36.明日も頑張ろう
「では、本日の大会のエースバッター
”神前 滉樹”でございまーす!」
「その紹介の仕方やめろ」
時間は経ち、今はもう放課後だ。
あの後、義堂はまた執事喫茶に向かい
接客をし、ミコと俺はあの後の
大会の後始末を手伝うこととなった。
が、劇や大会に比べてもあまり
見ごたえがないので個人的にカットした。
そして俺たちは顧問に呼ばれて今は
「異能部」の部室にいる。顧問は
前に言ったと思うが「佐々木」という
俺たちの”保健体育”の担任で、その
関係で俺たちは、こうやって体育倉庫を
部室として使わせてもらうことができた。
もう体育倉庫の原型は残っていないが。
「ん? ギドー君、それなに?」
「あ”これか? 神前が俺にっつってあそこの
出店で買ってもらったんだよ。んなもん
もらうようなことしてねぇんだが……」
「えー、ココ私には!!?」
残念ながらミコには買ってきていない。
義堂に買った理由は紛れもなく部費の足しに
使わせてもらったその礼であって、俺の
”罪滅ぼし”みたいなものだ。
「でも、ギドー君食べてないじゃん?
なんで? きな粉餅嫌いなの?」
「……嫌いってわけじゃねぇが、あんまり
好きで食おうとは思わねぇだけだ。俺、
甘ったるいの喰えねぇんだよ」
そういえば大会でジャムパンが食べれない
って言ってたな。それを先に言ってくれれば
甘くない別のから揚げとかを買ってきたのに。
いや、「俺」だから遠慮したんだろうな。
これは悪いことをしてしまったな。
「……食うか?」
「え、いいの!?」
目を光らせている。きな粉餅好きなのか。
「あぁ、やるよ。神前にゃ悪いが、ミコ
これ全部やるよ。そっちの方がいいだろ」
「ありがとうございます!」
そういうと義堂の手に持っていたきな粉餅を
取り、爪楊枝を起用に使ってほおばった。
「(ジーン)……うまーーー」
((……餌付け……))
義堂と俺の考えがマッチした気がした。
こんなところで義堂と気が合うとはな。
ガラガラガラッ
部室の扉が開いた。誰かと思ったが、あぁ
そういえば俺たちがこうやってここにいるのは
呼ばれたからだったな。「佐々木先生」だ。
「うーい、おつかれ」
「お疲れ様ですー」
「今まで、ここに来てなくて挨拶してなかったな。
っつってももう授業で会ってるからわかるだろ。
つーことで俺がこの部活の顧問をやるから
よろしく」
やはり、どことなくやる気が感じられないな……
もうかれこれ1話から投稿1か月以上たっていて
忘れているかもしれないが。
「で、一応顧問としてコイツはお前らに渡して
置かねぇとな! っと!」
玄関から段ボール箱を持ってきた。中身は……
「あ、ジュースじゃん」
「おう、お前ら話題だぜ? 学校祭で神出鬼没に
部活やイベントの手伝いをしてるってよ。それ
きいて、ちったぁ差し入れぐらいしてやらんとな
と思っただけよ」
「「ありがとうございます」」
「義堂」
「あ”? んだよ佐々木?」
「……へっ、ずいぶんと丸くなったじゃないか」
「あ”? うるせえよ」
言い忘れていたが、義堂が一年のときの担任
……あ、義堂は今も一年だから一年前という表現が
正しいな。ようは義堂の一年前の担任が佐々木だ。
特に”保健体育”という教科の関係上、義堂が
抗争でけがをして帰ってくるたびにさんざん
心配をかけたらしい。
「んじゃ、俺はまだまだ学校祭関係で残ってる
ことがあるんで先に行くぜ。お前らも明日、
また仕事を頼まれるんだろ? だったら
とっとと帰って休めよ。俺も神前に言われた
とおり、”残業”には気をつけるよ」
「余計なお世話ですよ」
佐々木は足早に部室を出て行った。佐々木は
もう40近いベテラン教師であって俺からして
みても完全に年上にあたる。俺が30前後って
いう設定を忘れそうになるのはまだ作者の
内緒のお話。
佐々木が置いていった段ボール箱には
全部で飲み物が9本入っていた。うち3本が
コーヒーだったからこの3本は義堂専用だな。
生徒の好き嫌いを理解しているのか……
佐々木、あなどることなかれ。
では、今日のおさらいといこうか。ん?
なんかいつものまとめパートっぽいけど、
まだ学校祭は1日目を終えたばかりだ。
2日目もまだまだと続くのだ。だからこそ
ここでひとつおさらいというのもいいだろう。
一先ず、俺たち「異能部」はテキトーに
学校祭を流すことはできず、生徒会長の
思うがまま動かされるハメになった。俺と
ミコは演劇部の受付と役者として働き、
別の場所で義堂は執事として接客をしていた。
ミコは巫女役で劇に参加したためまったく
滞りなく話が進んだのだが、もう一度言うが
作者が別で話を作りこんでしまい、かなり
ボリューミーな劇となった。このせいで軽く
2日程、執筆が遅れたのは黙っておこう。
そして、義堂は執事としての業務をこなす
どころかそれ以上のことをこなしていたらしく
その”執事喫茶”にリピーターが続出したそう。
ちなみに、もう今日のうちに聞かされている
ようだが、明日も義堂には執事として働いて
もらう予定らしい。
そして、俺たちがこれらの別々の仕事を
終えた後にはクイズ大会への強制参加が
待っていた。結局、大喜利大会でしか
なかったがな。それで俺が、鉛のように
心に残る回答を残したことで大会の優勝を
こじつけることができた。今、その勝者の
証であるメダルは”井上”が持っている。一人の
巫女として「仏像に何してんねん」とミコが
反論するかと思ったが、そんな雰囲気はなく
逆に、木の質感しかなかった仏像に
ワンポイントの色合いがついたことで
嬉しそうだった。いいの? これ本当に?
「あ、そうだった! 忘れてたわ」
「「?」」
佐々木が置いていったリンゴジュースを
飲みながら急にミコが立ち上がって言う。
きな粉餅とリンゴジュースは合わないのでは
と思ったが別にそれはツッコむ必要はない。
「佐々木先生がおいていったのに気が
引かれてすっかり忘れてたわ。私からも
渡したいものがあるってこと」
「え、何かあるの?」
「うん、ちょっと待ってて」
そういうと、部室のロッカーから自分の
カバンを取り出し、中から布でできた小袋を
3つ取り出した。ロッカーの中を見ると
本当に”巫女服”がかかっていた。あまり
女の子のロッカーは覗くものじゃないが、
見えてしまったものは仕方がないし、
見たところ別に”巫女服”しかなさそうだ。
「はい、これ」
「?」
「ギドー君はこっちね」
そのままその小袋を渡されたが、中身は
よくわからないし、これは中身は基本的に
”見ない”ものだ。それにこの袋にがっちり
こう刺繍されている。
”御守 御前神宮 円満”
「あ”?これ……」
「じゃじゃーん! うち特製の”御守”!
これけっこう大変だったんだよ。これ作る
のに私、あの日先に帰ったんだよ」
「? あの日っつーのは……」
「そりゃあ、あの日ってあの日よ。ギドー君と
ココが私抜きで銅像を調べに行った日よ」
あれ? あの日って何かの年中行事を
やっていると思ったが……? 単に俺の
思い違いだったようだな。
「一人一人に効能が違うんだよね。だから
とても作るのに苦労したんだけれども……
でも、最強の巫女である私を含め、私の
親戚たちでものすっごく強力に仕上げた
一品よ。普通なら1万円とかかかるけど
私がお願いして、タダで作ってもらったわ」
「ふーん、それでどんな効能が?」
「えーっと、私の御守は”鎮護”って効能で
ま、そのままの意味ね。部長としてこの
部活を平穏にさせるってことでね。
それで、ココが”円満”で、これはまぁ
知ってると思うけど、他人と仲良く
できたり、みんなをまとめれたりって
効能があるわ。私じゃ「まとめ役」は
十分にできないからココが頑張ってね
って意味を込めてこれにしたわ」
悪魔の俺が”御守”って……どうなるんだ?
これあれか、マムシが自分の毒で死ぬ的な
ことになるのか? それと俺は部活で
頑張る前提か、おい。
「で、ギドー君が”安寿”だっけ? あ、
そうそう。これは奴隷として苦しみぬいた
偉人からとっているんだけど、ギドー君
いっつも怪我ばっかしそうだからこれが
一番いいかなぁと。これには苦しみぬいて
耐え忍ぶって意味もあるから、丈夫な人に
なるって話もよく聞くの」
「……ふっ、んなもんで俺が頑丈になってりゃ
とっくに持ってんだよ。だが、こいつは
ありがたく受け取っておくぜ。ありがとな」
ツンデレかよ。
おっと思いが出てしまった。
「んじゃ、時間もけっこう経ったしもう
そろそろ明日に備えて帰る用意を
しないとな」
「あ、まだ言いたいことがあるの」
ずいぶんとミコが用意してきている
ようだな、珍しい。だが、何か言うんだ?
「明日も頑張るぞーーーーーーっ!!!」
「「……」」
「……あれ?」
最初何が起こったかわからなかったがミコの
キョトンとした様子から察するに、これは
掛け声で、俺たちはそれに合わせて一緒に
掛け声を言うべきだったようだ。
急にできるか! そんなこと!
「ちょおっと! 今のやる流れだったでしょ!」
「急にするなよ! テレパシーで伝わるなんて
都合のいいことできないからな!!」
「むー……。いいよ、も一回やるから」
結局やるんかーい。
「いくよー……
明日も頑張るぞーーーーーーーっ!!!」
「「お、おー」」
「声がちいさーい! も一回!
明日も頑張るぞぉーーーーーーっ!!!」
「「「おーーーーーーっ!!!!」」」
……なんだこれ。




