44.場所を聞こう
”英嶺 麻綾”
それが彼女の名で、副会長ではなく生徒会
メンバーの一人ではあるが、立場的には書記に
当たる人物だ。そして、うちの学校の創始者を
祖先にもつ、れっきとした大富豪である。で、
俺たちは生徒会長に副会長の住んでいる
場所を聞いたはずがなぜかここに辿り着いた。
今俺とミコはここに辿り着いた理由を尋ねる
べくこの富豪娘とクッキーを食べている。
「一応、あの学校の”スポンサー”ってことも
あって、生徒会はもっちろん! いろーんな
生徒の個人情報をもってるの」
「ん? それってプライバシー保護の範疇内の
はなしなのか?」
「”ぷらいばしーほご”? ……よくわからない
けど大丈夫じゃない?」
それ本当に大丈夫か?? 今のセリフで
めちゃくちゃ不安になったんだが。クッキー
モグモグしながらだからより不安な印象を
抱いてしまう。なんだそのアホ面(笑)。
ちなみに言ってしまうとこの富豪娘は
ミコとどっこいどっこいの身長でかなり
勉強に関していえば上位陣にいるヤツだ。
だからといって、副会長に匹敵するかと言えば
全然そんなことはない。と言っても相手が
相手なだけでかなり頭はいい。だが副会長は
それのはるか上を行くだけの頭脳の持ち主だ。
スーパーコンピューターと頭のいい人を
比べるもので、不毛すぎるということだ。
「それで、副会長の家の場所を聞きたいって?」
「まぁ、そういうことだな」
「それってさぁ、本当は生徒会長がやるべき
仕事なんじゃない?」
「確かに」
だから、生徒会がやる仕事だからと先に
俺に忠告してあったのか。もっと詳しく
話してくれればここまで俺たちはこの家に
がちがちに緊張して入ることはなかった
というのに……。
「いやいや、俺たちは「異能部」として前に
生徒会の仕事の手伝いをしてたろ? その
ながれでその……垂れ幕の回収をしようか
と思ってね。それに、今この学校で俺たちが
動くような事件らしい事件は起きてないし
言っちゃ悪いが仕事がほしいってわけ」
「ふーん、なるほどね。……ま、私たちの仕事が
減るってだけでもやったぁ! って感じだし……
うん、いいよ」
「あ、ありがとうな」
「でも! 条件がひとーつ!」
条件? ってなんで俺は人ん家に行くために
こんな苦労しなければならないんだ……!
「条件?」
「さっきも言ったけど、個人情報を渡すわけ
だからね。副会長の家に行った後この
”記憶抹消剤”を飲むことよ!」
「「怖いわ!!!!」」
「冗談よ」
あ”-! ビックリしたぁー。リアルに
カプセル剤もって説明かましてたから
ガチかと思ったわ。ってなんでそんな
カプセル剤パッと出てくるんだよ!?
「でも条件はちゃんとあってね、私も
その「お見舞い」に同行させてほしいな」
「え、なんで?」
「いやだって、やるとは思ってないけどその
時に屋上の鍵を預かるんでしょ? 勝手に
持ち出してスペアとかつくられたら面倒な
ことになるからね」
「ああ、そうだな」
( ・Д・)(・Д・ )……
俺とミコは少しの間、お互いを見合った。
互いに考えたことは同じだったようだ。
(どうしようか……。このままこの人の
息の根を止めた方が……)
(ミコ、早まるな!)
そっちの方がいろいろとマズイだろ。
だがこのままだとマズイということは
変わらない。本来なら、副会長から
鍵を預かって、その帰りにふらっと
合鍵を作りに行こうとしていたというのに
まさか生徒会の一人が同行することと
なってしまうとは……
「い、いや、別にそんなことはしないし。
それにほら、住所さえ教えてくれれば
俺たちだけで行けないこともないから……」
「そう言っても、私もお見舞い行きたいし……
だって同じ一年生同士で同じ生徒会同士って
なったら……ねぇ」
あ、そうだった。ミコにもこれと同じ理由で
断れなかったんだった。それを持ち出しちゃ俺は
太刀打ちはできない。というか太刀打ちする
言い訳を思いつかないという言葉の方が正しい。
「それはそうと遅くなっちゃ、行くとなっても
失礼になっちゃうからぱっぱと行きましょ!
……ってあれ、行かないの? ずっと座りっぱなし
だけど?」
「あ、ああ、そうだな、いかないと」
「? ずいぶん片言だね」
俺たちはこの富豪娘をつれていく必要が
ありそうだ。これは面倒なことになったなぁ。
状況を整理するとこの富豪娘から副会長の家の
情報を聞き出さないことには家に行けないし、
その情報の条件として一緒に連れて行くことが
提示された。他の副会長の知り合いから聞いた
方が効率的に話が進みそうだったが、相手は
あの副会長だ。他人と壁を隔てている奴の
知り合いなんてとうにいるとは思えないし、
その人物を探していた方が時間がかかる。
だが、そっちの方が俺たちの目的は……
と思った矢先、富豪娘は口を開く。
「言っておくけど、副会長の家については
私も詳しくは分からないんだよね」
「は? なんで逆に家の場所がわかるんだよ」
「それが”うちの特権”だからよ。言うなら
うちは「個人情報を扱う企業」と思って
くれればいいわ。それは学校でも社会でも
おんなじで「私たちに情報を預ける」ことで
「絶対安心の保護がかかる」ってこと。
だから私も知らないし、副会長からも
家とかの情報は守ってほしいって念を
押されてるのよ。だから道中はうちの車で
送ってもらうことになるの……かしら……まぁ
そこはどーでもいいけど」
なるほどね、この一家が主に扱っているのは
「情報」ということだ。実に現代的な商品
じゃないか。情報を売買することで利益が上がる
ことが近年周知されてきたのは最近のことでは
あるが、この一家はそれを先に見越してこれを
商品としてラッピングを始めたというのか。
卓越した目を持っているというか、なんというか。
ちなみに、”英嶺 麻綾”の得意科目は
”政治経済学”であり、これに至っては”得意”を
通り越して”特異”ともいえる。
だが、これで分かったことが一つ。俺たちは
やはりこの富豪娘を介してでなくては副会長に
会うことができないということだ。ここまで、
ビジネスの一つとして確立している一家が
外部に情報を垂れ流しているとは思えないし、
それが副会長直々に念を押されているというと
なればよほどだ。
「ほらほら! こんなことはどうでもいいから!
早く行くよ!!」
「わ、分かったって!」
「あ! それともう一つ!
私のことはタメ口でいいこと!
私のことは”英嶺さん”とか”麻綾さん”
って呼ばない!! ”マヤ”と呼んで」
「「え」」
「だって同じ一年生でしょ? なら生徒会に私が
所属していたって立場は変わらないってものだし
敬語とかって嫌いなの!」
身長といい、この名前に対する執着といい
ミコと気が合いそうな気がしてきた……。なんだ
かんだ言ってミコは今、生徒会メンバー内の
重要人物と仲が良くなる可能性を持っている。
俺は、全くお断りだが……




