が先に寝ると言った

ため義堂のことを思い、大人しく寝ることと

した。俺だけが起きていて明かりがつけっぱなし

というのもおかしな話だからな。それに義堂に

とっては久々となる”ちゃんとした部屋での睡眠”

であり、それを邪魔したくはないのだ。ちゃんと

した睡眠とは少し語弊があるかもしれないが、

廃工場生活中の義堂にとってみれば、いつでも

できるような快適な睡眠は今しかできない。

そのため、そんな人間的であって人権を確保した

貴重な時間をどぶに捨てさせるような行為は、

俺が許せなかっただけだ。やはり、布団にもぐって

みても眠気は襲わないし、目が冴える一方では

あるが静かにはしておこう。


 しかし、俺もつい思ってしまう。

 俺が悪魔じゃなかったらと。


 と暇つぶしがてら考えるが、妄想は一切合切

膨らまないどころか、俺の悪魔としての生活が

長すぎてそんな夢物語を考えるほど、今の俺には

ある一種の「人間性」を失っていた。それはもう

ここ数日で取り戻せる類のものではない。20年

という月日は高校生の俺を現実的にさせるのには

十分な時間だったと言えるのかもな。


「義堂」

「あ”? んだよ」

「先生来ないね……」

「…………」

「…………」

「…………」

「好きな人とかいるの?」

「修学旅行か!!」


 暇なので義堂をからかったが、きちんと

返してくれた。義堂はいいやつだった。

前もこのセリフ言ったかもしれないが。


「なんだよ、なんか聞きてぇことでも

 あんのかよ」

「いや、特には……」


 と思ったが一つ聞きたいことはあるにはある。

しかし、”あの”反応を見るにこれについては

触れない方がいいかと思うが……


 ……いや、今しか聞く機会はない。


「あのさ」

「あ”?」

「”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”」

「……」

「なんで死んだんだ?」

「……ちっ、そいつぁ言わねぇとならねぇのか?」

「嫌なら言わなくてもいい。ただ、義堂は今まで

 人と離れて活動していたんだろ? なのにこうも

 感傷的に墓参りをするような知り合いがいたとも

 思えないんだよ」

「……」

「さっきも言ったが、言わないのも別にかまわない。

 この場で俺に殴りかかって来ても、やばいことに

 触れたんだなと俺は歯を食いしばってそれを

 受け止めるつもりだ」

「……


 ……けっ、別に話したくねぇ訳じゃねぇし、

 正直俺もんなやわらけぇ布団じゃあ、どうも

 寝れたもんじゃねぇしな」


 義堂も眠くないのかよ。


「何、俺の昔の過ちっつーかそんな感じだよ」

「過ち?」

「俺ぁ昔っからこんな野郎だったっつーのは否定する

 つもりはねぇが、だからってずっとこんな野郎って

 わけでもねぇ。まぁ……俺の昔と違うことっつったら

 俺本体じゃねぇ、俺の周りだった。昔っから喧嘩なり

 暴力沙汰っつーのは多かったんだが、俺の周りが俺と

 同じくれぇ馬鹿な連中だったってだけだ」

「……つまり」

「ああ、俺一人での喧嘩っつーのは今……ま、高校に

 入ってからしかやってねぇ。それまでは俺ぁ俺の

 ことを”認める”奴らと馬鹿をやってたんだ。

 ”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”もそんなかの一人だよ。


  中学んときの俺ぁまぁ言っちまうと悪かった。

 それも大人が指くわえてみてることしかできねぇ

 くらいな。そんで、俺は大人の常識から外れた

 存在になったっつーわけだが、それに目を付けた

 奴らがいたってことだ。それが俺の周りの連中

 っつーことだ。俺が”何を”やっても許される。

 そんな風潮があったのを狙って、俺の周りで

 「義堂を使えば何でもできる」っつー話が流れ

 始めたんだ。それで俺の周りで、俺の知らねぇ間に

 ”そういう”連中が集まった。こいつには俺も

 驚いたが、言っちまえばそいつらは俺のことを

 慕っているんだ。俺だっていい気にもなるさ。

 そして俺を筆頭とした馬鹿の集まりができた。

 そこまではまだ許せるっつーもんだよ。ただ、

 まだそんなかには”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”はいねぇ。


  ”三沢(みさわ) 直樹(なつき)”はそれで俺が馬鹿をやってる

 外で見ているような奴だった。っつーのも俺ぁ

 さっきも言ったが馬鹿でそれを「認める連中」か

 「認めない連中」の二つに分かれていた。もちろん

 「認める連中」っつーのは俺の馬鹿の集まりだ。

 そして「認めない連中」ってのが大方が大人だな。

 だが、同じ学校でも俺のことを認めない生徒だって

 いるってもんだ。”三沢 夏樹”もその一人の

 はずだったんだ。だが”三沢 夏樹”は俺に対して

 今までにねぇアプローチの仕方をしてきたんだよ。

 今でもそんときのセリフは忘れられねぇ。


 「助けになる?」だとよ。


  俺にはそんときにはピンと来るもんがなかったが

 ひとまず俺ぁ無視したんだ。だが、それでもあいつは

 しつこく俺に付きまとってくるんで、俺にかまうな

 っつー具合に突き放した。なんつっても俺ぁ校内で

 一番手に付かねぇバケモンで、それに脅されたとなりゃ

 びくつくさ。それから付きまとうことはなくなった。

 が、これで終わるわけがねぇよな。


  俺が次に”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”を見ることになんのは、

 偶然だった。俺の”周りの連中”と話していたんだ。

 何がしたくてこんなことしてんのかは分からねぇが

 どうにもありゃ俺との面会ができねぇ。なら、その

 周りの連中と話せばいいって魂胆だっただろうな。

 だがな、俺よりも”あいつら”のほうが馬鹿だった。

 何も聞かずに”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”をその馬鹿をやる対象に

 しやがった。あんときに何を言ったのか俺にゃ

 わからねぇが、”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”はいじめられた。

 なんでいじめられたんかわかりゃ俺も考えたんだ

 ろうが俺の周りの連中が俺とつるむ間に、俺以上に

 馬鹿になり下がってやがったんで、こいつは

 よくわからねぇままで終わっちまう。


  そして、俺はそん時に”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”が俺に

 言った言葉の意味を知ることになる。っつーのも

 俺がそのいじめの現場を見ちまった時に気が

 ついたんだが、俺の周りが徐々に俺を神みてぇな

 扱いをし出してたんだ。”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”はこれに

 例えると異教信者っつーことか。それで

 俺は「神」なんて大げさな扱いっつーのは

 嫌いだ。だっつーのに俺のことをそうやって

 扱う連中が増えだしたんだ。


  そんで俺は逃げた。全てが嫌になって逃げた。

 そんな時に俺に唯一、逃げ道があるとしたら

 その”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”しかいなかった。俺の周りは

 全てが敵になっちまった中、あいつだけは

 俺のことを”救おう”としていた。そして俺は

 あんときのセリフそのまま助けになっちまった」

「助けになった?」

「何、別にんな大それたことじゃねぇよ。ただ、

 俺を「神」でも「狂者」だとも見なかっただけだ。

 が、そいつが俺にとっちゃ気が楽になったんだよ。

 そんで、俺ぁ”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”と絡んでいる間に俺が

 馬鹿かますことが減った。っつってもやってたっちゃ

 やってはいたんだが、そんなことするくれぇなら

 三沢といた方が楽だったよ。なんにも縛られねぇし

 何からも気味悪がられることがねぇしな」

「だが、その”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”は」

「死んだよ。それもなんにも俺に言わずにな。


  俺とつるんでる間に多分色々と何かがあったん

 だろうな。俺の周りの連中が「三沢に俺が獲られる」

 って思い始めたんだ。そうなりゃどうなるかは

 わかるよな?」

「……ああ」

「そう、”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”はさらにいじめられた。それも

 俺が知らねぇ間に徹底的にな。そんで、さらにゃ

 俺を度外視する奴らからもいじめられていたらしい。

 そりゃそうだろうな、馬鹿の手伝いをするっつーのは

 そんだけ馬鹿なことだ。ようは”三沢(みさわ) 夏樹(なつき)”は俺を

 抜いて仲間がいなくなったんだ。が、俺はんなこと

 知ることねぇし、三沢が色々と抱えてるなんて様子は

 これっぽっちも感じなかった。だがな、それが

 悪かった。それが悪かったんだ。そんなことが

 起きているっつーのを知らずに俺ぁ余計に三沢に

 助けを求めちまった。そうなりゃ俺の周りの馬鹿ども

 からは敵対され、俺からも過度な期待をされ、

 さらにゃ他の連中からも軽蔑されたとなりゃもうあいつに

 逃げ場なんてねぇ。逃げ場なんてとっくに俺が壊してた。

 そして、そいつに耐えれなくなったっつーんで死んだ。

 こいつで全部になる」

「……」

「けっ、何黙ってんだよ」

「それで、義堂は何も思わなかったのか?」

「はっ、俺がなんにも思わねぇ訳ねぇだろ? 俺が

 唯一、一生居てもいいって思ったやつが死んだんだ。

 馬鹿でもそれがどんなことかぐれぇわかる。それから

 俺は一人になった。俺の周りで俺のことを崇めていた

 奴らを捨て、俺のことを罵倒していた奴らも捨て、

 三沢を馬鹿にした奴らをしばきにしばきまくった。

 そして俺ぁ一人になった、一人になりたくて一人に

 なったんだ」


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