52.ネズミを退治しよう
「貴様、この吾輩の強大なる力に怯えておるな
ガッハッハッハ! 愚かだな人間が!!」
「いや、とりあえずその出っ歯しまえ」
自称ネズミの霊(以後、ボスノーティと記す)は
どうにも女子トイレにあった自分の骨が何者かに
持ち出されたことに気づき、ボスノーティの巣
である女子トイレから出てきたようだ。ちなみに
ボスノーティというのはわが国日本が誇る最大の
ゲーム会社である「N〇ntendo」から発売された
ゲーム”スーパードンキーコ〇グ”の一面ボスだ。
ノーティというビーバーの敵キャラの大将という
設定らしい。そしてこれは作者が初めてやった
ゲームであり、こうやって小説を書いている最中
「あー懐かしいなー」と親戚のおじいちゃん家で
ポチポチとスーファミのコントローラーを
延々と触っていた思い出にはせている。
「ずっとゲームばっかしない!」と親にさんざん
怒られた記憶もよみがえって来てなんだろう……
なんか泣けてくる……
うわー、ノスタルジーーーー
「神前、どうしたんださっきから」
「あ、ああいやなんでもない」
このボスノーティは義堂には見えていない
ようだ。義堂にも霊感はあるのだが、それも
平均程度しかないため、見える霊と見えない霊と
二分される。ボスノーティは後者に当たるのか。
「人間! この吾輩と相対しているというのに
何を別の人間と相対しているのか!!」
さっきから度外視してしまっているが見た目
ボスノーティのこいつも悪霊の一種で、俺たち
「異能部」の敵である。だがそれも俺からして
見れば別にどうってことない敵の一人だ。
それにボスノーティで1面ボスの実力は
たかが知れている。本当の戦力は知らないが
印象でそう決めつけている。
「そんなことはないよ。ただよくもまぁ
ずっとこんなところで成仏せずにいたなと」
「貴様のような男は初めて見る。吾輩と対等に
話そうという度胸は認めてやろう」
「だからその出っ歯しまえ」
「それで俺たちをどうしたいんだよ。まぁ、
あんたの骨の回収はなんとなくわかるが、
話し合いで解決しようものなのか、あるいは
悪霊よろしく取り憑いて力づくで解決しよう
ものなのか……」
「ふん、貴様は何もわかっていないな。吾輩は
死をもって亡霊と化した身! この吾輩、
話し合うことで解決しようだという考えは
甘えにすぎぬ!! 貴様は吾輩をここまで
視認できるというのであれば、さぞ吾輩の
力を体感することとなるだろう!!」
フラグ乙
「ミコ、ほれ」
「え?」
俺はポケットに忍ばせていた屋上の鍵を渡す。
「俺は少し部室に用があるから先に屋上に行ってて
いいぞ。一応危ないから義堂も一緒について行って
くれ」
「そのネズミは?」
「これを”処理”するのに部室にいいものがあった
はずだからそれを取りに行く」
「いいもの?」
「そうそう、俺しかわからないものだから隠して
あったからな。まぁ、後で俺も屋上に向かうから」
「え? 何があったの?」
「…………
”札”」
「ちょっと待って。あの部室大丈夫!!? それと
その”札”って使いまわしていい代物なの!!?」
相手が巫女なだけあって反応が素晴らしい。
”札”と言った時には「あ、やべっ」とは思ったが
言ってしまったからにはこれで話を通すしかない。
「ああ、部室のロッカーの後ろに隠れるように
貼ってあったんだ」
「へ、へぇー」
「それを使ってこの缶を蓋しようかと。それに
その札に”3回までOK”って書いてあったし」
「すごい効力の札だね」
軽く霊3人分を殺るだけの力を持つ札。
自分で言っておいてこれはすごい札だな。
「んー、じゃあ早く来てねココ」
「わかった」
ミコは部室を出たとき同様、一目散に走り
去っていった。義堂は「待ちやがれぇ!」と
叫びながら追っている。まだ廊下が怖いのか。
「ほう貴様、仲間を逃がす選択をしたか」
「…………」
「だが、それが正しい。そうでなくてはさらに
犠牲が増えていただろう……!! ではこの
私の力を見せt」
「話し合いで解決しよう」
「さっきまでの威勢はどこ行った」
結果は余裕のよっちゃんいかで俺の勝ちだった。
そりゃもちろん俺は悪魔の中でも上位種で、
最近悪霊になりたてのひよっこに負ける
わけはない。それにこいつはボスノーティだ。
何をどうあがいてもボスノーティで1面ボス並の
力しか本当になかった。もっと俺の予想じゃ
苦労しそうだったが。とはいっても上の
空欄の行数が7行ではなく、10行になるか
どうか程度に過ぎないけど。
「それで、話し合いというのは何を話し合う
つもりなんだよ」
「いやいやその前にあんた何者だよ!!?
ただの人間って”あんな”ことしておいてまだ
人間だなんてほざくか!!?」
「イエイエ、ワタシハー、ニンゲンデスヨー
アイム、ア、ベリーベリーヒューマン」
(嘘つけー!!)
”あんなこと”というのは俺が悪魔を召喚した
だけなのだが、召喚の仕方がまずかった。
というのも俺が出したのは”プレシア”という
悪魔で、それを”俺自身”に憑依させたのだ。
”プレシア(英語:PRESSURE)”
呼び方は魔法少女を連想させるが、英語から
分かる通り使う能力は「プレッシャー」。つまり
威圧だ。俺は”プレシア”を身に付け、目の前の
ボスノーティを脅しただけだ。だが、さすがは
我が眷属。上位種に仕える我が優秀なる眷属だ。
威圧程度でこれくらいの霊は屈服させるだけの
力をもっているというわけだ。まったく、
楽な仕事ったらありゃしない。
「そんなことはどうでもいい。どうせお前は
踏まれて俺にバナナを献上することになる」
「え? なんでバナナ!? なんか吾輩のこと
別のキャラにかぶせてるな、貴様!!?」
まぁ、できれば前回のハリーの流れのまま
”ケルベロス”が出てきてほしかったな。なんで
ただただ、はねて突進してくるボスキャラが
出てきてしまうのか……
ちなみに、俺はボスノーティの攻撃手段を
知らないまま戦いが終わったため実際はどんな
攻撃をしてくるのかはわからない。だって、
威圧しただけで俺勝っちゃったもん。そんな
攻撃の隙すらなかったさ。
やられる前にやる。ではなく
やる前に殺る。これが俺の流儀だ。
ハンデもクソもあったもんじゃない。
「で、俺のことはいいとしてこの後、俺と
話し合ってどうするんだ?」
「もちろん、その缶の中のものを返してもらう
これに限るが……」
「…………」
”ヴァンダー”がこいつを見逃したのは仕方が
ないとして、ここで一つ疑問が浮かんだ。
なぜこいつは”学校七不思議”にないんだ?
まさかボスノーティが”トイレの花子”だと
間違われて解釈されたとも考えにくいし、義堂が
こいつを見ることができなかったのと同様、誰にも
見られることなく居座り続けたわけもなさそうだ。
なら、”学校七不思議”の一つに含まれても変では
ないし”巨大ネズミ”みたいな見出しで広まるのも
待ったなしなのでは?
こいつは憑依型の霊だ。が、これは憑依という
よりかは肉体に憑依しっぱなしだというほうが
正しいだろう。成仏され、本来ならこのまま天国
あるいは冥界に行くはずが、何かしらの強い思いで
肉体から出かかった状態で魂が踏みとどまった。
それがこう視認できる状態になった感じだろう。
ここで急な補足なのだがボスノーティがさっきから
流暢な日本語を話しているように見えるが正しくは、
日本語を話していると言う訳ではない。霊となった
今は、こいつらはざっくりいうと”テレパシー”で
話しているようなもので、テレパシーに言語の概念は
はなっから存在しない。
「地域や文化で言葉が変わる」のは人に限った
話で、犬やサルですらどこでも言葉や
コミュニケーション手段は変わらないだろ?
もちろん「悪魔・霊」も同じってことだ。
「それでぼっこぼこにされた奴を話に持ち込む
だなんてかなりリスキーだけど、俺も悪魔
じゃないし救済の条件ぐらいは話してやる」
俺は穏便に済むものなら穏便に話を進めたい。
さっきのボスノーティへの”仕打ち”はそれに
必要な工程だと思っててくれ。
「その条件というのは、この中身を俺に預ける。
そして、このh」
「そ、そんな、なら吾輩は」
「話は最後まで聞けよ」
「いいや、吾輩の拠り所を失うというのはさすがに
吾輩も黙ってはいn」
「はい、すいませんでした。話を聞きます、はい」
「どうしたぁ? 俺何かしたかぁ?????」
いやー、話が通じる相手というのは非常に
コミュニケーションがとりやすいなー。
「この骨を俺によこせっていうのはあながち
間違っていないが、その骨をどうするかが
重要なんだよ」
「と言いますと?」
このボスノーティ、急に敬語になったな。
俺は体に憑いたままの”プレシア”をミコンに
戻し、そのままミコンをボスノーティに
見せつける。
「これを見ろ。これにその骨を取り込む。
そうすればお前をそのまま残したまま
生きながらえることができるんだ」
「貴様、それはミコンでは?」
「チガウヨー、ホネヲトリコメルタイプノ
テチョウダヨー。イッツ、テチョー」
「…………」
「それは置いといて、お前この話を聞いて
それでも俺に歯向かうか? このまま何も
することもせず女子トイレの片隅でうじうじ
過ごすよりかは、ましな選択かと思うが」
「…………断る!
吾輩は悪霊であり、絶対なr」
「はい、なります、なりますとも」
「よし、よく言った」
エ? オレガナニカシタカッテー?
ナーンニモシテナイヨーボク、ヤサシー。
「それで貴様の眷属になるということか」
「ま、そうだが………… お前、何か得意な事とか
何かないか」
ここで本作主人公の追加設定である「使役」に
ついて語らなければならない。言ってしまえば簡単
なことだが、これ自体に特に何か難しい条件がある
訳ではなく「対象が”認めれば”自分のものになる」
それだけだ。ちなみに、これは死んだ霊や悪霊に
該当した話ではなく、まだ生きている対象でも
可能だ。俺はそんなことはせず、もう死んでいる
奴らにしかこれは言っていない。理由は簡単で、
「そんなことを安直に信じる奴らがいるはずない」
という見識からだ。
これをすると何が起こるかというと、まず
メリットとしては”力が強くなる”ことだろう。
上位種の俺の眷属になるわけで、俺の力の一部を
受け継ぐということだ。そのため今出せる力を
はるかに超えた力を行使できる。さっきぼんやり
言っていたが”ヴァンダー”も元々は、この
ボスノーティと同じく悪霊だったが、俺が「使役」
したため、今は俺の眷属として活躍しているが、
俺が関わる前は、もう消えかけるほど力を
失いかけていた。そこに俺が介入したことで
力をある程度取り戻してはいるが。
逆にデメリットはというと、ボスノーティの
言う通り”霊という実質自由な存在から束縛される
身に戻される”ことと”力の一部を失うこと”だ。
人は何かに束縛される生き物だ。社会や人間関係、
極論を言えば肉体にも束縛された奴らだ。だが、
一度それのすべてから解放されたとなれば自由だ。
人でいたときよりも自由な存在になる。その
至福の状態を手放すわけだから誰だって毛嫌い
するのは仕方がない。そしてもう一つのデメリット
”力の一部を失う”というのは詳しく言うと
”能力を限定した一つのみしか持てなくなる”
ということである。”ゲイジー”や”ヴィーハ”も
元々は何か別の能力を持っていただろうが、俺の
眷属になったことで”ゲイジー”なら「凝視」、
”ヴィーハ”なら「背後」と言った具合に、特化した
一つの能力だけしかもてなくなる。万能な悪魔
というのは存在しない。フレンズによって得意な
ものは違うとはこのこと。
「ということだ。わかったか?」
「ってこれ吾輩に言ってたの!!?」
だって形式的にはこれはれっきとした契約で
その契約の内容をちゃんと伝えるのは主人として
当然の務めだ。インフォームドコンセントを
ちゃんと守らなければならない。
「それでちゃんと聞いてたか?」
「なんでこんなことで疑われているのか……いや、
聞いてたけど…………ほほう、なるほどそれで
吾輩の得意なことは何かと」
「そうだな、それだけを残してすべての能力を
奪うってことだ、いいな」
「うわぁ、悪い顔してる」
「うるせぇ! 霊にまでそれ言われたくないわ!」
結構昔から気にしてることをえぐるんじゃない!
「吾輩、ネズミなもので得意な事というのは……
しかし、こうなった以上貴様に仕えるのは
癪に触る……」
「あ、いいよ別に。どーせ、俺が勝手に
お前眷属にするから」
「え」
「************************」
「えええ、ちょっと待って待って待って!!!
あれぇ!!? 眷属になること認めなくちゃ
いけないんじゃないの!!? 吾輩まだ……」
「それがなぁ………… その認証に必要なものが
”声明”か”肉体の一部”なんだよ。お前は確かに
認めるとは言ってないが…………
あれれーー? おかしいなーーー???
こんなところに骨があるなんてーーー???
”肉体の一部”だよなこれ?
だったら契約は成立だな!!!!
我、神前 滉樹によって命ず
救い無き魂よ、この紋を讃え、
我が同胞に加わりたまえ!!」
「待ってぇーーーーーーーー!!!!!」
缶の中にあった骨が青白く燃えだした。そして
その炎の揺らぎとともに俺のミコンが光り、
たちまち炎とともに骨は消え、目の前にいた
ボスノーティも遺言を残し消え去った。
って、結局あいつ何が得意かわからないままだ。
……ま、いいや、一件落着! これにて終了!




