57.神社に行こう
「それで、何で神社に向かってるんだよ」
「んな決まってんだろ。ミコの野郎がそう
呼んだからに決まってんだろ」
今日は学校がない日である。厳密には
土曜日で高校三年生だと模試だったりと
何かしら忙しい曜日ではあるが、まだ
一年生である俺たちにはまだまだ遠い
話である。
そして、いつもなら俺はこの日は家で
のんびりとマンガやゲームでもして過ごす
のだが、今日に限っては「異能部」部長から
直々に家への招集がかかったのだが……
「俺その話知らないんだけど……」
「そりゃそうだろうが、てめぇが休んでる
時に決めたことだからな」
「なんでそういう時に決めるかなぁ……
これでも俺、副部長だぞ」
と言っても俺にはなんとなくなぜこうやって
呼ばれたかの見当はついている。部活を作るに
あたって先にミコが話していたことがあった
のだが、
「心霊現象に関わるなら、私の力で予防の
一つや二つしておきたいね」
ということで、多分俺たちに「お祓い」
というよりは「霊障の予防」を施すために
呼んだのだろう。ちなみに、今日だけは
いつ何時として肌身離さずに持ち歩いていた
ミコンを家に置いてきた。理由はもちろん、
ミコの家……まぁ、つまりは俺はこれから
”除霊のスペシャリスト集団の巣窟”に
向かう訳で、今の俺は悪魔としての外見的な
人との違いは見受けられないにしろ、
ミコンのような外部の悪魔的な要素が
露見してしまうのは避けたいからだ。だが、
それでも悪魔だとバレるようなことがあれば
俺は尻尾を巻いて逃げるしかない。まぁ、
そんなことは今までの20年では一つも
なかったが。
「それで、ミコの家はあれだよな……」
「ああ、やっぱあれだよな……」
ミコの家はマヤの家のようにでかい
訳では決してないのだが、ある意味目立つ。
何でかというと、うちの学校の4階から
ガッツリ見えるからだ。
御前神宮はうちの町でもかなり有名な
神社で、それを物語るかのように高めの山の
中腹よりも上に建てられている。そのため、
学校の4階や屋上などの高いところからは
その神宮の全貌を見ることはたやすく、
この町の住人であれば「御前神宮に行け」と
言われても、誰でも迷わずに向かう事が
できるくらいだ。だが、こうも俺が
神社に行くのを渋っていたのが、これが
理由でもある。だって、行くの面倒だもの。
ただでさえ腕力であったりの力は、悪魔に
なってから身についたにしろ、持久力の
ような力は持ち合わせていない俺にとって
この山を登るだけのやる気はなかった。
それにさっきも言った通りわざわざ
”スペシャリスト集団の巣窟”に足を運ぶ
なんて自殺行為をする理由もない。
ということで俺たちは今、御前神宮の
入り口にいる。そして俺は今、ひどく
疲弊している。
「つーか、んな家に住んでたんだな」
「いや、御前って名前からして珍しいし、
この神社ぐらいは一回くらいは行ったこと
あるだろ?」
「あ”? んなわけねぇだろうが」
「あ、住人で行けない人ここにいた」
俺ですら行けるのに。というかここには俺が
悪魔になる以前はよく、お参りだったりと行く
ことはあったよ。
「それで、アイツはどうやって呼ぶんだよ?」
「え? そりゃインターホンで……」
あれ? インターホンがない……
こういう家の作りなのか。ならばここは……
「たのもーーーーーーーーーっ!!!」
……………
ガラガラっ
「あのさ、ここ道場じゃないんだけど」
「お、出てきやがっ……た……あ”?」
出てきたのはおなじみの我らがヒロイン
ミコ……ではなく、ミコに似た別の人物だ。
「それで、うちに何の用ぉ? まさか本当に
道場破りに来たんじゃないでしょうねぇ?」
「へっ、んなとこ道場破りに来るヤツなんて
誰もいねぇよ」
「は”ぁーん? あんた何様でここの文句の一つ
言ってくれてんのよ、ええ!!?」
顔つきとかは似ているが、完全に性格が義堂側の
人間だ。となるとこの人は……
「ってちょちょちょちょ!!! お姉ちゃん!
何、玄関でメンチ切ってんの!!?」
「小恋! 黙ってな! 今お姉ちゃんはこの
”不届きもの”に常識ってもんを教えなきゃ
いけないんだよ」
「ええ、不届きもの? ってギドー君じゃん。
それにココもずいぶん早かったね」
やっぱりこいつら姉妹か。それにしても
姉と妹、似てるようで似てないなぁ……
「で、その”不届きもの”は何て言ったの?」
「ええ? ここに殴りこむって言ってんだよ
そんな奴、うかうかとここを通すわけには
いかないでしょうが!」
「いや、それ彼なりの「お邪魔します」って
ことだよ。あれ、私の部活の部員だし」
「え、そーなの? 知り合いなのかよ」
「マジマジ」
ミコが姉をなだめてくれたおかげで、なんとか
義堂とミコ姉とのバトルにはならずに済んだ。
それよりも、どの部分がミコ姉の癪に触った
のだろうか……
「ぅおっほん! これは悪いな。私は小恋の姉で
”ミヨシ”という。漢字の「三」に好きの「好」で
”三好”だ。うちの馬鹿妹のことを学校で色々と
面倒見てるらしいな」
「いやいや、私面倒みられてないし!」
いやぁー、ミコお前は面倒見られてるぞ。
見られていないとしても、面倒を見る側の人間
では決してない。
「それで、うちに何の用なのさ。お参りだったら
あっちに行ってテキトーに済ませてこい」
「違うって! 霊障の予防に来たって前に
言ったでしょうが!」
「あー、それがコイツらか。てっきりまだ
来ないかと思ってたわ」
……この人は本当に巫女の末裔なのだろうか?
ミコがいつも「巫女巫女」うるさいからミコに
関しては巫女だと理解しているが、この人からは
その雰囲気が全く感じられない。が、ミコよりも
才能はあることだけは言える。というのも、久々の
登場となる俺の霊感診断によると、この人の霊感は
77で、これはかなり高い部類に値する。そのため
霊との干渉がやりやすいかと思われるからだ。
というか、ミコは姉に霊感全部持ってかれたん
じゃないのか?
「そいじゃ、あんたらこっち来い」
「あ、はい、わかりました」
俺と義堂は連れてかれるまま、神宮の中に
案内された。外見からはよくわからないが
こうやって見るとこの神宮は想像以上に広いな。
というか、ここは「御前一族」の総本山であり
御前の血を持つ人が全員とまではいかないが
ここで衣食住をしている……と聞いたことがある。
そうなると、やはり住むための居住スペースも
広くなっていくものか……
「あー……、ココ」
「え? なんですか?」
「ってなんでお前が返事するんだよ!? うちの
馬鹿妹に聞いたつもりだったんだが」
「あ! すいません」
ここに来て俺とミコの呼び方が”変”なことが
原因で、ややこしいことになりそうだ。
「どうしたの、馬鹿姉?」
「こいつらのこと爺に言ってるのか?」
「いや言ってないから、これから私たち挨拶に
行こうかと思ってたの」
「ああ、そうかい」
どうやら姉妹同士で馬鹿と言い合ってる
みたいだな。
「それと私のこと何、馬鹿呼ばわりしてんのさ」
「だってその通りでしょ!? そうだよね!!?
言ってみなさいよ。
”三好お姉ちゃんがバカ”か
”小恋さんが正しい”か」
…………
「「「小恋がバカだ!!」」」
いや、その聞き方だと”それ”しか答えよう
ないだろ”。詳しくは「水曜どうでしょう
四国八十八か所 完全遍路2」で検索。
閑話休題
「んじゃあとは任せたよ。私今日はどーも爺と
話したくない日なんだよねぇ」
「またなんかやったの?」
「いやぁ、いつも通り、気分さ気分。それじゃあね」
「あ、ちょっと!」
ミコ姉はそそくさとどこかに行ってしまった。ああ
見えてもミコの姉なだなぁと走り方やその場の
思い付きでの行動を見ていると思う。
「お姉さんは何? ああ見えても巫女なの?」
「うん、そりゃ一応今ここでおじいちゃんに
次いで力ある巫女だよ、あ・あ・見・え・て」
「いや、そこ強調しなくても……」
「今からちょっとそのおじいちゃんに会いに
行くんだけど…………うん……」
? どうしたんだ?
「あ”? どうしたんだよ?」
「そのー、ねぇ、結構変わり者で有名では
あるんだよねぇ……」
「んな別に部活で慣れてるぜ、んなことぐらい」
「そう、よかった……ってあれ? 今さ、部活で慣れた
って言った!? うすぼんやりと馬鹿にした!?」
なんだろう……日に日に義堂のミコに対する
当たりが強くなっている気がする。が、うん、
気のせいだろう。気のせい気のせい。それに
義堂の言ってることはあながち間違っていないし
問題はない。
……部活のパートナーとしては問題ありそうだが。
「それとさ、お姉さんに「また」って言ってたけど
その……なんだ……問題を起こしやすいのか?」
「え、全然? うちの資金がときどきお姉ちゃんの
ポケットマネーになることぐらいかなぁ……」
「それ大問題じゃねえか!」
よくそんなこと大目に見てるな!? でも、
ここのナンバーツーとなればこれくらいの暴挙でも
許せるってことなのか……
俺は許さねぇけどな。
それよりもミコ姉が言っていた爺……いや、俺が
人の祖父をこんな言い方をするのはよろしくない
から例に習って「おじいちゃん」と表現しよう。
そのおじいちゃんがミコ曰く”変わり者”だという
のが気になる。ミコが元々そうやって他人を
小ばかにしたような言い方をすることがなく、
どんな人なのか全貌がわからない。それもミコが
”変わり者”と言う程”変わり者”なのか……
あるいは、ミコの考える”変”のベクトル自体が
逆方向なのか……
それも見ればわかることだ。ここで聞く
ようなことではない。が、ある程度はミコに
聞いておいてもいいだろう。
「おじいちゃんってどんな人なんだ?」
「”変わり者”」
「いや、もっとあるだろ……」
「うーん、言ってしまえば私を”このまま”
進化させたような感じ? それも過度に
進化しすぎて、誰も追いつけないところに
到達しちゃったような……」
「それは確かに”変わり者”だな」
現代の”サルバドール・ダリ”みたいだな。
「あ、この部屋だよ」
ミコに案内された部屋は……なんというか
……厳かな雰囲気をかもしている。なんだこの部屋
これからここに入るのか俺たち……
ガラガラ
「ふん! 何者かと思えば、我が孫”小恋”ではぁ
ないかぁあ!!?」
「おじいちゃんお客さんなんだけど……」
「ほほおおう! この儂に用事とはっ!!
貴殿らは、なかなかの見込み有りと見受け
られるっっ!! ならばぁ!! ここは儂の
力を見せねばなるまいいい!!!
この儂! 最強の僧にしてぇ!!
万物を無常となり果たす者なりぃ!!
その名も”御前 剛隆”でああああある!!!
その胸に刻むがよいぃいいいい!!!」
\\\カァァーー!!(゜Д゜)///
…………
「とまぁ、あれがうちの最強戦力の僧侶の
剛隆おじいちゃん。御年92」
「うん、変だけど曲がりなりにもお前の親族だわ」
”サルバドール・ダリ”というかどちらかと
言えば”アンデルセン神父”寄りだった。




