33.大会に出よう
「いや”ああああああああ!!そんなあああ!
RIKIYAあああああああ!!!」
「うるせぇぞ、また来てやるからそれまで
待ってやがれってんだ。そんくらい
できんだろ。馬鹿が」
「「きゃーーーーー!!!!」」
どんな茶番を見せられてるんだ? と最初は
思ったが、どうもあの店で義堂はかなりの人気
執事だったらしく、けっこうな稼ぎを見せてた
ようだった。似合わないと思っていたのはやはり
俺たちの感覚麻痺のようだな。
ちなみに忘れていた人に言っておくが、義堂の
下の名前は「力也」だ。ローマ字でRIKIYAだ。
「っつたく、何人俺ぁ相手にならねぇといけねぇ
んだってんだよ」
「でもこれで新しい仕事なんだから気分を変えて
いこうぜ」
「んでよ、てめぇ夕霧となに約束してるんだよ?
んな文面で疑わねぇのもおかしな話だろうが」
「あー、それは生徒会長に渡したいものがあるからで
別にそんな重要なものじゃないから先に体育館に
向かってていいよ。俺は後で合流する形で」
「おぉ、んじゃミコ先行ってるか」
「あいよー」
重要なものではないと言っていたが実をいうと
かなり重要なものだ。というのも、渡すのはもちろん
義堂の執事コスの写真なのだが、生徒会長はそれに
言い値の部費を追加すると言い出したのだ。
義堂には悪いが「体を売ってもらおう」という
わけだ。
すまない、義堂! こちとら部費と備品が
ほぼ部室と「井上(仏像)」しかないんだ!!
後で言い訳はいくらでもしてやる!!
義堂とミコが俺と別れて先に体育館に向かって
もらっている間に俺は生徒会室に向かわなくては。
義堂とミコの後ろ姿が「危ないお兄さんに連れて
かれてる幼女」に見えて仕方がなかったが、
そんなの本人に言うわけにはいかない。それよりも
生徒会室に向かわなくては。
「……あ、例のブツは持ってきた?」
「言い方が危ないですね」
生徒会室には朝と同様、生徒会長しかいなかった。
またほかの生徒会メンバーは他の仕事をやっているの
だろう。で、生徒会長は俺から写真をもらうために
こうやって生徒会室に残っているのか。
生徒会長はもっと働いてもいいと思う。
「これでいいんですか? 一応、普通に立っているのと
バリエーションを考えて、執事らしく盆を片手に
会釈しているものが2パターン分あります。それと
ちょうど、客がモデルとして義堂君とツーショットを
撮りたいと申し出たんで「おいおい、俺のお嬢様は
黙って”おねだり”できねぇのか?」みたいな感じに
押し倒している最中的なのも撮っておきましたが」
「神前君、結構楽しんでたでしょ……?」
部費が絡んでいるんだ。これくらい撮っておかないと
売り物にできないだろうし、「人を食い物にするなら
とことん食い散らかす」のが俺、悪魔の流儀だ。
義堂にはもっと裏で稼いでもらうぞ。ケッケッケ。
「そういえば、義堂とミコが先に体育館に向かい
ましたが、体育館で一体何をやるんですか?
スケジュールに全くなんにも書かれてないん
ですけど、何しようとしてるんですか?」
スケジュールだとこの時間帯はどこも体育館を
使うという予定はない。あったとしても先生方や
それこそ生徒会が裏で作業するのだろうな、と
思っていたのだが。
「ああ、そういえば入れてなかったね。体育館で
今、クイズ大会をやってるんだ」
「え、クイズ大会?」
「うん、それもトーナメント制の部活対抗でね。
それで、今参加している部活というのが全部で
15チームあるんだけど……もうわかるよね?」
要は、人数合わせに俺たち「異能部」も参加
しろってことか。だが、そんなこと俺たちは
聞いてないが、別に俺が出ればクイズなんて
簡単にできそうだがな。
「こういうのって事前に登録する必要がある
ってものじゃないんですか?」
「それは僕がやっておいたよ。前に部室の手続きを
したのは誰だと思っているのさ」
またかよ。
「どっちみち、参加するのは”部の代表二名”って
指定されてるし、それにこの大会の趣旨に君は
該当しないからね」
ん? ”該当しない”の意味が分からない。
「該当しないというのは……?」
「このクイズ大会で決めるのは”頭脳”じゃない
ってこと。特に君の場合はテストの点数も
かなりの上位で真面目ってだけあって普通に
答えそうだから、僕が食い止めたんだよ」
「……ってことは」
「ま、もう分かっていると思うけど、今体育館で
やっているのは”クイズ大会”って名目の
”大喜利大会”だね。得点は「答えた数」ではなく
観客の反応で決まるんだよ。面白そうでしょ?
そんな「人の知能を下に見た大会」を大々的に
パンフレットに載せたら保護者からクレームが
来るかもしれないからスケジュールには載せず、
ひそかに有志を募って行っているんだ」
この生徒会長はどうにも「隠蔽」が大好きで
大大大得意なようだ。確かに俺だったら答えを言って
終わってしまうだろうな。いや、だからって義堂と
ミコにその芸風ができるかと言われても難しいが……。
それにしてもずいぶんとメディア受けしそうな
企画のクイズ大会だな。”合法的ヘキサゴン”と
いったところか。
「ヘキサゴンって2011年に終わっててもう
かれこれ6年たってるよねぇ。時代を感じるし、
今の人ってそんなテレビ番組があっただなんて
知らないかもしれないよね」
「そうですねぇ」
話が変わるが、まさか「マジカル頭脳パワー」が
終わるとは、かつての俺は思ってもいなかったなぁ。
というかそれこそ今の人わからないだろ。
これに関しては20年近く前だもん。今の学生は
知ったこっちゃないわ。
「今から僕もその現場に向かうけど、神前君も
来るよね? ていうか、僕が行けってメールで
言ったんだっけ?」
「もちろん行きますよ」
義堂とミコはこの状況を理解しているのだろうか?
そんなのはどうでもいい。とりあえず……。
「とりあえず一枚からで、500円でどうですか。
今ここに13枚あるので合計6500円なのですが
この”おねだりカット”は別の人が写っているという
ことで一つ高くつけます。これだけは1000円で
手を打ちましょう」
「……すごいガッつくね……でも今はなi……」
「では頭金として2000円でどうでしょう。そして
一月に1000でかまいません。これでは?」
「普通の高校生は”頭金”なんて言葉は使わないし
意味も知らないだろうなぁ。 どこでそんな言葉
聞いたんだろうか神前君は……?」
”頭金(日本語:あたまきん)”
主にローンなどに使われる言葉で、最初に支払う
まとまった大きなお金のことである。今回は頭金が
2000なので、後の残りの部費は5000となる。
そして俺と生徒会長はグッと手を握り合って、
体育館に向かうことにした。生徒会長はこの
「悪魔の取引」に首を縦に振ったようだ。
やったぁ! 義堂のおかげで7000円の所得だ!
この学校祭中に出店か何かで飯かなんかを
おごってあげないとな!!
さて、義堂とミコが(不慮的に)参加している
大会は体育館で行われているのだが、どうやら
大会を見に来ているメンツを確認すると、今回の
参加チームの部活に入っている生徒しかいない。
そりゃ、15個分の部活しかないのだから人数も
そうわんさかといるわけではない。
そして今、「異能部」は暫定8位まで
のし上がっていた。要は一回戦は突破している
ようだ。……なんでだろう、あんま嬉しくない。
「あ、会長探しましたよ。何処に伺っていたの
ですか。特にこの企画に関しては、会長が
考えたものでしょう。その当の本人がいなくて
どうするんですか」
って企画担当:生徒会長かよ。
「副会長、うちの部活、「異能部」がまだ残って
いますが……」
「えぇ、私も大変失礼ながら飛び入り参加の部活が
こうも突破してしまうとは思っていませんでした。
一回戦の問題は、
「この写真はなーんだ?」
ということで、写真の人物を答える問題だったの
でしたがあなたたち「異能部」は最も早くに
答えました」
「え、答えられれたんですか?」
「こちらが、その写真なのですが……特に最近ですと
あなたたちと関わりの深い人物でした」
そういって副会長は一枚の写真を見せてきた。
写真には、小柄な背丈の男が真面目そうに本を
読みながら薪を背負って歩く銅像。ってこれ
”二宮金次郎”じゃねーか。
「けど大会の趣旨上、普通に答えてもダメなんじゃ」
「はい、そうですがあの二人はまるで打ち合わせを
事前にしていたように声をそろえて
「「二宮 和也!!!!!!!!」」
と答えて撃沈していました」
だからそれジャニーズだって言っただろ、義堂!
ちゃんと覚えておけよ!! それと
ミコ、お前もちゃっかり間違ってるんじゃねぇ!
「そして、そのあと二人は答えの食い違いから
急にステージ上で喧嘩を始めました」
えー、なんで喧嘩してんの? それも間違ってる
同士でそれも同じこと言ってるのに……。
「内容を聞いたんですが、カズナリのナリの字が
「也」か「成」のどちらかで争っていました」
うわ、しょうもなぁい……。
「そして結局、何か思い出したかのように……」
お、やっと答えr
「「ニノ」と答えました」
あちゃー、そうじゃないんだなー!!
合ってるけどそれは「和也」のほうだー!!
「そしてその様子が実に滑稽だったので、満場
一致とまではいきませんでしたが、歴史部を
打ち負かして1回戦を突破しました」
確かにその様子は見てみたかった。現に俺が
今、ツッコミを入れまくっているのだから。
様子から察するに俺みたいなツッコミ役がいない
ためあんなことになったんだろうな。
それと「歴史部」!! よりによって歴史上の
人物の問題で負けてるんじゃないよ!!
「さて、これから2回戦が始まりますが会長は
ここで見ていてください」
「え、そんなぁ! 僕も前で見たいのに!」
俺たちは後で来た関係で、体育館の中でも
一番ステージを見にくいであろう場所にいた。
「いえ、会長はここであなたたちみたいに
後々に体育館に入って来た生徒を誘導して
ほしいんです。
それに、会長、あなた
暇でしょう? それくらいできますよね?」
「……はい……」
副会長こえー。それと生徒会長はやはり
生徒会長には見えないな。こうも部下に
しりに敷かれている様子を見ると。




