41.閉幕しよう
「ちょっ! ココどこ行ってたの!?
もう始まっちゃってるよ」
「あー悪い悪い」
あの後、”リア”を足から引きはがし
3人をミコンに戻して大急ぎで校庭に
向かったが、やはり間に合わなかった。
それもそうだ。「始める」っていって
用意したんじゃ間に合うもくそもない。
ミコは一人でいた。他の仲のいい
クラスメイトは……前に自分のプライドを
ズタボロにしているんだし、一緒にいる
訳はないか。この閉幕式は一応、クラス
ごとにまとまっておくということには
なっているが、祭りのテンションでこれを
守るほう生徒の方が少なく、例年この
規則だけは先生方、生徒会も黙認している。
それで、ミコもここではなくもっと
どこか別の場所にいるんじゃないかと
思っていたのだが、一人で定位置にいた。
「……ミコ」
「どうしたのココ? なんか捨てられた
猫を見るようにこっち見て」
「……」
俺はさっき”ヴィーハ”と”リア”に
宣言しただけあって、「一人か?」なんて
気の利いたセリフをいうことなんて
できなかった。
「あ、ココもしかして……
……まさか友達いないの?」
「お前、ぶっ飛ばすぞ」
うるせっ! もともと俺は人と関わる
つもりなんてないし、さっき”ヴィーハ”と
”リア”に宣言しただけあってこれから
友達なんて作る気はないよーだ! ふーんだ!
「それと状況としては同じだろ!!
お前も今友達と一緒じゃねーじゃん
ぼっちなのはそっちもだろ」
「違うわよ! 今たまたま友達が別のグループに
行ってて私だけ残されてるだけだもん!」
「そのグループに入れてない時点でもう、
お前がハブられてるのは確定してるぞ!」
また俺たちはこんなところでガミガミと
醜い言い争いをするのか。それとすまん!
生徒会長! 今あいさつの途中だけど
全く話を聞いてないです!
「前もいったでしょ? 私は”作ることでしか
自分を表現できない”って。そんなダメ人間と
仲良くしたいだなんて誰も思わないのも
わかってる。だから……」
「そいやぁ!!」
ベシッ!!!
「あいたぁ!!」
俺はミコに投げつけた。それもかなり大事な
ものであろう物を。
「ちょっと! 結構シリアスな展開だったのに
何、その雰囲気ぶっ壊してくれてるのよ!?」
「それ、返すよ」
「え?」
俺が投げたのは”御守”だ。昨日ミコが
俺のためにって渡してもらったヤツで、
その小袋には「円満」と書いてある。
「確か「円満」は他人と仲良くなれるんだろ?
だったらこれは俺なんかが持つようなもの
じゃないし、俺はこんなものなくても
大丈夫だ。だからそれもって行って来い。
大事な学校祭くらい楽しめよ」
「……これ、実は一番ココに受け取って
ほしかったのに」
「え? そーなの?」
「ミキちゃんを助けるって言った時に
お礼をするって言ったでしょ? だから
何かしてあげたいなと思って作ったのに……」
あぁ、そういえば言っていたな。確かに
なにかお礼はすると言っていたのは覚えている。
が、「なんでもする」とは言っていなく非常に
残念だ。なにが残念なのかは言わないが。
「いいよ別にそんなこと考えなくて。友達って
いうのはそーゆーものだろ? だから、言っちゃ
悪いがものに頼るのも一つの手だろ?」
「……でも」
「大丈夫だって。ミコお前は最強の巫女なんだろ?
そんなことでくよくよするわけないよな」
「……そしたら、ココがただのかわいそうな人に」
「俺のことはもういいわ!! ここは何も言わず
それもって立ち去るシーンだろ!!」
この巫女はどこまでもテンプレをぶち破るな。
だからこそ面白いヤツと言えるんだけど。
「でも、ありがと。わかった、ちょっと行ってくる。
ま、どーせすぐ帰ってくるしねここに(笑)」
「(笑)じゃねぇーよ! いけよとっとと!」
ミコは俺の投げつけた”御守”を握ってどこかに
行ってしまった。さすがにどこに行ったのか
まではみてなかったが。
「あ”やっと見つけたぜ、神前」
「義堂?」
義堂は違うクラスのはずでわざわざこんな
場所にくる必要は無いはずだが……
……あぁ、義堂もそういえば……
「チッ、ったく誰も知り合いがいなくて
暇でしょうがねぇ。だから神前てめぇを
探してたんだよ」
「やっぱりか」
うちの部活、友達0のやつらしかいないのか。
どこぞの「隣人部」だよ、オイ。
でもこれは使える。
俺はボッチじゃないアピールができる。
だが、義堂は忘れられているかもしれないが
俺たちと同じ1年生ではあるが、ダブって
いるため一つ上の先輩だ。だから、その
昔の友達というのもいないものなのか。
と、考えるのはそれこそ失礼に当たる。
人には人の生き方、常識がある。それを
たった2か月ちょっと知り合ったヤツに
触れられるというのは嫌なものだ。
「って義堂、知り合いはいないのか?」
とりあえず、ぼかして聞いてみた。
ぼかしてない気もするが。
「あ”!? 馬鹿にしてんのかてめぇ!?
ちゃんといるに決まってんだろ。そうだな
例えば、夕霧だなまず。あとは……あぁ
喫茶店で俺のことを”指名”したやつか?」
「会長はいいとして、喫茶店のそれは
知り合いじゃないな」
ま、そりゃそうだ。学校イチの暴れん坊で
学校内でも存在があいまいだったヤツだ。
友達がいるって話が上がるほうがおかしい。
「だがな、俺ぁ夕霧アイツがいりゃ十分だ。
”誰かのために動く”その面白さを俺に
説教かましたのがあいつだ。そんくらい
どーせ聞いてるだろ? 夕霧の野郎、
口だけはかるいからな」
「……あ、聞いてるな」
詳しくは17話参照。
「あいつは俺を使える。使えるっつーのは
けっこう嬉しいってもんだぜ。道具だって
使えなかったらゴミだろうが、一つでも
使えりゃそいつぁゴミじゃねぇ。あの野郎は
俺にそう言ってきたんだ」
「……」
「だからこそ、俺は「飼い主」っつーわけ
じゃねぇがあの野郎のことは俺のなかで
でっかく塊でいるような感じだな。それに
俺ぁ馬鹿だが、学校で浮いてるっつーの
くらいは分かるし、んなヤツとつるもうだ
なんて馬鹿は見たこともねぇし、見ようとも
思わねぇ」
あれ? じゃあ俺たちは。
「前に言ったろ? てめぇらは底なしのド級の
馬鹿だとな。そーゆーことだ。俺はこう見えて
”そういう”連中のことは嫌いじゃねぇし逆に
その俺の常識をぶち破る野郎がいたってことに
一番驚いてるぜ。そんことをよ、夕霧に言ったらな
俺が逆に馬鹿にされたな、ありゃ傑作だった。
まさか、仲間を作らねぇっつってた野郎が
んなことで悩んでるのがおかしいってよ」
義堂は元々、不良として学校の裏の抗争を
表面沙汰にならないように食い止めていた。
そのせいでダブったともいえるが、その
抗争をぽっと出で鎮めたのが俺たちだった。
だから義堂は俺たちに感謝の意味も込めて、
接しているのかと思っていたが、違った
ようだな。やはり、この不良はツンデレだな。
「義堂は俺たちのことをどう思ってるんだ」
「あ”? んな決まってんだろうが。
仲間だろ。それ以外何があんだよ!あ”ぁ?」
「……あぁ、そうだな」
俺たちのことを意外と考えているんだな。だがな
俺にそんな感情はとっくにとうの昔にないんだ。
俺にとっておまえら「人間」はただの”道具”に
過ぎない。今まで何度とこうやって俺を悪魔だと
自負してきたが、”ロズ”のセリフを思い出した。
「楽しむことができる数少ない悪魔
それがあなたよ、だから誇りなさい」と。
「……義堂」
「あ”? んだよ」
「これから俺たちはもっと問題と直面する。
だがな、それは一人の問題じゃないってことを
覚えとけ。最悪、俺がまた”魔法使い”にでも
なって助けてやるよ」
「けっ……! あんな化け物二度とみたくねぇよ」
俺たちはこうも話しているが顔は笑っていた。
人で例えると「友達といる」ように。
「はーい! これで”英嶺祭”の全項目を終了……
……と言いたいけど実はサプライズでなーんと
ここで花火が打ちあがります!!」
おっと、こうやっている間にもう花火の
時間なのか。
「サプライズと言っても毎年やってるけどねぇ
一応、台本にはこう言えー!って書いてある
からその通りにしたけど、正直みんな
知ってたでしょ?」
他の2.3年生が「うんうん」と首を
振ってうなずいているのがわかる。生徒会は
もっとサプライズの重要性を知ろうよ。
「それじゃ! 打ち上げの合図はもちろん!」
「うん、やっぱ僕じゃないとねぇ。んじゃ、
時間も押してるしもうあげるよー。
みんな、「玉屋」って言t」
「たあああああああああああああああああ
まや”ああああああああああああああ!!!」
ヒュー……ドーーーーーーン!!
「あ”!! ちょっ、義堂君フライング!!
合図と間違って花火師の人打ち上げ
ちゃったじゃないか」
「「わはははははははははははははははは」」
義堂の声は本気をだせば、人間数十人分の
声量になる。だからって俺の隣でそれは
やめてくれ。鼓膜破れるかと思ったわ。
「へっ! いいじゃねぇか!! 最後ぐらい
てめぇの思い通りになんてなってたまるか
ってんだよ!!」
「義堂君のばかー!!」
そうこう言っている間にもどんどんと
花火が打ちあがっている。やはり、今日の
天気は最高で、周りから「おぉー」と
歓声が上がりっぱなしだ。
「はぁ、それじゃ僕たちは作業するか。
その間に僕たちはクイズ大会の裏表彰式の
準備でもしてようk」
「会長、まだマイクついてます」
「あ、今の無しー」
生徒会長はこんなミスをするのか。そんな
人がよく抗争の隠蔽をできたものだな。
「あ、いたいた! ココー! ギドー君ー」
「あ”なんだって!? 音で聞こえねぇよ!」
ミコが俺たちのことを見つけて近寄って来た。
聞こえてないって言ってるのに聞こえてんじゃん
とツッコめばよかったかな……?
「どこのゴーストライターだよ!」
って具合に。いやさすがにこれは怒られるな。
「あれ、友達は?」
「へっ…………。彼氏と見るっつって早々と
撤収していきましたよ、ええ」
「目が死んでるぞ」
なんで花火はカップルで見るという伝統が
あるのだろうか。こうやって男同士で見てるのが
実にバカらしく感じるから早急にやめて
いただきたい伝統の一つだ。
「ったく、行く場所ねぇんだったら来いよ。
男と女二人で見なきゃいかねぇって
わけでもねぇだろ? だったら同じ部活
同士で見ても問題ねぇだろ」
「う”わあああ!! ここにイケメンがいる!」
「う”るせぇ!! とっとと座れ!!」
義堂、お前やっぱかっこいいよ。俺じゃ
到底言えないわそのセリフ。
_____
「会長どうされました、早く準備をしないと
花火が打ち終わりますよ」
「いやぁ、昔から見てただけあってこうも
成長しているのをみると嬉しいよねぇ」
「はい?」
「ううん、なんでもないよ。さ、準備準備!」




