56.隠れよう
「こんにちw……」
今日は部活がある日だというのにまだ
誰一人として見当たらない。というか、
元々誰か一人くらいはインしているほど
ギルド「異能部」はメンバーがいないし
別に驚くようなことはない。が、今までと
一つ違うこととすれば
ミコがまだ来ていないということだ。
いつもなら俺と同じクラスなのにミコは
俺よりも早く部室に入っている。そのため、
こうやって誰もいない部室をみるのは、俺が
”ノーティ”を捕まえたあの夜、一人で
「3回まで効果あり」と札に書いた時以来
初めてとなる。
屋上に次ぎ、俺にとって珍しい光景ではある。
さて、男「神前 滉樹」これを見て何も
しないわけはない。同じ部員の持ち物を見たく
なるのも事実だ。ミコは”ああ見えて”女の子で
ありさすがに見るのはどうかと思うが、同じ
男同士である義堂の持ち物を見るのは別に
気にはならない。
俺は躊躇なく義堂のロッカーを開けた。
ここで色々と留まっていたら、結局できず
仕舞いに終わるというのも考えられるし、
判断が早いに越したことはない。
さて中身は……
「…………」
なんもねぇ、なんもねぇよ。
そういえば、義堂はほぼほぼ手ぶらで学校に
やってくるため、何か物をロッカーに置いておく
なんてことはしない。いや、多少は持って来ている
のは知っているが、それは教室の机の中であったり
クラス一人一人に与えられている個人ロッカーの
中に閉まってある。そのため、部室のロッカーを
使うまでもないのだ。それに今までの義堂の
活動を振り返っても、義堂がロッカーを
使ってるという様子を見たことはないな。
ということで、今回はこれにて日常パートは
しょっぱい終わりを迎えることになった。
というわけにはいかない。それにさっきは
女の子だからいけないとは言ったものの
気になるものは気になる。魔が差すのも
仕方がない。悪魔に「魔が差す」というのは
どういう状況なのだろうか……? だが、これは
どうでもいい。俺は今から
ミコのロッカーを見るとしよう。
うん、別に前にミコも言っていたが
「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」。なら
バレないようにサッと覗いてサッと何事もない
雰囲気を醸し出せばよいのだ。
それに相手はミコだ。なんの問題もない。
ここでも俺は一切の躊躇なくミコの
ロッカーを開ける。前にも一度ちらりと見てるが
ここまでじっくり見たことはないし、あれから
何か追加で入荷されているかもしれない。
中には前に見た通りハンガーにかかった巫女服、
そして……これは……
「…………? オシャレグッズ?」
ヘアアイロンと一緒においてあることから
多分そうだ。そうに違いない。こういう
おしゃれ関係には疎いため、これが何のための
ものなのかは全くわからない。「チャ〇」とか
「なか〇し」の付録を見ている気分だ。
そしてこれを見て「あ、ミコちゃんの服だ」
みたいに興奮なんてしない。残念ながらそういう
感情はなく、あいつは俺の中ではヒロインの
扱いではないし、この小説の作者は元々可愛げの
ある女の子キャラを書くことはできない。
どんなにイラストか何かでめっちゃ可愛く
なっていたとしても作者の脳内ではミコを含め
この小説の女性キャラは「変わり種」という
認識でしかない。
そんなことよりも俺が目にしたビックら仰天の
ものが巫女服の中にあった。ええ、巫女服の中
まさぐりましたとも、はい。
そして見つけたものというのが、一枚の
紙である。メモとして使っているものだろうが
書かれている内容が実に面白い
「この私こそ、最強の巫女”御前 小恋”!!
巫女族の末裔にして、この世界の救済を願う
者なり!!
(”最強”のところは強めに言う。
”末裔”を強調しすぎるとザコキャラ感が出る
からあまり強調しないほうがいい)
ショートVer
我は最強の巫女”御前 小恋”!
(最初からドーンと行くのもok
でも終盤に向けて徐々に上げていった方が
端的に相手に伝わる)」
「なんつーもん持ち歩いてるんだ!!」
あーーーーーいたたたたたたたたたた!!!
うわ、いったーーーーーーーーーーー!!!
こんな痛快なものいっつも巫女服に忍ばせて
活動してたのかよ(笑)うわーーー
いいもの見れたわーーーーーwww
しかし、さすがは聖職者。相手の心情を
汲み取った発声や、インパクトポイントの
ずらし方が書いてある。だが、これは…………
……うん、これ以上は言わないでおこう。
しかし、こうもちゃんと書かれていたら
それはそれでその精神力をほめねばならないかも
しれないが。これぐらいなら俺の場合
書かなくてもできるわ。
「この俺こそ、最凶の悪魔”神前 滉樹”!!
半人半魔の異形にして、この世界の滅亡を乞う
者なり!!」
俺の場合はこんな感じk
ガチャッ
「こんにちw……
あれ? なんか声が聞こえたと思ったけど?
?? 誰もいない……?」
ドアが開く。そう勘付いた時には俺はもう
行動していた上、そのモーションは完璧を通り越し
人間の域を超えたものであった。思考は全て
「いかにこの場を切り抜けるか」に費やされ
その時に使った脳細胞は計り知れない。まず
この場を見られてはならない第一の要因としては
ミコのロッカーを無断で漁っていたことが
露見してしまうことが挙げられる。これは
一切の言い訳の余儀なく罰せられる最悪の
要因であるため、真っ先に解決しようと動いた。
まずはロッカーを閉じるのはもちろんでは
あるが巫女服から取り出したメモ用紙も
元に戻す必要がある。が、どのポケットから
取り出したまでは覚えていなく、いかに
スピーディなモーションでも元に戻すことは
不可能だった。そのため、俺はミコの性格を
活かす。というのも意外とこういうものは
しっかりとロッカーであったり、カバンの
中にしまうクセが常日頃から身に付いている
ことは知っている。そのため、このメモは
ちゃんとしまってあると言える場所、
つまりは”オシャレグッズ”の中にしまった。
これは勘が鋭い人物であるなら楽勝にばれて
しまう隠し方ではあるが、別段相手はミコだ。
そこまでしなくてもいい。そして問題の第二の
要因はやはり俺のさっきのセリフだ。かろうじて
俺が言ったところは見られていないようで
安心したが、部室内で聞こえたという事実は
変わらない。そして、その部室にいた唯一の
人物である俺がいたとなれば、完全に俺が
「私は最強のry」の下りを言ったということが
バレてしまう。ならば、ここはその聴こえた
セリフを「気のせい」だということで昇華させる
他ない。そして俺はさっき義堂のロッカーが
空なことは知っているため、隠れるのであれば
最高にして最良の場所だという判断のもと、
義堂のロッカーに飛び込んだ。その動きも
一切の無駄なく、さらには俺のカバンもロッカー
内に俺と一緒に隠すほどの余裕を魅せた。
カバンについては俺が先にいて、トイレか
何かで外出しているという言い訳でも付ければ
何の問題もないように見えるが、これもまた
「俺が先にいた」という既成事実をもみ消す
のに必要なことだ。仮に俺が先にここにいた
と分かれば、巫女服に入っていたメモが違う
場所にあるという謎の現象が俺の仕業だと
バレる可能性も考えらえるためだ。
さて、ここまで長々と書いたが、別に
何かすごいことでもない。単に、ロッカーを
漁っているのを見つかりたくなくて義堂の
ロッカーに隠れただけだ。その動きが
ハンパなかっただけで。
「うーん、ギドー君もココもいないのか」
いや、ココこと俺はもういてロッカーの
中にいるよ。不本意ながら……
「けど、ずいぶんと私の今回の登場遅いから、
裏でギドー君かココが何かやってるかと
思ってたんだけど、部室でやってたわけじゃ
ないのかな……」
そんな小説の量的な質で俺の行動パターンを
読もうとするなよ!! それされたら何も
太刀打ちできないし、今作一の害悪なメタ発言に
なりかねないぞ。
「ま、いいや。とりあえず着替えよ」
え
ちょ
ま
え
ロッカーの隙間からミコが見える。どうも
誰もいないと思っているようで、ロッカーの
隙間に常設した「お着替えコーナー」で
着替えようとはしていない。これは色々と
まずい。なにがとは言わないがまずい。
これは本当に俺がここにいたってばれたら
大変なことになるぞ。だからってここから
出ていくわけにもいかないし、ここはミコの
着替えシーンを見なければならないのか。
い、いや、べ別に興奮してるわけじゃねーよ!
これはべべ別に俺が予想してたことじゃねーよ!
一回くらい、こんな「ラッキー助辺」があっても
いいんじゃね? って作者の思い付きで
こんなことになっちゃっただけだからな!!!
いいな!!!
とまぁ言い訳はさておき、女の体のあれこれ
にはめっぽう興味がないのは事実だ。現に下着
だけでたたずんでいる幼女体系の女の子を
見ても何も思わないし、あれはミコだと思えば
全く興味もそそられない。いや、ミコは前にも
言ったが、学年内でも比較的にかわいいと噂
されるだけのルックスは兼ね備えている。が、
性格を知ってしまった今では、可愛いの一言も
あいつにかけることはできない。
人は見た目よりも中身だよ、中身。
それと、やはりミコは素肌を見る限り
どうにも同じ高一だとは思えない程幼い
体つきをしている。と言っても俺はもう
30代なのだが、見た目年齢は高一ぐらい
ではあるため大目に見てくれ。足は華奢で
すぐに折れそうな雰囲気ではあるが、太ももの
むっちりとした質感がどうにも幼く見える。
そのうえ、胸もあるようには到底見えない。
一応ブラを付けてはいるが「それ要ります?」
と言いたくなる程ちっさい。Aはあるとしても
Bまではないかと思われる。
なんで女性の胸のサイズについて俺が
ここまで詳しいかというと、作者がわざわざ
これを調べるためだけに近所のデパートの
女性下着店を徘徊したからだ。店員さんに
「気持ちわるっ」みたいな目で見られたのは
かなり心に来ましたとも、ええ。(作者談)
しかし、こうやってまじまじと見てみると
やはり今作のヒロインというだけあって
”見た目”は非常に可愛らしい。体格も華奢で
どことなく守ってあげたい感があり、顔も
幼さが残っているせいでもあるかもしれない
って、興味ないって言ってる割に
けっこうガッツリ見てるな、オイ!!!
「? 誰だ!?」
!? 気づかれたか……?
だが俺はさっきから声どころか音一つ
出していないぞ。何故気づいたんだ……?
これが「視線を感じる」というやつか。
だが、これはばれるのも時間の問題だ。
早く何とかしないと……
「この雰囲気…………貴様! 悪霊だな!!?」
「……」
え、えー、そういう判断下します?
「だがこの私の目の前に現れたことを後悔するが
よい! なんといってもこの私こそ、最強の巫女
”御前 小恋”!! 巫女族の末裔にして、
この世界の救済を願う者なり!!」
とロッカーに向かって言い出した。さっき見た
メモで同じセリフ聞いたぞ。それと悪霊がいる
前提でロッカーに向かってそのセリフ吐くのか
お前!! まさか、ここまで頭ぶっ飛んだやつ
だとは思ってなかったわ!!
「隠れても無駄だ!! 姿を現すがよい!!」
まずい! ロッカーを開けられる流れだ!!
あ、そうだ! こういう時こそ眷属に匿って
もらえばいいのか。俺はこそっとカバンから
ミコンを取り出し、誰にも聞こえない程の
小声で言う
「*****************」
「”憑依召喚・ロz……」
しまった! ミコは前にロズの「透明化」を
見破ったことがある。今ここで俺に”ロズ”を
取り憑かせても意味がない!
「乙女の着替えを見る悪魔めぇぇぇ!!!
覚悟おぉぉぉぉぉ!!!」
やめて! それ俺の耳が痛い!
ガチャン……!!
………ん?
どうやら開けたのは俺のいる義堂のロッカー
ではなく隣のロッカーを開けた。なんとか
今は助かった……って、
隣のロッカーって俺のロッカーじゃねーか!
なに、何の躊躇なく開けてんだよ!!?
さっき、俺も躊躇なく開けたけどさ……
「あれ? いない」
当たり前だ。いたとしてもお前は見えないし
それ理由に俺のロッカーを覗くでない阿呆が。
というか人のロッカーを開ける前に先に
服を着ろよ、あのご自慢の巫女服を。
「ん!? 心の声が聞こえる…… そうだね
先に服だけでも着よっか」
えぇ!? 俺の心の声聞こえたの!?
それはそれである意味怖ぇな!!
ここからじゃミコの様子が見えないため
今ミコが何をしているかわからないが、
同じくロッカーを開ける音が聞こえたから
自分のロッカーから巫女服を取り出し、
着ているところだろうな。しかし……俺は
いつまでここで待ってなきゃならないんだ。
これに関しては自業自得、極まりないが。
ガチャッ
「うーっす……ってあ”? ミコてめぇどうした
んだよ。神前のロッカーなんて開けて」
「!!? あ”ギドー君!!? いや!!
ここに悪霊がいたと思ってさぁ!!」
「だからって人んロッカー開けんなよ」
義堂が正論を言っている。ミコに言ったと
思うが俺の心にも響くものがあるな……
それとミコが今焦っていたわけは俺の
ロッカーを覗いていたからではなく、多分
さっきまで下着姿だったからであろう。
残念だったが義堂はミコのいやらしい姿を
拝めることはできなかったようだが、
ロッカーの中から俺はしかと見届けたぞ
「ココはまだ来てないんだよね、いつもは
こんなに遅くなることはないんだけど……」
「あ”? そりゃ。ってそれよりもミコ、
とっとと下の赤いスカートみてぇなの
穿けよ」
ってまだ着替え終わってないんかーい。
「…………」
「どうしたのギドー君?」
「あ、そういや夕霧が「異能部」の部長を
生徒会室に呼びたいっつってたぜ」
「え? なんでそんな急に」
「知らねぇが、行った方がいいんじゃねぇか?」
「あ、ああ! そうだね、ギドー君も一緒に
行かない?」
「ああ、行くか」
ガチャッ
バタン
これはロッカーの開閉音ではなく部室の
ドアの開閉音だろう。ここから部室内に誰も
見当たらないし、もう出ていいだろう。
ガチャン!!
俺はロッカーを勢いよく開けた。その
拍子にうっかり転んでしまったが。ふぅ……
よくわからないが義堂がミコと一緒に外に
出て行ってくれたおかげでなんとかなっt
………………………
「あ、出てきた」
「んなことにいたのかよ神前てめぇ」
ロッカーから出てきたとき、俺のことを
待っていたのは部室から出て行ったはずの
義堂とミコだった。ミコに関しては、携帯で
俺のこと様子をムービーで録っている。
「あ、あれ? 生徒会長が呼んでるって……」
「んな嘘に決まってんだろ。神前てめぇを
呼び出すためのな」
嘘。
「いやー、ギドー君が言わなきゃ全然気が
付かなかったわー(笑)」
「けっ、んな注意すりゃ別に誰だってわかるぜ」
あ、あれぇー……なんで気づいたn
「へっ、なんでバレたって顔してるな。
カバンもねぇからぜってぇバレねぇって
思ってたんだろうが、ちいと詰めが甘かったな」
義堂がそう言うと、ミコが玄関を指さす。
玄関というよりは玄関の靴…………あ。
「ここに神前の靴があるっつーのに、部室に
神前本人がいねぇとなれば疑うぜそりゃ」
「ってことはココは私が来る前からずっと
この部室にいたってことで、私の着替えてる
ところも見てたんでしょ?」
「神前てめぇ、部長の着替え見たのかよ!!」
「いやいや、別にいいよギドー君。いつも
みたいにあそこで着替えなかった私も悪いし、
それに「面白いもの」も撮れたしね(笑)」
そう言い、俺がロッカーから飛び出して
驚愕と恥辱にまみれた表情をむき出すまでの
1分ほどの動画を見せられた。俺はこういう
ときに場を考えた行動ができるような人物
ではない。ゆえに俺は
取り乱した。それも尋常なく。
「うわあああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああん
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
義堂とミコのおたんこなすーーーーーーー
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あ! ちょっと! 今日の部活はー!?
それとそのセリフ古いよー!!?」
俺は気がついたら部室を飛び出し、廊下を
突っ走っていた。その途中「どうした」と
誰かが言っていた気がするが、そんなことに
気が回るほど俺の心は落ち着いていなかった。
こうして俺は「異能部」に最悪の弱みを
握られ、この日から俺は学校を休むことと
なった。
3日程度。




