3.ごまかそう
さて、前置きはさておき夜の体育館に
話を戻そうか。
現在の様子をわかりやすく説明するとしたら、
俺は厨二病よろしく夜中の学校の体育館で
魔法陣をえがき、呪文を唱えている。
それに対し偶然なのかはわからないが、
(俺にとって)クラスいち有名な女子が
怒鳴りこむように、しかも俺が悪魔である
ことを知っているかの如く叫んできた。
これを聞いた俺は当然ではあるが、
むちゃくちゃてんぱった。
さぁ、どうする主人公神前!
てんぱってる暇はないぞ! この状況を
いかに切り抜けるかは神前、自分自身に
かかっているのだ! 冷静に考えるんだ!
そう、冷静に。素数を数えるように…………
と、ジョジョネタも踏まえながら
よくよく考えると見られた相手は
霊感が0なのだ。つまり俺の呪文を
聴いていたとしても魔法陣から出る
青く淡い光とか、魔法陣からちょっと
出そうになった有象無象の化け物たちも
見ていないのだ。
……見えていないのだ。
ならば呪文はどうにもならんが、
それ以外の魔法陣から出るものは…………
「………………………あ"っ!」
魔法陣自体の存在をすっかり忘れていた。
チョークを持ち出してきっちりと書かれた
いかにもヤバい雰囲気の魔法陣が床にある。
これはさすがに今のてんぱった俺の
思考回路では言い訳ができない。
「出会え出会えぇーーい!!!」
そうこう考えてる間にも彼女は俺に
魔女狩りを始めるような言葉を投げつける。
というかお前ひとりしかいないだろ。
「出会え出会え」って一体誰に向かって
言ってるんだよ。
「貴様、なにをしていたーーーっ!!」
やっと俺に解答する番が回ってきた。
後、もうちょっと女の子っぽい言葉を使え。
小柄で普通にかわいげがあるんだからさ。
さぁ、神前、言うんだ! 言え、神前!
最高にして、最良の言い訳を言うんだ!
でなければ俺は本当に「異形のもの」として
この女に魔女狩りされかねない。
それに殺されなくとも、
「厨二病末期みたいなことしてた」
なんて、言いふらされて学校はおろか
社会的に殺されるかもしれない。だから、
言え、言うんだ、神前 滉樹ー!!
「…………」
「………………………」
「…………こ、こーゆーことに…………」
「……」
「……きょ、興味があるんだぁー……ぁ」
……言い訳終了。バカ野郎がよぉ。
これじゃ言い訳になってねぇじゃねーか。
自分が中学二年生だと公言してるだけだ。
たとえ、自分が半分悪魔だと気づかれなくとも
俺の安泰のハッピースクールライフが
終わりを告げるのは目前だった。
あーなーんでほんの10分前の俺は
「学校でやろう」なんて言ってんだ。
それだけが今、俺ができる最高にして
最良の自虐だった。
さっきのセリフに関しては触れないで
おこう。アレが俺の最大限の言い訳の
語彙力なんだ。そう思わないと精神と
冷や汗の量が追い付かない。
「ふーん、興味……ねぇ」
彼女が口を開いた。もうこうなった以上
この設定を貫き通すしかない。
「あ、あぁ。前にテレビでやってて」
「へぇー。ほぉーん。ふーん」
なにかに対して相槌しているようだが
何を理解して何がわかっているのかは
俺には到底知ることはできなかった。
話している当の本人が何を言っているのか
一番わかってないからな。
というかこの女は初顔合わせで
こんな好戦的な態度で接するのか……
いや、今置かれている状況から察するに
それは当たり前だろう。なんといっても
この『間抜け』の間抜けな弱みを握って
いるのだから。
「この魔法陣…………」
やはり、それについて触れるか。
「テレビのを真似ただけだよ」
「その手帳は?」
ずっと手を離さず握りしめていた
ミコンのことだ。これだけはさすがに
人の目には触れさせてはならない。
「テレビのをメモったヤツだよ」
「それ術書だよね」
う"っ!!
再び、俺の中で何かが崩れた。
とてもではないがこれ以上この女と
話すのは危ない。そう感じたのだ。
うわぁ、めっちゃこっち見てるよ。
めっちゃ見てるって、この人…………
俺をじっくりと見た後、彼女は言う。
それもなぜかここぞというキメッキメの
キメ顔で。
「ふっ、なら危なかったわね!」
「………………………」
……はい?
「本物の降霊術っぽかったから
問いただしちゃったけれど
どうやら……間に合ったようね!」
えぇ?
「仮に正しい降霊術だったら危なく
コワイ霊に取り憑かれていたわ!!
……ふっ、ま、私にかかればぜんぜん
問題ないけれど…………ね!!」
…………
「おぉーっと、私が誰だってぇー?」
いえ、聞いてません。
「私は、御前一族末裔にして最強の巫女!
"御前 小恋"!!
この世にはびこる悪霊はこの私が
まとめてすべて消し飛ばすわ!!」
///デデーン///
どこからか効果音が聞こえたような
気がしたが…………気のせいだろう。
とりあえず、ツッコミを入れたいことが
山ほどあるが最も言いたいことを心の中で
大声で言う。
「「「霊感0が巫女を語るな!!」」」
どうやらこの女は霊感以外にも
知能指数もなかったようだ。
そして『この女と話すのは危ない』
というのも大方当たっていた。