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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
空に笑えば
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54.屋上に行こう

「って、ずいぶん遅かったな神前」

「ああ、ちょっとな」


 俺は今、屋上にいる。どうやら屋上の鍵は

本物だったようで、昨日マヤがさらに俺たちの

裏をかいて鍵をすり替えていたなんてことは

無かった。それをされている可能性はゼロでは

無かったため今の今までびくびくいていた。


「それでミコは……ここにいないようだが」

「ああ、あいつなら……」


 義堂は屋上の奥を指さした。屋上とはいえ

面積も広く、それに暗いため遠くまでは

見ることはできなかった。無論さっきも

言ったが暗い方が目がいいのは事実だが

視力にも限界というのがある。


「今は「謎の五階」の情報を探してるんだとよ」

「それで屋上中を探しているってことか」


 わかり切っているとは思うが、今日は五階は

現れず、屋上はちゃんと屋上として健在した

ままだ。これも何かしらの条件があるだろうが

それは後々研究していかなければならない。


 そして、念願……と言う訳ではないが、学校の

屋上はかなり胸を躍らせた。理由なんてない。

学校でも数少ない人物しか行けないであろう

場所に立っているという事実だけでも、十分

胸を躍らせる理由になる。


 しかも今日はあの学校祭と同じ、綺麗な夜だ。

あの日は雲ひとつなかったが、ポツリポツリと

雲が空を飛んでいる。これはこれで情緒あふれる

いい景色だ。月が隠れるように雲が飛ぶ姿は

悪魔の俺も「おお」と感嘆の声をあげたくなる。


「んで、謎の五階っつーのは今日は出なかった

 わけだな。こいつも満月になりゃ出る代物……

 っつーわけでいいのかよ?」

「いや、わからない。ただ可能性は高いだけだ。

 他にも要因があるかもしれないし、それは

 まだまだ分からないさ。でも、こうやって

 屋上に行って”いつでも”探索できるだけでも

 進歩だと思うぞ」

「けっ! んな夜に学校なんざもう行きたく

 ねぇよ、ったく」


 俺もそう思うが「異能部」の活動はこれが

正式なもので、今後もこうやって義堂に色々と

つき合わせる方針だ。覚悟しておけ。


「つーか、そいつは何だよ。さっきの缶だ

 っつーのは分かるが、なんだその札は」

「これがその…… 部室に貼ってあった札で、

 ほら見ろ、ここに「三回まで効果あり」って

 書いてあるだろ」


 部室に貼ってあったのは嘘ではない。いや

本当は嘘をついたはずが、本当だっただけで

嘘をつく気は満々だった。が、もちろん

「三回まで効果あり」なんて言葉は札に

書いてなかったため、そこだけは俺の手書きで

なんとかごまかした。ここの部分だけ筆圧が

違ったりと違和感があるが、現場は真っ暗だし

そこまでは見つからないだろう。


「それで何か見つかったのか? 例えば、

 プロジェクターがあっただとか、何か

 アブナイ幻惑を見せる薬があったり……」

「さっきからこっちに来ねぇみてぇだし、

 見つかってねぇんじゃねぇか?」

「やっぱり」

「もっと何か進展あるって信じてやれよ。

 ああ見えて部長だろ、アイツ」


 ”ヴァンダー”に近辺探査を頼んで、白だと

とっくにわかりきっているため、ここは

驚かない。というか義堂、お前うちの部長の

こと「ああ見えて」ってどう見えてたんだよ。

ミコの評価、全般低いのかよ。


 だが何も見つかっていないという話も何か

おかしな話だ。さっきの”ノーティ”にしろ

何かに憑いている可能性が高いと思っていた

ため”何も”ないとなるともっと別の要因が

考えられる。あぁ、めんどくさいなぁ……

それも調べないとならないとは。


「しっかし、ここに来んのも久しぶりだな。

 前はこんな感じじゃなかったっつーのに」

「? 前にここに来たことあるのか?」

「ああ、もういつだったか思い出せねぇが、

 夕霧のヤツにここに呼び出されたことだけは

 覚えてる」


 会長がここに呼び出した?


「何か話でもあったのか?」

「んな決まってんだろ? こーゆー人のいねぇ

 場所でしか話せねぇことっつったら一つしか

 ねぇだろうが」

「あ、告はk」

「しばくぞ」


本当にしばきかねない声のトーンで言われた。

すまない。この小説をイケない方向に話をもって

いきかけていた。危ない危ない。


「あれだ、俺の力を使って抗争を(しず)めるっつー話を

 されたんだよ。今となっちゃなんで夕霧が屋上の

 鍵を持ってたんかわからねぇがな」

「ここで話したのかそれ?」

「あ”? そりゃな。前も言ったがあの抗争は

 誰にも知られずに終わらせるつもりだった。

 が、てめぇにバレた上に余計な事してくれた

 おかげで無事何とかなっちまったったがな」

「それで、その時と違う雰囲気というのは

 どういう風に違うんだ? 唯一、ここの

 昔の様子を知ってるんだからかなり重要な

 ことだと思うぞ」

「あ”? あー…… なんつーかな…… こんなに

 居心地わりぃ場所じゃあなかったな。これが

 あれか? 霊の仕業とかっつーことなんか?」


 さすがにこれは確証が得られないし、義堂の

感覚からはそう感じたということでいいか。

だが、確かにここは”何かが”おかしい。何が

とは言えないが、悪魔の俺からしても変な場所だ。

屋上という場所が珍しいからというのもあるが。

これはそういうことじゃない。義堂の言う通り

前と比べて違和感があるわけではないが。


 ここが綺麗すぎるからだ。


 普通、垂れ幕を下すみたいな用事がない限り

立ち寄ることが不可能な場所だ。だというのに

ここはカラスの糞どころか汚れ一つとして

見当たらない。それこそ用務員の人が念入りに

掃除をしてくれているならば、これに関しては

納得がいくが、そうは考えられない。だが、

俺はそんな事象の霊障なんて聞いたことなく

正直「おてあげ」だ。


 義堂は平均ではあるが、霊感は持っている。

これに反応して”違和感がする”ということ

なのか……? だが、それも今は”ヴァンダー”の

調べで霊らしきものはいないと分かっている。


 ここまで五階を作り出すだけの力を持つ悪魔

というのは、そうそう現れないし、現れるとする

ならば俺のミコンからぐらいだ。だが俺は見当の

一切もつかず「おてあげ」だ。


「ギドー君!!」

「お、帰ってきやがった」


 ミコがこっちに向かってくるのが見える。

よく巫女服と草履姿(ぞうりすがた)で走ろうと思うな。


「あ、ココ遅かったね」

「ああ、ちょっと手間がかかってな。それで

 何か進展らしきものはなかったのか?」

「うん、残念ながら」

「そうか」


 「物」での霊障へのアプローチは無駄って

ことなのか……だが、これ以上ここに滞在するのは

あまりよろしくはない。時間ももうすぐ12時を

越えようとしているし、俺と義堂はいいにしろ、

ミコの家の人が心配しかねない。ここはいったん

撤収した方がいいだろう。どうせ鍵は持っているし

いつでもここには来れる。


「12時になりそうだからそろそろ俺たちも

 帰らないとならないし、一先ず今日は屋上の

 鍵と部室の鍵を入れ替えたってだけでも

 成果ってことにしないか?」


 俺はさらに”ノーティ”が報酬としてあるがな。


「って!!? 12時!!? もうそんな時間!?」

「え、今まで気づかないで動いてたのかよ」


 そういえば、さっき義堂もミコも携帯の充電が

切れたって言ってたな。ミコは一応、学校には

腕時計はしてきているが、巫女服には似合わない

という理由から部室にほったらかしてある。


「うーん、それなら仕方ないか……そうだね、

 撤収しようか。私はまだしもギドー君もココも

 家に帰らないと家の人が心配するかもしれない

 からね」

「…………」


 それさっきお前に言ったヤツや。義堂の家の

事についてはミコには言ってなかったか。

そういえば、こういう秋口とか真冬はあの廃工場で

どうやって過ごしていたのだろうか……?

ま、どーでもいいけどな。どーでも。


「んじゃ、私が締めのあいさつを……」


 えー、締めのあいさつとかするのか。

それって必要なものなのか?


「もちろん「時は来た!!」とか「我が力!!」

 って言ったのは私で、やっぱり終わりにこれを

 締めるのも私じゃないと」

「いらないなぁ、その心意気は……」


 それといつものツッコミになるが、またこいつ

俺の考え読んだな。なんか久しぶりに読まれた気が

するが、だからって驚かない。驚いても仕方がない。


「はい!! ココ!! ギドー君!!

 今日は部活動お疲れ様!!!」


 ミコさんや、それ忘年会のあいさつや。


「それでミコ、成果の一つか見つけたんかよ」

「そりゃもちろん……いや……今回の調査で我々は、

 いや、今回も……くっ……何の成果もっ……

 得られませんでしたぁぁ!!」

「「んな急に、ネタに走らんくていい!!」」


 俺はミコが言ったことにツッコむ以前に

義堂が意外とそれをネタと理解したことに

驚いた。マンガ、意外と知ってるんだな義堂。

と言ってもかなり有名なマンガだからな、アレ。

この小説とは比べ物にならないくらい。


「私が無能なばかりにっ……ただいたずらに鍵を

 へし折り、”学校七不思議”の正体を突き止める

 ことが、できませんでしたぁぁ!!」

「そうか」

「あのー、ネタにはネタで返してほしかったな」


 残念ながら俺は「私が無能なばかりに」って

フレーズでうんうんとうなずいてしまった。

その通り。ミコ、お前は無能だ。人としては

強みはあるだろうが、巫女としては全くの

無能だ。


「ということで、仕方がないので……」


 そういうとポケットから何かを取り出した。

ってそれさっきの煎餅(せんべい)じゃねーか。さっき

喰ったんじゃねぇのかよ。


「それでその煎餅をどうするんだよ」

「ふふーん、ここに煎餅(せんべい)が3枚ありますが

 私たちでこれを食べたいと思う!!」

「「なんでだよ!?」」

「いや、だってさ、屋上でワイワイおやつとか

 食べるって結構夢(けっこうゆめ)あることだよ? これだけは

 今やりたいし、本当はお弁当持って来て食べる

 って工程もやりたかったの。でも時間もそうだし

 色々とタイミングというのがあるから、ここは

 煎餅(せんべい)で妥協しようかと」


 あぁ、なるほどね……ってなるかぁ!?


「いいぜ、そいつを渡せミコ」

「はい、どぞ」


 あー、これ俺もやらないといけないヤツだ。

なんでこういう時にだけ義堂はノリがいいんだ。


「はい、ココ」

「俺には返事なく渡すのか」

「まーま、ええじゃないか。それじゃ……」


 ミコが俺たちのことをちらちらと見てくる。

俺と義堂はミコがこれで一体何をしたいのかは

察しがついている。


「せーの」


「「「いただきまーーす!!!」」」


 俺も義堂もこれに付き合わされてると

思うと大変だな。それに対してミコはずいぶんと

楽しそうだが、こうもにっこりと笑って

見せてると何事もどうでもよくなるな。

ここは何も考えず、この煎餅(せんべい)を食すと

しようか。


 ムニッツ…………


「「「………………」」」


「これ、しけってるね……」


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