38.話題にしよう
とりあえず、この3人の悪魔をここに
放ってみてから大丈夫かを確認しようか。
段取りは先に伝えてあるしその通りに
動いてはくれるだろうが、まれに霊感の
強い人にこれが勘付かれるかもしれない。
が、見たところ大丈夫そうだ。ここにいる
他のお化け役の奴らの霊感も平均で25と
低めだし、バレることはないだろう。
この間、俺は持ち場で”リア”と待機だ。
ここぞって時に動くのは俺ではなく”リア”
なのだが、あくまで俺がここにいなければ
ならない。もしそうでなかったら真っ先に
ミコのコスプレを見にいっているよ。
お、第一ターゲットが入って来た。
ここからは音声でお楽しみください。
「うわー怖いね」
「ちょっと誰かに見られてる気がする……」
「そういう演出じゃないの?」
「えー、やだー本格的じゃない? それに
後ろになんかいない?」
「うん、なんか感じるよねー。でもあれ、
誰もいないよね。えー、ここ本当に
お化けでもいるんじゃないの?」
「えーやめてよー」
ヴァーーーーー!!
(他のお化け役の人)
「きゃー。びっくりしたー」
「……ねぇ、誰? 今何か後ろにいなかった?」
「びっくりしてて気づかなかったけど、また
そーゆー演出でしょ?」
「そんな感じじゃなくて……ねぇ早く出ようよ」
「入りたいっていったの恵のほうじゃん。
もっと楽しもうよ」
「でも……。え、何?」
「ん? どうしたの?」
「また何かに見られてる……」
「そんなこと……あれ、そんな気がする……」
「でしょ!? やばいって。早く行こう」
「う、うん」
ヴぁああああああああああ!!!!
(”リア”による迫真の驚かし)
「「ぎゃああああああああああ」」
「ヒッ、ちょっ恵!? どこ行ったの!?
先に行かないでよ!!」
「無理無理無理!! やばいやばい!!」
…………
…………
声を聞いていたが、俺の想像通りの
驚きをしていたな。ということで、この手は
全然使える! 俺はのんびりできる!!
(…………マスター、これでいい?……)
(えー、もっと驚かしたかったのにー)
(ええ、ちゃっちゃと帰っちゃって私たち
まだまだ不完全燃焼よ)
(いや、これでいいんだ。あれ以上にやると
色々と問題が起こるからね。いっかい俺が
やりすぎて大変な目にあってるんだから)
例えば、巫女に協力を仰がれたりな。
(だが、あれでいいな。よし、このままちょっと
頑張ってほしい。よろしくな)
(おっけー!! まかせてね!!)
(ちょっと”ヴィーハ”! またマスターに
近いから離れなさいって! もう!)
(……………うん)
いい子たちだなぁ。うちの最強巫女とは
話にならない。
それから、客がきたらこれと同じ行程を
繰り返し、なんとか俺は何もすることなく
この業務を終えることができた。いやー
とってもたいへんだったぜぇ。
さてと、今は昼ごろでそろそろ終了の
声が来ると思っていたが、おかしいな。まだ
待っているお客さんでもいるのか?
ピロン
ん、メール? 生徒会長からだろうな。
「拝啓、神前 滉樹様へ。
外に出てきて。
P.S:この欄、書くのめんどくさいから
書かなくていいかな?」
外に出ろ? なんだろう、生徒会長から
また別の仕事でもあるのか? P.Sは毎度
書かなくてもいいよ、生徒会長。
(”ゲイジー””ヴィーハ””リア”。
すまんがちょっと出てくるからさっきと
おんなじ感じで進めていてくれ)
(あいよー)
俺は暗い中、そそくさと教室の外に出た。
別に暗いほうが俺は目がいいのでそこは気に
する必要はない。
「あ、出てきた」
「どうしたんですか生徒会t……!!?」
まず俺の目に入ってきたのは生徒会長では
なく、このお化け屋敷の入場待ちで並ぶ長蛇の
列だった。普通の学校祭でお化け屋敷では
列になるのは当然といえば当然なのだが、
これは規模が違う。階段下までずっっっと
続く、とんでもない量の人の列だ。
「コミケかと思うよね、この数」
「何ですかこれ!!? こんなにうちの
生徒いないでしょ、この学校」
「それがねぇ……」
生徒会長は俺にスマートフォンを
見せてきた。これは、確かツッタカター
といったっけ?
「ナイツのネタを食い込ませなくていい」
失敬、正しくはツイッターだ。俺は
やったことがないためよくは知らない。
そのツイッターに何があるのかというと
学校祭のお化け屋敷のクオリティが
とんでもないというワードが急上昇
していた。そして、その火付け役と
なったお化け屋敷がここだった。
ちゃんと画像つきでツイートを
してくれているので特定は余裕だった。
「ここのお化け屋敷が今話題になってて、
その話題のアトラクションを見たいと
保護者や地元の人たちだけじゃなく、
色々な人が来ているんだ。それで、
急遽なんだけれど神前君にはここの
続投をしてほしいんだ。もともと人手が
足りないかったし、一人でも欠損したら
人の循環が悪くなるということでね。
それと、広報の一環としてここの記事を
使いたいらしく、僕は今ここの調査に
来たってところかな」
「うわ、マジですか……」
「マジマジのマジだよ。ほら、これも
話題になったひとつの要因なんだけど……」
同じようにツイッターを見せられた。
「今ヤバイって噂の学校祭のお化け屋敷に
いるんだけど、ガチでやばかった。
これ証拠写真。(・ω)つ[写真]
#拡散キボンヌ」
とともに、お化け屋敷内で自撮りした
写真が載せられたツイートだったが、
ばっちし後ろに霊が映っていた。一応、
アトラクション内での撮影は学校側から
禁止しているのだが、どうもそれを守らない
やつがいたらしい。それとこの霊、よく
見たらカメラに向かってピースしてるやん。
そうだった、”ヴィーハ”は基本やんちゃ
だったな。それとその後ろでもじもじして
いるのが多分”ゲイジー”だろう。
「これを見て、興味を引いたんだろうね。
じゃなきゃこんな人は来ないさ」
ちなみに、このツイートに対するの
RTの数は6万だった。
やっべぇ、広まりすぎた……。
「ひとまず、これからの予定を考えて
これで入場は打ち切りにしておくよ。
じゃないと生徒のための学校祭じゃ
なくなっちゃうからね」
「じゃあ」
「うん、ここにいる人たちを全員
お化け屋敷に入れてあげたら休憩だね」
えー、めんどくさ!!
といっても俺が働くわけじゃないが。
しかし、ミコの仕事はとっくに終わって
しまったのか。見たかったのに残念だ。
この調子だと生徒会長は言っていないが、
義堂も終わっているだろう。ようは俺だけ
残業ということか。まったく、嫌になるな。
(マスター、どうしたの? いきなり
いなくなったけど)
(いや、なんでもない。ただ少しお前らが
がんばったおかげで面倒なことになった
だけだ)
(え!? 私たちががんばった!!?
えへへぇ……そんなぁ……ふへへ)
褒めてはいないんだが、まぁ別にいいや。
(まぁ、お前らにはもうちょっとがんばって
もらわなくてはならなくなってね。ちゃんと
礼もしてやるから、悪いな)
(いやいや、お礼なんて……私のことを嫁に
もらってくれるならぁ……グヘヘ)
(……)
先に言っておくが”ヴィーハ”の性格は
やんちゃである以前に、色々とヤバイ。
そう、色々と。
(”ヴィーハ”! 何してるの!!? まだ
仕事が終わったわけじゃないでしょ!!)
(えー、まだ人間の相手ー? ちょっとくらい
休憩させてよ”リア姉”ー。それとさっきから
ずっとマスターと一緒じゃん。私の持ち場と
代わってよ)
(”ヴィーハ”に人間を驚かせることなんて
できないでしょ!?)
(具現化してるし私にだってできるわよ)
(……………………私も……)
(ちょっと”ゲイジー”まで……)
ここで今さらになってしまったが、俺の
悪魔の召喚の種類について話しておこう。
”メア”や”ロズ”を召喚したように、何かに
意図的に憑依させるときは「憑依召喚」と
いう召喚方法を用いる。対して、今みたいな
”ゲイジー”・”ヴィーハ”や”リア”のように
この世界に悪魔の肉体ごと召喚させるときは
「具現召喚」という召喚方法を使う。まず、
「憑依召喚」の特徴としては悪魔としての
姿かたちは目に見えることはできず、対象の
内部に潜んだままになる。”メア”の場合は
「人」、”ロズ”の場合は「モノ」だ。しかし
憑くことで本来の力を発揮できる悪魔も多く
存分に悪魔の力を使いたいならば、この
召喚が一番良いが対象が一体に絞られるため
応用性はない。「具現召喚」はその名の通り
悪魔自身の意思で活動するため、あらゆる
「人」「モノ」に憑くことができたり、
普通に有象無象の怪異として巡回させる
こともできる。そして、この3人は
見た目では比較的、愛くるしい容姿を
しているが何をどう間違っても悪魔だ。
さらには上位種の俺が出したやつらという
だけあり、かなりなんでもありといえば
なんでもありなチートモンスターだ。
驚かす程度ならだれでもできる。
相手がただの”にんげん”ならなおさらだ。
(マスター、ちょっと言ってやって下さい!
”ヴィーハ”も”ゲイジー”も持ち場って
ものがあるでしょ! しっかりしてよ!)
(まぁまぁ、そうかっかしないで。
私にだってマスターと一緒に働く権利ぐらい
あるわよ。ねー? ゲイもそう思うよね?)
(……)
(いや、とりあえず”ヴィーハ”にその権利は
今のところないな)
(え?)
俺はスマートフォンからツイッターを開く。
さっき生徒会長に言われてダウンロードして
おいた。「あかうんと」の登録とか諸々は
よくわかっていなく生徒会長の思うがまま
設定された。そして”ヴィーハ”にあの写真を
見せる。
(これ、お前だろ? あれほど見つかんない
ようにしてって言っておいたのに何
見つかっちゃってるんだよ!? それに
なんでピースした!!?)
(カメラを向けられたら、ポーズをするのが
基本でしょ?)
(なんでだよ!)
この写真が拡散されたせいで、俺の苦労が
増えたと言っても過言じゃないし、悪魔たるもの
現世とかかわりを持つべき存在ではないのに
”ヴィーハ”はよくこういう「人っぽい」ことを
しでかす。”ロズ”のとき同様あまりやらないで
ほしいといつも言ってるのだが……
(何度も言うが、この世界への干渉はあまり
やらないほうがいいぞ)
(えー、でも)
(でももくそもない。俺も含めて世界の条理の
外側にいるんだ。だからこそ世界に近づく
ような真似はやめろ)
(うー…)
(ま、今度また街に連れてってやるから、今は
そのまま持ち場で頑張っててくれ。”リア”も
そんなにガミガミ怒らなくても大丈夫だ。
”ヴィーハ”ももうガキじゃない)
(ほんと!? やったー!! マスター
マジ愛してるーーーーー!!!)
ちょろい。というか本当は俺の仕事を
押し付けているにすぎないのだがな。
(………………マスター、マスター……)
(ん? どうした”ゲイジー”)
(………………変な、「人間」、きた……)
変な人? 誰のことだ?
微かに声が聞こえる。ん? この声……
「あれ? もしもーし、ココー。ん?
ねぇ本当にここの配属なんだよね?
さっきから反応がないんだけども」
「夕霧が言ってたんだ。信じるしかねぇだろ。
つーか、んなとこで働いてんのかよ」
あ、確かに変な「人間」だ。




