47.種を明かそう
ミコに最後の希望を託し、マヤの監視を
潜り抜け屋上の鍵を手に入れるはずだった。
そのために俺はマヤをミコから離し、俺と
対話する機会を”無理やり”作り出し、
ミコの考えの準備の時間を稼いだ。その間に
ミコがなにをしたのかというと、手に入れた
鍵をぽっきりとへし折ることだった。そして
手違いで破損した鍵を直すということを
理由にして鍵の所有権を、一時的に自分の
ものにする……はずだった。
結論から言うと、その作戦は失敗に終わる。
そのわけは、監視の目が見つかる以前から
厳しかったからだと言える。マヤは想像以上に
俺たちに疑惑の念を抱いていたらしく、その
せいあって俺たちの”怪しい行動”を全て
見続けていた。そのためミコが故意に壊した
ことも一瞬で解明され、俺たちの思惑も
最後の最後でオープンになってしまった。
だからと言って俺は感情的にはならない。
第一、俺はそういうキャラじゃないし、ミコに
俺が荒ぶっている姿を晒したくないのも事実だ。
今、俺とミコはしぶしぶ帰路についているが
俺の本心は、すぐにでも横にずらりと並んだ
針葉樹に一発けりをぶちかましたいくらい
煮えたぎっていた。
「ココって結構、こう見えて感情的だよね」
「は? 俺が感情的だって?」
「もうさっきから顔が楽しいくらいに
ひきつったり、眉をひそめたりしてるから」
ええ……そんな顔に出てたの……? それが
本当ならさっきの「俺は感情的じゃない」って
記述は撤回しなければな。それと、これまた
顔に出ていないが感情むき出しの表情を
見られて恥ずかしいです。はい。
「うーん、100%成功すると思ってたん
だけどね……」
「現実味がないって言ってた割に、すげえ
自信があったんだな」
「そうだね、80%は成功したし」
成功にパーセント表示があるわけない。
とおもったが、なんで80%?
「はい? なんで80%?」
「ほれ」
ポイッ
チャリン
ミコは俺に向かって、鍵を投げてきた。
あれ? この鍵って……
「ほら、屋上の鍵だよそれ」
「え? なんで持ってるんだよ。さっき
へし折った鍵は……」
「あ、あれはうちの部室の鍵だよ
分かってると思うけど、うちの部室って
いっつも開けっ放しだから別にいらないかなぁ
……と」
マジかよ!!?
「ほんとうは壊したって言って、部室の鍵も
回収するはずだったんだけどマヤちゃん
すごく私たち疑ってたから回収は諦めたの。
って言っても最初っから”エサ”として使おう
って考えてたし、別にいいでしょ。それが
ちゃんと回収できていたなら、正真正銘
100%成功だったんだけどね……」
……や、ヤルゥ……
俺はそれしか言えなかった。要は最初から
屋上の鍵をマヤに渡す気はなく、部室の鍵を
ダミーとして渡すつもりだったってことか。
それにさらにマヤの目をくらますために、
壊した責任感を使ったということだ。流石に
俺でもこれは分からなかった。すごいじゃん!
「というか、現実味ないって言ってたけど
なんでだよ。今更だから言えるが、この
作戦は十分に効果的だったはずだろ」
「そりゃあ、鍵を壊せるか壊せないかに
かかっていたからね」
なるほど、今鍵を持っている人は挑戦してみて
ほしいが、普通鍵というのは簡単に折れるような
やわなものではない。学校用につくられたなんか
持ち手が長い鍵ではあったが、女子一人の
力でどうとなるわけがない。でもこの巫女は
バールで柵壊せるんだよなぁ……
「壊れなかったらどうしようかと思ったけど、
偶然今日”これ”を持って来てたんだよね」
「?」
そういうとカバンからずるりと長い鉄と
プラスチックでできた電子機器が出てきた。
俺は持っていないが、年頃の女の子なら
一つは持っているだろうものだ。
「それって」
「そ、”ヘアアイロン”! これ使って鍵を
熱したら曲がりやすくなるかなと思って
やってみたら案の定、簡単にクニッって
曲がってくれてよかったよー。それにしても
すごいね”ベンズ”って座席にコンセントが
あるなんて」
「ああ、確かにすごいがその言い方じゃ
「数学で出てくる”かつ”とか”または”で使う
なんかたくさん重なった丸」
みたいだぞ」
「それ、言葉にするとわかりにくいね」
高校数学の最初のほうで習うのだが
これでスムーズに伝わる人はいるのだろうか。
漢字で書くと”ベン図”と書くアレだ。
「いやもう大変だったよ! アイロンあっつい
まんまカバンに入れてたから膝にカバンを
置いてたら足があっついことあっついこと!」
冷ましていたらバレていたから仕方がない
として、それはどうも体を張りすぎじゃないか?
「でも、鍵は手に入ったからナイスだな。って
よくもまぁそんなこと思いついたな……」
「ふっふーん、私をだぁれだと思ってるのさ!」
いや、ミコですけど。
巫女のミコですけど……。
「最強の」とはいわないにしても巫女ですよ。
「そうそう、私は巫女で”宗教関係の人”って
解釈してくれてればいいよ」
なんで、ここで宗教の話が出てくるのかと
最初は思ったが、なんとなく考えているうちに
ひとつの俺なりの結論は見出した。が、それを
巫女であるお前が言っちゃうのか。
「ねぇねぇ、人にさ「宗教」を教えるときって
どうやって教える?」
「どうっていっても……」
「まぁ、わかっちゃいると思うけど
「神様信じたらハイだいじょーぶ!」
「だから、入信して尽くしてくれ!」
……なーんて言ってついて来る訳ないよね。
だから、こういう職業の人たちってのは
言い方を変えたり、何かそれなりの対価が
あるように見せたり、時にはとびっきり嘘を
付いたりもして、相手を丸め込むんだよ」
「……それって」
「私もね、なんとなくそういう技術が日ごろの
生活で身に付いちゃってるらしく、言葉で
誘導したりするのは得意だったりするの。
……ま、出会って早々ココに
惨敗してるけどねー……」
ミコは前に自分が巫女だと周知させるべく
嘘の霊の情報を流し、それをあたかも
自分が祓いましたと豪語しようとしていた。
が、こいつの霊感は0でそんな能力は
持ち合わせていないと見破ったのが、
この俺ことココ。「半人半魔」のココだった。
「実を言うとね……マヤちゃんみたいな人ほど
こうやっていつの間にかだまされているって
ことが多いんだよね」
「……それは、なんとなくわかるな」
マヤはさっきも言ったとおり、自分の判断に
絶対的な確信を持っている。”必ず”当たる。
”必ず”これはブラフだ。という具合に
どんなことにも必ずという言葉がついている。
だがな、この世界そんな甘くはできてない。
必ずなんて存在しないし、ましてはそれを
完全に信じきっちゃもうだめだ。
……ってことをミコは経験で知っていた。
きれいごとを並べることに関しては、群を
抜いて秀でていた「巫女」は知っていた。
だからこそ、ミコはただ単純に屋上の鍵を
部室の鍵にすり替えるなんて手の抜いた
ことはせず、鍵にも種を仕込んでいた。
マヤは完全にその種に乗っかった。
つまり、その鍵の種だけを明かして
「満足」してしまったのだ。ミコはそうなる
ことを予想していたのだろう。
「甘いっ!」
ミコはボソッとそう言った。さっき
マヤが俺たちに向けていい放ったように
”英嶺一家”の屋敷の方向に指を指し
高々とそういった。さっきマヤに
そうされたように……
まったく、この部長が生徒会長の
”お気に入り”っていうのも理解できる。
「あ、それとさ」
「?」
「私が時間を稼いでっていったときに二人で
何話してたの? 私の呼び名だけであんな
5.6分も時間は取れないでしょ」
「あー、っとだな……」
言えない。俺がミコと付き合っている疑惑が
あがっていたなんて言えるわけない……
言ってもいいんだが、それはそれで何か俺に
後ろめたいものがあるし、どうしようか……
「……って、どーせもうどうでもいいし
とりあえず、明日は夜の学校に行くよ!」
「? 急に意気込んでなんかあったか?」
「なんでって、部室の鍵を取り戻しによ。
あれが屋上の鍵だってバレる前にササッと
回収しちゃいたいわ」
「あ、なるほど」
本当に俺たちには休みという概念は
ないんだな。もっとのんびりと過ごしたい
というのに。
だが、これはこれで悪くはないな。
今までの人生から見ればだいぶ悪くはない。




