25.銅像を探そう
”マト(英語:MATON)”
正式には英語表記にあるとおり
”マトン”と「ん」が入るが、これは
悪魔の名前であり、名前らしく”マト”と
言い換えてある。この”マトン”には
二つ意味があり、ひとつは「人形」という
意味でもうひとつはプログラミングの
用語のひとつである”オートマトン”と
呼ばれる「計算理論」という意味の
二つに分かれるが、今回は前者の意味で
使われている。ちなみに、"オートマトン"
にも二つ意味があり、ひとつは後者に述べた
「計算理論」と、前者の意味を使い
「自動人形」という意味を持っている。
日本の"からくり人形"がその最たる例だろう。
(我、神前 滉樹の名によって命ず。
"マト"、応じよ)
……やはり、反応しないか。仮にここに
二宮金次郎がいれば、そこに"マト"は
いるはずだ。だが"マト"は二宮金次郎
本体に憑いているせいでこれでは呼び出す
こともできない。
"マト"は分かりやすく言うならば、
ドラえもんの秘密道具「ロボッター」だ。
秘密道具と同様、ものに付けばそのものが
自立的に行動するようになる。ロボットに
なるのだ。"マト"の場合は付く、という
よりは憑くってことになるが本質は
変わらない。ものに憑依してそれを"マト"
自らの意思で動かせる。
そして今回は動かないものが動いている
のだから"マト"の影響で間違いないだろう。
しかし、そのまま憑いた状態で動いている
となればこちらとしては探すしかない。
「あ"いねぇじゃねぇか!! どういう
ことだよ! こいつは!!」
「これがその「学校七不思議」のひとつ
で違いないだろうな」
「どうすんだよこれ! 銅像がなけりゃ
何もできねぇだろうがぁ!」
「いや、これはチャンスだ」
「あ"ぁ?」
「まぁ「学校七不思議」って言うのは基本的に
あまり出会うことのないレアなものだろ。
それが今、目の前で起こっているなら、
それこそ今、動いたほうがいい」
「……じゃあなんだ。 その銅像を
探せばいいのか?」
「あぁ、そうだな」
それに、すぐに見つかると俺は踏んでいる。
というのも、こんな早くに動き出しているの
だから行く場所も限られる。今、校庭
ではサッカー部と野球部が練習をしているし、
校内も生徒がまだわんさかといる。となれば、
"マト"が行ける場所は数えられるくらい
しかない。
「義堂は校門にいろ。仮に校庭の外にでも
逃げられたらさすがに何もできない」
「おう、ようは待ってりゃいいんだろ?」
いや"マト"の性格上、遠い場所には行けない
はずだ。もともと動かないものを動かしている
のだから、端的に言うと「世界の条理」に
反したことをしているのだ。そのため、ある一定
範囲でしか効果が効かないような仕組みになって
いる。この場合は、あの台座があった場所から
数えるとして、やはり校内及び校庭のどこかに
いるという判断でいいだろう。
俺と義堂は分かれて、行動を始めた。もし
これで解決してしまったらヒロインなしで
この話が進みかねないが、それはそれで
いいか。
「よくない!!」
ん? 誰かなにかいったか? まぁいいや。
義堂には校門前に張ってもらい、その間に
可能性のある場所を探しておく。これで
見つからなかったら、また日を改めるしか
ないだろう。それに、これはあくまで偵察だ。
解決を急ぐ必要はない。
結論から言うと、二宮金次郎像はどこにも
いなかった。ゆうに1時間ほど探して、夜も
深くなっていた。入れ違いになっているとは
思えないし、俺たちが銅像の前に来た時には
校門の外にいたということか……? いや、
それはさっきあり得ないと言ったばかりだ。
なら、後は考えられる場所は……。
「どうされましたか。こんなに急いで」
急に話しかけられ驚いたが、真面目そうな
見た目ですぐに誰か分かった。副会長だ。
ちょうどいいし、この噂について
少しでもいいから聞いておくか。
「先ほどはお見苦しいところをお見せして
申し訳ありません。それで、あの部室で
バタバタと掃除をしているようでしたが
何とかなりましたか?」
「掃除はもうとっくに済んで、今は
部活動中だ。それでさ副会長、
二宮金次郎像が動くという噂があるって
知ってたか?」
「……いえ、すみませんが、私はこの学校の
知識を全て持っていることはありません。
そんな像があったというのも初耳でした」
なんでも知ってそうな雰囲気の副会長でも
知らないのか。それよりも、こんな根も葉もない
うわさ自体が興味の範疇外なのかもしれないな。
「それで、その像がどうかされましたか?」
「動くんだよ、二宮金次郎像が」
「はい?」
「今、現に二宮金次郎像があるであろう場所に
その像がない。それで俺が、探している
ということだ」
「……はい、大方の話の筋はつかみました。
それで、私になにか質問でも?」
「質問……というか、その像自体を知らない
のなら聞いても仕方がないな。けどさ、
一応聞きたいんだがここに二宮金次郎が
来なかったか?」
「とうぜんですが、来ていません」
ですよねー。
「ただ」
「ただ?」
「……そのような噂に対し、私はこう見えても
興味がないわけではございません。ですので、
詳しく聞いてもよろしいでしょうか? その
二宮金次郎像が動くという現象について」
意外にもこの副会長、俺たちに交友的だな。
……というかもっと聞きたいことがあったわ!
「副会長、あの部屋に仏像があったんだが
あれっていらないものなのか?」
「……仏……像……あぁ、私もそれを探していました」
「は?」
「いえ、学校予算の算出をしていたのですが
よくわからない記述とともに10万円ほど
予算が引かれていたもので。それが、
「新設部への贈呈品(会長:夕霧 友也)」
……とあったので、新設の部活ですとあなたたち
「異能部」しか思い浮かびませんので後日、
部室に訪問して、その詳細を聞こうかと
思っていたのですよ」
あれって、会長のさしがねかよ!
先に言っておいてくれよ!
「ではなく、その像が動くという現象について
聞きたいのですが、状況によっては私たち
生徒会が関わる必要があるかもしれません」
「あー、実は詳しくは俺も知らないんだ。
そのあたりに詳しいのはミk……御前さんで、
先に帰ってしまって……」
「……そうですか、仕方がありませんね。
ですが、その噂を解決するのが
あなたたち「異能部」だと聞いています。
ですので、生徒会が勝手に手をだすのは
野暮でしょう? 私たちが介入しないよう
頑張ってくださいね。「像が動く」など
ということは今は聞かなかったことに
しておきます」
「……」
プルルルルルルルルルルルッ!!
俺のスマートフォンがなった。実に、
レトロな音が流れるが気にしないでくれ。
「お"い! 神前ィ! どこほっつき
歩いてやがるんだ! あ"ぁ!?」
ヤベェ、義堂を校門にほったらかした
ままだった。ていうかいつの間に俺の
アドレス持ってたんだ義堂。
「副会長にこの噂のことを聞いてたんだ
それで、急に電話してきたけど何か
動きがあったのか?」
「動きがあったのは俺の方だ。てめぇが
遅すぎるから俺が勝手に移動してんだよ」
持ち場を離れないでいただきたいが、
遅くなりすぎた俺にも責任がある。それに
日は完全に落ち、とっくに暗く、おまけに
秋らしい寒気もする。こんなところで
1時間も待たされたら俺だってこうする。
「神前、とっとと銅像のとこに来い!」
「なにかあったのか?」
「何って、んな二宮金次郎に決まってんだろ
いつのまにか帰って来てやがった」
!?
帰ってきた? おかしい。夜の暗い間に
活動するはずの霊だぞ、"マト"は。なのに
俺たちに気づかれたと言わんばかりに
帰って来ただと? 俺は急いで副会長と別れ
台座のところにダッシュで向かった。
副会長はこれから部活資料の整理だと
言っていた。新設の部活のために仏像を買う
生徒会長の補佐は苦労が絶えなそうだな。
「おせぇ!」
嫌味を言われたが本人は悪気はなさそうだ。
いや、そうじゃなくて、確かに義堂の言う通り
義堂が照らした先で何事もなかったかのように
台座の上には二宮金次郎像が飾ってあった。
これからが霊の活動時間なのに帰って来たのか?
「くそ、今回の収穫はねぇようだな、
しゃーねぇ、また今度調べるしかねぇな」
いや、違うぞ義堂。これでいいんだ。
これで俺が霊を祓えば万事解決だ。
俺は二宮金次郎像の頭部分を触り、
こう語りかける。
(我、神前 滉樹の名によって命ず。
"マト"、応じよ)
…………
………………
おや? 銅像の様子が?




