51.探索しよう
「どこの韓国の軍隊だよ」
「お”そ”い”よ”おおおおお」
これまた「細かすぎて伝わらないモノマネ」
ネタをぶっこんですまない。文面では分かり
づらくなってしまってるが、これは韓国の
愛国歌といい、母なる国をたたえようという
意味を持つようだ。ミコは無論、生粋の日本
生まれの日本人だが。
「正直、校庭から「とんへー」って聞こえて
ビックリしたからな」
「一応、あれ”厳しい状態を必死に耐える”もの
だからあれで使い方はあってるよ」
「でもこんな真夜中に外から歌が聞こえるって
けっこうホラーだろ」
四面楚歌の逸話みたいだな。
ということで俺と義堂は校庭に一人取り残した
ミコを拾い上げるため校庭にいる。俺たちがここに
きたとき、ミコは体育座りで縮こまり「とんへー」
と歌っていた。その前は「13区のジェイソン」
よろしく「1000から7づつ引いていた」らしい。
よほど精神的にヤバかったんだな。義堂の携帯で
マージャンやらなきゃこんなことになってなかった
ということでミコに全責任を押し付けたが。
「んで、鍵は返したけどこれからどうするんだ?」
さっき”ヴァンダー”に見回ってもらい、今は
悪魔はいないことは分かっている。だが、活動は
活動だ。何もせずに帰るわけにはいかない。
「そりゃあここに何しに来たと思ってんの?」
「部活に決まってるだろ」
「ならやることは決まってるでしょ。これは
屋上に行くしかないっ!!」
「なんでだよ!!」
それフィニッシュじゃないの!? てっきり
終わりにやるようなことかと思ってたよ。
……が、俺はこの学校で”今”できるようなことは
ない。ここはこれに乗っかっても問題ないだろう。
それでも俺たちの活動を度外視してはならない。
ここはそれなりの活動を提示しておこう。
「屋上行くのはラストだ。でも屋上行くまでに
色々と教室を回って”学校七不思議”について
調べるのもいいだろう」
「っつーことは、俺たちはこのまま屋上に
向かうってことか?」
「ああ、でも直接向かわずできるだけ大きく遠回り
しながら行くことになるが」
ってあれ? なんで屋上行く話にいつの間に
なってたんだっけ? 行きたくないわけではないが、
行く理由もないというのに……
「よーし! そいじゃ「異能部」活動開始!」
「しーーっ」
今は忘れがちだが、深夜で一般にはここに
いちゃダメだ。そのためできるだけ事速やかに
動きたいため、大きな声は控えてもらおう。
それに俺たちは生徒会室に侵入した実行犯だ。
何かの間違いで、それがバレたら二度と夜の
学校には入れなくなる。それだけは避けたい。
とりあえず、秋真っ先りの今は夜になると
より冷え込みが激しくなる。特に、ミコは
巫女服と草履といういかにも寒そうな格好だ。
さっきから寒そうなそぶりも見せているし、
早めに学校に入ろうか。
「それで、どっから見ていこうか」
「まぁ、とりあえず……って”学校七不思議”って
なにがあったんだっけか」
「”謎の五階”から”校庭の秘密の地下”までだね」
「ああ、わかった…………
ってその間を教えろよ!」
残りの5つを教えろよ! いや”動く銅像”は
解決しているからもういいけど。
「まぁいいか。一階から探索するか」
”学校七不思議”の中にあり、それでいて俺の
最終目標である”見つめる女”だけは場所を指定
していないため学校の隅から隅まで探す必要が
ある。”ヴァンダー”は学校内の俺の眷属しか
探していない。ゆえに、あの女の霊は俺の眷属
ではないため俺が自力で探す必要があるな。
「”見つめる女”……だっけ? それは確かどっか
指定の場所に居座っているとかではないし、
徹底的に学校内を探す必要があるしな」
「ってwww知ってんじゃんwww何でww
さっき聞いたの、ココwwwwwwwww」
「ぶちのめすぞオイ」
さっきの泣きっ面撮っておいて、何かしらの
「弱み」にしてやりたかったわ。
先に言っておくがこの霊は今日は見ることは
できなかった。無論、一階に限らず二階、三階、
四階、まぁ最終的に行くこととなる屋上にも
いなかった。今日はさっき言っていた「条件」が
揃っていなかったということだろう。
一応、あの日は体育館で見つけたため体育館に
よく出るだろうとは思うが、どうにも体育館に
限らず現れるだろうと踏んでいる。というのも
”見つめる女”という名前から察するに体育館で
待ち続けている霊ではなさそうと判断した。
それに義堂はまだしもミコはこれに関しては
全く戦力にならない。理由は……察してくれ。
「あれ? いそうな雰囲気はあるんだけど……
お化けさんいないみたい……」
嘘つけ。ここに”お化けさん”は誰もいないし
そんな雰囲気はするわけない。それとお前は
霊感皆無だろ。雰囲気を感じるはずもねぇよ。
時刻はもう活動を始めてから1時間半近く
過ぎていて、時計は11時を指している。
良い子は寝る時間だ。俺たちは悪い子なので
まだまだ頑張るけどな。だとしてもさすがに
遅すぎると部活としての活動が問題視される
どころか「こんな部活を野放しにしている」
と言われ、学校側の問題にもなりかねない。
屋上に行くなら早めに行動しなければな。
「うし、それじゃ分かれて探索するか」
「え」
うわぁ、ミコがあからさまにヤな顔してる。
そりゃさっき一人にしないと言っておいて、
見事一話と半分ほど一人にさせているからな。
「いや、俺じゃ探索できない”学校七不思議”
あるだろ?」
「え、何?”秘密の部屋”と”賢者の石”?」
「んな”学校七不思議”なかっただろ。それと
俺は魔法使いでもないしここはホグワーツ
じゃねぇよ。いや”トイレの花子”って女子
トイレにいるもんだろ? だったら、俺が
そこに行くわけには行けないだろ」
「別にそんなのは……どうせ誰もいないし、
そこにケルベロス出てくるわけでもないs」
「もう”賢者の石”はいいんだよ!!」
どんだけワーナーブラザーズ推すんだお前。
同じネタが通用するほどギャグというのはそう
甘くはないのだよ。
「そうだぜ、それに俺はチェスのルール知らねぇし
ミコてめぇも論理パズルできねぇだろ」
「義堂も乗っかるのかそのネタ」
もういいんだがそれは……って義堂お前の
ポジション、ロンかよ。ミコがハーマイオニー
なのは女の子だからという理由で分かるが。
じゃあ俺がハリーか? 並外れた勇気と精神力で
60点もぎ取るポジションじゃないだろ俺。
「でも女子トイレには入るのは流石にな……
だからミコにそこはみてもらおうかと思って」
「あ、女子トイレに入りたくないんだネビル」
「誰がネビルだ」
確かに女子トイレに入るのを止めようとする
素振りならネビルポジだわ。60点どころか
10点(決勝点)分の価値しかねーじゃん。
それと、ミコにこう告げておいて何だが
”トイレの花子”はどうやって見つけるのだ……?
ミコは霊を見れないのであればもちろん花子さんも
みることはできない。見るにはやはり俺か義堂が
入るしかないのか……? でも、これに関しては
急ぐものでもないし後回しにしようか。ひとまず
ここはミコに3階の女子トイレに行ってもらい
その間に俺と義堂は”秘密の部屋”をしらべよう。
「本当に分かれて探すの……?」
「いや、ここから先(女子トイレ)は俺たち男は
行くことのできない「聖域」だからね」
女子トイレを「聖域」という表現を用いた人は
今さらになって天才だなと思う。下賤な考えを
持つ男を「悪魔」に例えて、それらを寄せ付けない
「聖域」という表現はあながち間違っていないし、
これで”なるほど”と理解できる点が素晴らしい。
って語ってるけどコレ単に女子トイレの
言い方のぼかし方についてだからな。
「俺と義堂は3階で”秘密の部屋”を探すから
一通り女子トイレ見終わったらここで待ってろ。
だからまた、ビービー泣くなよ」
「泣かぬ」
「……」
なんで今、武士対応だったんだ?
まぁいいか。パッパと3階を回ってここに
戻ってこないとな。泣かないとしてもまた
「とんへー」と歌いだしかねないからね。
「それじゃ義堂行くか」
「おう、んじゃ気ぃ付けれよミコ」
別にミコは霊感0のため何か気を付けるような
ことは起きるはずはないんだけどな。
そして、俺たちはその部屋を見つけることは
結局できなかった。片っ端から3階の教室を
開けていったのだが、それらしい部屋に行きつく
ことはできず仕舞いであった。これもまた条件が
関係しているのだろう。
「そういや、部屋がどうこうっつったがどんな
部屋かもわからねぇのかよ」
「そりゃあ”その部屋に入ったら二度と戻らない”
ってことなんだろうな。そうじゃないと何が
”学校七不思議”だよって話だし」
これについては多分、何かしら記憶に作用する
悪魔・霊が関係しているかと思われる。というか
そこまで情報が絞り込んでいるというのに
俺がどんな悪魔をここに放ったのかも思い出せない
のはさすが記憶力の欠損にひどすぎる気もする。
俺の脳細胞も30年の年月で衰えているのか?
いや、そんなことはない。あってたまるか!!
「多分だが、数日しないうちにその部屋が出て
来そうな気がするんだよなぁ」
「あ”? なんでだよ。また例の勘ってわけじゃねぇ
だろうな」
「数日の間に満月になるだろ? そういうときって
こういう怪奇現象が起きやすいって言うし」
事実、確かに悪魔は満月というものを好む。単に
月のパワーをもらって強くなるなんてどこぞの
セーラー服のヒーローのようなものではなく、
設定上の問題だ。悪魔というのは前も言ったと思うが
この世界の条理に反した存在である。ゆえにそれは
自然に発生したものということでなく、何かしらの
外部からの干渉がある。その外部の奴らが悪魔という
存在を作ったときに「満月を好む」という設定を
付け足したというのが正解で、狼男なんかがいい例だ。
そして同時に「悪魔」という存在は人の生き方、
性格、恐怖心、満身などで本来は生活している。
つまり、その人が「満月が好き」だと設定づければ
悪魔はそれに準じた存在になり果てるが、これが
多くの人々に派生したことで「悪魔は満月が好き」
なんて設定が常設されたのだ。俺は”人”でもあり
”悪魔”でもあるハイブリットタイプな存在であり
満月で強くなるなんてことはない。でも、
満月は力どうこうとは関係なく綺麗で
好きではあるさ。
3階をぐるっと回ってまた女子トイレの前に
着いた。女子トイレの前にはミコがいた。
「あ、ミコどうだった?」
「なんもいなかったよ」
そりゃそうだ。
「あるとしたらこれくらいかな?」
「?」
女子トイレにあった謎のものだと言って
俺たちに手のひらサイズの缶を見せてきた。
「? これがどうしたんだ?」
「うん、ほらこれ見て」
そういうと缶をパカッと開けた。中に
何があったかというと……
「ネズミ……の骨?」
「誰かが見つけてここに閉じ込めておいて
そのまま放置してたっぽいんだよね……
可哀そうに」
これはどこにあったかと聞くと、洗面台の
下の収納スペースの奥の方だと言っているし
ミコの考えている放置したというのは大方
当たっていそうだな。しかし、よくまぁこんな
ゲテモノを触ろうと思ったな。ってそういや
ミコは巫女でそういう死生観にはちゃんと
境界線を引いている上、実家が神社という
のも含め、こういう”もの”に触れる機会も
多いのだろうな。
「これどうすんだ?」
「どうするってもちろんうちに持って帰って
成仏させるに決まってるでしょ」
「ああ、そりゃ当たり前k」
…………!!
俺は言葉を失った。それはミコのこの心意気に
感動したとか、ネズミを見て感傷的になった
なんてことではない。ミコの後ろの女子トイレから
何者かが覗き込んでいたからだ。そして
そいつは人じゃない。人ならざる何者かだ。
「貴様、何者だ」
「その骨の主だ」
そういうと女子トイレからぬっと体を出し
俺にその全貌を見せつけた。しかもその大きさは
ネズミなんて小柄なものではない……がこれは……
「吾輩は死せぬ魂の根源、貴様らは吾輩の最後の
領地すら奪おうというのか!!?」
「ボスノーティじゃねーか!!!!」
「え!? 何、どこに1面ボス出たの!?」
できればまだケルベロスが出てきてくれた方が
絵面的にまだよかったなぁ…… こんな飛び跳ねて
攻撃しかできなそうなヤツじゃあねぇ……




